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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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幕間 友達にさよならを

幕間です

ぼんやりと青空を見上げる女性がいた。

彼女の名前はソラリス、Aランクの冒険者である。

王都で引き起こった悲劇の一夜の中で欠損した手足を、強力な魔法薬によって生やし、リハビリに励んでいた。

1ヶ月の月日によって、以前と同等に手足を扱える様になったが、失恋への損失感にイマイチ依頼を受ける気力が湧かなかった。


数十年仕事をしなくても良い程度に蓄は有る為、自堕落に暮らす事も可能だが、何分彼女達のパーティ蒼天の青空は目的が有る。

現れた場所に天災を運ぶ、嵐を見に纏う古龍を討ち、青い空を、蒼天の青空を取り戻す事だ。

彼女達が何故その古龍に拘るのかは不明だが、嵐の被害を煮詰めた様な存在に怨みを持つ者は多い。


今のソラリスは腑抜けていた。

失恋相手はいつの間にか王都を発っており、行き先も不明で追いかける事も叶わず、音沙汰もない為に生きているか分からない。

勿論、死ぬ様な輩ではない事を知っているが、彼女の見せた切り札は魔王軍との決戦で随分と損傷しており、武装も装備されていなかった。

個人に力を持たせない為か、サルマン王国の貴族達は修理に反対し、彼女の誇りは朽ちていったのだ。

城にいた恐ろしい魔物を殴り倒したのは、質量以外に殆ど武器が無かったからだろう。

対城兵器すら装備されていた頃を見た事有るだけに、物足りなさを感じてしまった程だ。


カップに入った氷が音を立て、ソラリスは自分がアイスティーを頼んでいた事を思い出した。

昔は貴族の証とも呼ばれていた氷が、こうして庶民達の手にも渡る様になったのは、一重に魔導具のお陰である。

悪夢の一夜を乗り越えて、漸く元の様に営業を再開しつつある店。

国が抱える錬金術師の数が多く、魔導具が発展していた以前のサルマン王国では、庶民にも手が届く値段で魔導具を購入する事が出来ていた。

しかし、悪夢の一夜を引き起こしたのが、国が抱える法廷錬金術師の仕業だと広まってから、錬金術師達の立場は微妙なものとなり、多くは国から去って行く。

今後は再び、氷は庶民とは離れていくのかもしれない。


「ソラリスさん、まだ落ち込んでいるんですか?」

「あ?あぁ、マリアンナか」


いつの間に対面に座っていたのか、ソラリスは時に不思議な知人に目をやる。

彼女の底知れなさは何となく感じているが、過去にパーティを組んだ時はそれ程の実力は見られなかった。

子供が好きで、理性を無くす良い奴、という本質にかなり近い認識を持っている。


「アタシは兎も角、アンタも狂人じみているじゃないか」


対面に腰掛けるマリアンナは、金と白の髪の縫いぐるみを両手に持っており、ぶつぶつと喋りかける彼女に薄寒いものを感じる。

周囲の席の者達は次々と席を立つ。

営業妨害じゃないかと、ソラリスは内心思うものの、時折飛んでくる羽虫()除けには丁度良いとグラスを傾けた。


「それで、態々アタシを探すなんて、一体何の用事だい?」

「私と、ソラリスさんとの中じゃないですか。用事が無くても探しますよ」

「そういうのは良い」

「ある程度の、予想は出来ているのですね」

「そりゃぁね。Aランクとして活動していれば、噂も耳に入る」

「魔王が消えようと、世界に平和は訪れないのですね」

「悔しいもんだね、魔王を斃す為に戦って、勝ち取った先には人との争いが有るんだからさ」

「人に絶望し魔王へと変貌する者も、過去の勇者には何人か居たわね。何故か、サルマン王国の勇者には不自然な程存在しないけれど」

「見てきた様に、モノを言うね」

「ふふっ、貴女はこれからどうするの?」


首を傾げたソラリスの反応から、彼女が聖剣について知らない事を察して話を逸らす事にしたようだ。

聖剣の秘密は、知ってしまえば戻れない。

勇者という存在を、汚してしまう事となるのだから。


「どうしたものかね。今一つ、やる気が起きないのさ」

「初恋を拗らせているのね。失恋して、虚無感に満たされている。年長者から見た貴女の状況よ」

「うっ!本当は、仲間も立場も投げ出して、探しに行きたいくらいだ」

「なら、聖法国を目指したらどうかしら?貴女が噂を聞いている様に、彼等もまた新たな勇者に出会うかもしれないですよ?」

「駄目だ、蒼天の青空は、私の私情で動かすものじゃない。アンタ達冒険者ギルドの事情でもね」


殺気すら込めた眼差しを受け、瞳の中に揺らめいた炎を見たマリアンナは、優しく微笑んだ。

焚き付けられた事を自覚したソラリスは頬を染めると、腕を組んでそっぽを向いた。

狡い女に成れたら楽なのに、と溢すソラリス。

騒がしい声が近付いてくる。

ソラリスの仲間のエリーの声だ。

立ち上がったマリアンナが、この時間が終りを告げる。


「じゃぁ、またな」

「ええ、さようなら。ソラリスさん」

「……?」


後輩の足跡を聞きながら、ソラリスは見送った。

マリアンナという受付嬢が退職した事を聞いたのは、次の日の事だった。

此処までお読みいただきありがとうございます


マリアンナは、何度も顔を変えている為に友達と言える人は実は居なかったりします。

そんな中でも、ソラリスの事は結構気に入ってて勝手に友達だと思ってますし、ソラリスも知人以上友人未満みたいな感じに思ってます。

一応今後もマリアンナさんは、マリアンナさんとして出して行けたら良いなと考えてますが、難しいんですよね。

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