気付かぬふりは時に最大の気遣い。
「ごちそうさまでした……OLさんとかよりよっぽどサラダしてたけど、美味しかった」
お粗末様です。しかし、普段食ってるモノしか冷蔵庫になかったからなぁ。お客人用になんか、ケーキか何か買っておいた方が良かっただろうか。
「……あ、あの。お皿とか何方に?」
流しはそっちだよー……で、写真の奴らは明日にも回収に来ます、と。まぁいよいよもって暗くなってきたし、こんな中警察の皆さんに来てもらって遭難して俺が探す羽目になったら気まずいとかそういうのを通り越す気がする。
「うぅ、高い……」
あー、まぁ俺のサイズに合わせてるからなぁ。ちょいと高いかもしれんが、頑張ってくれ。さて、と。風呂でも沸かして、おかない、と……
「……――!?」
「ひゃえっ!? ど、どうしました!?」
あ、いや、なんでもないんだ……あークソ、風呂に入るという事は当然……着替えが必要という事じゃねぇか! その辺りを完全に失念していた! 間抜けか俺は!
「す、凄い勢いで首振ってますけど、大丈夫ですか!? 何かあったんですか!?」
あ、いや、大丈夫だ。何とかする、何とかするから……ちょっと待って。考えさせて。
「ひ、額を抑えて……って事は、頭痛か何か、ですか?」
ああいや違う。そうじゃない、そうじゃないんだけど……まぁ、それくらいは起こしそうな凄い、辛い問題に直面しているのは確かだと思うんだが。
「な、なんども首を振って……溜息!? け、結構激しい頭痛……!? た、大変だ直ぐに救急車を!」
おぉっと待ってくれなんかおかしな話になってるなぁ!? いや救急車とは大丈夫だから! チクショウ、さっきまでは、大雑把だけどある程度の意思は伝わっていたというのに、たった一つの勘違いからここまで行くとは!
「え、えっと……番号何番だっけ……やばい、頭真っ白だ!」
口を押えて手を掴む、等したら変質者確定……どうすればいいのか! あぁ畜生、この時ばかりは伝わらぬ言語が辛い。く、ミノス島では幼馴染達との会話が楽しみなくらいの喋りストだったというのに! それが使えないとは!
「こういう時は、無理に思い出そうと時間使うより、ネットで……」
「――!」
このままではコミュニケーション不十分で救急車呼ばれたとして、世界〇見えあたりの面白いオジサンコーナーで紹介されかねない! ぬぅ、頭痛などに負けていないという事を示さねばならないのだが、一体どうやって……はっ!
良し、ちょいとお嬢さん。肩に指を失礼。トントンと。
「んえっ? ど、どうしました? え、外、ですか。えっと外がどうし……あ」
良し。気が付いてくれたか……助かった。
「こ、こんな時間にこんな山奥まで、流石に来れないや……」
オーケー冷静になってくれたな。良い感じだ。後は、俺が平気な事をアピールするだけだなのだが。まぁそれは大して難しくも無いだろう。
「ご、牛頭さん! あの、頭痛のお薬とか……?」
食後のお茶を、優雅に急須から注ぎ、たっぷりと注いだら。椅子を引いて、着席。優雅に足など組みつつ……熱々を、優雅に啜る。よし。完璧。後は流し目の一つでもすれば俺が完璧だという事は伝わるだろう。
「……あの? 大丈夫、なんですか?」
漸く気が付いたかね。子猫ちゃん。ちょいと小首を傾げるのもポイント。『ん? 何の事かな?』的な雰囲気を演出できる……気がする。
「だ、大丈夫なんだ……ビックリした。凄い頭振ってて、何事かと……」
良し、危機は脱したが……悩んでる姿一つでも、解釈が噛み合わなければ面白おじさんが誕生する危機になる。ここは仕方ない。解決策は思いついてないが取り合えず状況を把握させないと
「牛頭さんが倒れちゃったら、私この家で一人だもんなぁ……ん? 袖を引いてるって事は……こっちに来い、って事ですか?」
そうよ~、別の話題で気を逸らすのよ~。はいついた。
「えっと……ここってお風呂。あ、後で入れって……あ」
お気づきに、なられましたか。レディ……そうなのです。
「ど、どうしよう……牛頭さん! 牛頭さんの体に合わせたお風呂なんですよね……私沈んじゃわないでしょうか!」
うーーんそうじゃないんだけどそれもあったかぁ完全に盲点だったけどでもそれは解決できそうではあるんだ問題はもっと大きな部分にあるんだよ……!
「凄い首振ってますけど……頭痛、じゃないから、違うって……服を引っ張って……あっ!」
……来てる服をじっと見た、という事は、お気づきになられましたね(二回目)
「あ、あの……着替えとか、有ったりしますかね……無いですよね、分かってました」
さぁ、いよいよもって有馬さんの表情が悲壮な事になっております! どうすっかね! 取り敢えずパジャマだけでも取ってくっか! 男物だけど! 俺が心配してるのはそっちじゃねぇんだなぁ!
「……洗濯機は……あるから、今日の奴を干して……明日の分はそれでいいけど下着! それにパジャマはどうにも……あ、パジャマはあるんですね。下着だぁ……!」
こればっかりは男の人には何も言えんからねぇ……選択は、ご自分で。
「……あの、すみません。部屋って、別々ですよね」
うん。そうだよ。ゲスト用の布団もあるから、それを使って別々に寝る。流石に今日初めて会った女性といっしょの部屋に寝る程、俺は常識知らずじゃない。
「頷いてくれてよかった……!」
風呂終わり。彼女は、ちょっと大きいパジャマを着て、なんというか、下半身に凄い手を当てて出てきた。それで、彼女がどうやってこの状況を切り抜けたかは、察した。
「……すいません、お布団まで用意していただいて」
気にするな、と手を立てる。今は、余計な言葉は要らないだろう……彼女は、この極限化で、本当はしたくなかった最終手段を取って、それが何とか分からない様に、と対面を取り繕っている……状況的にそれしかない事を、悟るのは難しくないというのに。
「それじゃあ……お、お休みなさい……うぅ、やるせないなぁ、この感覚」
だが俺は、そもそも言葉が通じないから、指摘は出来ない。なので彼女の凄まじい体の内の羞恥を一発で看破できたこと、それを若干申し訳なく思うのも、言う必要は無いのである。
見た目が野生的過ぎる上喋れないので、内面は最大限紳士に描きたい。




