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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
9/57

城へ集う贄達

あらすじ

何か悪巧みしている王様と、小物そうな錬金術師。

ソラリスとの酒盛りから早1週間。

ベルとフィーが冒険者になってから、それなりの依頼をこなしてきた。

勿論、討伐数は通常の新米冒険者を遥かに凌駕しているが、報告しなければ同じであると、本人達は思っている。

昼過ぎ、今日も適度にホーラビットや、ゴブリンを倒したベルとフィーが冒険者ギルドを訪れると、普段は太陽の様な笑顔で出迎えてくれるマリアンナが、物憂げにため息を吐いていた。


「マリアンナさん、どうしたんですか?」

「ええ、ちょっとね……って、ベルくんっ!?何時からいたの!」

「今ですよ、何か有ったんですか?」

「お困りの事かい?私とベルくんで解決出来るなら、手を貸すよ」

「おぉ、天使よ。いいえ、この間ソラリスさんが騒いでいたけれど、勇者がこの国で指名手配されたでしょう?」

「はい、ちょっとおかしいなって思いましたけれど」

「他国の、特に亜人の方達が国で抗議をしてきたのよ。ギルドはあくまでも中立的な立場なのだけれど、今回ばかりは抗議する側に付かないとね。魔王を倒した事は、それだけ世界に認められているのよ」

「そうなんですか、王様からは返答はあったのですか?」

「無いから困っているの。このギルドと王都で戦争になり得る事態はギルドとして避けたいから、あまり強く言えないのよね。勿論、他国の外交はしっかりと抗議しているわよ。けれど、あくまでも他国、知らぬ存ぜぬを貫いているらしいわ」

「もしかして、マリアンナさんが板挟みになっているんですか?」

「そうなのっ!私はこう見えてもこのギルドの副所長(サブマスター)なの、その所為でねぇ……」

「「えっ!?サブマスターっ!?」」


ベルとフィーは、本日で1番の驚きに声を上げた。


「受付してるのに、かいっ!?」

「ふふっ、フィーちゃんみたいに、驚いた顔が見たいって言う理由が少し。後は正当に冒険者を評価する為と、出逢いとか、出逢いとか出逢いとか出逢いとか出逢いとか……ね」

「……そうなんですか、えっと、うん」

「ベルくん達が来たって事は、報告でしょう?」

「はいっ!お願いしますっ!」


ベルは何時もの様に報告を済ませると、納品カウンターへと行こうとした。

しかし、パッと顔を明るくしたマリアンナに呼び止められる。

何処からとも無く小さな太鼓と、小さなラッパを取り出して演奏を開始する。

その様子に、冒険者達は一瞬動きを止めるが、直ぐに戻った事から日常的な風景なのだろう。


「おめでとうベルくんっ!フィーちゃんっ!ランクアップよっ!!」

「え?もうですか?」

「思っていたよりも随分と早いね、1ヶ月くらいは必要と見ていたんだけれどさ」

「それは2人が真面目に毎日頑張っていたからですよっ!……っと言っても、FランクからEランクは割と早くに上がりますからね。ギルドとして、その人の人なりを見る期間ですので。但しっ!ランクが上がったからって、調子に乗って身の丈に合わない依頼を受けると大変危険ですっ!依頼失敗による違反金は勿論、下手をしたら命を落としますっ!強くなった訳じゃないから、これかも真面目に頑張ってね!」

