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聖炎の気術士  作者: 金星ぽてと
1章 解き放たれた気術士
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6話:夜の山の遭遇


 生活は太陽を基準に成り立っている。日が昇れば一日が始まり、日が沈めば眠る。

 荒野や砂漠を旅していたときは食料や水がないこともあったが、山の中ではそれらは豊富だ。木の実やきのこ、山菜に多くの動物たち。崖の隙間から漏れ出る湧き水。暮らすのにこれほどふさわしい場所があるだろうか。

 とはいえ山はその分敵も多い。特に夜行性の生物には多大な注意を払わなければならない。その必要に迫られて、睡眠中でも気の流れを滞らせることなく、索敵を絶やさない。およそ直径四十五メートルをカバーしている。最大射程の気術、炎砲えんぽうの射程距離は三十メートル。察知してから即座に炎砲を放てばよほどの敵でなければ倒せるし、倒せなくとも三十メートルの距離があれば対処のしようはいくらでもある。索敵範囲を伸ばすことは可能だが、これ以上大きくしても利より代償のほうが高く付くので最適解だろう。


 周囲に隠れるところがない、ポツンと立つ大樹の、のたうつように地中から覗く根に背を預け、目をつむる。

 辺りに獣は多いが、問題はない。そもそも索敵の気術といえど、少なくない気を放出しているのだ。普通は僕のもとに寄り付いてこない。

 しかし先程からやけに山が騒がしい。望まぬ来訪者を拒むように木々が揺れ、夜鳥が羽ばたく。

 すぐそばを何頭ものシカが走り去った。


「魔獣か?」


 この山に生息する魔獣はいないが、まれに迷い込むこともある。魔獣の気配は濃く、重々しい。もしも魔獣ならもう少し魔性の臭いがあってもおかしくないのだが、それがまったくない。

 何事だ?


「よいしょっと」


 立ち上がり、動物たちが逃げていったほうの逆へと歩を進める。

 すると、何やら声が聞こえる。これは……人間の声?


「――れ!」

「――――こだ」

「お――」


 こんな辺鄙な山で、しかもこんな夜中に人の声というのは明らかに異常事態だ。おそらく、人さらいか盗賊といったところだろう。そうだとしたら見過ごすわけにはいかないし、そうでなくともただ事ではないはずだから、ある程度の確認は必要だ。


 もう少し近づいてみると、どうやら推測通り賊のようだ。追われているほうはまだよく見えないが多勢に無勢なのは確か。

 ならばとるべき行動は決まった。

 小手調べに、


「火吹」


「ぐああぁ!」

「なんだ!?」


 賊の背中に直撃し吹っ飛ぶ。その様子を見て仲間たちが一斉にざわつく。


「てめえら、向こうにも敵だ! 陣形を整えろ!」


 頭目の一声で見事に陣形が変形し、こちらを警戒する。賊にしては統率がとれすぎている。騎士崩れというやつか。


 かなり近づいて、ようやく追われている者が見えた。馬車が一台。馬は無事のようだが車には矢がかなり刺さっており、今にも壊れそうだ。あまり大きくもない。一台の馬車に三十人を超える賊というのは過剰すぎやしないだろうか。なんだか嫌な予感がしてきた。

 が、見過ごせない。


 僕は気術士だ。魔性を排し、無辜の人々を守護する。それは、僕が僕であるためにも必要なことだ。


「散炎!」


 気を練り上げ、豪快に放出。広域攻撃の気術。細かな調整ができないので狙いを定めるのは難しいが、とにかく当たればいいというときにはもってこいだ。


「ぎゃあああああ」

「がはッ?」


 一撃で半数近くを戦闘不能に追い込み、賊と賊に追われる馬車の間に降り立つ。


「何者だ、貴様」


 巨躯の馬に跨る頭目が問う。遠目ではボロ布を纏っているのかと思ったが、その下には立派な鎧。汚れてはいるが、汚れは真新しい。まるでわざとよごしたようだ。


「人に聞くときはまず自分から、というのが礼儀だと聞く」


「そうか。やれ!」


 合図で一斉に襲いかかってくる。

 やはりそうだ。皆汚れてはいるが、汚れに年季が入っていない。騎士崩れではなく騎士団なのか? それとも騎士から奪った? 統率具合からみて前者が濃厚だが、まあいまはいい。


火剛ひがん


 どんな相手でも油断はしない。気で薄い膜を張り、鎧の代わりにする。


炎沈えんじん!」


 殺到する荒くれ者の頭上から火炎の気。ほとんどが押しつぶされ、免れた者は一時撤退。


「おおおおおおおおお!」


 頭目が馬を駆りながら穂先を向けてくる。


「ガキが!」


「火柱、三叉」


「ぐぁっ」


 槍を持つ手に一本が直撃して手ごと槍を落とす。残る二本も着弾。


「別に殺したいわけじゃないんだ。これ以上の戦いは無益だ。引き下がってほしい」


「ぐううぅぅ」


 右手を押さえながら苦悶の表情で思考する。

 頭目は僕を睥睨しつつも撤退を選択した。負傷者をできる限り集めて敗走していった。誰も殺めることにならなくてよかった。



「貴殿は、一体……?」


 振り返ると、全身が傷ついた女性の騎士がいた。肩の下で切りそろえられた金髪は血で錆び、濃い疲労は見られるが凛としている。


「はじめまして。少なくとも敵ではありませんよ」


 僕と同じくらいの身長だが、年齢は少しばかり上といった具合だろうか。


「しかし、なぜこの山に?」


 不意に、馬車の扉が勢いよく開かれる。


「マリエッタ? 追い払えたの?」


 村娘の格好をしている、明らかに村娘ではない少女が現れた。


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