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ガンウィッチ  作者: 白銀悠一
チャプター1 偶必然の前奏曲
3/20

生まれたてのひよこ

「言った……言っちゃった……!」


 勢いに任せて決意を表明したユニは、クールダウンのために店の外へと出ていた。

 もし人生における分岐点があるとしたら、それは間違いなく今だった。

 フォーチュンが戻ってきたら、ハナカはきっとユニの前から立ち去る。

 食事代を払えば、ハナカとユニは行動を共にする理由がなくなってしまう。

 だから、あのタイミングだった。生き方を変えるターニングポイントは。

 決心を促され、頼み込んで……その結果はガンウィッチのみぞ知る。


(ああでも私……なんて大胆なことを。出会ってまだ一日も経ってないのに)


 色恋に変換するとすれば、出会った初日で告白したようなもの。

 或いは、もっとステップアップして、婚約しちゃったようなものだ。

 それこそ、貴族たちの世界だ。クリスタは、間違った婚約者に困らされていた。

 自分の相手は、果たして正しい部類なのだろうか。


(でも、でも……同じ障害を持ちながら、魔術界で戦えている人がいる)


 例え同じようになれなくても。自身にその道の才能がなかったとしても。

 彼女の師匠になることで――何か得られることがあるはず。


(そう、師匠に――私が、ハナカさんの師匠に……あれ?)


 違和感。

 何かとんでもない間違いをしている気がする。


「私は、ハナカさんの戦いぶりに感銘を受けて。私の常識は、あの人の銃に撃ち抜かれて。だから、私は……」


 弟子に。

 そう、弟子になろうと決めたのだ。決意したのだ。

 その想いがハナカの話を聞いている途中に頭の中で瞬間沸騰し。

 勢いに任せて口に出した言の葉だ。

 今までそのような気持ちになったのは、一度もなかった。

 ユニにとって、そこまで大きく、そして危険な冒険の経験は、たった一度もない。

 完全無欠。純情純白な処女。

 ゆえに。決定的な間違いを。

 有り得ないとも思えるケアレスミスをしてしまっても、おかしくはない――。


「あ、ああ、ああああああああああ!!」


 急速に冷凍されていく心と同様に、顔の色も青くなる。

 色恋で言うなら、これはそう。告白されてもいないのに子どもの名前を告げられるようなこと。

 弁明するべく、再入店する。

 店への迷惑も顧みずハナカの元へ戻ったユニは、


「…………」


 ものすごく機嫌の悪いハナカと邂逅する。

 貧乏ゆすりが止まらない。整った顔が苛立ちに染まっている。

 その原因はユニだけではなさそうだ。


「こいつは傑作だぜ! 自分と同じ魔力障害者が、久しぶりにここまで食いついてきて、期待に胸を膨らませてたって言うのに――わっふふふ!」


 フォーチュンが大声で笑っている。しかし店の外に出ていたユニは入店するところを目撃していないので、転移魔術で直接店の中へ入ったのだろう。

 弁解しようとしたユニの心は、ますます締め付けられる。こんな状態のハナカに言い訳が通用するとは思えない。

 まさか弟子と師匠を言い間違えた、なんていう初歩的なミスだとわかってくれるだろうか。

 言葉通りに受け取られ、突然師匠面してきた嫌な奴扱いされてしまうのではなかろうか。

 ユニが硬直して戦々恐々としている合間にも、ビーグルの笑い声は響く。


「野郎の言葉通りに受け取るなら、ようやく独り立ちが目前だったっていうのに! まぁまぁ安心しろ。あのハードボイルド風味な野郎は、その場の思い付きでそれっぽいことを言ってるだけだ。だからよ、わふっ、別にいいじゃねえか……わふふ。それに、どうしてもあいつの言う通りにしたいって言うなら……なっちゃえよ。あいつの弟子にさ。うおおおおん!」


