王城を目指して
あらすじ
ガラハンドを撃退、モーガンを討伐出来た
亡者が蔓延る王都、フラフラと歩み寄るゾンビは、ラーナの魔槌に頭を吹き飛ばされた。
腕を組んだラーナは魔力の消費によって、顔を蒼くしたエルフを見る。
「フィー、そこな小枝と童供に魔力回復薬をくれてやるのじゃ」
「うん?ああ、良いとも」
「寸胴の言に従うは癪だが、感謝する」
「すまない、この様な非常時に希少となる物を」
「すみません……」
ライオス達と合流したベル達は、メフィスト時代に作成した魔力ポーションを投げる。
原料となった、恐ろしく希少な素材を聞けば、投げた蛮行を咎められるだろうが、生憎と希少性に気が付いたのは、口を付けて目を見開いたエルフのミミのみだろう。
何か言いたげなミミだったが、冒険者の詮索は禁止とされている事はあまりに有名である。
密偵とはいえ、命の危険に態々自分から介入する訳にも行かず、ため息と共に気持ちを吐き出した。
そもそも、僅かに垣間見たベル達の戦いは、死線を潜り抜けた者特有の立ち回りであり、永く生きたエルフのミミすら驚いた。
彼等もまた、自分同様長命種なのだろうかと、病的に肌の白いフィーを見ていると、視線に気が付いた彼女と目が合ってしまった。
お互いに、曖昧な笑みを浮かべて視線を外す。
「儂は拠点に戻るとしよう」
「くっくっ、寸胴は、不死者が怖いのか?」
「阿呆。脳筋な小枝と違うて、儂は拠点の要じゃて。さて小枝、そこの娘を連れて城に行くのかえ?」
ミミは少し考え、頭を振った。
「私以外にも密偵は居る故、気に喰わんが物資を運ぶ為に戻ろう。……ラピスを危険に晒すのは、面白くないしな」
「ふん、相変わらずな……うん?ラピスじゃと?」
「黙れ」
旧知の仲であるラーナは、プライドの高いミミが名前を呼んだ事に目を見開く。
生憎と呼ばれた当人は、マリアンナに支えられており、聞き逃した様子だ。
人間大砲について口に出すことは無かったが、皆思う所が有った様子であり、意を決してラーナに尋ねたのはライオスであった。
「ラーナさん、先程の兵器は、何だ?」
「王族が怯えるとは、造った甲斐が有ったのう」
「茶化さないで貰いたい。道徳云々を今問い詰めるつもりは無いが……」
「童、安心せい。ありゃ、メフィストの遺産じゃよ。試作故、一発こっきりで女も満足出来やしん」
「人を、弾にしたのか?」
「なに、犯罪者が1人失踪するくらい、おんしらでも日常茶飯事じゃろうて」
貴族の尻尾切りの為に、騎士に捕らえられた手駒が暗殺される事は多い。
それを行うのが賄賂を貰った騎士なのだから、闇に葬られる事は多々有り、有権力者達の腐敗は進んでいた。
貴族や騎士の腐敗を、実際に目の当たりにしていたライオスは、眉を寄せて黙ってしまう。
「ライオス様。私は貴方が心を痛めつつも、内から変えようと戦っていた事は存じてます」
「それでも、俺にもっと力が有れば、君を救えたかもしれないのだ」
「私は、近衛騎士のメリッサである内は、貴方と並ぶ事は叶わない夢でした。一時とは言え、貴方の心を貰い、隣に立てる。この身体に、何を不満に思うのでしょうか」
「……一時じゃないさ」
「砂糖を蒔いとる暇が有ったら、務めを果たさんか童供」
「い、いえ、そんなんじゃないですよ」
「それより、マリアンナさん。冒険者ギルドの説明をお願いしても良いですか?」
「ええ、任せてベルくん」
目の前で愛が育まれている様子を、フィーは羨ましそうに眺め、ベルの袖を引き苦笑いされる。
マリアンナによる冒険者ギルドと、傭兵達の作戦にライオスは頷いた。
「成る程、ギルドらは王城奪還を目指すのか。それは、騎士の仕事じゃろうて」
「お恥ずかしながら、城はまともな機能はしていないでしょう」
「童、おんしはどうする?」
「勿論、征きます」
ライオスは王城を指差す。
「王城の上に魔法陣が浮かんでいるのですが、アレはメリッサや、他の方には見えません」
「え、あの、ライオス様……」
「此処には魔術に精通するエルフが居ます。情報を正確に伝えると事が、解決の糸口になりますから」
ライオスに告げられ、マリアンナは肩を落とした。
冒険者ギルドの方針では、王族にしか確認出来ない魔法陣の事は、秘匿すべしとなっていた。
