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ガンウィッチ  作者: 白銀悠一
チャプター2 落申し火種子
19/20

終結偽装の再会事

「一体何のことだか――」

「演技はもういい。私もやめる。それに喋りたくないなら喋らなくてもいい。死体は雄弁だからな。死人に口なしという言葉は、知識のない素人にしか当てはまらない」


 言葉はただの時短でしかない。ガンウィッチにしてみれば。

 それに、このように回りくどい手を使う相手は。


「お前は弱いな。この程度で私を揺さぶれると思ったのか」

「はて、さて」


 皆滝の眼鏡が怪しく光る。


「かつて私も、一応は火種候補だった。私の経歴と、その友人を洗っていてもおかしくはない。かなり古いデータだ。今の私が何者か、お前は本当にわかっているのか?」

「流石ですね、ガンウィッチ」


 皆滝が眼鏡を捨てた。


「わざわざそれらしく顔形を変えたんですが」

「努力は認めるが。最初に一目見た時から偽物だとは気付いていた」

「この記憶は本物ですけどね」

「陰陽術があればそう難しいことでもない」


 他者から記憶を抜き取り、その人物になりきるなどは。


「お前たちが火種にしたがってる奴なら、いとも容易く騙されたろうが」

「そこまで知っていながら、随分と余裕ですね」

「言ったはずだ。お前は弱い。今すぐにでも殺せる」

「そうですか。じゃあ、せっかく引き出したこの記憶データも無駄、というわけですか。まぁ、廃棄処分予定ではあったんですが……」


 偽物は銃口を前にしても怖じることなく肩を竦めた。


「いやはや、いやはや。なんでこう、人がせっかく編み込んだ術式を破るゴミがいるのでしょう。そもそも、あなた魔力障害者でしょ? 何一丁前に魔女やってんですか。いや、銃なんて低俗使ってるあなたを魔女と形容していいのかは謎ですが」

「おっと。あまりに魔力反応が鈍くて失念していた。お前、魔術師か」

「そんな低俗な煽りには引っかかりませんって。かぁー……。本当嫌になっちゃいますね」


 顔の前で偽物は手を翳す。本当の顔が明らかになった。

 紫髪に、狐の耳が生えた女だ。


「ふむ。確か、玉外とかいう名前の――」

「一瑠ですが。ふ、これは単にあなたの頭の問題ですかね」

「どうでもいい人間の名前を覚える気はなくてな」

「ですが、皆滝佐奈のことは覚えていた」

「たまたまだ」

「どうでしょうか」


 忽然と一瑠が消える。が、銃口も視線もその行き先は辿れている。

 ブランコの上で遊び始めていた。いつでも殺せる。


「あなた、なぜ私のことを殺さなかったのでしょうか。いえ、私としては殺される気など微塵もありませんがね、いつでも撃てたでしょ。でも、あなたは、撃たなかった。それって――」


 一瑠は顔を皆滝のものへと戻す。


「この顔を撃つのが嫌だったから、では」


 ハナカは引き金を引く。ブランコの鎖のみを撃ち抜いたが、落下する前にジャングルジムの上へと一瑠は転移していた。


「それに、まだ私へ襲い掛かってこないのは、なんだかんだ言って、知りたかったからでしょ? この子のぉ、最期の姿ー」


 ハナカは眉間を狙って撃つ。転移で避けられる。

 が、初めから狙いは一瑠ではなく、その後ろにあった街灯だ。

 跳弾が一瑠の転移先を襲う。彼女はわざとらしい悲鳴を上げ寸前で避けた。


「なるほど、ウィザード級のガンマン。あの忌々しい男の弟子だけはある」

「面倒だな」


 魔術を使えば苦労なく倒せるだろうが。

 ここに居残り組がいるのだから魔術を使っても問題ない、という単純なロジックは通用しないだろう。

 或いは、ハナカが魔術を使ってしまうのを見越しているのかもしれない。

 こちらでの魔術行使は細心の注意を払わなければならない。例えそれが箱庭の中でも。


「さて、ではお教えしましょうか? この子はね、せっかく私が掛けてあげた忘却魔術をね、自力で解いてしまったんですよ? すごいですよね、すごい迷惑ですよね?」


 ハナカの銃撃は避けられる。いや、本当に?

