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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
44/57

滅びを願う王

あらすじ

やっちゃえ、ゴーレム!

剣聖と呼ばれた男がいた。

代々伝わる王家の中、武勲のみで継承権を引き上げ、立ちはだかる兄弟を斬り捨てた。

男は、生涯不敗であった。

勇者が聖剣に選ばれ、故郷が破壊され、彼に剣を教え、やがて勇者は魔王討伐へと旅立った。

旅立つその日まで、勇者は剣聖に膝をつかせる事は叶わなかったという。


ライオスとメリッサは城内を駆ける。

時折現れる、使用人や騎士のゾンビに時間を取られつつも、王が居るであろう謁見の間まで漸くたどり着く。

豪華な装飾が散り貼られたの扉の前では、傭兵や近衛騎士、そして冒険者達からなる即興の戦力で、賢者の石(出来損ない)を埋め込まれたゾンビと戦闘が繰り広げられていた。

ゾンビ達は、ライオスを襲った近衛騎士だったのだろう、黄金の鎧に身を包み、生半可な武器は通さない。

意思は殆ど残っていないだろうが、生前の記憶に動かされているのか、繰り出す剣技は鋭い。


「ライオス殿下っ!?」


近衛騎士の一人がライオスに声をかけた。

ライオスは一瞬警戒した様子を見せたが、傭兵達と共闘している現状から、異形化していない騎士達は味方と判断した。


「君は、味方か?」

「ええ、私達の様な反勢力と言いますか、王命に難色を示した者達は全て地下に囚われていました。冒険者達に救出されましてね。ご無事でなによりです」


王命という言葉に、背後のメリッサの表情が僅かに強張る。

会話の途中に、元近衛騎士だろうゾンビ達が割り込み、ライオスは鎧を見に纏うゾンビの剣をいなす。

吐いた息と共に、渾身の力で胴体に一撃を叩き込まれたゾンビはたたらを踏む。

そこに差し込む様に距離を詰めたメリッサが、鎧の隙間に、下半身から生える腕で槍や剣を差し込む。

痛覚を失った身体は刺されるままに反撃をしようとするが、それを察した彼女は背後に跳んだ。


「只のゾンビですら、朽ちていない身体は厄介なんだけど、ねっ!」


生じた隙に、ライオスのバスターソードが頭に叩きつけられたが、半分程千切れた首は再生を始める。


「やはり、再生をするか……っ!」


苦々しげに呻く騎士から、時間稼ぎが敵の目的だと察した。

周囲を改めて見回し、ここまで登ったにしては人数が少ないと抱いた疑問を問うと、戦いながらも騎士は答える。


「ゾンビの発生や支配を、術者が行なっていると考え、分散し探索していますっ!!」

「空の魔法陣か」

「私達には見えませんけど……とぉっ!傭兵の中には認識出来る術者もいたそうです」

「義母上は無事か!?」

「王妃様と、ウッドベル公爵様は、謁見の間に居ますっ!」

「っ!」


ライオスはちらりと扉を見やるが、守る様に戦うゾンビの隙を縫うのは難しいと顔を歪めた。


「ライオス様、私が道を開きましょう」

「メリッサ、しかし、君はこれ以上無理をしたら……」

「もしも、私が魔物と化したら、冒険者にでもなりましょう。従魔として、首輪を嵌めてくださいね」

「馬鹿を言うな、嵌るなら指輪だ」


両腕を前に突き出し、メリッサは呼吸を正す。

増えた手は、時間と共に掌握出来、今では元の身体と同様に扱える。

徐々に人としての終わりに恐怖を感じるのは事実だが、それでも尚、この力に縋らねば力が足りないのだ。

愛しい人を導く為に、武器を握る手に力が篭る。

パキリと背中にヒビが入る感覚を受けながらも、メリッサは魔力を練り上げた。

元の身体よりも、格段に耐久性が上がった身体は、人の身なら破裂する程の魔力に耐えきる。


「征きます」


メリッサの胸元、紫の魔石が、紅く輝いた。

ヒヤリ背筋に流れる悪寒に、傭兵達は眉をひそめる。

放たれた彼女は、床を抉る程の力で踏み込み、道を阻むフルプレートのゾンビを、紙のように一撃で弾き飛ばしていく。

彼女の後に続くライオスは、背ヒビ割れを見て唇を噛み締めた。


「お前たち、道を開けてくれっ!!」


何事かと僅かに動揺したが、そこは戦場を渡り歩く傭兵達だ。

メリッサの風貌に一瞬戸惑うものの、すぐに道を譲りつつ、ゾンビ達の足止めを行う。

漸く父、レオンハルト国王陛下が居るであろう、謁見の間へと続く扉まで辿り着いた。


抜けた扉の先、響く剣閃に目を向けてみれば、随分の若い青年が剣を振るっていた。

青年の戦うのはフレディとパール。

ウッドベル公爵は王妃を守る様に前に立ち、冒険者ギルドのマスターや、屈強な傭兵は周囲に倒れ伏していた。


フレディは近いうちにAランクへと至る実力を有している。

彼が未だBランクに留まるのは、魔王が斃され、平和となった世界で、大きく貢献度を上げる事件が起きていないからだ。

全身に漲らせた魔力により肉体を活性化させ、更に筋肉の鎧の様に魔力を纏わせて強化魔法を施す。

極限まで圧縮された世界の中、フレディは息を吐く。