 面白さが限界突破したのか、フォーチュンは遠吠えで笑う。ユニからしても少し笑い過ぎだと思うので、ハナカの心情がどうなっているのかは想像もしたくない。

 だが、時には考えたくないもの、見たくないものと対峙しなければならないこともある。

 ガチャリ、とハナカは無言でフォーチュンの頭部に銃口を突きつけた。

 おい待て、というフォーチュンの制止も聞かずに撃とうとして、


「ま、待ってください……待って……」


 別にフォーチュンを庇ったわけではない。なんとなくだが、ハナカはフォーチュンを殺さない気がする。精神的にも、物理的にも。

 つまり銃を撃ったところでフォーチュンは死なない。動物虐待にもならない。

 ただ、ここで銃を撃つほどに怒ってしまったとしたら、きっともう言い訳を聞いてくれない。そんな予感がしたのだ。


「ハナカさん……その……」

「座れ」


 着席を促されてユニは座る。ごくりと息を呑む。

 いつの間にかフォーチュンは消えていた。転移して逃げたのだろう。

 逃げるくらいなら煽らないで欲しかったが、過ぎたことは仕方ない。

 ユニは意を決して、話し始めた。


「弁解を、させてください。さっきのは、えと、ただの言い間違い――」

「わかってる」

「えっ? え?」


 きょとんとする。ハナカは深いため息をついた。


「本気でお前が私の師匠になるつもりなどとは思ってない。一目瞭然だ。考えるまでもないし、もしお前が本当にその気だったと言うのなら……」

 

 ハナカはその先を言わなかった。ユニとしても聞きたくなかったので安堵する。


「えと……その……」


 上目遣いで、両手の人差し指の先端をちょんちょんとくっつける。

 結果が欲しかった。生まれついて期待などというものとは無縁だったが、今この時ばかりはしてしまっている。

 だが、ユニの目に飛び込んできたのは一際深いため息だった。砕け散った心をオークに食べられている気分になる。


「ああ、もう……いいです――」


 そう言って立ち去ろうとしたユニは、


「こんな奴が私の弟子になるとはな」


 竜巻を起こしそうな勢いで回転し席に戻る。


「そ、それじゃあ!?」

「こんな間抜けでも、ふん。伸びしろはありそうだからな。……それに、才能がある奴より、ない奴を育てた方がいい証明になる」

「や、やった――――!! これで私もガンウィッチにあうっ!?」


 輪ゴムが眉間に命中して、頭を押さえた。


「お前はガンウィッチじゃない」

「あう……」

「まだな。銃を持っていないガンウィッチがどこにいる」


 ユニの顔に笑顔が灯る。ハナカも少しだけ嬉しそうな顔を作った。


「よろしく頼むぞ、弟子」

「お願いします、師匠!!」


 これが二人の始まり。ターニングポイント。

 しかし、プレリュードは終わったばかりだ。



 ※※※



 チクタクと鳴る壁時計の下、棚の上にある写真立てには、娘と同じ髪色の両親が穏やかな笑みを浮かべている。何気なく家族写真を眺めたユニは、突然視界を遮るように差し出されたそれに注目した。


「これを見ろ」

「はい、師匠」


 ハナカはユニに銃を見せた。灰色のリボルバーを。

 リボルバー、だということがわかるのは、たまたま読んだ小説の中に似たような形の銃が出てきたからだ。

 しかし一口にリボルバーと言えども、種類が山ほどあるらしい。


「スミス&ウェッソンのナンバー3モデル、その改良型で、別名スコフィールドリボルバー」

「スコフィールド……」

「アメリカ軍人の名だ。まぁ、誰が改良しようが重要なのは」


 カチリ、とハナカは撃鉄を起こす。


「こいつがシングルアクションであること。そして」


 撃鉄を眠らせたハナカが銃身を掴んで、折る。弾丸が六発排出された。

 ハナカは弾薬ポーチの中から弾薬を取り出して、一つ一つシリンダーに入れていく。


「即座にリロードできること。オートマチックとは違い、任意で好みの弾丸を選べるところがいい。ガンウィッチに最適な銃はやはり、リボルバーだろう。それも、ダブルアクションではなくシングルアクション。如何に相手より早く撃てるかが重要だ。ここまでで何か質問は?」