 避けられている? それとも、外してしまっている?


「で、あなたが向こうに行って、役立たずだったと判明するのと同じくらいの時でしたかね? あろうことか、探し始めちゃったんですよ。あなたを。みんな忘れてるけど、いたんです! 私の親友がーって。いやはやもう、呆れますよね? で、まぁ、目障りだったんで」


 銃を叫ばせる。跳弾による再転移。自分の近場に一瑠をあえて転移させ、近接戦闘を仕掛ける。


「殺しちゃいましたよね。当然ですけど」

「そんなことはわかっている!」


 銃の殴打が受け止められ、引き抜いたナイフの一閃も見えない壁で遮られた。


「流石はガンウィッチ。知ってましたか? ならどうします? どんな風に復讐します? あなた、こちら――特に、日本のこと、大嫌いですよね?」


 足払いで一瑠のバランスを崩すがまた彼女が消える。出現先に弾丸を穿つも、避けられた。

 面倒な手合いだ。一刻も早く始末したいのだが。


「あなたの両親をあえて見殺しにして――」


 一瑠が火を周辺に放つ。ハナカは走って避けた。


「確実に救出できたのに、魔術界へとあなたを売って」


 蝶がひらひらと舞ってくる。撃ち落とすことはせず、寸前で回避。しばらく経つと自爆した。


「あなたの友達だって、殺しちゃったんですからね。さぁ、なってください。してください。はしたなくなんてありません。復讐をして、鬼となられて」


 火が周囲を回ってくる。頭に浮かぶ対処策が魔術ばかりなのは、相手の思うつぼだ。

 この女は今ここで魔術を使わせたいのだ。そして、その事実を利用する。

 正直なところ、その程度で世界を動かせるとは思わない。

 だが、出てしまうのだ。犠牲は。

 かつて自分も、何の意味もなかった計画の果てに犠牲になったのだから。

 しかし。


(無傷では切り抜けられないか)


 それもまた必要なことではある。


「さぁ日本への憎悪をぶつけて。目覚めさせて。あなた、ポーカーフェイスを保っていますけれど。心中穏やかでないことはわかっていますよ。だって、袋のネズミですから。火だるまになるのも時間の問題です。普段のあなたなら、このような初歩的なミス、しないですよね。わかっていますよ、あなたの実力は」


