幕間:とある少女の冒険
『――ォオオオオオオオオ!』
『ひぃいいいいいいっ!? こっち来ないで! 来ないでぇ!』
牛頭さんが物凄い暴れている。蔵の裏まで悲鳴が聞こえる。何だろう……こっちが悪い事されてる筈なのに、なぜか此方がこの家に殴り込んで暴力的な行為をしているような錯覚を……ううん。気のせい、気のせい。
「……い、今の内に家に入らないと」
蔵の鍵を見つける。でも鍵なんて何処にあるか。正直サッパリ分からない。自慢でもないですけど。鍵なんて家の何処にでも置けるし、私の家なんて面倒だからと言う理由で差したままで両親が仕事に行く事すらある。で、私が回収するんですけど。
「取り敢えず……悠長に探してる、訳にはいかないよね」
あまり時間をかけると、ピンチになった牛頭さんがうっかり家の人を殴り飛ばしてしまうかもしれない。大変だ。向こうが悪いのにこっちが傷害罪になっちゃう。
「ありそうな所を重点的に探す、くらいしかないかなぁ……」
なおこの家がどんな感じなのかも知らないから、何処に大切な物しまってるとかもサッパリです。結局は全部総当たりで探すしかない、っぽい。重点的に探すとは何だったのかと己に問いたくなる。
「え、えっと……こっちから……池に出た所」
こっそり、こっそり。出来るだけ、音を立てないようにゆっくりと……といっても、流石に地面むき出しの所で匍匐前進、はちょっと、なのでしゃがむくらいで。
「……えっと、誰か、居ませんかー……居ないよね?」
そっと縁側から中を覗き込んで……特に中に人も居ない事を確認。まぁ外で、皆さん牛頭さんに凄い怯えているのだから当然と言えば当然だけれども。
「えっと、先ずは……」
ここの隣……も、似たような部屋だなぁ。和室で、畳があって、掛け軸……うーん、テレビとか見た
時は、掛け軸の裏とかに大事なものが入ってる、とかあったけど。どうでしょうか。
「……!? 有った!? 早速なんかそれっぽい小箱!」
も、もしかして見つけてしまった? 私、名探偵だったりする? あ、いや冗談はさておき中身を確認しないと。えっと、これは……?
「――ち、違う。札束だ。ある意味重要だけど、今一番要らない物を見つけてしまった」
……へそくり? タンス貯金? いや、この場合は掛け軸貯金だろうか。兎に角、こんな意味深な場所に隠してあるものだから、ちょっと誤解してしまった。というか、ちょっと汚れてるけど、何だろうこれは。
「取り敢えず戻しとこう……うーん、後は、押し入れ……とか?」
は、無い。畳の裏とか……ど、何処も畳は剥がれないなぁ……!
「……一番ありそうなところは無かったし、次いこう」
次は、こっちとは逆……玄関挟んで反対方向だ。母子が来てた方向へ。
「……廊下、ギシギシ言ってる……バレないかなぁ……うぅ、う?」
三つ目の部屋の前についたけど……ここ、襖じゃない。普通に扉だ。誰かの部屋だろうか。だとすればこういう所に……
「鍵は……しまってない、ね。お邪魔しまーす……」
……書斎? あ、でもタンスとかあるから個人の部屋ではあるみたいだ。あの功也って人の部屋ではないだろうか。となると、この家の家長の部屋になる。
「ありそう……」
物語で、重要なカギなんかはそう言った主人の部屋に収められている事が多い。で、危険を承知で主人公はそういう部屋に入り込んで……ううん、今はそれはどうでも良い。ありそうなら、取り敢えず探してみよう。
「えっと……一番怪しそうなのは」
窓際に置かれた、あの机だろうか。
「うぅ、お願いします、神様。どうか見つかりませんように」
近づいて、そっと……そっと、引き出しを開けてみる。中身は……なんだろうコレ。黒い平べったい……あ、なんか見た事あるかもしれない。もしかして。
「キーホルダー……だったりしないかな」
黒い手帳の様なその中に鍵が何個も纏められている。蔵の鍵も、この中に入っていたりしないだろうか。ちょっと失礼して、中身の確認を……
「……キーホルダーじゃない、じゃない、じゃないようぅ!」
普通に手帳……しかも、色々びっしり書いてあるけど達筆過ぎて読めない上に、もしかしたら重要な事とか書いてあるかもしれないけど今読んでる暇は一切ない……うぅ、もうちょっと時間のある時だったら読んでるかもしれないけど、今はコレじゃない……!
「ほ、他に……別の所とかは……」
『――兎に角、美優と日和が時間を稼いでいる内に、中の鉈を』
……!? こ、この声って、確か功也……た、大変だ! よりにもよってお部屋の主が戻ってきちゃった……どうしよう! ま、窓開けて逃げれば間に合うかな!? それとも何処かに隠れるべき!?
『とりあえず、アレを止めれば、後は何とでもなる。集中すべきはアレ一匹。必ず仕留めなければ、私達に、明日も、希望も無い……!』
タンスとかに逃げ込めば……あ、うん。同情をするつもりは無いけれど、なんというか父親さんの発言は分かる。牛頭さん相手にすると、誰でも絶望に立ち向かう勇者になれますよね……や、そうじゃなくて! ここに突っ立ってる場合じゃぁ――
『……ん? 扉が開いて……』
『――ォオオオオオオオオ!』
『な、なにぃ!? 態々追いかけて来たのか! しつこい! 来るな! 来るなぁ!』
……物凄い轟音の後に、重たい足音が駆け抜けていくのが聞こえたなぁ。牛頭さんが追い回しているんだろうなぁ。全力で。部屋が震えてるし。
「私達が被害者とはいえ……物凄く、申し訳ない事をしている気分になる」
……うん。暫くは大丈夫そうだから、じっくり探してみよう。牛頭さんが、なんだろう、酷い目に合う光景が思い浮かばないんだよね。全てを蹂躙するイメージしかない。
『――ンモォオオオオオ!?』
ほら、元気に吼えてるし……
『ヤアアアアアアアア!?』
吠えるだけで済んでるのかがちょっと不安になってきた……一体どうなってるんだろう。ちょっと覗いてみよ……あひぃっ!?
「ひ、ひぃい……なんて奴だ……チクショウ……」
な、なんでこんな所で倒れてるの旦那さんが!? 待って、見つかった!? に、逃げないと!
「うぅ……ひぃ……あれ?」
部屋に入ってこない……見つかった訳、じゃない? えっと……こっちを見てないし……完全に牛頭さんが向かった方向を見てる、と。腰が抜けてるのかな。アレ? 腰のアレって。
「……鍵、だよね。多分」
あの人が持ってたんだ、鍵……こっちに気が付いてない……
「良し」
なんの『良し』なのか。




