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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
35/57

愚者の輝き

あらすじ

ラーナには秘密兵器が準備してあった

ラーナの武器を持ち逃げしようとした商人は、家族諸共ゾンビの餌食となっていた。

しかし、如何に強欲な商人とは言え、ゾンビの徘徊する街を、護衛も付けずに走り抜ける事が可能だとは考えていない。

故に、彼を唆した首謀者は別人であった。


「この手を離せ!私は第8騎士団、団長だぞ!?」


首謀者は、治安を維持する第8騎士団、彼等を纏める筈の騎士団長であった。

一応は貴族の出だが、三男である世継ぎのスペアを果たして貴族と呼べるか疑問を抱くが。

そもそも、貴族とは当主のみを指し、その子は貴族では無いのだが、それはそれ、自らを貴族だと語る子が殆どであれば世論は捻れてしまうのだろう。


兎も角、如何なる理由が有ったとして、火事場泥棒の主犯として捕まれば肩書き等関係無い。

更に言えば、法が機能していない今、私刑こそが正当な裁きとなる事だろう。


「手こずらせやがって!」

「テメェの肩書きは関係ねぇっ!」

「私の罪の証拠はあるのかっ!?」

「証拠も何も、貴様は部下達と共に現場に居ただろうに」


毅然として冒険者が語り、第8騎士団の者達は上司である彼を白い目で見る。

彼の横暴な態度は日頃のから目に余るものであり、ゾンビの餌食となった取り巻きを除き、慕う者は皆無であった。


「わ、私は素早く現場に駆けつけたのだっ!彼の商人が逃げようとし、ゾンビが侵入した事に気がついたのだっ!!」

「そうか、ではどうして駆けつけた筈の貴様達は腰を抜かし、這い蹲っていた?」

「ぬぅ、そ、それは……」

「うだうだ言ってんじゃねェっ!」

「ひい、ぶ、無礼だぞっ!!」


手足を縛られた騎士団長は、雑に担がれながら防衛最前線に建てられたラーナの弟子達が集う部屋に投げららる。

呻く彼を蚊帳の外に、冒険者達は侵入したゾンビの報告を行なっていた。


「ラーナ殿は不在か?」

「姐さんなら、前線にでてるぜ」

「師匠は、あの巨大な化け物を抑えに」

「化け物?」


冒険者や騎士達は、フィーの光球に照らされた、モーガンの巨体に誰もが驚愕した。

ラーナの援護の為に、モーガンの元に行こうとする強者もいたが、戦う術を持たない住民を多く保護していることもあり、ラーナの弟子達は彼等を何とか押し留めた。

騎士団長は猿轡をされ、手足を縛られている。

自分達の子供(商品)どころか、師匠であるラーナの武具を持ち出そうとしていた、彼への視線には殺意が籠っている。


元より、ドワーフの国では、泥棒の手を切り落とす事が刑として行われる。

名匠の作品を盗む事は、侮辱として更に罪が重くなる。

盗んだ数に連れ、落とす手足の数が増え、最後には首と共に命を落とす事となるだろう。

その視線に、流石の騎士団長も冷や汗をかく。


「アンタ達は、此奴をどうするつもりだ?」

「わざわざ、生かして連れてくる様に言ったのには、理由が有るんだろう?何時まで籠城(ろうじょう)するのか不明な今、無駄に食糧を消費するのは悪手だからな」

「訳は言えぬが……何、償いはさせよう」


何か言おうと口を開いた冒険者を、年配の冒険者が止める。

ラーナの弟子の中にはヒューマンもいるが、ドワーフの割合が多い。

彼等はドワーフの国から移民して来た者であり、論理価値がヒューマンと異なる面も多い。

命を込めて武具を打つ彼等だが、魔導具の技術を工業や兵器に転用した魔工学の最先端を行くドワーフ達が、償いをさせるのだ。

楽には死ねないだろうと、壮年の冒険者は考えた。


騎士団長は運ばれ、見晴らしの良い高台に投げられた。

肺から吐かれる息と共に呻き声が溢れる。

高台はモーガンの姿が良く見え、蒼白してしまうも弟子達には関係無い。


「わ、私をどうするつもりだ?」

「姐さんを助ける為、アンタには弾となってもらう」

「何、只の兵器実験だ。安心して、くたばれ」

「じ、人体実験なんぞ、ゆ、許される事ではないぞ!」

「鍛治師の、それもドワーフの我が子を盗めば、人として扱われないのは当然だろうが」


その後、騒ぐ騎士団長を無視しながら、弟子達は着々と準備を進める。

縛られた彼は首に無骨な首輪を嵌められて慌てる。


「こ、これは、奴隷の首輪っ!所持するだけで重罪だぞ!!」

「はん、盗人猛々しいな」

「なにぃっ!」

「ほれ、用意出来たぞ」


奴隷の首輪は禁忌とされる技術の1つであり、 術者の魔力を引き金にして発動し、装着者の魔力で動き続ける。