 敵の言葉に惑わされているつもりはない。

 だが、自分で気づかないダメージを負ってしまっているのかもしれない。

 確かに、らしくなかった。指摘する人間が周囲にいないから気付けなかった。

 いや、自身を俯瞰する余裕すらなくなっていたのか。

 だとしても、対応はできる。

 ――炎の中を突っ切ってしまえばいい。


「終わりにする」

「おや、そっちに行きますか。是が非でも使いたくないんですね、魔術。だったら、お望み同士燃やし……て?」


 一瑠が首を触る。ハナカも違和感に気付いて立ち止まった。


「あれ? 血?」


 血が首から伝っている。出血量は徐々に増えて。


「あが」


 ころころと。

 首が公園の中を転がって。

 赤い噴水が起きた。


「誰だ?」


 一瑠の死体の背後に立つ人影へ問う。ゆっくりと死体は倒れて、その全貌が露わになる。

 白髪混じりの黒髪。

 忍びらしい黒装束。

 凛々しく、歴戦の戦士と見間違うその顔は。


「バカ、な」

「バカでも嘘でもありませんよ、花香ちゃん」

「お前は……佐奈か?」


 自分の混乱が、よくわかる。

 状況を完全に呑み込めないハナカに、佐奈――皆滝佐奈の顔をした女は眼鏡をかけた。


「ほら、これでわかりましたか?」

「偽物だろう」

「言われると思いましたよ。だから、人払いをさせて頂きました」


 サナは陰陽師の死体の傍を素通りする。


「もうバレてしまったかもしれませんが。せっかくあの方のご厚意で死んだことになっていたのに。けれど、放っておけませんでしたからねぇ。幼馴染の危機は」

「危機とは。お前の目は――」

「節穴だったのはあなたでしょ? 花香ちゃん。いえ――ガンウィッチ」

「そういうお前は忍者……くノ一か。国守の」


 サナは微妙な位置で立ち止まった。殺せないようで殺せる……間合いの中に。


「噂は聞いてましたよ。一部界隈では有名なある男に助けられたとか」

「お前の噂は全く知らなかったがな」


 ハナカの中で確信が生まれつつある。いや、一番大きいのは困惑か。

 彼女が偽物だとは思えない。それが最大限の謎だ。

 生きていた? どうして?

 いや、居酒屋で出会った男の采配か。


「そりゃあ私は忍びですから。けれど、これは知っていますか? 彼岸花」

「……知らんな」

「嘘ついても無駄ですよ。情報隠密が有名になるなんて本末転倒ですけど、手柄を上げ続ければどうしても、ね」

「何しに来た?」


 本題はここからだ。実際のところ助太刀は必要なかった。

 ちょっとした火傷は負ったかもしれないが、その程度だ。

 そしてそれは、ヒガンバナという異名を持つ情報隠密ならわかるはず。


「旧友に会いに」


 サナの後ろ半歩下がる。


「もっと言えば、止めに」


 サナの気配が消えた。同タイミングでハナカは早撃ちを行う。

 短刀が弾丸を弾く。真正面に突っ込んできた。弾丸めいた速さ。

 咄嗟に回避を選択。避け際に蹴りを見舞うが防がれた。


「面倒くさい女だな!」

「それはこっちのセリフですね」


 ハナカはファニングショットを放ったが、全て避けられた。

 姿を完全に見失う。索敵しながらリロード。

 背後からの奇襲を背面タックルで応撃。


「分身!」


 手応えなき当たりを自覚した刹那、サナは手裏剣と共に突撃してきた。

 手裏剣は撃たずに直前で躱す。頬と左腕、右足を掠ったがそのままサナと近接戦へ移行する。

 短刀を銃で防ぎ、弾く。そのまま首を掴んで投げ飛ばす。

 が。


「こいつッ!」「ただではッ!」


 サナは投げ飛ばしの勢いを利用してハナカごと倒れた。互いに身体を強打したが、受け身を取って復帰する。銃と短刀を向け合いながら。


「向いて、ないでしょう? こんなこと、止めませんか?」

「お前こそ、戦いには向かないな。花屋志望が忍者とは似合わないにもほどがある」


 と言いながらもハナカは考えあぐねていた。

 サナは想定以上に戦い慣れしている。

 ヒガンバナ。

 正体不明の優秀な隠密が日本にいるとは聞いたことがあった。

 しかしこの依頼で相まみえることになるとは。

 しかも生き別れた幼馴染として。


「ようやく会えた幼馴染がガンウィッチとなっていたなんて。失望ですね」

「お前に言われたくないな、ヒガンバナ。私のことなんて忘れていればいいものを」


 消された記憶を思い出して、辿り着いた先がヒガンバナとは。


「こちらこそ、言われたくないですね。私の偽物、いつでも殺せたのに。わざわざ泳がせて、無駄なダメージを負うところでしたね」

「とっとと花屋に転職しろ」

「あなたこそ、早く普通の人間として生きるべきでは?」

「余計なお世――!?」


 言葉を言い切る前に身体がふらつく。何が起きたか瞬時に理解できた。

 ヒガンバナ。日本では彼岸の風物詩として有名な花には毒がある。

 多量に摂取すれば最悪、死に至る毒が。


(解毒剤――はない)


 サナは笑みを浮かべている。ほら見たことか、と。

 確かに、このままでは敗北だ。ただの銃使いとして挑んだのならば。

 だが、ハナカはただのガンマンではない。

 しかし、いいのか?