「「はいっ!」」


冒険者カードを預け、表記が変わった事を確認して喜ぶ2人。

こう言ったイベントは、幾つになっても嬉しいのだ。

そんな年相応のはしゃぎ様に、ギルドの者達も微笑ましく見守る。

それは、納品カウンターの壮年の男も同じであった。


「はっはっ!坊主達、おめでとさんっ!今日は祝いに昼飯奢ってやるぜ、おいミランダっ!コイツらにオレのツケで食わせてやってくれっ!!」

「奥さんに怒られますよー?」

「ガハハっ!女房も喜ぶさっ!」

「えぇ、あの、悪いですよ」

「ばぁかっ!ガキが遠慮すんなっ!」


ぽんぽんと2人の頭を叩く男。

冒険者ギルドを利用する2人は、酒場の店員として働くミランダにテーブルに案内される。

フィーはここぞとばかりに、卵たっぷりのふわふわオムレツを頼んでいた。

卵は少し値段が高くなる為、新米冒険者の懐には贅沢になるのだ。

勿論、冒険者ギルドのメニューな為、高級という訳ではない。

ベルの方は、散々悩んで結局は何時もの肉の塊であった。

他のテーブルでは冒険者達が酒を飲み、世間話が聞こえてくる。


「おい、兵士の大規模な募集が有るんだと」

「ハハッ、自分達で勇者様を追い出しておいて、兵士の募集なんてちゃんちゃら可笑しいな」

「それでも月20万ウィーロだぜ?」

「そりゃ大した額だが、何か、裏があるんじゃぁないか?」


チラリと視線を送ったベルは、盗聴防止の魔法を発動した。

1週間達、口調に大分慣れて来た為(フィーは一人称のみであるが)、街中でベルがこの魔法を使う回数が減って来ていた。


「相変わらず、君はさらりと高等な魔法を使うんだね。オレは魔法が使える様になってきて、君の凄さがやっと体感出来てきたよ」

「そうか?私からすれば、お前の会得速度も異常に感じるぞ」

「褒めても身体しか出ないよ?」

「それは良いな。で、さっきの話、聞いたか? 」

「兵士の募集かい?何かおかしいのかな?君が言うなら、可笑しいのだね」

「そうか、フィーはそう言った話に興味が無かったな」

「そうだとも、オレは研究馬鹿だからさ」


ふむ、とベルは顎に手を当てて考える。

肉が乗った鉄板からは、ジュウジュウと音が鳴る。


「ふふっ、君のその難しい顔、結構好きだよ」

「煽てても、何も出ないぞ」

「生物的には出るだろう?」

「昼間から話す内容じゃないな」

「続きはベッドの上で、ってかな?」

「未だにお前は夜更かし出来ないけどな」

「仕方ないじゃないか、こう見えても生後1週間の赤ちゃんだ」

「赤ちゃんなら、夜の話はまたにしろ」

「オムレツが冷めちゃからね、口を動かす事にしよう」


せっせとオムレツを切るフィーを尻目に、ベルは度数の低いワインで喉を濡らす。


「良いか?大規模な兵士の募集、一見私達を追い出した事による、国の防衛力の強化に見える。だが、そもそも私達は魔王討伐に駆け巡らされていたから、国の防衛に参加なんかしていなかった。兵士なんて募る必要は無い筈だ」

