動き出す愚者
あらすじ
ベルとフィーは、ソラリスの打ち上げに参加する事になった。
王の執務室にノック音が響く。
「レオンハルト陛下、御報告に」
「ご苦労、入れ」
王はソファに深々と沈め、入ってきた者を顎で促す。
賢者の石の研究資料が見つかったのだ。
メフィストが死んで、勇者が失踪した次の日の朝に、手紙に同封されて届いた。
差出人は、メフィスト。
宛先は、現在国最高権力を持つ錬金術師、賢者ガラハンドである。
錬金術を貴族の叡智だと唄うガラハンドは、メフィストに何時も馬鹿にされていた。
お前は真理を求めていない、ただ出世したいだけだと。
事実、ガラハンドが最高権力である賢者に至ったのは、貴族による後押しが大きく、錬金術の腕前では中の上あたりである。
今回の手紙も、おちょくられたと癇癪を起こした。
「はい、メフィストの研究は完結しているというのが、我が城の錬金術師達の総意です」
「賢者の石が作れると?」
「作製は可能ですが、作製する者は居ないかと。それこそ、錬金術師の名誉を求めるので無ければ。錬金術師は名誉では無く、真理への追求をする探索者であるとメフィストからの手紙に書かれていました」
「完結に述べよ」
「賢者の石は、純粋なエネルギーの結晶であるそうです」
「ふむ」
「必要エネルギー総力は、古龍を丸ごと素材にしなければならない程、作製は不可能でしょう」
「む?勇者と奴は古龍を討伐したのであろう、ならば作製の機会は有ったのでは無いか?」
ガラハンドは手を強く握りしめた。
自分では無く、奴の様な無法者を勇者が選んだ事への怒りに。
勇者が自分を選んでいれば、今頃叡智も名誉も自分のものであった筈なのだ。
古龍の素材等、貴族に振り分ければ、それこそ末代まで遊んで暮らせる程金になる上、自分の立場がより安定したものになる。
それ程価値が有るにも関わらず、奴は1人で研究素材にしたのだ。
「陛下、古龍の素材は血一滴として有用な物でございます。それを、むざむざ賢者の石にはしないでしょう」
「 そうだな、その通りだ。だが、賢者の石さえあれば、万物は思いのままなのであろう?」
「ええ、寿命も若さも、正にっ!」
「よし、作製法を探せ。資材は厭わん」
「……国財を使うと?」
「王あっての民である」
「ええ、大義の為に、必ずや創りご覧になりましょう!私は奴とは違い、天才なのですからっ!!」
ガラハンドは顔を歪ませて笑う。
メフィストや勇者の排除、それが自分の思い通りになった事を。
メフィストが作れなかった賢者の石を自分が作れば、勝つ事が出来ると信じて。
賢者の石を作る当てはすでに用意していた。
「レオンハルト陛下。手段を問わず、宜しいでしょうか?」
「期待しているぞ、ガラハンドよ」
勇者を捕らえる事に意を成した者は、全て暇を出された。
国を分割する事は無用な争いを生む。
踏み絵により、王は城を全て掌握する事を実現したのである。
その頃、胸に賢者の石を宿した2人は、酒場にいた。
Aランク冒険者であるソラリスが率いるパーティ、“蒼天の青空”の打ち上げに招かれたのだ。
冒険者ギルドでは無く、宿屋に備え付けられた酒場であり、内臓煮込みが美味い店らしい。
らしいと言うのも、ベルは酔ったソラリスに絡まれて、中々注文の機会に恵まれないのだ。
腸詰めや、揚げた魚は食べても、内臓煮込みは注文するも、食べようと思うと無くなっているのだ。
他ならぬ、ひたすら口に運ぶフィーによって。
「うむうむ、これは実に美味しいね。素晴らしい、素晴らしいよ!」
「フィー、酔ってる?」
「はははっ!オレはベルくんに酔ってるかなっ!メロメロだっ!!」
「酔ってるね」
陽気に笑いながら料理を口に運ぶフィーと、ベルにしな垂れかかるソラリス。
彼女を置いて、パーティはさっさと逃げ出した。
ソラリスの酒癖が悪い事を、全員が知っているのだ。
「うーん、リーダーもベルくんにメロメロですね」
そう言って苦笑いしているのは、昼に会ったエリーだ。
彼女の仕事は、潰れたソラリスを部屋に運ぶ事であり、下手に放置した場合、周囲の少年の貞操が危ないのである。
「あの、エリーさん。他の人って、何処に行ったんですか?」
「色街と宿屋でハッスルです」
「なぁ、坊やー。アタシが男にしてやろうかー?」
「すいませんけど、ソラリスさんを連れて行ってくれませんか?」
「完全に潰れないと、私の力じゃ無理ですね」
「えぇっ!?エリーさんCランクじゃないですか!」
「リーダーは酔っても強いんですよ」
心当たりのあるベルは、静かにため息を吐いた。
「ほらほら、坊やぁ一緒に部屋に行こうよ」
「いえ、あのぅ。僕はちょっと……」
「なっ!ベルくん駄目だっ!穢れてしまうよっ!」
「なんだい?アンタも大人になりたいのかい?」
「うわぁっ!ベルくん助けてくれたまえっ!」
フィーの頭を掴んで自分の豊富な胸に埋めるソラリス、間にいるベルも巻き込まれて腕の中にいる。
しかし、ムギュムギュと女性特有の柔らかな肌を堪能する余裕も無く、古龍の脚に潰されたかの如く圧力がかかる。
「し、死んじゃう……え、エリーさん…」
「うわーっ!べ、ベルくーんっ!」
「アッハハっ!アンタはメフィストの奴そっくりだねぇっ!!」
「え、リーダーメフィストさんと知り合いなんですか?」
「応さ、勇者の事大好きな彼奴も、アンタみたいに必死にアタシの邪魔していたよ」
胸にグリグリと当てながら、フィーの頭を撫でるソラリス。
間にいるベルは、魔王と戦った時よりも窮地である。
「アタシ本当はメフィストの奴が好きで、告った事もあるの」
「ええっ!?リーダーがっ!?メフィストさんを襲ったんですか?」
「人聞き悪いね、彼奴はヒョロイくせに逃げ足は速いから、捕まんなかったよ」
「あの、ソラリスさん…放してください」
「お?坊やが死にかけじゃないか」
解放されたベルはやっと一息つくが、胸に溺れていたフィーも同様であった。
勇者とメフィスト、2人との昔話を肴に、ベルは漸く内臓煮込みを口に運ぶ事が出来たのであった。
本日中に後2つあげます