2 見覚え
本日二話上がっています(一話目)
ゴン!!!!!!
強い衝撃が後頭部に走る。熱いほどの痛みが体中にしびれる様に伝わっていく。
死ぬときは痛みを感じないと聞いたことがあったけれど、こんなに痛いなんて聞いてない・・・でもそのうち痛みも消えるだろう・・・
・・・あれ。
消えない。痛い。すっごい痛い。めっちゃ痛い。でもかなりの段数落ちた割にはいたくない気もする。でも痛い。痛いことには変わりない。
なんかだんだん泣きたくなってきた。目頭が熱くなりじわぁと水分がたまっていく感じがする。
痛くて泣くって子供じゃないんだからとおもったけど我慢が出来ず、うぅ、ひっ、と小さな吐息のようなものが漏れ出して。
耐え切れず泣きだした
「うわあああああ~ん、うぇえええ~いたいよぉ~うわ~~~~~ぁぁぁあ~」
大声をあげてわんわん泣きじゃくってしまう、止められない。涙も嗚咽もどんどん出てくる。甲高い鳴き声が響き渡る。
痛い、悲しい、痛い、助けて。
そんな気持ちで胸がいっぱいになった。
でもなぜか少し冷静な部分もあって、その冷静さが違和感をひしひしと感じ取っていた。
(私の声、高くなってない?)
女性としては普通だけど、高い声ではない。でも今私の頭の中に響く声は甲高く、さらに泣いているとはいえかなり舌足らずに感じる。
違和感と痛みと鳴き声に混乱しているとガチャリと音がした。まるでドアを開けたみたいだった。
そういえば、さっきから雨が当たっている感覚も雨音もしない。
もしかして病院に運ばれたのかも。
「お嬢様!?お嬢様どうなさったんですか!!」
「アリア!どうした!」
若い女の子と男性の慌てた声がして、すぐに私は誰かに抱きかかえられた。
私は女性としては背が高く170㎝あったはず。それに合わせて体重もそこそこあった。
それをひょいと持ち上げ、腕一本で抱きかかえるなどかなり長身で筋肉が無ければ難しいだろうし、バランス悪く安定しないはず。
だけどなぜかすっぽりとその腕に収まり、男性らしき首元に顔をうずめるように押し付けられ、頭をなでなでとされる。
アリア、と私の名前を呼ぶその声は少し聞きなれないように思うけれど、同時に落ち着くような気持ちにもなった。
「少し腫れているね、後ろ向きに転んだのか・・・アリア、もう大丈夫だよ。」
男性が優しく囁き、何かをつぶやいた後後頭部がジワリとあたたかくなり、その熱が引くと同時に痛みも消える。
だんだんと涙が止まり、ぼやけていた視界が少しずつ鮮明になっていく。
「ああ、よかった。アリア、アリア。」
私を抱いていた男性は嬉しそうに私の顔を見てもう一度抱きしめる。
背中に置かれたその手があまりにも大きくて。
(まさか、まさか・・・そんなことって)
恐る恐る自分の手のひらを見つめる。そこにはちっちゃくてむちむちっとしたかわいらしいおててがあった。
子供のイラストを描くときに参考にした育児書や子供タレントの写真を思い出す。このくらいの手の感じ、三歳くらいか。と冷静を取り繕って頭を働かせる。
そうしないと落ち着けないとおもって何とか冷静に冷静にと思うけれど違和感が山のように襲ってくる。
(冷静に、落ち着いて、私。いやでも冷静にってあああ~~~これってもしかすると~でもそんなことってあるはずがない!!そんな小説みたいな・・・いやいやええええ~~~~)
「かわいいアリア、僕のことがわかる?」
混乱して目の前がくらくらと回るような気分になっていると、低く優しい声の男性は顔が向かい合うように抱きかかえた。
美しい顔がはっきり見えた。
その顔に確かに見覚えがあった。見覚えがあるのはこの顔よりも年上ではあるだろうけれど。
来栖にダメ出しを食らいながら必死に描きなおしたその表情、小さいけれど深かったであろうはっきりと残る左眉の傷。美しく整っているけれど骨ばっていて男性らしさもあるその顔。
焦げ茶色の髪、同じ色のひげがあったはずだけれど今はない。
(うそ・・・そんなことあるわけ、ない・・・)
そんなことがあるはずがない。
彼の顔を描いたことがある。小説でも出てきた重要人物だけれど表紙にも挿絵にも出てこなかった。だから初めて描いたのはコミカライズ用のキャラクターデザインをしていたとき。
来栖がうっとりとした顔で「もっともっと整った顔立ちで、はっきりとした二重瞼に鋭い青い瞳が冷たいけれど気を許した相手には優しく温かみを増すのよ。それでいて髭を蓄えてるんだけど、理由は幼く見られてしまうから、なのよ。かわいらしい人なのよ。それをもっと前面に出して!」と呪文のような注文を付けてきた。
必死に描いたのでよく覚えている。
その人がなぜ目の前に、実在の人物として存在しているの?
私が自分の記憶と目の前の出来事を処理できてないそのうちに、口が勝手に動き出す。
「ぱ、ぱ・・・?」
(パパ!?だってこの人は・・・)
そんなはずはない!と叫びそうになったその瞬間男性が歓喜の声を上げた。
「アリア!僕がわかるんだね!!」
嬉しそうに私を持ち上げくるくると回る。
「わ、私は奥様を呼んでまいります!」
「いや、僕がこのままアリアを連れて行くよ。すぐに会わせてあげなくちゃ、僕たちの姫君に!」
「そうでございますね。奥様は今お庭のほうにいらっしゃってます。」
若い女性は母親ではなかったらしい。くるくる回った時にちらっと見えた限りエプロンをしていたので、使用人なんだろう。
パパと呼ばれ上機嫌になった男性はぎゅうと私を抱きかかえて嬉しそうに歩き出す。
(この人がパパなんだとしたら)
私はその心地よい上下運動と、泣き疲れた体の疲れ、そして処理しきれない頭の中身でいっぱいいっぱいになり、ゆっくりと眠りの世界に落ちていく。
(”アリア”は死んでる、はずなのに・・・)
次は同時に上がっています