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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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幕間 ギルドの者共

幕間です

サルマン王国王都、冒険者ギルドの執務室。

ギルドマスターの中年の男は、煙草の煙が立ち込める中書類に筆を滑らせていた。

眉間に深く刻まれた皺は、彼の仕事に対する苛つきが現れており、短くなった煙草の火を普段よりも強く押し消す。

利き腕と反対の腕には包帯が巻かれており、服で隠れてはいるが、腹にも浅い裂傷を抱えている。

廊下を歩く軽やかな靴音共に響くノックに、扉を睨むが、彼の返事を待たず受付嬢のマリアンナが入室して来る。

本来上司立場であるギルドマスターが、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべつつも彼女を咎める事は無かった。


「煙たいですよ!全く、窓開けますね!!」


小さな窓が開けられ、彼女が軽く指を振ると、風魔法によって充満した煙は流されていく。

マリアンナは良しと呟くと、拳程もある紙の束を追加で机の上に置いた。


「ギルドマスター、追加ですよ」

「あのね、俺は見ての通り怪我人なんです」

「だから何ですか?」

「もう少し、部下を労って欲しいのです」

「自分の未熟さで負った怪我でしょう?貴方、何を甘えた事を言っているのかしら?」

「剣聖ですよ!?しがない一般人の俺が勝てる訳ないでしょう!?」

「複数人掛かりって、聞いているわよ?」

「あー、そうですが、雑魚が束になった所で一騎当千に勝てないのは貴女自身がご存知でしょう?」

「全く、冒険者ギルドも年々質が低下しているわね。私達は国からの束縛を逃れる……いいえ、自由を勝ち取る為にギルドを作ったのよ。上に立つ者は、相応の実力が求められるわ」


マリアンナの視線に、ギルドマスターは喉を鳴らす。

一瞬彼女の年齢について問いたくなったが、その先には地獄しかない事が分かっている。

出来る男は寡黙で在るべきだ。


「貴女は剣聖レオンハルトに勝てるのですか?」

「誰もが、あの男は剣士だと思っているのね。彼の強みは、未来予知に等しい気持ちの悪い先見能力だったのよ」

「と、いいますと?」

「今回の騒動、不要な貴族の排除と王族の名誉回復、サルマン王国の勇者からの自立。全ては、あの男の掌の上だったという事よ。彼を剣聖足らしめるのは、予知に等しい先見で後手の先が成り立つから」

「一般人の俺には、何を言っているのか分かりかねます」


マリアンナは、無言でギルドマスターを睨む。

沈黙に耐え切れず、彼は手元の書類に目を落とす事で現実を直視しない事にした。

報告書の内容は、巨大なトロルに類似する魔物を討伐した記録である。

人間が魔物と化した事は緘口令が敷かれており、被害者の遺体は魔物として処理される。

トロルとの戦闘は、第二王子イルミの護衛中に巻き込まれたものであり、護衛依頼を受けた冒険者2人が彼を逃す為に囮りとなった事も書かれていた。


増援があった事を考慮しても、トロル擬きの討伐に貢献したのは事実であり、Dランクの冒険者としては大金星とも言える活躍内容だ。

報告書には冒険者2人が護衛依頼を成功したとして、報酬の一部を払い、能力的にランクを上げる要請が記載されている。

ただ、DランクからCランクへの昇級は、冒険者ギルドの推薦を得る事の他にも、適性試験を受ける必要があった。

ただ、悪夢の一夜以降一度も冒険者ギルドを利用していない彼等の足跡は追えず、現状では昇級が何時になるのかは不明だろう。


「それで、貴女が推していた白金(プラチナ)は何者なんですかね?」

「ふふ、ベルくん達は可愛いのよ。私も本当は孤児院を運営して子供達を愛でたいのだけれど、生憎と許してくれないの」

「子供達の身の安全の為に、是非ともそのままでいて欲しいですね」

「酷い言い草ですね。今は彼等の足跡を追わない方が良いかと思いますよ、ギルドマスター」

「そうですね、触らぬ神に祟りなし。藪を突かない様にしなければ」


やれやれと首を振って、黙々と手を動かす。

マリアンナは満足そうに頷く。

ベル達の知らぬ所で、彼等の昇給が決まったのだが、その事を知るのはまた随分と先になるだろう。


「そういえば、師匠はいつまで此処にいるんですか?」

「私が居るのは今日までよ」

「は?」


ギルドマスターが顔を上げると、既に彼女の姿は無く、手元にはいつの間にかマリアンナの退職書類が握らされている。

慌てて目を通せば、覚えない自分のサインと、サルマン王国の山を挟み北に在する聖法国の資料が残されていた。

慌てて資料に目を通せば、如何にもキナ臭い新たな勇者の誕生に付いて記載されており、ギルドマスターは眉を顰めるのだった。

此処までお読みいただきありがとうございます

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