「んー、君の名前による牽制や、魔物討伐が減る事への対応なんじゃないかい?」

「名前の防衛力なんてたかが知れているし、魔物討伐は冒険者ギルドがある。まぁ、貴族の面子で私兵を割く場合はあるが、今回は関係無いな」

「じゃぁ、君を慕っていた兵士達にお暇を出したとか、かい?」

「確かに私の指名手配をしたら反発するかも知れないな」

「だろう?君はカリスマが有ったからね、オレも見ての通りメロメロさ」


メロメロと言いつつ、オムレツを味わっている様子のフィーに苦笑いするベル。

自分も黒く硬いパンを千切り、スープに浸して口に運ぶ。

冒険者ギルドでは、昼時にはパンとスープが付く。

腹に溜め込める様に気遣いされている。


「それにしては、兵士が城から去った話は聞かないがな」

「あの娘はどうだろう?君と一緒にオレを殺しに来た、近衛兵の団長だったかな?」

「メリッサか。だが、どうやって接触するんだ?」

「物語なら、きっと会えるだろうけれどね。今のオレと君は、只の新米冒険者……いや、新米は卒業したから、低ランク冒険者かな?」

「迂闊に近づけば、正体の露見に繋がるな」

「そもそも、そこまでしてこの国を守りたいのかい?」

「少なくとも、冒険者ギルドで世話になった人や知人は助けたいが、今の私達には無理だろう。警告を出すにも信頼が足りない」

「なら、オレ達に出来る事は多くないって事さ。他人に任せるしかないね」

「案外、人は強いからな。勇者が居なくても何とかするか……」


オムレツを食べ終えたフィーは、大きな欠伸をする。

瞳がボーっとして、瞼が重くなっている様子だ。

先程自分でも言っていたが、フィーの身体は生後僅かな時間しか経っていない。

その為、ベルとの特訓の後はよく食べて体力を回復している。


「よし、1週間後を目安に、乗り合い馬車で王都から離れよう。当初の目的であったランク上げは達成したこらな」

「わかったとも、なら食べ終えたら買い物して今日はお休みしようか」

「時間があったら鍛錬をしたいが、今日くらいは良いだろう。せっかくの祝いだ」


昼食を終えた2人は、マリアンナの元へと向かった。

ゴシゴシと目を擦るフィーを、微笑ましげに眺めている。


「どうかしましたか?2人とも」

「はい、1週間後辺りに乗り合い馬車で、別の街に出発しようと思いまして」

「えぇっ!?な、な、何か不満でもあるんですか?」

「不満はないですよ。ただ、僕達は、もっと世界を見てみたくて……」

「危ないですよ!盗賊や高ランクの魔物が現れたらどうするんですかーっ!お姉さん悲しいですっ!」

「いえ、夢だったんですよ。勇者様のお陰で、平和になった世界を見てみる事が」

「ま、まだまだ平和とは言えないですよ?」


その後もベルにしがみ付き、わんわんと泣きながら引き止めるマリアンナだが、そこに拳骨が落ちる。

水色の髪の毛の、Aランク冒険者ソラリスである。


「こらマリアンナっ!何を迷惑かけてるんだいっ!」

「だ、だって……」

「男に捨てられたくらいでメソメソしてんじゃないっ!」

「べ、ベルくんに捨てられてないですからねっ!!」

「そ、ソラリスさん……誤解を生みますので、あの」

「何だ?違うのかい?」


首を傾げるソラリスを、彼女の後ろの仲間達も困った様に眺めていた。

どうやら依頼の報告に来たらしいが、彼女のお節介により、マリアンナとソラリス、ベルとフィーはギルドの個室で相談する事になった。

彼女の仲間は、別の受付嬢に依頼報告を対応して貰っている。


「なぁるほど。ベル坊が拠点を変えるのが嫌だって訳か」

「そうなんです、ベルくんたらもうー」

「ベル坊は世界を見てみたいか、男らしいじゃないか」

「あ、はいどうも」

「じゃぁ、間を取って、フィーの言い分を聞こう」

「「何でですか!」」


ソラリスはフィーの事を気に入っており、先程から膝に乗せて頭を撫でていた。

フィーとしても、好意を無下に出来ず、かと言って言葉で解決する程口が上手くない。

されるがままとなっていた。


「フィー、アンタはどうしたいんだい?」

「そうだね。私はベルくんに賛成なんだ。本当はもっと王都で実力をつけるつもりだったけれど、何と言うか、王都の不穏な雰囲気をベルくんが感じてね」

「不穏?マリアンナ、何か有ったのか?」

「えっと、私の方では何も……」

「……僕が、ちょっとおかしいなって思ったんです」


ベルに視線が集中する。

下手に話せば、ソラリスに正体を勘付かせる事に成りかねない。


「冒険者の方達が、王都で兵を募集しているのいう話を聞いて、戦争も起きていないのに何でかな?って疑問に思ったのですけれど」