瞬き1つの、圧縮された時間の中で何度も打ち合う。

顔を垂れる汗すら鬱陶しい。

フレディの横を風の刃が吹き荒れ青年を襲うが、彼は魔力を纏わせた剣でそれを断ち切る。

パールの魔法をいとも容易く防ぐ青年に、思わず舌打ちする。

返す刃でフレディを迎え討とうとした剣の動きは、ライオスの登場にほんの僅かに鈍くなった。

フレディは踏み込み懐に入る。


「その腕、貰い受けるっ!」


王妃の発言から青年の正体は予想がついており、王都の現状を解決する方法を聞くまでは青年を殺す事が出来ないと考えたフレディ。

非殺傷を狙うには、余りにも強い青年を押さえるために、四肢の破壊を狙った。

上下から捻り切るかのように万力の力を込め、剣を握った手を襲う。

中を舞う己の腕には意に返さず、青年は入客に声を掛ける。


「来たか、ライオス。メリッサよ、大義であった」


一瞬で再生した腕を見て、フレディは己の失策に気が付いた。

今までも、散々に再生する魔物を倒してきたのだ。

目の前の青年が、賢者の石を埋め込んでいない訳が無い。

距離を取ろうと地を蹴るが、空中の剣を掴み取り追従した青年の剣は振り抜かれ、血飛沫が舞う。

腹を裂かれたフレディだが、背中を引かれ内臓まで刃が届かず致命傷とはならなかった。


「メリッサっ!?」


フレディの背から彼女の指先へと、噴出された蜘蛛の糸で繋がっている。

背中から広がる皮膚に走るひび割れは更に広がっており、メリッサに時間の猶予がない事が悟られた。

彼女を止めようとしたライオスだが、彼には現状を打破する手段は持たず、歯噛みするしかない。

青年はライオスと相対すると、ゆっくりと口を開く。


「未だ、その様な女に拘るのか。王命で、貴様を死地に送る様な輩だぞ?」

「王命?」

「然り、メリッサには貴様を儂の前に連れてくるように頼んだのだ」


その口調から、彼がレオンハルトである事を察したライオスは、メリッサを見やった。

自分を慕って、側に居てくれたのでは無いのかと。

メリッサは、少し寂しそうに微笑んだ。


「例え王命でしょうが、彼女の心は、私と共にある」

ソレ(・・)は最早手遅れだ、斬り捨てろ」

「断ります。貴方は、もう、王では無い」


ため息を吐いたレオンハルトは、ゆっくりとライオスに刃を向けた。


「何故この様な地獄を生み出したのですか?」

「地獄か、この様に生温いものを地獄とは、貴様は魔王との戦を知らんのだな。ゾンビ供の数が随分と少ないと、疑問に思わなかったのか?国を滅ぼすには少ないと」

「まさか、この数は意図的に?」

「民が滅んでは意味が無いのだ。私は、国の為にしているのだからな」

「国の為?人々を魔物へと変え、街を襲い、勇者とその友を排除して国の為と言うのですか!?今頃笑いモノでしょう、勇者を自ら失った国だと!」

「全て、国の為だ」


レオンハルトは頭を振る。

ライオスは周囲を伺うが、動ける者は少ない。

義母上は自衛は兎も角戦いに参加する事は難しいだろう。

フレディはポーションを飲み干し、血を止めているが、ライオスの会話に介入しない事から、僅かにでも体力を取り戻そうとしている。


「この国は勇者に依存している。民も、貴族もだ。それは力や、知恵、魔力と、形は変われど皆、勇者の恩威によって、生かされているのだ」

「……」

「勇者とて人、寿命で去るのだろう。今のままでは、国は勇者と共に滅ぶ。故に、必要なのだ。勇者では無い、国を守る英雄が」

「だから、メフィスト様にあの様ないわれなき罪を着せたのですか?」

「勇者の国に侵略するなど、人類の敵として名を売る様な行為、少なくとも数十年は有り得ん。魔王が討たれた今しかないのだ、我が国が自立するのは」

「だからと言って、民を犠牲にするのは間違いでしょう!」

「理想論では、何も救えない。ウッドベルも、クリスティーナも納得してくれたぞ」

「まさか、義母上(ははうえ)っ!?」


ライオスが王妃を見ると、彼女は悲しげに頷く。

王妃として、国の為に引き起こされたこの事態に、彼女は矛を収めるしか無い。

国の膿となる貴族は絶え、国象徴を勇者から変える。

多大な犠牲を出してでも、メリットは大きい。


ライオスは剣を構える。

尊敬していた父へと、剣を向ける事に、真夏の様に汗が吹き出、呼吸の仕方も忘れてしまう。


「そして、だ。この様な愚王を討てば、英雄よ。この愚王は、汚名と、国の膿と共に散り、他国にも言い訳が出来る」

「貴方は……」

「私を斃し、王となれ」


最早言葉は要らないとばかりに、レオンハルトは剣を抜いた。

白龍鉱を使った宝剣は眩い光を放つ。

ほんの一瞬、レオンハルトは王の仮面を脱いで微笑み、心の中で呟いた。


「友人達の望みを果たしたのは、私の我儘だがな」

ここまでお読みいただきありがとうございます


レオハルトは、泣いた赤鬼みたいな事している感じですが、拙い国営知識なので、疑問とか感じてもスルーをお願いします

いえ、本当に、はい

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