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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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機動兵器ゴーレム

あらすじ

フィーがゴーレムを使う

ゆらりと影を作るゴーレムを見上げ、フィーは不敵に笑う。

オリハルコンで作られた腕輪を媒体に、稼働魔力をゴーレムへと送る。

ゴーレムの稼働にはフィーの魔力を使い、各パーツに備えられたギミックや魔術の発動は組み込まれた魔石の魔力を消費する。

稼働の消費魔力の多さに、フィーは肉体の強化魔法を解除した。


「ギギ……」


ゴーレムの足元では、シャロンの手足を潰されて首が曲がっている。

無情にも、成人男性の肩幅程の巨大な拳が振り下ろされた。

骨の折れる音、肉を潰す音、ヘドロを叩く音を混ぜ合わせた合唱が奏でられ、トドメを刺そう拳を大きく振り上げる。

しかし、傷ついた集合体の腕を無理矢理動かすと、ゴーレムを弾いた。

更に勢いのままに距離を取り、逃走を始める。


「悪いけれど、逃がさないよ」


巨大なゴーレムを見て、多くの者達は大きさが変わっただけだと侮る。

トロルの様に巨大である事は、それだけで強味となるり、遠距離攻撃を搭載しているとなれば、移動要塞他ならない。

ゴーレムは、金属音を立て、音を軋ませ、掌に開いた穴をシャロンへと向けた。

内部が高速回転する音が響き、暴れ馬の様に振動する腕を反対の手で無理矢理押さえつけている。


初代勇者が異世界の知識とアイデアを組み込み、魔術によって回転を再現したのだ。

ゴーレムは魔法を使えるが、魔力を流し続ける事で発動する魔法は、ゴーレムの身体を経由する分、電気抵抗の様に効率が悪くなる。

その点、魔術は決められた手順や術式、魔法陣などで発動が可能な為、ゴーレムが有する魔力を直接消費する分、初動が早く効率も上がる。


「魔導回転砲、放てっ!」


何かが放たれた事をシャロンが理解した瞬間、轟音が耳を突く。

放たれた弾は、音速を超えてシャロンの身体を貫通、身体を捻り四肢を飛ばす。


熱を排出したゴーレムの腕から、ガシャンと巨大な薬莢擬きが排出された。

この巨大筒に、魔導筒の技術や、勇者の知識が詰められている為、毎回回収しなければならない。

勇者の知識が詰められている故に、ゴーレムが人型を模しており、ベオウルフはこの点に関しては全く譲らなかった。


「追撃しようか」


進み出すフィーの頬を、冷や汗が伝わる。

彼女は現在、自己強化や、攻撃魔法などで多大な魔力を消費しており、未熟な身体は早くも睡眠を求めている。

虚弱体質という訳では無いが、製造されて殆どを培養液で過ごした、赤ん坊の様な身体は、一夜で繰り広げた激戦を耐えれる程成長しきれていない。

普段は魔力を流し身体を動かしていたのだが、現在は魔力をほぼゴーレムへと流している。

肉体と瞼の重さを耐えるのは限界が近い。


メフィストの時は、勇者の魔力を貯蓄したり、魔石を用いてゴーレムの魔力を賄っていた。

現在は全ての稼働を自前の魔力で行なっている上に、マジックバックに常時仕舞われていたため、メンテナンスが出来ていない。

可動部位の僅かな軋みすら、今は魔力の消費を早めている。

シャロンはAランクの魔物の強さだ。

メフィストの時は弱く、強敵と単独で戦った事が殆ど無い為、フィーの戦闘経験は意外と少ない。

そして、現在の未熟な肉体では、フィーの実力はCランク冒険者程度だとベルに評価されていた。

希少な錬金術による魔法薬や、魔導具を用いれば話は別だが、いつ補充出来るか分からない消耗品を自分の実力だとは言えないだろう。


この戦闘は、実は余裕が無いのだ。

確実に勝てると確信する前に、友達(・・)が危機に陥った事を見て、駆け出していたのだから。

らしくも無いと笑みを浮かべつつ、大粒の汗を拭う。


「ドォジテワダジバッカりっ!!」


黒い肥満体との本体が、千切れた身体を捨てフィーへと距離を詰める。

ゴーレムの指先は筒状から、彼女目掛け石塊が連射される。

乾いた発砲音が連続して繋がる。

筒状の指に、土魔術で石が補充され、火属性の魔石を爆発させて弾を放つ。

1発につき、平均的な庶民の一食分が飛ぶ、かなりコストパフォーマンスは低い。