「そりゃ、勇者を追い出したから国力は下がったんだろ?」

「はい、そう思ったんですが……言葉に出来ない、何というか、不穏さを感じたんです。そうして、フィーと相談して、移動しようとなりました」

「勘か、マリアンナ。どう思う?」

「心配しすぎ、で片付けてしまうのは釈然としないですね。確かに、戦争する訳でも無いのに兵を集めるのは、おかしい……少し調べてみましょう」

「まぁ、アタシも見たが、20万ユーロは高すぎると思う。裏があると、冒険者の多くは笑い飛ばしたが……いや、待てよ。必要としているのは、人……?」


ソラリスは、1つの可能性に気がついた。

勇者と同時期に、死亡したと報道されたメフィストと、残された資料、人手を集める理由。


「あの、僕達今日はちょっと買い物に行きたいので、お話の続きはまたでも良いですか?」

「うっ!何とかベルくんを安心させる為に調べないとっ!」

「あ、ああ、しっかりとデートしてこいっ!」


ベルとフィーを見送った後、ソラリスは冒険者ギルドの支部長(ギルドマスター)の部屋に来ていた。

情報収集に駆け出そうとしたマリアンナの首根っこを掴み、無理矢理同行させて。

ギルドマスターは髭を丹念に剃った、50代程の男だ。

逞しく鍛え上げた肉体は、年を取っても尚健在であり、オールバックにした髪は僅かに白髪が混じる程度だ。


「蒼天の青空、ソラリスか。前々から、蒼天と青空は同じ意味である事を気になっていたのだが……」

「今はそれどころじゃない」

「ふむ、君の顔がとても怖いからリラックスしてもらおうと思ったが。私は悲しいよ」

「喧嘩売ってんのかアンタっ!?」

「そ、ソラリスさん落ち着いてください!ギルドマスターも、冗談は格好だけにしてくださいっ!」


ギルドマスターは、上記の説明でナイスミドルに思えるが、その服装はダサさの塊であった。

膝上までしかない短パンに、白い布を使った靴下。

着ている服は、色んな色を集めましたといわんばかりの、目がチカチカするカラフルな染色をされた服である。

お父さんと一緒に歩きたくないと、娘から言われてしまいそうな格好なのだ。


「じ、冗談って……悲しいよ」

「はぁ、まぁ良い。人払いと、盗聴を警戒して欲しい。これから話す事は、かなりキナ臭いぞ」

「良いよ、マリアンナ人払いと盗聴防止をお願い」

「あの、私頼みなんですか……もう」


ギルドマスターは、ソラリスに座る様に言って、お茶の用意をマリアンナに頼む。

だが断られ、自分で3人分とお茶とお茶受けを用意した。


「王が、破格の賃金で兵を募集しているのは知っているか?」

「うん、勇者が抜けた事による戦力補強じゃないかって言われてるけどー。そんなんじゃ、質の悪い農家の出とかしか来ないよね」

「そうだ、皆そんな風に考える。だが、勇者失踪と同時期に殺害された奴を忘れてる」

「破壊の申し子の事?忘れている訳じゃないさ、皆悲しんでいたよ。どうして勇者に殺されたのかってね。魔王になったとか、国を滅ぼす兵器を作ったとか言われているけど、それじゃ王が指名手配する理由にはならないよねー?」

「クソッ!好き勝手言いやがってっ!!」

「どうどう、落ち着いて。彼と、今回の募集に関係あるの?」

「あくまでも推測だぞ」

「いいよいいよ」


「メフィストの研究資料を使って、人体実験するつもりだ」


ギルドマスターは、目をまん丸にして瞬く。


「いやいや、有り得ないでしょう。流石に。いやいや、そんな事したら、民が居なくなっちゃうだろうー?」

「だから、調査をした方が良い。杞憂なら、それで良いんだ。アタシは、彼奴の研究を悪事に使って欲しく無いだけなんだよ……」

「うわぁ、私はギルドマスターとして初めて君の乙女チックな所を見たよ」


ソラリスは今更実感する彼の死に項垂れた。

ウンウンと暫く唸るマスターの声だけが響く。


「よし、冒険者ギルドで探ろうか。他のギルドに掛け合って、Aランク冒険者や情報収集得意な子を呼ぼう」

「良いのか?」

「国絡みで、ヤバイ実験してそうなんでしょう?私達ギルドが動かないでさ、誰が動くのさー」

「頼む!」

「ただ、ソラリスは大人しくしていてな。君は、多分勇者が接触してこないか監視されているから」

「クソっ!歯痒いな……」


冒険者ギルドは動き出す。

1人の女の願いを聞いて。

と、格好付けたギルドマスターであるが、実は勇者の事を探る為に、既に各国から精鋭が送られる事が確定していたのだ。

板挟みになっていたマリアンナは勿論知っていた。

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