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聖炎の気術士  作者: 金星ぽてと
プロローグ
1/7

1話:変わらない日常

はじめまして。

あらすじにあるストーリーまで2,3話プロローグを挟みますがご了承ください。

それではどうぞ!



「そうだ、だいぶ巧くなってきたじゃねえか」


「っく、はっ……」


「呼吸が乱れてる、ぞ!」


 父さんの足が脇腹に入り、そのまま薙がれて気づけば地に伏していた。


「カナク、言葉一つで呼吸を乱すようじゃやっぱりまだまだだなあ。呼吸を制し、血と気を巡らせる。基本だぞ」


「……わ、わか……ってるよ。もう、何千回も聞いた」


「ああ、何万回も言ってる」


 父さんは僕の腕を引っ張って起き上がらせ、そばの平たい岩に座った。僕は起き上がったものの結局地面にそのまま腰をおろした。

 岩に堂々と座る父には左腕と右目がない。轟々と燃え上がる炎のような刺繍が目を引く法衣のような羽織は左腕のあるはずのところだけ膨らみがなく、質素な黒い眼帯が左目を覆い隠している。昔一度だけどうしても気になって訊いたことがあった。


「どうしてぼくのお父さんはおててとおめめがないの?」


「はっはは。そりゃなカナク、悪いやつをやっつけた時に怪我しちまったんだ」


「わるいやつ? どろぼうさん?」


「あ~、まあ確かにどろぼうだな。おう、どろぼうを倒したんだ。すっごい強いどろぼうでな」


「じゃあお父さんはヒーローなんだ」


「当たり前だこの野郎。かわいいやつめ」


 そうして父さんは僕をくしゃくしゃした。

 十年前くらい、四歳か五歳の頃のことだったと思う。十年が経ち、最近改めて気になって今度は村の大人に尋ねてみた。

 父さんが倒したどろぼうとは、どうやら悪魔のことだったらしい。しかも一人で倒したのだとか。悪魔なんて人間一人で倒せるものじゃないし、みんなが口裏をあわせて僕を騙しているものだとばかり思っていたが、


「なんだよカナク、水くせえな。そんなに気になるなら直接聞けばいいじゃねえか」


 僕は思い切って訊いた。あのとき言っていたどろぼうとは悪魔のことなのか、と。


「信じられねえって顔してるな。だが本当だ。悪魔は撃退した。無様にも腕と目はもっていかれちまったが。一人かっていうとなんとも言えねえがよ。人間、なんでも一人じゃできねえもんさ。だが俺は悲しいぞ。あんなに優しい村の人たちを疑うなんて、俺はお前をそんなみみっちいやつに育てた覚えはない」


「ご、ごめんなさい」


「まあ悪魔を一人で倒したなんて言われりゃ疑いたくなる気持ちもわからんでもない」


「どうやって悪魔と戦ったの?」


「決まってる。カナク、お前に小さい頃からずっと教えているやつさ」


「気術?」


「そうさ、気術だ。いまはまだピンと来ないかもしれねえが、熟練の気術士は悪魔とも渡り合える。まあ本来は攻撃のための手段ではないんだがな。そして何を隠そう、俺は熟練の気術士ってわけだ」


 僕は父さんと二人で、家の庭で毎日毎日十二時間近く気術の修行に励んでいる。そんなに修行ばかりしていて食べ物はどうするのかといえば、村の人たちが分けてくれるのだ。父さんは村人の誰にも慕われている。実際、父さんはすごい強いし、村の近くに魔物が出れば追い払い、誰かが亡くなってしまえば葬儀を執り行う。


 赤みがかった長髪を後ろで結ってこそいるが、父さんは昔は僧侶だったそうだ。今は完全に破戒僧だけど。こんな長髪で筋骨隆々で豪胆な僧侶がいたら喜劇だ。


「もう日が沈むな。よし、一日の締めだ。立て」


「……はい」


 十二時間の修行の時間で一番きついのは最後の数分。


「呼吸を制御しろ。気穴を塞いで血管を太くして気を練り上げろ。集中しろ。精神を極限まで研ぎ澄ませ」


 父さんの言葉を聞くまでもなく、その作業は身に染み付いている。もう幾度繰り返したのだろう。しかしそれでもこのあとには慣れない。


「………………いまだ」


「嚇々爍々《かくかくしゃくしゃく》!」


 塞いでいた気穴を開放する。練り上げた気が爆発し、気穴から吹き出す。吹き出す気を統御し、身体に纏わせる。黄金の炎の気が僕の身を包む。


「できたな。よし」


 そう言うと今度は父さんが一瞬で嚇々爍々を発動した。相変わらず早すぎてまったくわからない。何をどうすればあそこまでの域に達するのか。コツを訊いてもこれにコツなんてないって言われるし。


 纏う気の密度が桁違いだ。僕のはよくて木の板で、父さんのは分厚い金属。なのに木より金属の方がしなやかなのだ。


「始め」


 その合図で動き出す。今までとは肉体の感覚が違う。自分の身体をより高い次元で操作できる。あらゆる能力が向上し、高揚感が横切る。


「凪の精神を忘れるな」


 黄金の炎の拳はしかし、父さんの濃い炎の前では火の粉。


「心を支配しろ。特に魔性は感情を揺さぶり気術を乱す」


 当たった感触はあるのに当たっていない。そう、嚇々爍々の真髄は攻撃ではなく受けにある。


「しかと見たな? では、カナク、次はお前が受ける番だ」


 言うや否や足が腹に迫っている。こんなのどうやって受けるんだと何百回も頭を捻らせているものの、正解にたどり着ける気がしない。


 強引に気を腕に多く回し、腹の前で腕を交差させて受ける。軽々と吹き飛び、木を一本折ったところで雑草の上に落ちた。


「はあぁ、まただめだあ」


「精進あるのみだ。さて、飯の時間だ。早く汚れを落として戻れよ」


 嚇々爍々の反動で激痛が走る。けど父さんは何ら変わらない。どれだけの鍛錬を積んだのか。それとも才能なのだろうか。いや、でも才能は俺よりあると父さんは言っていた。なら単に修練が足りないのか、僕の頭が悪いのか。


「……このまま寝たい」


 早く戻らなければご飯が食べられない。それは困る。とってもお腹が減っているのだから。

 僕はご飯を食べるために、痛む身体に鞭打った。




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