起動時に記憶した魔力を流しながら、命令された者は決して逆らう事が出来ない。

故に、本人の意志に関わらず、兵士として使うも、愛玩として使うも、玩具や実験動物として使うも思いの儘となる。


ドワーフの技術者と、ヒューマンの呪術師が作成したと言われているが、表向きは全ての国で禁止されており、所有、開発に関わった者は処刑される。

過去に奴隷狩りが行われた際使用されていたが、魔力を記憶させた所有者が死亡した事で、奴隷達の楔が解け、大規模な反乱から奴隷の首輪を輸出していた国が滅んだ。

反乱時、丹念に作成技術を焼却し、技術者達を処刑していた為に、現代では作成方が失伝された。

それでも、この魔導具の有用さから、現代に至って裏社会の一部で取り引きされていたのだ。


奴隷の首輪は、勇者ベオウルフが違法奴隷商を潰した時に手に入れた。

ドワーフやエルフ、獣人や魔族を違法に取り扱っていた奴隷商で、一部の奴隷の首に嵌っていた。

奴隷の首輪を回収したメフィストは、解析して作成方法を解明し、尚且つ改造を施し、飽きてラーナに押し付けていたのだった。

改良された奴隷の首輪は、2人が協力して趣味の赴くままに作成した兵器に必要となる。


人間大砲だ。


「何だこれは!?」


騎士団長は、目の前の人が軽く入れる大砲を目の当たりにした事よりも、自らの体内で荒れ狂う魔力に苦悶を浮かべる。


「その首輪は、魔力を暴走させる」

「アンタも貴族だったのなら知っているだろ?幼い子供が、自身の持つ魔力量に耐えきれず、周囲を巻き込む魔法の嵐を引き起こす様を」


ゴクリと喉を鳴らす、己の運命を悟ったからだ。


「安心しろ。これは自らの意思でしか、魔力暴走を引き起こさない、という事になっている」

「なっている……?わ、私が自らの意思でだと?馬鹿馬鹿しいっ!」

「アンタにも家族がいるよな?」


ドワーフの1人が眉に皺を寄せて呟く。


「脅すつもりか……っ!」

「アンタの家族は、火事場泥棒をして何人も死なせた犯罪者の身内になる。果たして、今後王都で生活出来るのか……?」

「……」

「真相が判明している今、王都が救われようがお前は死ぬ。ならば、華々しく英雄として散る事で、アンタの家族は救われる。英雄の、身内となる事でな」

「どうする?」


彼にも家族はいた。

決して、円満な家庭とは言えなかったが、それでも妻と息子が。

奥歯を噛み締めた()は、巨大な怪物を睨みつける。

彼にも理由が有った、犯罪行為をしたのは王都の有様を見て、逃亡後も家族を養いたかったのだ。

自己中だが、人間らしいと言えるだろう。

追い詰められた人間は、本性を曝け出してしまう。

勿論彼は日頃の態度も他人から見れば、褒められたものではない所か、犯罪スレスレの行いもしてきた。

だが、それでも父親で有る事を、少なくとも赤子を抱いた時は誇りに思っていた。


「私は、ああ、いや。俺は、犯罪として、父親として、受けよう」

「そうか、姐さんを助けてやってくれ」

「あ、ああ……」


彼の意思など、元から聞く耳持たない予定の弟子達であったが、覚悟を決めたものに敬意を払った。

何をされるか分からない不安と恐怖を抱えつつも、妻子へと迫る巨人の脅威を抑えたい男。

例え犯罪者と言えど、ドワーフは情に熱い種族でもある。

1人の弟子は、男に度の強い酒を飲ませた。

喉が焼ける様な強さに顔を顰めつつも、恐怖が僅かに緩和され、彼等の優しさだと素直に受け止めたのであった。


「魔力を、暴走させるならば、生きて、た、たどり着かねば、ならないだろう?」

「そうだ、だから故に貴様の様な犯罪者……いや、英雄の命を借りたのだ」

「俺は、魔力が少ない……」

「安心しろ、この首輪自体に魔力を貯蔵し、暴走にもそれを用いる事で、赤子ですら弾となり得る。危険過ぎる為にお蔵入りしたがな」


キリキリと魔導砲の歯車が回り出す。

標準は既に合わせている。


「ヒューマンは、こういう時なんて言うんだ?」

「……いずれ空で、だ」

「ドワーフとは違うのか。まぁ、良い。貴様を許すつもりは皆無だが、祈ってやる」


弟子達、男はただ目を瞑り、同じ言葉を放つ。

ゆっくりと丁寧な動作で人間大砲に男を入れた。

1人のドワーフが、紐のついた筒に火を付けて放り投げると、桃色の光が一瞬拡散し、悲鳴と爆発、断末魔を混ぜ合わせた音が響いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます

本日の更新はこちらまでです

ブクマなど、日々の生活の希望となっておりますので、感謝の極みですございます。

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