 ここで、こんなことで。

 使ってしまっても。

 自問するハナカに、サナは。


「そら……おやすみなさい。あなたは平和に、静かに、穏やかに。ただの女の子として、生きればいいのですよ」

「う……ッ」


 ハナカは崩れ落ちる。地面へ倒れる前に、サナが受け止めた。


「これでようやく……」

「何がだ?」

「――ぐッ!」


 ハナカはサナの腹部に拳をめり込ませる。すかさずバク転を行って距離を取ると同時に魔力剤を口に含む。その間にも右手は銃のリロードを行っている。

 態勢を崩したサナへ銃撃。サナは当然の如く防ぎ、


「消えたッ!?」


 防御に使用した得物が消失した事実に瞠目。ハナカは再度銃を穿ち、


「ぐう……!?」

「テレポートバレット。使いどころは限られるが――」


 効果は抜群。サナの得物は近くの木の幹に突き刺さっていた。

 非殺傷弾を受けたサナは仰向けに倒れた。だが、わかる。

 まだまだやる気のようだ。


「魔術を使うなんて卑怯です……」

「忍者に言われたくないな。手加減していることに気付かない馬鹿者には、お似合いの姿だ」

「そんな子供みたいな」

「私は大人だ。子供なお前と違ってな」

「私は大人です!」

「いいや、私が」

「いえ、私が――。……もうこれ以上は不毛ですね、止めます。けれど、私は諦めませんよ。あなたには……花香ちゃんには、止めてもらいます。ガンウィッチを」

「そういうお前こそ、今すぐ情報隠密を止めろ。続ける理由ないだろ」

「いえあります。そちらこそ」

「私はガンウィッチとして生きると決めた。弟子もいる」

「弟子なら私だっています!」

「そんなことは理由にならない」

「そっちが先に言いましたよね!?」


 サナが起き上がる。だが、手にはクナイが握られていた。

 本当にまだやる気らしい。こちらも全力で応じなければならない。


「いいだろう。力づくで言うことを聞かす」

「野蛮だとは思います。まぁ、私も同じ手を使いますが」

「今すぐに――」「一般人に戻ってください!」


 ハナカが動く。サナが駆ける。

 一直線に、止まることなく。互いが知らない間に身に着けてきた技量を持ってして。

 今、決着を――。


「すとっーぷ! 止まってください二人とも! 喧嘩は止めてください!」

「ユニ!?」「なっ!?」


 間に入って仲裁をしようとしたユニが――。


「いまいち事情はわかりませんがふぎゃあ!?」

「……急に入ってくるのが悪い」

「ごめんなさい……」


 ハナカとサナのクロスアタックを受けて、気絶した。



 ※※※



「あなたに誓うわ、ユニ」


 金髪の少女は誓いを述べた。その眼差しは燃えている。

 復讐の業火に。


「あなたを殺してしまったあの二人を、殺してあげる」


 そう彼女は自身に……墓標に告げて。

 杖を取り、ユニの敵討ちへ――。


「待ってくださいクリスタあなた復讐に興味ないってそれにあれは事故でってか私死んだんですか!?」

「起きた途端に大声を上げるな鬱陶しい」

「え?」


 邪険なハナカでユニは我に返る。拠点のマンションに戻っていた。

 目の前にはハナカがいる。それと、戦っていた忍者も。

 クリスタは台所から何とも言えない顔を覗かせていた。


「あ、ああ……夢でしたか、うん。なんか妙にリアルで……」


 マジで二人を血祭りに上げそうで。

 安堵するユニにハナカは小声を浴びせる。


「ところで、奴はどっちから先に攻撃してきた?」

「なんでそんなこと聞くんです?」


 後ろめたそうなハナカに聞き返す。彼女は鼻を鳴らし、


「なんでもない。とっとと起きろ。このありがたい国賊から情報を得るぞ」

「国賊とか言わないでください」


 くノ一はミナダキサナと名乗った。

 一目でわかる。先日交戦した忍者とは別格だと。


「ごめんなさい。まさか拘束を抜け出すとは思えなくて」

「そういえば、あれもあなたでしたか」

「お前の拘束が容易かったせいだな。謝れ」

「いや、この子が優秀なだけですよ」


 親しげなやり取りが目の前で繰り広げられる。先程まで殺し合っていたのが嘘のようだ。

 いや、あれはまさしく喧嘩だったのだ。互いに達人だったためにスケールが違く見えただけで。


「私の弟子が優秀なはずないだろう」

「いや、それ自虐になっていますよ」


 ハナカに的確なツッコミを入れている。その関係性はまるで。


「ああ、友達ですね」

「こんなやつは友達じゃない」

「私もこんな人は友達とは言いませんね」


 ハナカとサナはそっぽを向いた。


「息はぴったりですが……」


 どうやら事情があるらしい。


「それで、国賊。お前たちの計画はもうすぐ最終局面か?」

「その呼び方止めてください。それに、わかっているはずです。私と彼らが違うことは。国も一枚岩ではないですから」

「派閥争い、ですか」


 よくあることである。お家騒動ならぬお国騒動というわけだ。


「国家の仕様上、どんなくそと思える人間とも付き合わなければならないのが辛いことですが、今回の件は度を越えています」

「と言いながらも今までは止められていなかったな」

「あなたほど単純じゃありませんからね、政治というものは。悪い面だけを見て、何の考えもなしに潰せば、いい面も刈り取ってしまうことになる。損得も考えなければならないんですよ」

