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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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幕間 ゴブリン伝 壱

ベル達とは出会わなかった、ゴブリンの物語。

数話程幕間が続きます。

ゴブリンの話が5話続くとかでは無く、ソラリスとかの話も有り、ゴブリン伝はまた二章終わってからとかになりそうです。

気が付けば私は、ゴブリンとなっていた。

何故ゴブリンに成ったかは不明であり、確かに人で有った記憶を持つ。

勿論、只のゴブリンが記憶を植え付けられただけ、という可能性も否定出来ない。

私は確かに人で有ったのだと想いはしているが、この記憶は白夢中の様なものかも知れない。

水面に写る緑の肌、鼻の曲がった醜悪な顔の小人が、私に事実を伝える。


ゴブリンの生活は貧相な物だったが、己の持った人としての記憶を自覚してから、世界が一変したと言えよう。

先ずは魔物に対する知識だ。

人が使う上位種の魔物とは2つの存在を示す。

元々強力なBランク以上の魔物の存在、そして種族的に上の、ゴブリンで言えばホブやキング、ウォーリアといった元の種族より力を持つ個体を示す。

誤解を防ぐ為に、ギルドによって殆どの魔物はランクで区別され、一般的には後者の意味で使われる事が多いが、エルフ等の長寿種の中には前者の意味合いで使う者もいる。

上位種の魔物は、進化、或いは魔物が発生する時、偶々豊富な魔力を取り込み上位種の姿で産声を上げるのだ。

魔力から産まれた魔物は成体の姿をしている為、元々の種族を率いり人間を襲う事が多々ある。

とは言え、魔力から魔物が生まれる事は滅多に無く、未だに原理は分かっていない。

それがゴブリン等が駆逐出来ない理由の一つだ。


最も重要な事は、魔物は進化する事で上位種に至れる。

今の私には必須ともいえる事柄だ。

冒険者等、強敵と交戦の末に生物としての格が上がるのか、進化した個体は二つ名が付けられる事が有る。

しかし、冒険者を討伐した場合、名が広まり徒党を組くまれて、討伐される可能性が高く、私の場合は避けねばならない。

私の望みは生存する事で有り、人との交戦は避け魔物と戦うべきだろう。


今までに研究者達によって解明されてきた、魔物が進化に必要な事柄は幾つかある。

先ず永く生きる事。

ゴブリンの成長は早く、生後3日で走り回り、15日、僅か月の半分で成体となる。

代わりに寿命が短く、数年程しか生きられず、尚且つ個体の弱さからゴブリンが寿命を全うする可能性はほぼ無い。

群れの主の為に生きるゴブリンの生態は、蟻に似ているのかもしれない。

群れの主と、子を孕む雌さえいれば、その他のゴブリンは外敵から身を守る為に使い捨てられて行く。

僅かな違いと言えば、蟲やりも知能が高い分、そこに恐怖という感情が生まれる程度だろう。


私は唯のゴブリンであり、寿命も短くこの身体では数ヶ月生きてれば奇跡と言えるだろう。

しかし、幸いな事に私が生まれてから未だ2日目である。

15日で成体に至ると言う事は、ゴブリンの成長速度は大まかに見て、成体に成るまでは1日に1歳程、その後は緩やかに老ていくとみられる。

ならば、私は成体となる15日までの間に出来る限りの事を為すべきなのだろう。

幸いにして、私が持っている記憶は冒険者と呼ばれる者たちのものであり、基本的な野営生活は勿論、戦いの知識すら有する。

そして、ゴブリンには言語が存在し、難しい事は理解出来ずにしても、意思疎通が可能なのだ。

後は従わせる事さえ叶えば、私の生存率は格段に跳ね上がる。


先ず行ったのは、集落の罠の改善である。

15日までの間に成体となる為、栄養失調による肉体の未発達は避けたい。

現在の集落の様子を見る限り、あまり楽観視は出来ない食事事情だ。

蔓などを編み、簡単な投網や、獣道に輪を張る等簡単な罠をゴブリン達に指導する。

勿論子供の私の事など最初は馬鹿にしていたが、未成熟とは言え元冒険者の名は伊達ではない。

技術で彼等を地に捻じ伏せた私は、ゴブリンの群れに一目置かれる存在となった。

妬み私を嵌めようと画策する者も中にはいたが、所詮はゴブリンの浅知恵であり、敵対する者に容赦はする必要は無い。

彼等は皆、罠の餌として有効活用する事にしよう。


半月が経過する。

ゴブリンとして成体となった私は、直ぐに進化しホブゴブリンと至った。

進化とはいえ、ホブゴブリンはゴブリンの身長や手足が伸びただけであり、元々集落にも何体か存在する。

剣も魔法も持たず、強さもそう変わらない為、冒険者達はホブも含めてゴブリンと呼ぶ事が多い。

しかし、人間の身体に近づいた事により、冒険者として培った技術を使える事は非常に心強く、少なくとも、この小さな集落では私に勝てる者は居なくなった。

また、集落にとって敵となる存在も明白になってくるものである。


先ずは、他の集落のゴブリンだ。

彼等は同族ではあるが、集落による上下関係が存在し、他の集落を襲う事で肥大化して行く。

私の集落は下の方に位置する弱者であったが、食料事情の改善により仲間達の身体は肉をつけ、雌は仔を孕み数を増やす。

力をつけた皆を率いて、私は他の集落を奇襲し、ゴブリン達を配下に加えて行く。

ゴブリンのコロニーが大きくなるに連れて、進化するゴブリンの数も増え、ホブゴブリンからゴブリンウォーリアに進化し力を得る者が出てきた。

進化と共に武器を得るのは、周囲の魔力を集めているのだろうか、何度見ても不思議な光景だ。


そして、私もまたゴブリンチャンピオンというDランクの魔物の中でも、上位に入る種族に至った。

他のホブゴブリンよりも2回り程高い、2メートルを超える身長に、屈強な筋肉を身に纏っている。

遠目に見れば、オーガにすら見える肉体に、遭遇した冒険者から奪った武器や防具で武装し、私だけであればオークと互角以上に渡り合えるだろう……オークの上位種を除けばだが。

