祟り神様渾身の妨害攻撃
さて、この鍵を態々腰に下げてたって事は、だ。この鍵も相当重要なんだろうというのは容易に想像がつく。この鍵を他の人が使うと不都合な理由が、必ず存在する。
「蔵の前、誰も居ませんね……」
そりゃあチェーンソーウーマンが使い物にならなくなってる事を察知して二人が回り込んで来た。なんてしてたらもはや凄い通り越して理不尽だからね。まだ家の中で籠ってるでしょうよ。さーてカギをガチャガチャ……ガチャ、っと。良し。
「あ……外れました! 外れましたよ牛頭さん!」
そりゃあ外れないと困る。コレで外れなかったら、いよいよ最後の一人、娘さんの腰に鍵がかかってるのを期待して、確保に動くしかない。そうなったらどっちが悪役なのか分かったもんじゃない光景が広がるだろう。
「あ、すいません、もうちょっと屈んで……ありがとうございます。田中のお婆ちゃん大丈夫ですか!?」
良し。後は誰か向かってこないか、見張りでもやってりゃあ良いだろう。
「今、縄解きますから……あ、先ずは口のコレ、外しますね……」
「――っ! ――っ……おうはぁ! 助かったよ……」
今の所、チェーンソーの音が聞こえては……来ないな。大分手間取っていると見える。これなら、一人くらいなら逃がせるかもしれん。
「大丈夫ですか……?」
「なんとかね……ったく、茶を一杯飲んだら、このザマだ。取り敢えず忠告だけはしたから、さっさと帰ればよかったよ。アンタ等には迷惑をかけたね」
「いえ、あの、私達も、盛られかけまして……」
「なぁにぃ?」
うーん、家の方から様子の確認に誰か出てくると思ったけど、誰も出てこないなぁ。流石にあの奥様の状態を見てたら、巻き添えとかも考えちゃうよなぁ……俺? 俺は全然無害な一般ミノタウロスだし。ね?
「飲んじまったのかい!? ……にしては捕まってないけど」
「その……牛頭さんが、先に飲んでしまって……その、盛られたお茶を一気飲みで」
「あー……全然通じなかったと? 成程ねぇ、そこの屈強な牛相手じゃ、人間の薬なんざ全く意味が無かったんだねぇ。納得できたよ」
――! 流石お婆ちゃん、理解されていらっしゃる! ふふーん、これも日頃から自分の健康的な体を維持しようと心がけていた賜物ですよ! 見てください、この、美しい筋肉美を!
「筋肉を強調する格好するんじゃないよ! 興味の無い人が見たらただの恐怖映像だよ筋肉ってのは。その辺りは自覚しな」
アンタ助けられておいてその遠慮しない一言は酷過ぎない? いいじゃん別に、俺を薬から守ったこの健康的な肉体を自慢してもさぁ。
「とにかく! こんな所はさっさと逃げるに限るね……門は開いてるのかい?」
「あ、いえ、凄くガッチリ塞がれちゃってます。出られないかもしれません」
「そうかい、だったらホラ、そこに立てかけてある奴を使えば良いじゃないか?」
ったく、酷い婆さんだ事! で、蔵の中で何を見つけたって……お、コレは。
「梯子ですか?」
「あぁ、そんなボロイ様にも見えないし、折れる事も無いと思うよ」
でかした婆ちゃん! これで適当な所に梯子をかけて置けば即座に脱出できる。大手柄じゃい! 掌クルクル? 何の事やら……兎も角、急いで脱出しないと。よし、この蔵の後ろで良いだろう。
「――ゥン!」
「大きな梯子でも軽々ですねー」
まぁ鍛えてますから……じゃなくて。筋肉自慢は程々に。有馬さん、お婆ちゃんを頼むぜ。で、一応外に誰かいるか……誰も居ない。良し、ここが脱出のチャンスだ。
「――かかりました! 田中のお婆ちゃん、先に!」
「アンタが先に行きな! 若い奴こそ先に逃げて、生き残るんだよ!」
いやお二人とも早く行って? 俺行けないから。絶対的に。お二人の前に俺が行って梯子が壊れようものならお二人とも脱出不可能ですよ? だから急いで?
「じゃあ分かりました、ここは公平にじゃんけんで行きましょう! 負けた方が先に!」
「いいとも! 若いもんに後れは取らんからねぇ! 覚悟しときな小娘!」
ちょい待てなんで今このタイミングで闘争心燃え上がらせた!? タイミング無かった他に! 闘争心燃え上がらせるチャンス別になかったですか!?
「――取れたぁ!」
っ!? 取れた!? 待って早くないか!? お、俺の一張羅を使った渾身の時間稼ぎだったってのにチクショウ、有馬さんと婆ちゃんのジャンケンでおじゃんになった! ジャンだけにってか!? 馬鹿野郎!
「良し、お婆さんが先に!」
「くっ、町内会ジャンケン大会五連覇の私が……ヤキが回ったもんだ!」
いやどっちでもいいからさっさと登ってぇぇぇぇ!? 来るよ恐怖の殺人鬼が! マジで! 逃げるチャンスが失せるから! マジで! ダッシュ!
「いしょっと……よし、ほら、次はアンタだよ!」
「は、はい! 牛頭さんゴメンなさい、先に行きます!」
分かったから早く……あ、今建物の影から聞きなれた駆動音が聞こえてきた気がするんですけど、と言うかもう刃先がバッチリ見えてしまっているんですけど!?
「みぃつけたぁ……」
ヒエッ……しろめむいてますよおくさま。だ、だいじょうぶですか? 近くの眼科にかかる事をお勧めしますよ? 白目は体に悪いですからねぇ……
「――にぃがぁさぁなぁああああい。ぜぇぇったいに、ここで、始末してやるぅう!」
ギャー!? 噛み振り乱してカチコミとかもう祟り神様とかそんなレベルゥ!? あちょ、待ってくださいまっしぐら、ダメだ速い!
「いやぁあああああ来てるぅうううう!?」
「は、早く上りな! 彼奴が戻ってこれない! 急いで」
「二人は逃がしたかぁ……だが、だけど貴様だけでもぉ!」
や、ヤベェ、避けないと当たるっ……! ぶった切られるっ、避けてっ……避けきれる……あ、ちょっと、待ってチェーンソーさんそれは! それは!
「……ひゃは、ひゃはぁ! もうこれで、登れないねぇ!」
……おう、もう。梯子を、梯子を切りやがった、このシリアルキラー!
逃げられると思った? そう甘くはないんだなコレがぁ!