「つまり土地を守れれば人は二の次か」

「そう思っている……人はいますね。私は違いますが」

「そこは疑っちゃいない」

「……ありがとうございます」


 サナは照れながら感謝する。微妙な関係のようだ。

 仲が悪いようで通じ合っている。


「一部の国守が、国防のために魔術界と戦争しようとしているのはご存知でしょう?」

「いつ聞いても頭の悪い発想だ」

「彼ら曰く、魔術師は人類にとっての脅威だと。だから先制攻撃で殺さないと危険、というのがざっくりした論調です。細々とした言い訳はたくさん付随しますが」

「あなたはそれを止めるために?」


 もはや聞くまでもない質問をあえて問うと、サナは頷いた。


「どう考えたって泥仕合ですからね。わざわざ魔術師と戦争する理由もないですから。しない理由の方がたくさん思い浮かびます」

「ビールが値上がりするしな」

「花も高騰してしまいます」


 主戦派が聞いたら顔を真っ赤にしそうなことを揃って述べる二人。


「でも、サナさんの立場が危うくなるのでは?」

「言ったでしょう、ユニちゃん。国家とは一枚岩ではありません。結果さえ出せれば、割とどうでもなるのです。それに」


 サナは静かなる闘志を滲ませた。


「私たちに負けるなら所詮その程度ですので、上層部もお咎めなしです」

「それはまぁ……」


 国の一派閥に負ける連中が世界規模の大戦で勝ち残れる道理はない。


「なので、証明にもなります」

「……証明か。何のことだか」

「あなたが何をしたいのか。何を思っているのか」


 サナの瞳がハナカを射抜いている。


「私にはよくわかります。下手をすれば、あなたの弟子よりも」

「いや、お前にはわからない」

「そうですかね」


 静かな空気が漂って。


「ですから……こちらは大丈夫です。問題はそちらですね」

「勝手に分担しようとするな」


 不満げなハナカ。師匠の計画にサナは含まれていなかったはずだ。

 そして、計画外な人物は他にも。


「そうね。勝手に決められても困るわ」


 クリスタが割り込んでくる。ハナカとサナは顔を見合わせた。


「ハナカちゃん。さっきからあの子の圧が怖いんですが」

「あれはああいう奴だ。気にするな」

「難しいんですがだいぶ」

「圧って何がですか?」


 ユニの問いに、二人が応じる。信じられないものを見る目で。


「クズ従妹については私の家系の問題」


 クリスタは素知らぬ顔で続ける。


「いえ、クリスタは無関係ですよ。だって、絶縁したんですよね」


 ここに来た時も止めたが、クリスタは頑として首を横に振らない。


「無関係ではないわ。あなたが関わること全てにおいてね」

「今なんて?」

「あの従妹はおじい様のようにクソ雑魚ではないわ」

「三人でも割と苦戦しましたけどね」


 仮に再戦したら瞬殺できるとは思う。が、ブラックバレットで魔力器官を破壊したので復活は有り得ないだろう。マナ特製の弾丸の威力は折り紙付きだ。


「お前たちではその程度だろう」

「おかしいですね、以前聞いた話ではあなたはうっかり死にかけ――」


 ハナカが銃を抜いた。サナが反射的に回避。しかし跳弾によって弾丸が戻り、


「甘いですね」「チッ」


 短刀で切り落とされた。


「今のは本気じゃないからな。むしろ銃撃を避けきれなかったお前の方が――」