ゴブリン達の集落は、森の浅瀬に有るのか新米らしき冒険者と交戦する事が多く、多数の仲間を失う代わりに、彼等の武具が手に入る。

余りにも冒険者を殺し過ぎれば、討伐部隊が組まれる為、ゴブリン達には冒険者と遭遇する事を避ける様に命令していた。

数が増えてきた分、余り効果が薄そうではあるが。


ゴブリンとなり危険な状況だったが、それでも私は平穏な日常を手に入れたと言える。

不安は有る。

何故か私がこの集落に生まれ落ちてから、ゴブリンの上位種の数が増えてきた事だ。

ゴブリンとは弱者で有る故に、人の領域に隣接した場所でも、危険視されて領主等に出兵される事は少ない。

しかし、私を含めた者達を、脅威と認識してしまえば話は別だ。

人は、総戦力で私を討ち滅ぼす事だろう。


問題が起きた。

私の配下が増えた事により、生活圏が広がった事でオークと遭遇したのだ。

彼等オークは森の深部に生活している。

我々ゴブリンにとっては格上の存在なうえに、食料や生活圏が重なる天敵とも言える。

何とか撃退したものの、唯のオークに対して数多の犠牲が出てしまう。

確かにゴブリンは繁殖が早いが、オークが徒党を組み、上位種が紛れ込めばあっという間に駆逐されてしまうだろう。

多数の犠牲を払らいつつも、オークの集落を調査した所、群れの長は比較的若い事が分かる。


オークの成長と共に猪の様に生える牙は、常に成長を続けており、この長さである程度の年齢を調べる事が可能だが、長は他のオークに比べて僅かに短い様だ。

長ともなるオークの年齢と強さは、余り関係無いだろう。

しかし、人の生きた記憶を持つ私の様に、老獪な強さが無い分素直に動いてくれる筈だ。

オークの長は、群れの長を巡る戦いに敗北し、己の群れを作るために森の奥から出て来たらしく、オーク達の中には負傷している者も要る。


ならば、勝算が有る今しかオーク達を斃す事は叶わないだろう。

私は仲間を率い、戦の用意をする中、もしもの事に備えてゴブリンスカウトを含む小隊に退路の調査を命じた。

新米の冒険者程度であれば、ウォーリアやメイジを含む彼等は遅れを取る事も無いと考えてだが、この時の私の選択は運命を分けるものとなるとは、想像もしていなかった。


オーク達との戦いは、当に激闘であった。

数では勝るゴブリンが、屈強なオークに群がり、彼等の死体を足台にオークの首元を狙うゴブリン達。

一太刀打ち合えば跳ね飛ばされるゴブリンウォーリアは、直ぐ様別のウォーリアがオークに斬りかかる事で、戦線を維持していく。

オークメイジが彼等に魔法を放てば、通常個体のゴブリンが勇敢にも肉盾となり、消し炭となった彼を踏み締めホブゴブリンが襲い掛かる。

血と肉が焼ける臭い、私は生前の記憶を何度も思い返す。

人の記憶が有るとは言え、人で有れば私はオークに勝てる事は無い。

私は、獣だ。

私は、ゴブリンなのだ。

仲間が開いた活路が、遂にオークの長へ導いた。


オークの長は、オークジェネラルというCランクに分類される格上だ。

しかし、戦の負傷か片目を失っており、其処が付け入る隙と言えよう。

元冒険者の物である、大剣を構えて、私は息を吸う。