これは、王族の信頼を落とさない為であったが、少しでも早く事件を解決する事を考えたライオスは、ラーナやミミに意見を聞く事にしたのだ。
「ふむ、王族にしか見えぬ魔法陣、か。それは、十中八九呪術だ。我等、エルフに告げた事は正しい」
「さ、流石っス」
「当然だ」
「小枝、無い胸を見栄として張った所で虚しいだけじゃろうて。早う、結を述べんか」
「五月蝿い寸胴だ」
ミミは舌打ちに、ラーナの頬はピクリと動いた。
魔術の、特に呪術に関しては、この国では表向きに禁止されている。
妾の子とはいえ、第一王子であるライオスは全く知識が無った。
近衛騎士であるメリッサも、元の魔力量が乏しかった為、基本的な魔法以外の知識が少なく、呪術に関しては触れた程度である。
どれほど急いていようと、皆はミミの言葉を待つ他ないのだ。
勿論ベルは除くのだが、彼が語る事は無いだろう。
「死霊術や呪術を含む魔術は、陣の発動を秘蔵する技術が有る。だが、術者自身は描く上でどうしても観なければならない。故に、術者以外に見えぬ魔法陣となるが、術者自身という所が肝になる」
「血族、血を引く者は観る事が出来る……?」
「ああ。冒険者ギルドは多少魔術の心得が有る故、お前達にしか見えない陣と聞いて察したのだろう。王都を覆うこの呪術は、王族が術者だ」
術者の存在に、ライオスは驚き目を見開いた。
レオンハルト陛下しか考えられないのだ。
勿論、隠し子が存在する可能性も有るが。
尊敬していた父がこの様な災害を引き起こした事実に、表情が歪む。
「術の効果までは近付き文字を調べなれば分からないが、碌な内容では無いだろう」
「な、何故、この様な……」
「私はヒューマンの祭り事は知らぬ、理由は分からん」
ベルは予想するレオンハルトの目的を語るべきか考えたが、ベルという少年には知り得ない事実だと、語る事を辞めた。
勇者を辞めた彼に、国を救う義務は無い。
しかし、酷い顔色のライオスに助け船を出した。
「ライオスさん、僕達には想像も出来ないですけれど、本人に問い詰めれば良いのではないですか?」
「……っ!そうだ、そうだな。何方にしろ、私は父上に会わなければならない」
「ライオス様、私も供に」
「メリッサ、だっけ?君は、大人しくしていた方が良いと思うよ」
フィーの発言に、メリッサは困った様に眉を下げる。
「ガラハンドを診て、確信したけれど。君が埋め込まれている魔導具は、エネルギーを安定して物質化する為に、核として魔物の魔石が使われているのさ。君の姿もそうだけれど、その魔導具を多用すれば、魔石が活性化していき、次第に呑まれて成れ果てる」
「……」
「魔物に変貌するのさ。意思が有るかは知らないけれども、下手を打てばガラハンドの配下に成るか、理性を失い獣になるんじゃぁ、ないかな」
「そんな……」
ふむ、とミミは腕を組み頷くが、モーガンとの戦いを思い返す。
「銀の娘よ、良いか?」
「うん?なんだい?」
「先程のモーガンとやら、奴はアンデットだと見受けられる。肉が腐ったかの様に、不自然に柔かった」
「アンデットを、操っている……?」
「術者を斃せば、徘徊するアンデットは消滅するのかもしれませんね」
「ガラハンドを追う理由が増えました」
「兎も角、奴が死霊術でアンデットとして、賢者の石を埋め込んだ者達を操っていると仮定するならば。生者である私は操らないと?」
「あくまでも、可能性だがな」
唸る者達を余所に、ラーナはヒラヒラと手を振って拠点へと戻って行く。
マリアンナやラピスも慌ててそれに続くが、ミミはベル達に何か伝えるべきかと考えたが、結局何も問う事無く行ってしまった。
「魔法を使うなと言われましたが、私は例え魔物と成り果てようとも、義を貫きます」
「なら、オレからは何も言わないさ。決めるのは君だ。けれど、愛した者を守りたいなら、君自身も守るべきだ。そう、私は教わったからさ」
「メリッサ、どうか無茶はしないでくれ」
頑なに同行を求めるメリッサに折れたライオス達と共に、ベル達は王城へと反転した。
王都に蔓延るゾンビは、ガラハンドを倒した程度でどうこうなるものでは無いとベルは理解していたが、告げる事はしなかった。
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