石塊によって、肉体を徐々に削り取るが、再生する速度が上回っているのか、その猛進を止めることは出来なかった。

シャロンの狙いはゴーレムではなく、それを使役しているフィーである。


「これで、どうだいっ!」


フィーが右手の薬指を曲げると、ゴーレムの右腕の装甲が一部外れ、手首が肘まで収納される。

握られた拳はシャロンに目掛け、轟音と共に発射され、反動でゴーレムの身体は仰け反った。

ゴーレムの拳は自重で地面へと落下を始めるが、すぐに手首の一部が外れ、業火が吹き出し推進力を得て再び上昇を始める。

顔面へと叩き込まれた拳に、シャロンは吹き飛びそうになるが、背中から触手を生やし地面に突き刺し耐える。


「%$○ッ!!」


最早言葉にすらならない叫び声を上げつつ、無理矢理拳の機動を変え、潰れた顔のままフィーへと飛びかかる。

跳躍したシャロンは、フィーが胸元を叩く動作と共に、その瞳を見た。


胸元の賢者の石は鼓動する、漲る魔力総量が跳ね上がり、瞳孔は縦に鋭く伸び、爬虫類を思わせる瞳が敵を射抜く。

限界まで魔力を漲らせ、身体を無理やりに強化し、発熱した身体からは蒸気が上がる。

早鐘の様な鼓動は、一刻毎に限界に近づく。


両腕のゴーレムでオリハルコン製の矢を放ちながら、試験管を口で加える。

獰猛な笑みを浮かべて、眼前に迫ったタールの様な腕を受け流し、勢いのままに投げ飛ばす。

空中のシャロン目掛け、フィーの体温によって気化した“夢幻の水銀”を投擲した。

咄嗟にシャロンはそれを払うが、膨張した体積によって僅かな衝撃で試験管は破裂し、“夢幻の水銀”が彼女を包み込む。


「っあ……!」


再びフィーは胸元を叩き、酸素を求めて息を吸う。

瞳孔は元に戻り、高熱によって弱った身体は膝をつく。

魔力を使い果した事で、意識の混濁も始まっていた。

ノロノロと、シャロンへと目を向ける。


“無限の水銀”は部類上は金属だが、錬金術で調合される魔法薬である。

通常の水銀よりも遥かに沸点が低く、人肌程度で気化する。

魔力を流す事で様々な形態に変化させる事が出来る反面、毒素は通常の水銀を遥かに上回る速度で身体を蝕む。

暗殺者も用いる事が多い夢幻の水銀は、中毒症状の最初に幻影を見せる事からこの名で呼ばれる。

愛しい亡き者を見る傾向が多いこの幻影によって、中毒者の魔力は夢幻の水銀で、更なる幻想を模るのだ。

抱擁したが最後、体温で急速に気化した夢幻の水銀を肺へと吸い込み、覚めぬ眠りに誘われてしまう。


夜風によって気化した無限の水銀は流れ、微睡みに囚われるシャロンの姿が残る。

彼女の魔石が何の魔物の物かは不明だが、歪んだ精神に影響され、元の生態とかけ離れた進化とすら呼べる変態をしていた。

それでも毒は防げなかった様だ。

四肢や呼吸器官の麻痺、大口の歯茎は出血し、口から生えた少女は、目や鼻から血を流している。

再生の為に、胸元の魔石は時折赤黒く輝くが、被爆した毒素の分解は出来ない様子だ。


「君とオレ、何方が醜いのかな」


風で飛ばされた夢幻の水銀は、再び液体へと戻る。

体内に取り込まれず、空気に触れたこの魔法薬は急激に酸化し、無害な物質へと変化される。

一部の金属の融解に使われるが、中毒症状や、急激な酸化をする為に、作成難易度が非常に高ぬ、錬金出来る者は少ない。


ただし夢幻の水銀は、()には非常に強い毒だが、魔物相手では殺しきれない特徴を持つ。

ゴーレムはシャロン目掛けて左拳を叩きつけ、何度も拳で潰す、再生しなくなるまで。

漸く動きを止めた後には、崩壊した地面と、赤黒く広がった汚れだけとなっていた。


魔力ポーションを飲み干したフィーは、巻物状のマジックバックを広げ、ゴーレムを収納する。

巨大なゴーレムを目撃した者は多いだろうが、術者であるフィーを見たものは少ない。

冒険者に検索はご法度である為、メフィストとの関係を探る事は、ベルが隣に居る限りは難しいだろう。


ベルの気配を探ろうとして所で、空へ落雷が走った。

遅れてくる轟音は、神の怒りの様に大地を揺らし響き渡る。

勇者しか使えないと言われる雷魔法の存在は、人々に勇者の帰還を知らしめるだろう。

最も、当の勇者は自らの意思で、既に責を降りているのだが。

此処までお読み頂きありがとうございます

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