オークジェネラルは、長剣の盾を持ち、その身の急所には金属鎧を身に纏っている。

流石はCランクの魔物であり、新米冒険者達が身に付けていた皮鎧よりも、よっぽど高価な品だ。

短く息を吐いて地を蹴った私を迎え撃とうと、構えた盾に衝突して轟音が響く。

カウンターを入れようとしたオークジェネラルは、驚いた様に目を見開いたが、戦士である彼は直ぐに表情を改める。


冒険者の記憶を持つ私は、魔法が使える。

しかし、進化したとはいえ殆ど魔力を持たないゴブリンチャンピオンでは、肉体強化の魔法を五分に満た無い時間しか使う事が出来ない。

故に私が取るのは、攻撃の瞬間にのみ強化し、僅かにでも戦闘時間を伸ばす事のみ。

Cランクの彼に脅威と映る髄力を発揮し、私は更に踏み込む。


オークが吠える。

私も吠える。

此処に理性有る人は居らず、仲間の屍を踏み締める畜生共だけだ。

払われた刃が顔を掠め、耳が焼かれる様な熱を感じるが、不思議と痛みは感じない。

中を飛ぶ我が耳に、オークが僅かに意識を移す。

潰れた片目の方から、私は身体を縛り尽くす程の魔力と力を込めて大剣を振り下ろす。

咄嗟に盾を刃との間に挟むが、私の一撃は止まらずに腕をへし折り、助骨を粉砕しつつ吹き飛ばす。

もう、殆ど魔力も残っていないままに、威嚇の為に私が勝鬨を上げると、オーク達は長を見捨てて敗走していく。

私は震える足を叱責し、虫の息のオークジェネラルにとどめを刺した。


身体の熱と共に、力が溢れ出る。

私は自らの進化を確信しつつも、周囲の仲間達に目をやるが、残っていたのは十にも満たぬ者達だけであった。

それでも、私を見る彼等の眼差しに淀みは無く。

頬を伝う滴は、彼等への感謝か、仲間への餞別か。

私達がゴブリンの住処へと戻ろうとしていると、偵察に放っていたゴブリンスカウトが単独で駆けた来た。

彼が語る者達は、仲間のウォーリアやメイジを軽々と屠ると、私達が戦っていた部族なのか、オーク達とも交戦を始め勝利を収めたそうだ。


彼等がオークに遭遇したという事は、森の浅瀬にオークが出没したと冒険者ギルドは警戒するだろう。

もしも私がこのまま戻れば、私という異常個体と会遇し、討伐部隊が組まれる事必至。

私は断腸の思いでゴブリン達にその事を伝え、別れを告げると、彼等は私と離れず同行する意を決している様だ。

激戦を超えた彼等もまた、私同様に進化し知能が上がっているのだろう。

少し前の様に、軽く言いくるめる事は出来ず、私は奇妙な仲間と放浪を決意した。

それにしても、ゴブリンスカウトから聞いた髪色は、彼の勇者を連想するが、私は不吉な思想に一塊の不安を抱きつつも、歩を進めるのだった。

彼の出現によりオークは浅瀬に現れた。

オークの長を追い、ベル達に狩られた者もいる。

オークとゴブリンの争いの後は、冒険者ギルドに報告され調査されるが、ゴブリンの群れがオークに遭遇しただけだと判断された。

ベル達がオークを狩らなかった場合、ゴブリンが減った浅瀬にまでオークの活動範囲が広まる他、新米冒険者達に多大な被害が出ていました。

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