此方を立てれば彼方が立たず
ごっつぁんです。で、良かったかな。こういう場合は。違う? そう……
「……何故……相撲……なんだ……」
君達へのせめてもの慈悲だよ。受け取ってくれたかね? あくまで相撲してただけだから暴力は振るっていない、だとかそう言う言い訳をする為だとか、あえて死ににくい戦い方で出来るだけボロボロに追い詰めてやろうだとか、思ってないから。
「み、みちゃったよ……物凄いの……今日、眠れるかなぁ……」
うーん。良い運動したわ。でもやっぱり相撲すると、本物が見たくなる。でも車も電車も小さいから、乗るのがちょっとなぁ……やっぱり中継見とくのが一番かね。っと、そうだそうだ。有馬さんを降ろさないと。はい、掴まって
「あ、ありがとうございます……凄かったですね」
最初に鉄砲を封じたのがデカいよね。アレ撃たれてたら流石のMyBodyにも傷が付いてたかもしれん。いや傷どころか普通に致命傷になるかもしれんけど。
「この人たちは……生きてる、よね。警察に……あ、スマホ。もう連絡するんですね」
流石に警察さんに此奴らを回収してもらうしかない訳だが……とはいえ、ここに放置しておいてても、野生の獣辺りにちょっと齧られて、出血で重傷です、とか俺が訴えられるかもしれんし……あ゛ぁあ……やるしかないのか。
「……あ、はい。また抱えられれば、いいんですよね? 慣れました」
こうやって腰を落とした瞬間に伝わってくれるのは、この僅かな期間で仲良くなれた感じがしてうれしいなぁ。こんな状況だけど、言葉を交わさずして通じ合うって、なんか、特別な感じが……うん。もう現実から目を逸らすのは止めよう。
「じゃあ、今度こそ……あれ? 降りるんじゃないですか?」
あーうん。そうなんだけどさ……流石に、ね。
「……え? その人たちも抱えて……あ、でもこんな所に放置されてたら……」
今でも山の中をうろついてる奴らは、まぁ兎も角。此奴らはおいらがぶちのめしちゃったからネ。流石にここ放っておくわけにはいかん。で、全員回収してる間に間違いなく日が暮れるし。当然ながら、回収は明日になる。
「す、凄い溜息ついてる」
当たり前だよ。この人数だよ? 流石に多すぎる人数よ? 運んで適当な所に詰め込んでおかないといけない俺の苦労よ。察しておくれ本当に。
「……あれ? でも全員運ぶのって……」
そして、この方法を行う場合には、非常に、非常に……有馬さんには非常に悲しいお知らせをしなけりゃいけない訳なのだが。
「あ、あの……すいません、牛頭さん。私って、牛頭さんについてて貰わないと、山を下りられないと思います。多分。登山なんて、慣れてませんし」
はい。その通りかと。
「そ、それでですね……この人たち全員運んで、私と一緒に降りる時間て……」
ないです。本当に、本当に申し訳ありませんけれど……多分。全然。首を横に振るしかございません。
「……いやぁああああぁぁぁぁぁぁ……ふぇぇえん……」
本当に、大変申し訳ありませんけど……今日は、私のログハウスでお寛ぎください。ゲスト様。はい。冷蔵庫の中に残ってる出来得る限りの食材でおもてなしはするので。
「うぅ……今日中にはお家に帰れると思ってたのに……」
結局、泣いてる有馬さんを肩に乗せながら悪人共のピストン運送しとったらもう夕方近いでよ……危なかった。暗くなったら山って本当に様相を変えるからね。万が一の事もあるし、早めに終わらせたかったから。あ、それと有馬さん、本当に申し訳なく。
「……いいです。そんなに体小さくして頭下げなくても。大丈夫です。怒っては無いですから。ただ凄い、残念ですけど……」
重ね重ね本当に申し訳ない……チクショウ。それもこれもあの犯罪者共が悪い。後で徹底的に縄でグルグル巻きにしてから、ケツを角で突いてやる。ケツに穴をもう二つか三つ増やして、トイレに不自由させてやる。
「というか、私がご厄介になるんだから……牛頭さんは宿まで貸してくれてるんだから。私に怒る権利無いや……す、すいません。お世話になります」
はい。お世話させて頂きます……しかし、成人男性が山奥のロッジにJKを入れる。今の状況を完全に無視すると、事案にしか見えない訳なんだが。く、俺は幼気な少女に手を出す様な鬼畜じゃないというのに!
「……お世話になるのは良いんだけど、えっと……どうすればいいんでしょうか」
どうすれば。うーん……どうすれば? ホントだ。どうすればいいんだろう。今、バリバリ夕方だし、夕食にもちょいと早いし。だからって時間潰してもらうにも……あっ。そうだコレコレ。今の若い子はやっぱり、これでしょ。
「え、スマホ、ですか? あ、大丈夫です。そんなに指さして強調しなくても……すいません。私、スマホで暇を潰すって事しなくて」
ジーザス……! 最近の若い子って、みんなスマホに夢中で、勝手に時間を潰してくれるもんだと思ってたけど、そう言うレアな子もいるんだね! 牛頭さん学習したよ! じゃ、じゃあ、えっと、何が好きなのかな今の子って。タピオカミルクティー!? この山の中でタピんの!? そもそも俺が作るのタピミル!?
「……凄いぐねんぐねんうねってる。あ、あの大丈夫です。全然。お邪魔してるのは此方なので。気を遣って頂かなくても」
そう言う訳にもいかん! 客が来たらもてなす。これ、人としての常識だし。しかし、ね、ネットサーフィンはスマホと同じだし……
「うねりが加速した……ど、どうしよう。なんか言った方が良いのかな……あれ?」
ん? そっちにあるのは……本棚くらいだけど。
「あ、あの。あちらにある本を、読ませてもらっても宜しいでしょうか。あの、良ければですけど……」
なんと。本か。成程ガッテン。盲点だった……
「……あの表情と体格で、ポンってされると凄い違和感だなぁ。あ、大丈夫なんですか。分かりました、あの、じゃあ……お借りしますね」
はーい……と言っても、小説なんて一冊も無いし、置いてあるのなんて、この国に来て買った地図だとか、後は……森林関係の書籍くらいか? まぁ殆ど日本語の品だから、読めないって事は無いと思うけど。
「……」
お、さっそく読み始めてる。良かった、なんでもいいけど、退屈させるってのはアカン。ゲストに大変失礼だ。
「……付箋とか結構貼ってある。なんか、人より全然人らしいなぁ。人より人らしいっていうのは、なんか、言い方が可笑しいし、失礼だけど……THE・野生って顔してるからなぁ」
? なんか俺の方見て……もしかして、図鑑の牛とかと俺を比較してるとか? うーん流石に牛に負けてるつもりは無いんだけどなぁ、この愛されフェイス。あ、そうだ。ここに転がしておいたチンピラも向こうのプレハブに詰め込んでおかないと。
舞台が山で無ければ帰れていたかもしれない。