 ユニはおずおずと手を挙げた。今までの人生を投げ捨てた以上、積極的に動かなければならない。


「えっと、オートマチックとかダブルアクションとかシングルアクションって、なんですか?」

「……そこからか?」


 ハナカは酷く失望している。


「い、言ったじゃないですか、素人ですって。銃のことなんてさっぱりわかりませんよ」

「マジコン」

「ブロッサム!」


 ハナカとユニはしばし睨み合った。ハナカはまたため息を吐く。


「この手の説明が上手い奴に心当たりがある。……まだただのウィッチである弟子を、ガンウィッチにしなければならないしな」

「どこへ?」


 ハナカは不敵に笑った。


「最高のガンスミスのところへ」




 最高の銃技師と聞いてユニが思い描いたのは魔術師の工房だった。幼い頃に魔術触媒を買いに行ったあの不思議とワクワクさせられた空間だ。

 当時は魔力障害という症状がどれだけ深刻なものなのかわかっていなかったので、ひたすらに憧れだけが心を満たしていた。

 しかし今や、触媒選びなどに興味は湧かない。何を使っても結果は同じだ。

 だが、銃はどうなのだろう。ユニの疑問はしかし、想定内の方向へと転換する。


「なんか見覚えが……」


 既視感がある。しかし、この場所に訪れるのは初めてだ。

 街の郊外にある使われていない飲食店の脇から覗く地下階段。

 その奥にハナカの示す目的地があるのだが、そこに漂う雰囲気は、どうしたって魔術工房を彷彿とさせる。

 魔術師であれば誰でも感じ取れる匂いが、その場所にあるのだ。


「お前もそう思ったか」


 ハナカは愉快そうに笑う。どういう意味です、という疑問に対し返答はない。

 代わりに扉が開く。目に飛び込んできたのは馴染み深く、そして新しい光景だった。


「銃が、たくさん……」


 壁には無数の銃器が並んでいる。現代的な代物、近代的な代物、近世の頃の匂いを感じさせるものまで。

 やはり、目を惹かれるのはフリントロックピストルだった。ユニにとって一番身近な銃器と言えば、マッチロック、ホイールロック、フリントロックの三種類だ。


「マスケティアーズに憧れているのでなければ、オススメできませんねぇ。君のような半端者には」

「誰です……?」


 声の主はカウンターで隠れていた。白衣の少女がするりと立ち上がり、にやりと笑う。


「ようこそ、魔術世界の外れ者(アウトロー)。マナ武器店へ」

「マナ」

「来たね、お得意さん。死にたがりのガンウィッチ」


 黒髪の店主は脈絡もなく箱を取り出すと、カウンターの上に置いた。


「はい翳して」

「変な物は混ぜてないだろうな」


 親しげなやり取りをしながら、ハナカはレジスターの傍にある奇妙なプレートにスマートフォンを翳した。軽快な電子音が響く。


「まいどあり」

「えっ、今のはどういう魔術で」


 マナという名の店主とハナカが異常なものを見る目つきでこちらを見てくる。


「ああ、なるほど。これは昔の君を思い出しますねぇ。見事なマジコンだ」

「私は向こうからこっちに連れて来られてきたんだ。こいつとは違う」

「きょどり具合が君そっくりですよ」


 ユニを置いてきぼりにして、ハナカとマナは楽しげだ。何とも言えない気持ちになってきたユニを見かねたのか、店主が手を差し出してくる。


「さて、ユニ」

「え、あ、え?」


 ユニはマナとハナカを交互に見る。自己紹介はしていない。


「情報は鮮度が命ですからねぇ。あなたのことなどお見通しですよ」


 というマナのしたり顔を、 


「大体こいつのおかげだな」


 携帯電話を取り出して軽く振るハナカが打ち壊す。


「またそれですか……」


 許すまじプレートデバイス。事前にハナカが教えたのだろう。


「というか、通信魔術じゃ……あ」


 瞬く間に輪ゴムがハナカの右手に装填されたのを見て、ユニは口を閉ざす。


「本当にマジックコンプレックスなんですねぇ、あなた」

「だ、だって魔術の方が便利……」

「少なくとも通信技術においては魔術の完敗ですよ? そりゃあ、電波が届かない場所では優位性を発揮できますがね」


 パチン、とマナは指を鳴らした。


「こう、指を鳴らしてなんでもできる魔術も、魔力を消費するんです。カロリーを消費するんですよ。その点、これが消費するのは電力。緊急時に魔力で通信するなら合理的ですがね、普段使い、それも重要度の低い情報交換にどうして魔術を用いる必要があるんです?」

「うぐ……」


 ぐうの音も出ないとはこのこと。しかし衝撃的なレクチャーだったが、不思議と受け入れられた。魔力障害者だから、というのも少なからず影響しているだろうが、一番大きいのはハナカがそれを享受しているからだ。

