余りにも筋肉質なマスコット
「わぁあ、おっきいねぇ。それに、ツノがふたつも、スゴイかっこいいなぁ」
「――ンフゥ! ォオウ!」
「すげー! かっけぇー! ビシッと、ビシッとしてる! ビシィッ!」
……子供は無邪気でいいねぇ。こうやってビシッと筋肉を強調してるだけで凄い喜んでくれて。周りの奥様方は、明らかに異質な物を見る目で見てらっしゃいますけど。そりゃあ私だって、上半身脱いでポーズしてるだけのマスコットなんて、そんな顔で見るよ。
「……どんな着ぐるみなのかしら」
「リアルよねぇ……こんな島のイベントにここまで力入れるものかしら」
まぁ子供にウケればいいんだよ。奥様方の『なんだアイツ……』的な視線にも、お金が出ると分かってれば耐えきれるってなもんよ。グフフフ。
「――ゥオゥウ!」
「す、すげー! あんなにぶっとい木、かるがるかついでるぞー! すげーパワー!」
「まるでちからこぶのおおしさとあわせ、まるでにんげんショベルカーであります!」
パフォーマンスで喜んでくれるのは嬉しいけども、お子のお一人はなんでそんな本格的な実況を嗜んでいらっしゃるのか。というか実況の子だけエライ顔が引き締まっている様にすら感じてしまう。
「――ほらー! 森林官体験始まるわよぉー! 早くしなさーい!」
「あ、はーい。じゃあねー、牛さーん!」
っと、もうそんな時間か。じゃあそろそろ、俺も休憩のしどきかね? あ、すいません俺も休憩に入りまーす。はーい、お疲れ様でーす……なんでなんも言ってないのに休むっていうのが分かるんだろうね。まぁ通じるから良いけど。
「牛頭さーん、こっちですよー」
あ、はーい……一応山の日の記念イベント、らしいんだけども。なんで屋久島でやるのかが本当に分からない。一応出てくる名物は、登山の時に持参されるお弁当らしいけど。
「このお弁当、美味しいですね」
というか有馬さんが持ってんのがそれか。確かに美味そうではあるけど。
「美味しいのは、いいんですけど……それで、なんでこんな所に私は居るんでしょうか」
週末の仕事と貴女の預かりの時期が被った結果、お母様が旅費まで出して『偶には旅行でもしてらっしゃい!』とか言って送り出した結果でごぜぇますよ。
「まぁ、牛頭さんの仕事が気にならなかった、という訳では無かったので……」
仕事って言っても結局、子供寄せのマスコットだからね。森林官としてのスキルはまぁ使われませんよ。ポーズしてただけだぜ? 全く、俺の森林官としてのスキルを十全に生かした仕事がしたいです。
「お、落ち込んでる……えっと、良く分かりませんけど、カッコ良かったですよ?」
そう言って頂けるだけでも嬉しいです。
「それで、この後もずっと、その、このお仕事ですか?」
えぇ、ずっとこのまんまですよ。子供達の前で、肉体美を見せつけ続けるだけの簡単なお仕事になります。ハイ。
「まだかかりそうですね……これ食べて待ってますね」
宿に帰ってもいいよ? だいぶかかると思うし。いや、多分じゃなくて絶対時間かかるしその間ずっとここにとか……終わるころには間違いなく疲労困憊と思うし。そんな無理させる訳にもいかないよね……ほら、コレホテルのマスターキー
「これって……戻ってても大丈夫、って事ですか?」
ん、そうそう。俺の仕事に付き合って疲れる事も無いだろうし……さ、お帰りなさい。大丈夫大丈夫、サービスの良いホテルだから一人でも平気だと思うし。
「じゃあ、すみません。お言葉に甘えて……どれくらいになりますか?」
ん? えぇっと……テントの時計は……あったあった。しかしテント低いなぁ……よいしょっと。
「ちょ、時計の時刻を直接指ささなくても……えっと、七時くらいには帰るんですね?」
そっすね。出来れば俺も、旅館でのお持て成しも受けたいし、あんまり遅くには帰らないよ。もうちょっと早いかもしれんけども。
「分かりました。じゃあ、先に戻って待ってますから……出来るだけ早めに帰って頂けるとありがたいです」
まぁ、一応保護者ですからね。あんまり放っておいたままにしておくのも良くないし。そうさせてもらうよ……さて、もう一働きしてくるかなぁ。秋とはいえ、まだ日差しがキツイし、水分補給には気を付けないと。
「じゃあ……」
「――やぁ、そこの着ぐるみの君」
着ぐるみ……あぁ、俺と反対の人の事か。声をかけるにはちょっと遠くないか? というかスゲェ仕立てのいいスーツだな本当に。でもって恰幅も良いと。どっかの富豪か?
「……ゥオウ」
「あーいや、向こうの彼を指して『彼方ですよね?』じゃなくて、君だよ。そこの……着ぐるみっていうより、肉体美を晒すぴっちりスーツを着ている君」
何、肉体美だと!? そういう事であれば……確かに、この、俺だな!
「はっはっはっはっ、一々決めるポージングと飛び散る汗が、じつに暑苦しいね! まぁいいさ。牛頭八太郎君、だね?」
おいオッサン失礼と違うか? まぁいいや。筋肉が暑苦しい、と言われるのはマッチョメンの宿業だ。その辺りは甘んじて受け入れよう。
「無口というのは本当らしいね。まぁいい、頷くか、首を横に振るだけでもしてくれればいいとも。君達、宿はとっているのかな?」
まぁ、宿は取ってますよ。女子高校生が一緒に泊まるっていうんだから、安宿で難儀させる訳にもいかないでしょう。あんまり金も使わないし、こういう時の為に使ってナンボってなもんよ。
「ふむ、宿はあるか。であれば、その宿のキャンセル料は私が払うから、コレが終ったら私の招待を受けてくれないかい? 今回のスタッフを招いて慰労会をしようと思っているんだよ」
ん? 名詞か。これは……? 『身心会:会長 忌部隆康』……これなんて読むんだ? えなに? いんべ? いんべ……いんべぇ!?
「――フゥッ! ウゥウウウウウ!」
「だ、大丈夫だよ! 君達の合った印部とは縁も所縁も無い忌部だとも!」
ホントかぁアアアアア!? 復讐しに来たとかじゃねぇだろうなぁ!? あ、有馬さん隠れといて! 近づいちゃダメよ! この野郎!
「な、なんですか!? どうしたんですか!?」
「そもそも字が違うって! 話を聞いてくれー!」
丸太を持ち上げるマスコット(30)




