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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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2人は新米冒険者

あらすじ

ベルとフィーは勇者と錬金術師であった。

2人は仲良く狩を始めた。

王都の冒険者ギルドで、マリアンナはため息を吐いた。

今日の午後に訪れた、2人の少年少女を思いして。

きっと、初々しくよそよそしく、青春を送っている事だろう。

夕方が近づき、以来報告の冒険者がチラホラとやってくる。

そんな冒険者達の中に、金と白の髪の毛を見つけて、思わず笑みが溢れた。

夕方の冒険者ギルドは、一仕事終えた冒険者達が酒盛りをして騒がしい。

それでも、命懸けの日々を送っている彼等にとって、この騒がしさは自分達を迎えてくれるのだ。


「受付嬢さん、報告に来ました」

「お帰りなさいベルくん、フィーちゃんも。それと、私の名前はマリアンナって言うの。マリアンナお姉ちゃんって呼んでも良いのよ」


ギラギラとした瞳に、かって相対した最強の古龍に近い何かを感じ取り、フィーは悪寒に身を縮ませた。

ベルは気にせず、カウンターの上に討伐証明部位の角を並べていく。

全部で3つあった、これは新米冒険者にしては良い結果だ。

但し、1つの角が真っ黒に焦げている事から、一匹の末路を想像して思わずマリアンナは苦笑いしてしまう。


「はい、確認しました。この角もそうですが、ホーンラビットのお肉や素材は、彼方の納品カウンターでお願いしますね」

「はい、分かりました!」

「ベルくん、行こうか」


昼間よりも距離が近づいている2人を、マリアンナはニヤニヤと見送った。

表情を見て、ギルドにいる人間は結婚が遠ざかる心配をしていることを、彼女が知ることは無い。


納品カウンターには濃いヒゲが生えた壮年の男が立っていた。

冒険者ギルドに在籍しているのは、冒険者を引退した者達が多く、女性の場合は大抵家庭を持ち辞める為、ギルド職員は自然と壮年の男が増える事になる。

納品カウンターの上に、ベルとフィーは申し訳無さそうに角を改めて乗せ、担いで来た皮袋から三匹のホーンラビットを取り出して並べる。

裂傷が多くボロボロな一匹、真っ黒に焼け焦げているものが一匹、そこそこ綺麗に首を刎ねられているのものが一匹だ。

納品カウンターの男が少し唸り、2人は身を縮ませる。


「初めてにしては、良いじゃねーか。こっちのボロボロの奴らは肉と角は引き取れるが、皮は使えないから合わせて3000ウィーロだ。こっちの綺麗な奴は皮を合わせて2500ウィーロになる。合わせて5500ウィーロになる」