 今のユニは、ガンウィッチが信用するものなら全面的に受け入れられる。


「まぁ洗脳教育の賜物ですね。人間界から追い出された魔術師たちが、必死こいて事実を覆い隠そうとしている」

「確かに今のは学校なら異端者扱いですね」


 理事長とかが聞いたら顔を真っ赤にしてこちらの存在をなかったことにするだろう。


「まぁ、ともかく。箱を開けてみてください」


 ハナカが箱を開く。そして眉を顰めた。


「おい、これは」

「いいから。ユニさん、どうぞ」


 促されてユニは箱の中を覗き、仕舞われていた物品を手に取った。


「さぁさぁこちらへ」


 訳もわからずマナに案内されて開けた場所に出る。的がたくさん設置されている。まるで魔術の試術場のようだと思ったユニの考えは、当たらずも遠からずだった。


「射撃場ですよ。さぁ、早速撃ってみましょう」

「おいマナ……いや、いい。やってみろ」


 そう言われて、ユニは手に持った銀色のリボルバーを構えてみる。ハナカの見よう見まねだ。片手で大きな銃を持つが、重くて銃口がぶれてしまう。

 これでは命中しないと素人のユニでもわかったので、両手で支えてみることにした。

 撃鉄を起こす。とりあえず撃ってみよう、と引き金を引き、


「あれ?」


 カチャン、という金属音を聞く。当然、銃声ではない。


「弾を込めないで引き金を引く斬新さには感銘を受ける」

「お、教えてくださいよ意地悪な!」

「なんでもかんでも教えたら成長しないだろう。貸してみろ」


 ユニからリボルバーを受け取ったハナカは左側の金具を操作してシリンダーを側面に出した。


「あれ、ハナカさんの銃とは」

「リボルバーと言ったら基本はスイングアウト方式ですよ。まぁ中折れ式のクールさは否定しませんが」

「片手で装填しやすいのは中折れ式だ」

「何が面白いって、自分に合う最適な武器を探した結果、西部劇のガンマン御用達の銃に辿り着いたところですよね」

「日本じゃシングルアクションアーミーの方が有名だった。世界規模でもそうだろう」


 どうやらハナカの銃は言うほどメジャーではないらしい。


「あなたの銃はワイアット・アープの愛銃として有名ですよね」

「そいつの話は止めろ。あんまり好きじゃない。どっちつかずな感じが」

「なんでです? 典型的なアメリカ男でいいじゃないですか。それに、皆さん、フィクションのバイドラインスペシャルの方が好きみたいですから気付かれませんよ」


 ハナカは一瞬で装填を終えていたリボルバーをユニに返した。話をしていた時間の方が圧倒的に長い。マナはどうやら話好きらしい。脱線上等なタイプだ。


「今はこの銃だ。これも映画ネタだが」

「映画ネタ……?」

「ダーティーな刑事が使うリボルバーですよ。今は映画監督としても有名な俳優が主演の映画でしてね」


 スミス&ウェッソンのM29だと言われたが、ユニはピンとこない。


「しっかり構えろよ」

「わかってます」


 とにもかくにも撃ってみるしかない。安全には配慮してますから、とマナ。


「跳弾で死ぬなんてコメディチックな死に方はしません。ええ、銃弾には配慮してますよ」

「銃弾には、な」

「えっ? ――ぶっ」


 瞬発的に芽生えた疑問は瞬間的に解消される。主に、銃身で顔面を強打する、という現象によって。


「いたあっ! なんですかこれ!」

「銃の撃ち方もまともにレクチャーされてない奴が、いきなりマグナム弾を撃てばこうなるという見本だ。しかもご丁寧に火薬を増量した強装弾ときた」

「親切でしょう? 私は」

「まぁ、M500じゃなかっただけマシか」

「なに言ってるか全然わかりませんよ! うっ、鼻血が……」


 ポタリと血が鼻から垂れ始める。マナは咄嗟にリボルバーを奪い取った。


「うちの大事な商品を血で汚されたら敵いません」

「あなたのせいでしょう……」

「まぁまぁ。これで銃を撃つってことが身に染みたでしょう。魔術に比べたらお手軽じゃありませんよ」

「それはただの嫌味にしか聞こえん」


 ハナカと同じ感想をユニも抱いた。


「じゃあ、魔術を撃つのと同じくらいの難度ってことで。あなたたちにとっては」


 マナが指を鳴らし、ユニの鼻血が止まる。痛みも血も消え失せたが、嫌な気持ちは残っている。


「私はバカにされるために呼ばれたんですか?」

「違いますよ。ちゃんとあなた用に見繕ってますから。はいどうぞ」

「えっと……」


 渡されたのは現代的な拳銃の一種だった。オートマチックピストルで、ベレッタM92FSと言うらしい。シリーズが多いとかなんとか。


「ちょっと前までピストルって言ったらこれでしたね。最近はP226系統か、グロックシリーズが目立ってますが、まだまだ人気は高いですよ」

「却下」


 有無を言わさずハナカがユニの手から拳銃を奪う。


