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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
38/57

城にて目覚める

あらすじ

ベル達と、ライオス達の4人は城を目指す

ラーナやラピス達は南街の拠点へ戻る為に離脱した

戦士達は雄叫びと共に足を前に出す。

自らを奮い立たせる為なのか、相手を威嚇する為なのか。

何方にしろ、死者が相手では威嚇等意味を成さないのだが。


冒険者ギルドの者達は、何とか王城へとたどり着く事が出来た。

犠牲者の数は少ない。

貴族街から傭兵達が援護に混ざった以外にも、まともな騎士達が味方に付いたからだ。

彼等は、近衛騎士や宰相等の真っ当な重役と供に地下牢に捕らえられており、先行して城へと潜入したソラリス達がが解放して回った。

これにより、内部からの戦力と挟み撃ちとなる形で、有利な状況で戦闘が始まったのだが、賢者の石の為に命を使い果たした騎士達を、死霊術により不死者の軍団となった者達が相手となった。


死霊術の餌食となった騎士、中でも近衛騎士や隊長格はBランクの魔物である、ゾンビナイトと成り果てており、配下を指揮をする能力を持つ。

しかし、死を恐れ無いゾンビは手強かったが、Aランクの冒険者のソラリスが指揮官を優先的に潰した為、それ程苦戦する事は無かった。

現在は城の前に拠点が敷かれ、傭兵達と騎士達は中を、ソラリス達冒険者は外で入り口を固めていた。


「本当に大丈夫なのかな?」

「落ち着きな。臆病な事は冒険者にとっては大切だが、緊張に身体を強張らせて敵に遭遇したら、死ぬのはアンタだよ」

「は、はいっ!」


ソラリスとエリーの2人が城の玄関ホールに残り、フレディ達は傭兵と騎士達と供に城内の探索をしていた。

実験場には数組の冒険者達が向かい、捕らわれた人々の救出に勤しんでいる。


第4実験場の地下を1組の冒険者が訪れた。

壮年の男達は安全を確認し周囲を見渡すが、シンと静まり返った室内には命の気配は感じない。

しかし、犠牲となったであろう民間人や、使用人らしき者達が転がっており、苦痛に歪む表情から悍ましい実験が容易に想像出来る。


「お、恐ろしい……」

「悪魔でも喚んだのか?」


嫌悪感を隠そうともせず報告に戻ろうと踵を返すと、ボコりと泡立つ音が聴こえて立ち止まる。

仲間たちは顔を見て見合わせ、音の正体を探る事にした。

足下の死体を避けつつ、実験機材の中を探索するのは骨が折れ、諦めようとした彼等は、再び泡立つ音を捉える。

漸く見つけた音の正体は、円柱形の透明な容器に入った少女であった。

美しい姿に目を奪われていると、背後で音を立てて壁が動き、1人の男が入って来る。

薄暗く、顔がよく見えない。


「だ、誰だ貴様はっ!?」

「賢者……ガラハンドか?」


囚われた宰相や騎士の証言から、ガラハンドが王都に引き怒る異変の主犯の1人とされており、冒険者達は武器を構える。

しかし、ガラハンドは冒険者達が見えていないかの様に、少女に近づく。

周囲を照らす冒険者のランタンに照らされ、露わになった枯れ木の様に捻れる顔に、男達は呆然の固まってしまった。


「ば、化け物……?」

「魔物化しているのか?」


困惑しつつも、よろよろと近付く彼に冒険者達は後退りし、コツリと少女が入っている容れ物に当たる。


「奴を、勇者を殺すには、いや、しかしっ!?制御が出来るのか?くそっ!エリーっ!?何故だっ!!」


取り乱した様に叫ぶガラハンドを、意を決した冒険者達が取り抑えようとする。

その時、少女を閉じ込めていた容れ物がゆっくりと開かれた。

足元を液が流れ、彼等は背後を振り返った。

美しい少女はゆっくりと立ち上がる。

濡れた髪や、張りの良い裸体を滴る液体は、妖艶さを引き立て男達の目を引く。

夜会に出れば、途切れる事なくダンスに誘われる容姿だ。


少女は両手を広げ、にっこりと微笑む。

敵前で有るにも関わらず、惚けた男達の足元に影が落ちる。

光源を無視した円状の影は、ゆっくりと大きさを増して行き、冒険者達の足元まで広がった。


「あ…」


気が付いたのは、流石は熟年の冒険者と言うべきか。

だが既に手遅れな状況であり、彼等が見たものを理解するよりも早く、ガチンと影から飛び出た口が全員に喰らい付いた。

歯から逃れた指や頭部の一部は宙を舞い、大口に吸い込まれて行く。


影から湧いた黒い肉塊は、醜く肥え太った女性の様であり、肌は溶けたコールタールの様にドロドロと不規則に滴り落ちる。

ボコりと泡立つ様に体表が膨らみ、黒い泥は人の形を型取り、架空に手を彷徨わせる。

その数は、先程喰らった冒険者達の数と同数であった。

少女が手を下ろすと、黒塊は再び影に沈んで行く。


「シャロン嬢、意識はお有りでしょうか?」

「……」


少女の穴の様な瞳が見据え、ガラハンドの顔が引き攣る。

ザジルの娘である彼女は、我儘でヒステリックで、醜く肥え太っていたが、父親の権力で好き勝手していた。

第一王子のライオスに一目惚れし、父親の力で婚約しようとまでしていた。


メリッサには嫉妬に燃え、2人が引き離されたのも彼女の仕業でだ。

賢者の石の実験体にされたのは、ガラハンドが彼女の外見を好んでいた事もあるが、美しい外見を持つメリッサが、悍ましい姿へと変貌する事を嘲笑してやろうと彼女が願っていた為、という事になっていた。

しかし、現在の姿は真逆であり、儚さすら身に纏う静かな佇まいに、知らぬ者ならば釘付けとなるだろう。


まるで、食虫植物だとガラハンドは息を呑む。


「……まぁ、良い。貴女が動けば場は混乱し、私は研究資料を持って逃げ果せる。メリッサは惜しいが、放って置いても自壊する」

「……っ!」


チラリと細められた瞳がガラハンドを捉える。

口から溢れた女の名に、未だ執着する様子をガラハンドは笑う。

嫉妬深い癖に、自らを磨かない女程酷いものは無い。


「貴女の待ち人は、もうすぐ私を追ってくるでしょうが。それよりも、外に出れば餌が沢山有る事でしょう」


ガラハンドの爆破(バースト)により、第4研究所の壁が大きく吹き飛んだ。

爆音を多くの者が聞き付け、冒険者達が集まっていく。

ソラリス達も例外で無く、粉塵の中からゆっくりと歩み出る美しいシャロンに誰もが困惑しつつも、その容姿に惚けてしまう。

ここまでお読み頂きありがとうございます

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