「はい、ありがとう御座います!」

「結構な金額になったね。私、丸焦げにしちゃったから、もっと低いかと思ったよ」


ホッとした2人を、男は微笑ましげに眺めた。

自分のミスを認める事は成長に必須となるが、冒険者の中にはミスを認めず、他人に当たる者もいる。

そういった者達は、大抵が早死にする。

ギルドの査定に難癖を付ける事もあり、自分達で商品価値を落としておいて認めずゴネる。

そういった者達は、ギルドの評価が下がって行く。

遂には、買い取り拒否まで落ちぶれる者達もいる。

その点、彼等は事前にホーンラビットの有用な素材を訪ね、価値を落としてしまった点を反省する。

義務教育の無いこの世界では、こういった思考をする若者が珍しい。


この世界のお金は、日本の硬貨と同じ様な単位で作られている。

1.5.10.50までは形や大きさを変えた鉄貨。

100.500は銅貨と少し大きな大銅貨。

1000.5000は銀貨と大銀貨。

10000.50000は金貨と大金貨。

それ以上の硬貨もあるが、王族や貴族、商人の間の取引で使われる程度である。

納品カウンターの男は、パーティで分けやすい様に5000ウィーロは銀貨で支払ってやる。


カウンターを離れた2人は、冒険者ギルドのテーブルに座った。

既に大人数の冒険者達が座っているにも関わらず、二階にも食堂と酒場がある為かなりの人数である。

彼等が騒がしくするのは、いつ死んでも後悔がない様にしているのか、戦いへの恐怖を忘れる為か。

ベルとフィーはそれぞれ肉と魚を頼み、銅貨を払った。


「じゃ、フィー。分配をしようか」

「うん、良いとも。私はここの食事代を貰えれば、路上生活でもするから要らないから」

「あのな……ケホン。駄目だよフィー、女の子がそんな事言ったら。1人宿代込みで2000ずつ、残りはパーティ資金として貯めよう」

「そうか、そうか。ふふっ、女の子なんて言われたら、君に逆らう訳にはいかないねぇ、ふへへ」


ベルは深々とため息を吐き、周囲に盗聴されない様に魔法を発動させる。

音を遮断するのではなく、風で散らす事で意味のある発音に聞こえなくする魔法だ。

勿論幻影を見せる訳では無いので、読唇術には注意が必要だ。

そんな彼をニマニマと眺めながら、フィーは両手に顎を乗せた。


「それに、この身体は君の好みに合わせているのさ」

「好みか?私は成人してない少女が好きって訳じゃないぞ?」

「あれ?そうなのかい?君はよく、これくらいの少女を無意識に目で追ってるから、好みだと思ったんだけれどさ」

「……何を、あぁそうか」


ベルは少し悩み、漸く納得行った様だった。


「幼馴染だったんだ、私がまだ勇者として王都に徴兵される前に、村で1番仲が良かった」

「ふーん、オレよりも早く君の1番になるなんて、随分と幸せな娘だね」

「そうだと、良かったが……。何故、私が勇者に選ばれたか、知っているか?」

「辺境の村で、魔物の集団襲撃(スタンピード)が発生して、それを撃退したから、だろう?」

「ああ、その時の死者に彼女がいた」

「……ふぅん」


フィーは同情の言葉も、哀れみの視線も送る事なく、ただ返事をした。

あまり興味無さげに。


「彼女の死で、私は勇者として目覚めたんだ。もっと早く、目覚めていたら、と何度も夢に見て悔やんでな。恐らく、無意識に彼女を探しているんだろう」

「うーん、オレは人の感情って奴が苦手だからね。それは村人の仕事じゃないとか、理屈的な慰めになってしまうね。けれどさ、もしオレと同じ様に君を好きになっていたとしたら、伝えておきたい事はあるよ」

「なんだ?」

「彼女の気持ちを代弁するとか、大層なもんじゃないよ?」

「ああ」

「君を好きになって、君と一緒に過ごせた日々は幸せだったと思うよ。だって、オレがそうなんだからさ」

「そうか」


しんみりとしたテーブル、人付き合いが苦手なフィーにとって、正直逃げ出したい者であった。

だが、惚れた者の弱みである。

忙しなく指を動かしながら、早く料理が来る事を願った。


「それにしても、狡いなぁ」

「何がだ?」

「いいや、死者に嫉妬するなんて醜いけれどさ。彼女は今でも君の1番なんだろう?勝ち様が無いじゃないか」

「いや、1番はお前だぞ?」


ため息をつきながらテーブルに沈んだフィーは、ベルの言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。

パッと顔を上げる。


「えっ!?」

「いやだから、お前も言っただろう?男同士じゃないなら、両思いだって」

「いや、言ったけれどさ」

「それに、親友が女の子になったという事実に、私は少し興奮を覚えている」

「えー、なんか君の意外な性癖を知ってしまったよ」

「身体を作り変えてまで、転生してまで追いかけて来た娘さ、私も観念するぞ」

「じゃ、じゃぁ、今夜は同じべっ」


「はい、お待たせしましたーっ!」


ドカンと空気を読まず、2人を遮る料理の山。

安い、沢山が売りの冒険者ギルドのメニューは、大の男を腹一杯にする内容だ。

ひと抱えほどある魚と、ラグビーボールの様な肉。

魔王討伐の道中での日々で、見慣れた量ではあるが、研究者故に食が細かったフィーの顔は曇る。


「フィー、今夜はゆっくりお休みすると良いよ」

「うぅ、そうする」


胸焼けと腹の重さに悶える未来を見ながら、お残しを許さない勇者と共に山を突く。

幸せな空気は吹き飛んだが、ベルの顔は穏やかだった。

本日はここまで

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