自動拳銃オートマチックピストルはナンセンスだ。銃自体が悪いわけじゃないが、カートリッジ式だと複数種の弾丸を使い分けるのが面倒だ」

「タクティカルリロードをすればよくないですか? なんなら、スライドから直接弾丸を滑り込ませるのもクールですよ」

「それをユニにやらせるのか?」

「ちぇっ。だったらコルトパイソンにでもしましょうか」

「ダブルアクション」


 ハナカの不満は途切れない。


「あなたの予備もダブルアクションでしょう」

「私は早撃ち用のスコフィールドを持っている。シングルアクションにしろ」

「となるとシングルアクションアーミーになっちゃいますよ」


 マナは何もない空間から唐突にリボルバーを呼び出す。先程の会話にも出てきた銃だ。


「お前は私たちを西部劇の映画俳優か何かと勘違いしているようだな」

「実戦で使ってる人もいますよ? マジックハンターの中にも熱心なファンがいますすし」

「ユニが魔術狩りに見えるか?」

「狩られるうさぎにしか見えませんね。や、安心してください? 彼らは悪事を働かない魔術師には寛容ですから。一流は、ですけど」


 ウインクされてもユニは当惑するしかない。


「というか、彼であれば、どの銃でも敵に勝てるのがプロだ、とか言いそうですけどねぇ」


 ハナカはあからさまに嫌そうな顔をした。ただし、その人物に対する嫌悪というより、ハナカ自身に対する感情である気がする。


「私はプロだ。なんならデリンジャーでも撃ち勝てる。だが、我が弟子は未だガンウィッチにすらなれていない。早く彼女の肩書にガンをつけたいんだが?」

「わかりましたわかりましたよ。こいつが本命です」


 先程まで虚空から銃を取り出していたマナがわざわざカウンターに戻り、箱を持って戻ってきた。


「どうぞ」


 ユニは心臓の高鳴りを押さえながらその箱を開ける。もはやジョークは終わったと信じたい。

 そして、その中に仕舞われていたものを手に取った。

 見た目はハナカのスコフィールドリボルバーに似ている。

 だが、細部が違う。じっくり見れば全然違く見えてくる。


「エンフィールドリボルバーですよ」


 それが黒色の銃の名前だった。


「皮肉か?」

「どこがです?」


 マナはいじらしく笑う。


「まぁ偏屈なガンウィッチの言葉を借りれば、ガンウィッチに相応しい拳銃はシングルアクションで中折れ式のリボルバー。そうなると、候補が限られます。オリジナルを作ろうかとも思ったのですが、まぁ、永遠に完成しなさそうなので。この銃はちょっとした曰くがありましてね。おっと、お得意様に睨まれているので簡潔に言えば……スコフィールドリボルバーの隠し子がこの銃と言ったところでしょうか」

「どちらかと言えば姪の不正クローンだろ」

「つまりダメな銃ってことでは……」


 二人の話からはそうとしか思えない。が、マナはしたり顔だ。


「性能はノープロブレムですよ。当然でしょう。それに、当時の銃をそのまま使ってるわけじゃありません。設計図を入手し、パーツを揃えて、その上で現代式にアレンジ&カスタムしたものですからねぇ」

「こんな奴でも、ガンスミスとしての腕前は確かだ。準備に時間が掛かるのが困りものだがな」

「はぁ……」

「ものは試しだ。撃ってみろ」


 瞬く間にハナカはリロードを終えてユニに手渡してくる。

 今度こそ冗談ではない。自分用に用意された魔術触媒リボルバー

 ユニは高鳴る心臓を静め、震える手を押さえて、撃鉄を起こす。

 銃声が、射撃場に響いた。



 ※※※



 古風だ、とは思う。

 ただし依頼人が古臭いとは思わない。単に機会がなかっただけだろう。

 自らの弟子と同じように。

 ハナカは一人で公園のベンチに座っていた。


「完璧とは言えないわ」


 誰もいないはずの隣から放たれた声に、驚く素振りはない。


「完全無欠を求めたのなら、依頼した相手が間違ってるな」

「それはないわね」


 手に紙らしき感触。いつの間にか手には札束が握られている。


「金額が多いが」

「チップよ。依頼はまだ終わってないでしょ」

「解釈次第だな。にしても、風変わりな貴族だ」

「あなたに言われたくはないわね、ボンクラさん」


 金髪の少女は親しげな笑みを浮かべてくる。


「例え事実だとしても口にするべきこととそうでないことが」


 忽然と隣人は姿を消している。うんざりしながらもハナカは続けた。


「あるんだぞ、全く……お前が考えている以上に誤解されてること、わかってるのか?」


 返答はない。しかし依頼はまだ続いているらしい。


「まぁ、あいつは必要だ。これであの男も文句は言わないだろう。あの人はどうだか知らないが」


 ハナカは立ち上がる。そして魔力障害のガンウィッチらしく徒歩で帰り始めた。

 なりたての弟子がいる拠点へ。

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