牛風情にロマンスやれると思った?
豪華スーツはもう立てない……な、完全に白目向いてる。良し。取り敢えず、念のためにこの危ない火器は適当な所に遠ざけて置いて、と。
「……はぁっ」
良し。コレでオッケー……って有馬さん!? しゃがみこんで、どうした!? 彼奴になんかやられたのか、だとすればもう何発くらい……いや、その前に有馬さんの様子を見ないと。ケガさせられてたりしたら、応急処置を!
「……あ、牛頭さん、大丈夫、です……急な、事で、腰抜けちゃって」
あっ、俺の心配しいだったぁ! そりゃあなんかされたなら近寄ってきた時点で、悲鳴上げるか報告するかするよね! 普通だったら! 助け求めるから!
「え、っと……そっちの方は。あの……全力で、顔を殴ってたので、無事なんでしょうか」
あ、ダイジョブ。ほら、こうやって首根っこ掴んで揺らすと、ちょっと、ホラ。呻いてるでしょ? 生きてはいるよ。相当痛かったとは思うけれど。
「……生きてる、って事なのかな。あの人揺らしてるのは。うん。そうだと信じよう。人殺しは、しない、良い牛さん……だよね」
怪我してるとしても打撲位だし。暫くすれば直ぐに起き上がれるでしょうよ。でもってそのまま暴れられても困るし……仕方ないからちょっとボンドで両手を固めさせてもらう。申し訳ないけどロープが無いので緊急措置です。病院に着いたら外して貰ってね。
……まぁ、こんくらいがっちり固めればいいか。手がじゃっかん輪郭を失いかけてる位ガッツリボンド塗れ……我ながらやり過ぎたかもしれない。
「……ガッツリくっついてますね。取れるんでしょうか」
多分としか。他は兎も角としても、此奴はなぁ。積極的にこのゾンビを回収してこっちをぶっ殺そうとしてくれたお礼も兼ねて、徹底的に拘束させていただきました。まぁ、私怨と言われてもしょうがないけど、けど間違いなく危険人物だし。
「それにしても、凄い銃だなぁ……ドラマとかで見る銃が、玩具みたいに見える……」
あ、触らない触らない。暴発してオイラの頭がトマトみたいに綺麗に弾けた、みたいな事になったら化けて出るからなぁ。まぁ、それは冗談にしても危ないから触っちゃダメよ。
「……私、これが、近くに、あるときに、抜け出して……」
ん?
「あ、あれ……おかしいな。震えが……う、うぅぅぅ……」
……あぁー、そっか。銃をマジマジ見て、今更になって死ぬかもしれなかったって実感したんだ。分かるよー、山とかでも、余程のピンチを潜り抜けた後なんて、恐怖より呆然として暫く平淡になってること多いし。
こういう時は、誰かが傍に寄り添って、落ち着くまでじっと待つのが定番って奴なんだよな……まぁ、同意を得られるような状況でも無いし、後で痴漢と訴えられるのは覚悟だなこりゃあ……よし。
「わぷっ……な、なんです……?」
出来るだけ、こう……優しく抱きしめる。痴漢呼ばわりされない様に。出来るだけね。
「……暖かい……けど……ひえっ」
まぁ男臭いかもしれんが、ちょいと腕の中に抱えられててくれな。まぁ、取り敢えず落ち着くのに暫くかかるから、それまでは我慢していておくれ。あんまり、その。言葉じゃ慰められないし。そもそも言葉が通じないし……
「――あの、牛頭さん、もう、大丈夫、ですから、はなして」
あれぇ? 早くない? 本当に大丈夫?
「凄い筋肉が、ビクン、ビクンってしてて……その、ちょっと力が籠ったら私、多分大分平べったくなっちゃうと思います……あの、優しく、その、して下さってるので大丈夫だとは思いますよ? け、けど、ですけどその……」
あ、生存本能的な恐怖の方が上回ったのか……いや、まぁ俺の逞しい筋肉が恐怖を払ったと思えば……いや、完全に婦女子に恐怖を叩き込んでじゃねぇか。離れよ。
「すいません……その、さっきよりちょっと、あの世が見えちゃって」
そこまでとは大変申し訳ない事をして申し訳ありませんでした……
「あ、その、えっと……お、落ち着かせようと、してくれたんですよね? 多分……そうだと思うけど……うぅ、確証が持てないよう」
そうなんだけど。でも結果としてそれで……なんだ。ダメージを与えちゃったし、完全なお節介になっちゃったなぁ。もうちょっと考えて動けばよかった。
「……あ、あの。落ち着かせようと、してくれた、なら。ありがとうございます、怖いのは何処かいっちゃいました……別の怖いのに、押し出されるみたいな感じで」
あ、はい。本来の思惑とは大分かけ離れた結果でございますね。
「……今日の、事も、そうで……急に連れてこられて、何もわからない私を、助けてくれて本当に……遅れましたけど、その。ありがとうございました」
……そう言って貰えると、まぁ。俺としても、ありがたい。保護された人を最後に不快な気持ちにさせたまま終わるとか、余りにも終わりが寂しすぎるからなぁ。
良し。アクシデントもあったけど、そろそろ寝ようじゃないか。ホラ、有馬さん結構緊張で疲れてるかもしれないし。さ、早めに寝た寝た。
「す、すいません……それじゃあ、お先に失礼します」
おやすみなさい。
……あぁ、何だろう、俺も色々。精神的にも疲れた。さっさと寝て。明日に備えるとするか……あ、いや折れ寝られないじゃないか。そとのゾンビ野郎のこと忘れてた。夜通し彼奴見張らないと。あーったく、彼奴、逃げ出したりしてないだろうな……
「――フゥ……ン?」
「……ぐる?」
鍵をかけて置いて……っと……?
「ぐるぁあああああ!?」
ごらあああテメェ逃げんな! 逃がすか! お前ホント、俺の拘束から二度逃げ出すとか良い度胸してじゃねぇか! っていうか何で縄切れた! 前の倍近くグルグルにまいたってのに!
「――ッ!」
「ぐるぅああああ!?」
絶対朝までには捕まえないと……! 逃げんな! お前! 野生には帰らせねぇぞ! お前は大人しく警察の御厄介になって調べられるんだよ!
ああ畜生、最後位良い感じで終わると思ったら! 最後までこんなんかい!
不可能なんだよなぁ!




