ベルとフィー
あらすじ
冒険者ギルドを訪れた少年は、1人の少女と初めての依頼を受ける。
冒険者ギルドを後にしたベルとフィーは、門番達に頑張れと声援を受けながら王都の外に出た。
草原が広がる先には森や山があり、世界の広大さが広がる。
ニコニコと歩いていた2人は、周辺に人が居なくなった事を確認すると、外向けの顔を辞めた。
ベルは貫禄すら感じる仏頂面になり、フィーは下品にニヤニヤと笑う。
「また君に会えて良かったよ、今世でも宜しく頼むよマイダーリン」
「実験が成功したのは嬉しいが、マイダーリンって何だ」
「オレが君に振られた理由は男だったからだろう?なら、性別を超越すれば、両思いになるじゃないかい?ベオウルフ!」
「いや、その理屈はおかしいぞメフィスト」
魔王を斃した勇者ベオウルフと破壊の申し子メフィスト。
この発言を王が聞いたならば気がついただろう、ベルの外見は幼い頃、王都へ徴兵された勇者ベオウルフの物である事に。
メフィストは自分が殺される事を予見し、勇者に連絡用に魔道具を渡した。
自分は殺された瞬間に、魂を自らが造っていた人造人間に移し逃げ延びたのだ。
身体が死んでいる為、公式的にメフィストは死んだ事となる。
対して勇者であるベオウルフは、胸に賢者の石を埋め込まれていた。
後は魔力を流すだけで活性化し、若返りの効果により全盛期に戻るのだが、過剰に魔力を通す事で若返り効果を僅かに暴走させ、現在の少年の姿に至った。
賢者の石とは、数多の名の通り、形状も効果も用途も多く、まさしく万能な魔道具なのだ。
しかし、メフィストに調整されていたとは言え、ぶっつけ本番で少年に若返り追っ手を巻くのは、やはり勇者としての能力だろう。
無理やりな若返りにより、体の節々に違和感があるの為、下手をすれば死んでいたのだ。
これは、何方にも言える事であるのだが。
「まぁまぁ、落ち着きたまえよ……ベルくんだったかな?」
「ああ、ベオウルフから取ったんだ。昔はベオなんて呼ばれていたが、流石にそれは不味いと思ってな。頭文字が同じなら、咄嗟に呼ばれても分かり易い」
「流石は、歴戦の戦士といったところだけれど。オレも分かり易さを重視した故、あまり君の事も言えないか」
「それより、賢者の石の事研究資料の話は伝えたぞ」
「助かるよ、これで彼等は資料探しに夢中になる。新米冒険者のオレらに疑問を持つ余裕も無いさ。最も、明日の朝にはお手紙として届くから、徒労になるだろうけど」
飄々と肩をすくめるフィーに、ベルは顔をしかめる。
「め……フィー、アレはお前の研究だぞ?良いのか?奪われて、努力を踏み躙られて!?」
「おいおい、オレの為に君が怒ってくれるだなんて、君の為に取り付けた子宮がキュンキュンしちゃうじゃないか」
「冗談言っている場合じゃない、そもそも私はお前を手に掛ける事なんてしたくなかった。夢に出そうだぞっ!」
「それは悪かったけど、冗談でもないさ。正直に言ってしまえば、賢者の石なんて大層な名前が付いているが、これはかなり欠陥品なのさ」
トントンと自分の控えめな胸を叩くフィー。
フィーもまた、人造人間の核として、魔石ではなく賢者の石を用いているのだ。
「欠陥品?現に、これを核に私もお前も生きているだろ?」
「そうとも、万能な物体だからね。けれどさ、万能って言い換えると、器用貧乏で特筆が無いって事になるのさ。まぁ、この万能さは特徴なんだけど」
「凡ゆる用途に使える、魔法や錬金術の触媒にしろ、ポーションや道具の代わりにしろと、お前は言っていたからな」
「そうだよ、つまりは代用品なんだ。ベルくん、君は回復薬を作るときに、量産品の飼育された薬草と、丹精込めて丁寧に育てた最高級、何方が良い回復薬を作れると思う?」
「剣士の私には、武器で説明した方が分かりやすいが……まぁ、後者だろ」
「そうだとも、賢者の石は一定の水準以外の効果は見込めないんだ。言ってしまえば、農家の方々の方が賢者の石よりも優れたものを作ってるのさ」
「成る程」
「まぁ、この万能さ故に、若返りもオレ達の核にも使えるんだけれどね」
フィーはそういて微笑む。
2人は取り敢えずホーンラビット探しを始めた。
「それに、賢者の石はコストがかかり過ぎて実際の効果に見合わないんだよ。若返りだけなら、世界樹を原料としてエクリサーとか作れば良い筈だからね。あとは、竜の素材とかも要るけれどさ。それに対して、賢者の石はエネルギーの塊、半永久的に機能するとは言え、創り出すには割りに合わない程のエネルギーが必要となる」
「確かに、フィーでも二個しか作れなかったからな」
「まぁね、魔王や古龍程の魔力エネルギーが無ければ作れない。素材とするにしても、オレ達が敵対したのは彼等2人のみで、念入りな下準備で尚命を賭けてのギリギリの戦いだったろう?それなら、竜や世界樹の方が楽さ」
「だが、資料には賢者の石の造り方もあるのだろう?」
「うん、魔王や古龍程の魔法エネルギーが必要だとしか書いてないけれどね。まぁ、生命エネルギーでも集まれば良いから、例えばこの国の国民の命を使えば作れるかも。とは言え、生命エネルギーは効率が悪いからね、同じ量を使っても賢者の石となり得るエネルギーは劣るんだ。だから、彼等が頑張って命を奪ってもオレ達の劣化品しか作れないから安心して欲しいかな」
ベルは少し考えて、これからの計画を建てた。
勇者として、この国の為に戦う事は既に終わった。
返されたのは、恩では無く仇。
無関係な国民を救うと足掻く程、ベルもフィーも国に愛着が無い。
「なら、1ヶ月程を目標にこの国を出るぞ。早過ぎても目立つからな、取り敢えずはホーンラビットだ」
「任せてくれ」
ベルとフィーは互いに笑い合い、再び初心者冒険者の仮面を取り付ける。
国民の命を使うなど、現実的な話でない為、エネルギー総量が不足して賢者の石作成は打ち切られる。
少なくとも、ベルは常識的にそう考えたのであった。