「とりあえず話を続けましょうよ」

「結果は単純。あの従妹は私が葬る」

「いやどうしても戦いたいって言うなら止めませんけど」


 ユニの諦観に便乗する形でハナカがサナを指した。


「そしてこの女に出番はない」

「出番がないのはあなたの方では?」


 二人は睨みを利かし、


「だからそんな子供みたいな」

「子どもじゃ」「ない!」


 二人分の反論に呆れる。ここに関しては平行線のようだ。


「とりあえずは敵と戦うってことでいいんですね」


 共闘できるかは別として。


「何にしろやることは変わらない」

「リミットはそう長くありません。そろそろ手段を選ばなくなってくるでしょう」

「あれで手段を選んでいるつもりなのが面白いがな」

「私が話せることはこれくらいです」

「ありがとうございます」

「それと、あなたに忠告しておきます」

「なんだ? 私は仕事を続けるぞ」

「とりあえずそこは保留で。私が言いたいのは私にしか言えない助言です」

「なんだ?」

「当事者に隠し続けるのは不可能、ということです。それはその子もよくわかっているのでは?」


 サナがユニを見る。ハナカは鼻を鳴らすだけだ。

 しかし彼女の言いたいことはわかる。誰よりも。とすれば。


「そろそろ、伝えなければいけませんか」


 そしてそれは、友達という関係性を止め。

 ガンウィッチに戻ることを意味する。


「あっ、と。言い忘れてましたが」


 退室途中のサナが今一度振り返り。


「マジックハンターの対処はお願いしますよ」

「誰のせいだと思ってる?」


 怒った様子のハナカ。しかしすぐに鎮火された。


「とはいえ、問題はない。一度や二度の使用程度で奴らが出張るはずも――」

「……」

「おい」


 ハナカが呼びかけてくる。が、ユニは目を逸らし続ける。


「私の可愛い妹?」

「いや私は使ってないんですよ? 本当ですよ? こればかりは理不尽では?」

「そうか。そうかそうか」


 ハナカはにこりと笑って。


「クリスタがいるしな。後で――」

「ところでここ事故物件らしいのですが!」


 再び訪れた静寂。一瞬だけハナカのポーカーフェイスが崩れた……ような気がする。


「それがなんだ?」


 いわれなき教育(ぼうりょく)を防ぐための反撃は、効果がありそうでなかったようだ。とすれば残された選択は一つ。


「私はサナさんを送ってきます!」


 逃げの一手で急場をしのぐ。


「あなたが行くところに私は常にいる」

「じゃあとっとと行きましょうとっとと!」


 よくわからない理由でついてきたクリスタと共に、ユニは逃走。


「全く、不出来な弟子はこれだからな」


 残されたハナカは呆れてスマートフォンを取り出した。

 連絡先をタップして通話を開始。マナが設計したシークレットモードを使用。

 並大抵のハッカーでは盗聴できず、可能な技量がある者も地獄を見る。


「頼みがある。ああ、急務だ」


 ハナカは静かに息を吐きだして。


「お前の知り合いにエクソシストがいたな。今すぐに――。おい、待て切るな!」


 弟子の予想外の一撃に、身を震わせた。

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