君、野菜食い給うなかれ
「ったく、本当に容赦しないね。アンタって奴は……」
「……籠の中のお野菜、殆どもってっちゃった」
いやぁ。こっちもこの野菜が好きで買ってるもんで。好物目の前にして我慢やら舌なめずりだけするやら、なんてのは間抜けってなもんですよ、婆ちゃん。
「まぁアンタが馬鹿みたく買ってくれるから、こっちも多少は貯えが出来るってもんだけどね。これで、今年は鍋の具も豪勢に行けそうだよ」
ソイツは良かった……っと。いやぁこの夏野菜の数たるや! もうたまらねぇ、よだれが垂れそうだ。しかし、俺はあくまで紳士。そんな子供みたいなことをしちゃあいけないぞ。あくまで、クール、クールだ。
「目がキラッキラして、鼻息も荒いです……これ、私にもわかるくらい嬉しそうです」
「分かりやすいだろう? ガキンチョそのものだよ」
煩いやい。誰だって大好物が目の前に置かれたらそりゃあ子供にも戻るだろうよ。
「兎に角、買う分は買ったんだから、さっさと帰んな。アタシはまた畑を見てこないと」
「あれ? さっきの野菜って、収穫してきたものですよね……また収穫に?」
「アホか。そんな訳ないだろう……あたしの畑を害獣が荒らしてくれてんのさ」
ウーンそれにしても、このアスパラガスの香りといい……ん? 害獣?
「害獣って……野良犬とかですか?」
「この辺りに野良犬はおらんよ、野良犬は。詳しくは分からんけど……山から下りてきた奴だとすれば、そこの牛面に何とかしてもらいたいけどね。山の管理をやってる、っていうんだったら」
うーん。畑を荒らす様な害獣なんて、この山に居たっけか……野菜を食べるような奴だったら幾らでもいるけど、そいつらも臆病だから、人間の住んでる場所になんて滅多に降りないし。
「ま、それも本当に山から来たっていうならの話。何処から来たかなんてサッパリだからね。アタシが地道に対処するしかないんだよ。あー、本当に。後で騒音とかへの文句も言わにゃならないってのに……」
「そ、そうなんですか……なんか、大変ですね」
「まぁね……だからアンタに構ってる暇はないんだよ。さっさと帰んな」
……ふむ。一応対価を頂いているとはいえ、人のお宅で採れた野菜を根こそぎ持って行っている、という罪悪感が無かったわけではない。コレは好機か。
「――!」
「……胸を叩いたって事は……ドラミングですか?」
誰が学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラじゃ。なんで急にお婆さんを威嚇せねばならんのだ。
「自信満々の面……もしかして、畑の害獣を任せろ、とか言ってんじゃないだろうね」
イグザクトリー。うん。こっから先、ここの婆さんの野菜を、絶対に欠かさない為に。と言うのは、まぁ建前。実際の所、というか山が近い里で畑が荒らされてんでしょ? 一番可能性があるのって山の野生動物じゃないか。野生動物の被害を減らす為、森を調査するというのであれば、森林官の出番だ。
「も、もしかして、お婆さんの為に!?」
「やめとくれ。恩着せる為に野菜売ってんじゃないんだ。森の管理やってるような奴に畑を守らせた、なんてアタシがモンスターみたいじゃないかい」
残念ながら意見は聞いていないのだ。というか、俺がやらんと森林官は森の管理を怠ってる、とかあらぬ陰口立つし。そんな芽は徹底的に潰す。という事で、この牛頭さんにお任せください。
「まぁまぁ俺がやりますから、じゃないんだよ。さっさと帰んな」
「両手を前に出す仕草だけでそこまで!?」
「そいつの締まりのない笑顔と一緒に見れば丸わかりだよ」
うむむ。これはかなり難関……しかし、ここはてこでも動かないと、態度からガッツリと示して、相手の牙城を切り崩す必要があるようだ。
「……座り込んじゃいました」
「はぁ……アンタ本当に体の大きさに見合う位には図々しいね。野菜もそうだけど」
ふふ、座り込んだのは居座る、と言う意思を示しただけじゃあない。それから流れる様に……ガッツリと頭を下げる! 畳に頭を擦り付けんばかりに! 実際擦り付ける!
「ちょ、ちょっと、頭なんて下げんじゃないよ! よさんか! ……ったく、分かった分かった! そんなにするならアンタに任せる! 任せりゃいいんだろ!」
ヨシッ! 誠意が通じた!
「ったく、アンタ、そんな急に頭下げるじゃないよ本当に……任せる、任せるからさっさと頭を上げて! 行くんだったらさっさと行きな!」
「……っ!? ご、牛頭さん……行くんだったら、その、早めに、行った方が……」
っと、そうだな。ずっと頭を下げてばかりじゃ意味ない。早速調査に取り掛からないとお許しを頂いた甲斐が無い。よーし行くぞぉー!
「(お婆さん、畳が、畳が……! 悲惨な有様に!)」
「(変えたばっかりだったのに、まぁ見事に穴開けてくれちゃって……取っ替えないといけないじゃないか……ああもう、いくらかかるのかねぇ)」
さぁて、お婆さんの畑は……この辺りか。スゲェ野菜実ってるなぁ。周りに柵とかもある。害獣対策はキッチリされてるが、被害はあるって事は結構な動物じゃないのだろうか、害獣って。
「畑って、こんな感じなんですね。私初めて見ました……あ、テレビでとかは、見た事があるんですけど、こうやって直に見たのは」
最近の子は都会っ子だからねぇ。小学生の時とかに畑の世話とかしたことないんだろうなあ。俺なんか、実家ではもう只管に牛の世話なんかしてたからね。
「……柵とか、結構壊されてますね」
うん。柵とかね、ぶつかって倒れてる、っていうよりは……かみ砕かれてるなコレ。害獣って言っても、山から下りてくるような奴で木の柵を食い破れそうな奴なんて居ないんだけどな。
「熊さんとか降りて来たんでしょうか?」
いや、熊とか柵ぶち壊して入ってくるだろうし。そもそも野菜はあんまり食べないっていう。じゃあ狐とかか……? 噛み砕く程、顎の力あるかと言えば微妙なんだが?
「……あれ? ワンちゃんだ」
いや、それより先ずは山の方からの痕跡チェック、かな。えっと、こっちの方に降りてくるとしたら方向的には……というか、この砕かれた柵のある方向的に、山は一番遠い場所なんだけど、いや、そもそもこの噛み跡、狸の物にしちゃ大きすぎるというか。
「おっきいなぁ。どうしたのー、こんな所でー……村で飼ってるワンちゃんでしょうか」
どっちかと言えば……大型犬ぽい気がするんだよなぁ、これは。高さとか。
因みに牛は穀物とかの方が良く食べますが、細かいこたぁ良いんだよ!




