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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
50/57

歴史書は語る

あらすじ

ベル達は王都を脱出しました


エピローグです

王国暦246年、サルマン王国の歴史の中で最も恐ろしい事件、悪夢の一夜が引き起こされた。

王宮に所属する錬金術師、ガラハンドが狂気に取り憑かれて引き起こしたと言われている。

この悍しい事件は、百年後も語り継がれていた。


事の起こりは4代目勇者が、当代の魔王を斃してから始まった。

魔王という、絶対的な悪がいたからこそ、人は互いに手を取り合い、大規模な戦争はさけられていたのだった。

しかし、勇者が魔王を討つ事で、魔族が統治していた土地や、互いの領域へと意識が移り、何時戦争が引き起こってもおかしくない時代に変貌して行く。


その様な時代の移り変わりの中、ガラハンドは勇者を支えた錬金術師メフィストに嫉妬し、彼が恐ろしい兵器を作っている、と王を唆し冤罪にて処刑させたのだ。

サルマン王国の貴族や民衆は、ガラハンドの言葉を鵜呑みにし、戦争で活躍したメフィストに恐怖する。

結果として、彼の処刑に賛同をする者が多く生まれてしまった。

処刑の役目を与えられた勇者は、友である彼に手をかけると、人に失望して姿を消してしまう。

サルマン王国に代々引き継がれる勇者は、彼が最後となった。

サルマン王国の錬金術師にとって、最大の栄誉となる賢者の称号をメフィストより引き継いだガラハンドは、彼の研究を己の物として発表していく。


当代国王レオンハルト陛下が、賢者の石の開発を命令してから僅か1ヶ月後に悪夢の一夜は訪れる。

錬金術師にとって賢者の石とは、己の研究の真理であり、観測者にとってはまた異なる答えが生まれる、答えの無い到達点だ。

メフィストの研究資料は、僅か1ヶ月で彼の賢者の石へと至らせる程進んでいたのだろう。

しかし、メフィストの研究を奪ったガラハンドは、具体的な完成予想図まで辿り着く事は出来なかった。

そもそも、賢者の石は存在した事が無く、万能な奇跡を引き起こす物質等、存在しないのだ。

人々が呼ぶ賢者の石は、神の領域に存在する空想上の物質であり、現在まで再現は不可能となっている。

過去に賢者の石として扱われた物質は、研究者にとっての賢者の石に過ぎない。

怪我を治療する回復薬を凝縮した、擬似エクリサー、恐ろしい破壊魔法を内蔵した魔道具、唯の水銀といった、同一の存在では無かった故に、幾つもの名を持つ。

研究者の到達点、己の人生を費やした答えこそが、賢者の石と名付けられる。


メフィストは己の答えを持っていたのだろう。

しかし、資料を読んだだけのガラハンドは、明確な完成像を持たない。

彼はただ、メフィストに勝る答えを得ようと、研究資料を再現する為に人体実験を繰り返した。

何故彼が人を魔物に変態させる研究に至ったのかは不明だが、一説では賢者の石を埋め込む事で、老いぬ身体を得ようとしたのだという。


王城の使用人や、町の孤児を消費し、更には大々的に求人をし、人体実験を行う。

被害者達は日に日に増え、増えた魔物によって、研究所は遂に決壊し、悪夢の一夜が始まった。

魔物の中には、ゾンビを作り出し統率する個体がおり、彼等は永遠の命を求めた貴族が成れ果てたと言い伝えられている。

阿鼻叫喚とした王都だが、人工的に魔物と化した者達は、ゾンビの産出能力がそれ程高く無かった。

そのせいか、死者の総数は過去最大の飢饉に比べれば、随分とマシである。

王都が荒れ、各地へ冬の支援が無くとも、その年の餓死者の数が少なかったのは、この実験で各地で口減らしの者が寄越されていたからだろう。


賢王と呼ばれていたレオンハルト国王陛下は、ガラハンドの目論見を看破していたのかは不明だ。

しかし、不老に釣られて魔物と化した貴族は、腐敗している者しか居なかったと記録されている。

結果として、悪夢の一夜を乗り越えたサルマン王国は、より屈強になったと言えよう。

王国が立ち上がるまでの時間は、勇者の魔法が目撃されていた事が抑制力として働き、周辺国は攻め入る事を避けていた。


悪夢の一夜にて戦死した、レオンハルト国王陛下の後を継いだのは、妾の子である第一王子ライオスであった。

彼は悪夢の一夜でも、街に姿を見せた巨大なトロルを討ち取り、逆賊に占領された王城を騎士、冒険者、傭兵達を率いり取り返した功績を持つ。

その後もサルマン王国が再び立ち上がるまで、彼は民に心を砕き、国税の大半を復旧に注いだ為に、彼の食事は平民の者と同程度であったと言われている。


多くの者に慕われるライオス王子だったが、彼は第二王子であるイルミが成人すると共に、王位を譲り、ひっそりと表舞台から姿を消したそうだ。

彼と同時期に、出自が謎に包まれている近衞騎士も1人姿を消している。

歴史学者の中では身分違いの恋だったのではないかと考えられており、蜘蛛の亜人である近衞騎士を表した小さな蜘蛛の御守りを、恋の呪いとして若い娘達は今も身に纏っているのだ。

彼等が何処に向かったのかは記録に残っていないが、幸せになった事を願うばかりである。

色々曖昧にする為に、実際に弾き起こった真実とは異なる、都合の良い歴史となっています。

ソラリスの後日談や、ライオスとメリッサの話を幕間にて語る予定です。

5話か10話分投稿してから、次章が始まる予定となっています。


此処までお読みいただきありがとうございます

お暇潰しとなって頂ければ幸いです。

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