マジメなパートだと思うたか!
……さて、有馬さんは寝ただろうか。ゲストルームの誇りは殆ど払い除けたし、大丈夫だとは思うが。さて、問題はここからだ。俺はまず寝ることが出来ない。理由はまぁ当然というか、この家の周りを見張らなくてはならない。
「――」
立ち上がって、四方に目を向ける。あそこのプレハブに突っ込んだは良いのだが。あのゾンビ野郎を絶対に逃がさない為にギッチギチに縛るのに縄をすべて使ってしまった所為で、他の奴を縛り上げるのは不可能、こっちのロッジに雪崩れ込んでくるのも普通にあり得る。
その際、寝てたから何の抵抗も……出来なかった……等と笑い話にもならん。角にも特別磨きをかけて警戒しなければない。
「――フンス」
明かりは付けたまま。電気代がちょいと心配だが、電気が付いている、というのは起きているという牽制になる、ってこの前某動画サイトで見たので実践してみる。万が一その牽制を乗り越えた猛者には、特製ミノパンチをお見舞いしよう。
っと、そうだ。ちょっと確認しておきたい事があったんだ。テレビテレビ……
『――えー、緊急速報です。本日――県の――山で、現地のパトロールを行っていた森林官が遭難者を発見。報告を受けた山岳警備隊、警察の合同の探索が行われ……』
おぉ、丁度知りたい所がやってるじゃないか。
『警察の捜査や聴取により、誘拐された人数の内、一人を除いて全て保護する事に成功していると関係者への取材で分かりました。そのうち一人も、当該の山を管轄にしている森林官が保護されているようです。警察は、遭難者が誘拐された可能性があるという事で……』
おぉ、良かった良かった。ちゃんと確保してくれたか。まだ確保できてない人が居たりしたら明日、また有馬さんを抱えて探索しないとだし。でもあのプレハブの近くから離れる訳にもいかんし。
「――フゥー……」
兎に角、これで俺が警戒すべきはアレ等がここに来て有馬さんを攫ったりする可能性だけだ。最悪犯罪者は、見逃してもいい。そもそも俺に逮捕権は無いし。逃げられてもどうする事も出来ない。
犯罪者よりも、目の前の無事な遭難者だよね。
……夜中になった訳だが。さて、もし起きだすとしたらこの辺りしかない訳で。出来ればみんな明日の朝までおネンネしていてくれると嬉しい訳だが。
「――ッ!」
まぁ、そう上手くは行かないか。足音が聞こえたよ。まぁ、明るくしてるのは牽制の為ではあるけど、間違いなく目立つしなぁ。しゃあねぇ、相手してやるとするか……ん?
「……おい、昼間のウシアタマ、居るか?」
玄関に来てノック迄したぞ、可笑しいな……窓割って侵入してくるまでは覚悟してたんだけど、なんか平和的な方法感じで来たぞ。
「――ッ!」
「な、鳴き声を上げるな! アレが起きるだろう……!」
「お前も声でけぇよ……! な、なぁ。取り敢えず、話だけでも聞いてくれねぇか?」
この声、昼間来たチンピラ二人か。っていうか此奴らは縛り上げてたはずだけど……いや縛り上げられたまんまで歩いてきたのかな。根性あり過ぎじゃね? その根性に免じてとりあえず話だけは聞いてやるとしよう。
「で、出てきてくれたか……助かった」
マジで縄に縛られたまんま歩いてきやがったよ……なんて奴らだ。無駄にすごい根性してるじゃないか。ちょっと感服してしまった。
「……あのゾンビ野郎が万が一にも暴れ出したら、死ぬかもしれない」
「お、俺らもやっちゃいけない事した自覚はあるけどよ。流石に死にたくはねぇ。虫のいいこと言ってると思うけど、頼む! あそことは別の場所に入れてくれ!」
あー……成程。アレが目覚めて縛りを突破して動きだしたら死ぬって事か。ふむ、理由は分かった。まぁ、死にたくないから場所だけ変えてくれ、位ならそこまで身勝手な願いって訳でも無い。寧ろ、もっと無理なお願いをされるかと思ったよ。
「頼む……ちょ、なんだ! 縄引っ張んな! なんだよ!」
「ま、待て騒ぐな。え、えっと……な、縄を解かないでいいのか、という事か? な? そうだろう?」
そう。縄解いて逃がしてくれ、とか言うかもしれないと思ってたからな。
「……そんな身勝手を言って、お前に首を、ゴキ゚、とかやられたら大差がないからな」
「は、話して分かる相手なら、取り敢えず、安全を確保したいって……」
うーむ、さっきオラついていた二人が命にしがみ付いてきてるのがあまりにも哀れ過ぎで笑うな。とはいえ、俺が話が通じる相手、と分かってくれたのが非常にありがたい。
「(言葉が分かるってだけで、同じ化け物だけどな)」
「(静かにしろ、変に機嫌を損ねさせたら首をねじ切られるぞ)」
……まぁ、確かに無駄に人死には出したくないしなぁ。しかたない。
「え? 戻れって!? ちょ、待ってくれ! 絶対暴れたりは……!」
そうじゃないよ。万が一、逃げ出されても困るし、ちょっと一緒についていくだけだ。まぁ悪い様にはしないから安心しろ。
「……そうか、俺達が移るんじゃなくて」
「このゾンビを動かせば、他全員が動く必要は無いという事か」
そうそう。此奴は……まぁ、俺がロッジの前で直接見張ってればいいでしょうよ。起きたら此奴をぶん殴り倒して気絶させればいいし。よいしょ、重いなぁ相変わらず。
「え、えっと……じゃ、じゃあ俺達は中に戻るから……」
「あ、暴れたりはしない。約束する。だから頼むから殺さないでくれ」
お前らさぁ……俺が必死に命が無事に済むよう解決を目指しているというのに、なんでそう殺される想定しかしないんだよ。俺の慈悲の心を、目から感じ取って欲しいよね。この済んだ瞳から。あ、そうだ。忘れてた。
「……おい、なんでまた引っ掴まれてんだよ、ちょ、まて!」
「ま、まて。殺すつもりじゃないらしい……が」
まぁ、このプレハブ、部屋だけはたっぷりあるからね。どっか、鍵のある部屋にでも閉じ込めさせてもらって……お、こことか結構ゴツイ感じじゃないか。でも開いてる……?
「……?」
「これは……拳銃? リーダーが持ってたのと同じ」
……それだけじゃないな。なんだ、この空のジェラルミンケース、それも……二つ?
「聞いてるか……?」
「いや? こんなのが運び込まれてるなんて……そもそもここは施錠されてた筈……あ、ちょ喋ってる最中に放り込むなっ!?」
でもとりあえず施錠して封印。お前ら目が覚めちゃってるし、まぁ縛られてても危ない事は危ないから。万が一脱出出来てもこれくらいガッツリ施錠できるならそう簡単には逃げ出せないでしょ。拳銃は怖くて触れられない事を祈るしかないな。
しかし……あの扉、閉まってたって言ってた。なのに、開いている……いやな予感しかしない。
主人公の時点で全編真面目になるのは不可能なんだよぉ!




