八つ当たりは良くない? 時と場合よ。
『オラ来いよ! 力ぁ見せてみろ……! そうしたらよ、隙見つけてもう一発程、股間にぶち込んでやるから!』
『好き勝手言ってくれる……三度目を受ける程、俺は間抜けでは無いわ!』
取り敢えず挑発は基本。突っ込んで来てくれれば上々、来なければ来ないでそれでも大丈夫。要するに、より苛つかせてやれば俺の目的は達成となる。
『――だが、俺は寛大だ。その見え見えの挑発、敢えて乗ってやろうではないか』
『お、優しいじゃないの! 三度目に騙されに来てくれるとは!』
『はっ、その見え見えの罠程度、真っ向から粉砕してやると言うだけの話だ』
おーおー、凄い言い方。とはいえ、挑発に乗ってくれるとはありがたい。そっちの方が分かりやすい。さぁ、真っすぐ突っ込んで来いよ兄貴、その大胸筋を……いや、ワイシャツで見えねぇな全然。
『っしゃ!(パァン!) 来いやぁ、この変態ゴリマッチョ牛野郎が!』
『えぇい! 貴様余計な罵倒ばかり抜かしよって……その口をいい加減閉じろ愚か者!』
おう怒ってんねぇアニキィ! いいねぇ、ドンドン怒ろうなぁ!? こっちの目論見にしっかり乗ってくれなぁ! こっちも気合入れたぞ!
『よっしゃあああ! もう一回真っ向から力比べだオラァアアアアア!』
『ウォオオオオオ! 愚弟オラァアアアアアア! スッゾゴラァアアアアアア!』
――とまぁ、またぞろ勝ち目のない力比べになった訳ですが。まぁこれだって考え無しに持ち込んだわけではない。別に力比べに勝つ必要は無い、と分かっただけで。
『ぐ、ぬぬぬ……ぐぎぎぃいい!』
『どぅしたぁ? こんな物かぁ!? オォォオオオ!』
どういう事か? ふふふふ……皆さん、単純な話でございます。ストレス発散に一番いい手段は何か。という話。マッサージ? いえいえ。 運動? ちょっと近い……まぁあんまりお綺麗な手段ではございませんが。八つ当たりが正解。
『ま、まだ、まだぁ!』
『いい抵抗するじゃないか……! そうだ、もっと抵抗して見せろ!』
海外にはストレス発散の為に、物を破壊してもいい部屋、というモノがあるそうで。そこでは使えなくなった家電とかを粉々にぶち壊して「あーすっきり」となる事が出来るのですよ。まぁ合法八つ当たり部屋ですね。
『上等だ……全力で抵抗してやろうじゃねぇか! この野郎が!』
『グハハハハ! 良い、良いぞ、お前の剛力が心地よいわ……!』
でもこれ大分時間がかかりそうだなぁ。いよいよ声が半トーンほど下がってる辺りがいよいよ凄い何かを腹にため込んで爆発しそうな感じになって居るような。
『アンタ等! 両手でガッチリ組んでても絵面が地味なんだよ! もっとコブラツイストとかアルゼンチンバックブリーカーとかやりな!』
『俺達の喧嘩を何だと思ってるんだお袋はよぉ!』
それにプロレスならさっきまでやってたんだよ! しかも人型の鮫君とねぇ! 楽しかったねぇ! でも兄貴とやるこれはプロレスではないんだよなぁ! プロの付かない唯のレスリングだよ!
『と、兎に角……派手には、やれないから!』
『そういうんじゃないよ。ただの冗談だ。ちゃんとお兄ちゃんの日頃のストレス、受け止めてやんな』
本来受け止めるべきはオカンなんですがねぇ!? なんか他人事みたく言ってんじゃないわ、今からでも兄貴をそっちに投げても良いんだぞマジで。
『どうした? 気を抜いている暇が……』
『はっ、抜いちゃいねぇよ兄貴、一瞬でも気ぃ抜いてたら捻り潰されてるだろうが!』
口はお袋に反応しつつ体は兄貴と殴り合い、ならぬ力で押し合いへし合い。これは完全な肉体と思考の分離! 正しく天才の所業である!
『ぐ、ぬぬぬ、この、いい、加減に……潰れろ……っ!』
『はは、そう簡単につぶれる程、軟じゃねぇよ……この、馬鹿兄貴!』
まぁ唯のやせ我慢ですけれども。いやぁ兄貴、スッゲェパワーだなぁー! 俺だって力無いって訳じゃないんだけども、僅かに向こうが上というか、その分がちょっとずつ俺からスタミナとか諸々を奪い去って行って……ちゅらい。
『……ん? んん? はは、どうやら、何時までも潰れない、という訳じゃないらしい』
しかし、出来るだけストレスを減退させるには、力を思いっきり震わせ……ンン? 兄貴、今口調が……これは、まさか……来たか? 漸く来たか?
『さぁ、舐めた真似をしてくれたハチには、しっかりと……お仕置を、ね!』
『はっ、アンタ、俺の策略に嵌ってる事にまだ気が付いてねぇのか。お笑いだな』
『……なんだと?』
だが油断はしない。確実に、全部、全部絞り出して……スッキリとさせてやろうじゃないか、ここまで来たら。またぞろストレス貯め込む事にはなるんだろうからな! また次が来るのが出来るだけ遅くなるように!
『ハチィイイイイ! そろそろ調子に乗るのもいい加減にしろよぉ!』
『煽られるくらい弱いって事だろ兄貴がよぉ!』
『良くぞ言ったね! それならボコボコにされる覚悟は出来たという事だな! 良いだろう今度こそ決着だ! 容赦してもらえると思うなよ! 喰らえぇ!』
そうだな。どう足掻こうと、そろそろ決着だぼぉっ!? やっべ避けきれなかった!
『クソが、口の中錆び臭くなっちまったじゃねぇか!』
『いい感触じゃないかい? なぁハチィ!』
良い感触じゃねぇよこっちはよぉ! 物凄い痛いわ! こっちもちょっとイラっとして来たからよーし、俺もぶん殴っちゃおーっと!
『腰を入れたヒットぉ!』
『アグッ! こ、このぉ……やったなぁ!?』
痛い! 顎に鈍痛……野郎!
『ええい抵抗するなハチ! お兄ちゃんにごめんなさいして諦めろ!』
『うるせぇ! 大体アンタのトラブルは毎度毎度心臓に悪いんだよ!』
『誰がトラブル呼び寄せてるか! 昔は君の方が気性が荒かっただろうに!』
『それは昔の話だろうがハゲ―!』
『誰が若ハゲかぁ!?』
『言ってねぇわ!』
……かおじゅうがいてぇ。
『なんで……僕ら、こんなことやってるんだろうね』
『おう、正気に……戻ったな兄貴……ったく、コイツ、手間かけさせやがって』
殴って、殴られて。顔がパンパンだよ……とはいえ……漸く兄貴も収まったか。あーでもこれは……俺、もう立てそうにないんですが……
この世に完全なマイナス行動などあんまりない!




