門を破壊するくらい丁寧にノック
……さて、田中さんちより更に山に寄ってる奥、との事だったが。
「あ。あれじゃないですか。お屋敷……っていうには、ちょっと小さい感じの家」
うん。俺も見えたけど。正にいう通り。屋敷、っていうにはちょいと規模が小さい。でも塀と門はある。うーん、なんとも形容しがたいサイズな気がする、が。問題はそこじゃないか。
「田中さん、居ません……もしかして、もう帰っちゃった……訳ないですよね。ここまで一本道ですし。戻って来てたなら、絶対すれ違いますし」
そうなのよなぁ。姿かたちも見えん。里の方で見てないっていうんであれば、あと残ってるのってこっち方面だけなんだけど……それで、一切姿形も見ないっていうのは可笑しいよね。
「……一応、訊いてみましょうか? こうして近くまで来た訳ですし」
そうねぇ。別に話聞くだけでも良いし……それに、一応こっちに犬への被害が来そうになったあたりも言わないといかんし。そうとなれば……
「あの、すみませーん。印部さー……あの、牛頭さん、どうして手を振り上げて」
「――ォオ!」
ごめんくださーい! すいませーん! ご在宅ですが印部さーん!
「凄いノック!? ご、牛頭さん幾らなんだってパワフル過ぎじゃないですかそのノックは!? ドンドンじゃなくて弩轟弩轟って感じですよ!?」
おーい、ノック無視はちょっと悲しいぞー。というか、お宅のお犬様がちょっと問題起こしたんですからお話くらい聞いてくれてもいいんじゃないですかねー! このままお返事が無いようなら帰りますけど! 迷惑になりますし!
「ちょ、ちょ一旦ストップしましょう!? 流石に近所迷惑……っていうには、周りに人も誰も居ない……な、中の人の迷惑になりますから! ね!? ね!?」
噛み癖の悪い犬を畑に放置した挙句、その犬がお預かりした少女を噛みそうになったんですよ。これくらいしたって問題ないでしょうよ。とはいえ、壊してしまってもマズいのでこの辺りにしておくけど。
「……これでも反応、無いって……うんうん、怖かったね。大丈夫だよ、悪い人じゃないから。大丈夫、あのノックでどんどんされたりしないから」
「――」
しょうがない。帰ろうか。ったく、話を付けるのもそうだけど、連れて来たワンコを引き取ってくれんかなぁ。なんかずーっと有馬さんの影に隠れちゃってさぁ。悪いのはそっちの筈なのに、ちょっと哀れになって来てるんだよ。
「今日は留守ですね。アレだけ叩いて、反応も無かったってなると」
そうねぇ。仕方ない、帰る……
「――な、なんですか? 凄い音がしましたけど……?」
……その前にどうやら反応して下さったようで。居たんかい。
「あ、良かった……って牛頭さんちょ、一旦下がって待ってもう遅いこれ」
「どちらさま、です……か」
おぉ、こりゃあなんとも若くて綺麗なお嬢さんだ事で。和服が良く似合ってる事……こんな子があんな犬を放置してたってなると、凄いギャップやな。で、なんでおいらの瞳を見て完全に停止なされているのか。なんで『神よ……』とか呟いているのか。
「あ、あのですね違うんです……! この人は、その、コスプレをしてらっしゃるんですよ! そ、そう着ぐるみ、そんな感じで……」
いや俺の毛皮は自前ですけれど!? 百パーセント天然、ギリシャ製の高級な牛革ですけど!? いや性格には牛革と違うけど!
「……えっと……た、大変、その、筋肉質な、方ですわね……? き、着ぐるみに入ってここまで、その、凄い……筋肉が……?」
いや筋肉質なのは確かだけど、別に着ぐるみじゃないですから。コレは自前ですからホント。ああいや、そこに拘ってる必要は無いか。取り敢えずは本題を話さないと。
「――ォゥウ!」
「な、なんですか!? どうしてそんなに、えっと……鼻息を荒く!?」
アンタが置いて行ったワンちゃんが、ウチの預かってた少女に食らいついたからだよ。どう責任取ってくれるんじゃ、おぉん?
「え、えっと……あの、田中の、お婆ちゃん、ご存知ですか?」
「は、はい……知ってはいますけど。それがどうなされたんですか?」
「田中のお婆ちゃんの家の畑を、その、貴方の家のワンちゃんが……荒らして、しまったと此方の、牛頭さんが……」
そうだよー、どうしてくれんだよー、分かるかぁ? 言い訳しないでさ、ちゃんと罪を認めて。で、ちゃんと謝らなきゃいけないのと……
「――ほ、本当ですか? 確かにその子は、ここで飼ってる、子ですけど……あぁ、少しやんちゃさせすぎちゃったのかしら! 大変!」
あ。そこはあっさり認めるんですねお嬢さん。いや何というか、もうちょっと言い訳とかするんじゃないかと思ってたもんで……しまった、ちょっと詰めすぎたか?
「あ、後で田中さんにもちゃんと……あ、もしかして貴女達にも?」
「い、いえその……ちょっと、噛み付かれそうになったりは……」
「まぁまぁ大変! 貴方達にもお詫びをしないと! ……そうだわ! 我が家でなにかお持て成しの一つても受けていかれませんか」
あ、いや、そこまでして頂かなくても……いや、なんか予想以上に、その、凄い勢いで謝られている。ど、どうしよう。流石に、怒ってたのは確かだけどここまでして貰おうとは思ってない。流石に、コレは止めないと。
「えっと……首を振って、手を振って……どうしたんですか?」
「要らない、って事だと、思いますけど……本当に、多分、ですけど」
「ああ、そういう……そう言う訳には! 私の家の子が粗相をしたのですから、私共が責を負うのは当然ですよ! ささ!」
あ、ちょ、まって有馬さん引っ張っていくなうわちょ速い速い! 待ってくれちょホントに、冷静になって!? 落ち着いて! ち、畜生! 凄い速さだ! 待って、止まれって! 田中のお婆ちゃんの事だって聞かにゃならんと言うのに!
「……バゥ」
何を得意げな顔で見てるんだお前は。もとはと言えばお前が悪いんだぞ。この。ったくしょうがないな……行くしかないか。
結果、凄まじく丁寧なお持て成しが帰って来る可能性が。




