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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
34/57

魔槌の名

あらすじ

モーガンと戦闘していたら、色々合流した

ドワーフやヒューマン、王都の技師たちによって突貫作業で作られたバリケード。

同じく突貫で建物の屋根に取り付けられた監視場で、ラーナは腕を組み唸っていた。

先程上がった巨大光球で街に浮かび上がった巨体、モーガン。

勿論ラーナは彼が元騎士であった事など知らず、只の化け物としか認知していない。


「頼むっ!入れてくれっ!」


モーガンに遭遇し、逃亡した第2王子含む冒険者ギルドの者達は、何とかバリケードまで辿り着いていた。

しかし、街を徘徊するゾンビを引き連れており、迂闊に彼等を入れる事は危険である。

更に不安な事に、彼等を救出する為に配置していた冒険者や衛兵等の戦える者は現在持ち場を離れ、バリケード内に侵入したゾンビの排除に取り組んでいた。


「全く、ヒューマンは嘆かわしいのう」


彼女が漏らすのも仕方ない。

ゾンビが、バリケード内に侵入した経路は人災であり、ラーナの武具を持ち逃げしようとした商人の仕業であった。

非常時である為、王都一の鍛治師であるラーナが手掛けた武具を無償で貸し出していた。

それに目を付けた強欲な商人が、持ち逃げして売り捌けば王都で被った損害を取り戻せると、馬車に乗せてバリケードから逃走を試みたのだ。

彼は既に死体となっているが、共犯者を何人も捕縛する事が出来た。


バリケード内に侵入したゾンビ達を、何とか冒険者が結託して抑えていた。

溜息を吐いたラーナは、近くに控える弟子を見る。


「良いか、儂が合図を送ったら放て。態々(わざわざ)生け捕りにしておるのは、その為じゃからな」

「勿論です」

「では、儂も参るとしようかの。指揮はお主にまかせたのじゃ」


ラーナは槌を担ぎ獰猛に笑う。

分類条件は魔剣と呼ばれるこの槌は、炎の精霊イフリートの魔石を用いたラーナの作品だ。

銘はドン太。

若りし頃、火の魔法を不得意としていたラーナは、火属性の槌を作れば鍛冶が捗るとイフリートの魔石を使用し、妖精の悪戯によって産まれた魔剣だ。

今は所有者をラーナと認めているが、銘の酷さの所為か当時は必死に抗っていたそうだ。


自分の身長程もあるドン太を軽々と担ぎ、屋根の上から飛び降りる。

着地に驚く周囲に構わず、ドン太を振ればゾンビ達が吹き飛び、燃え盛る。

同時にバリケードの一部が開放され、男達が声を上げ、少年達は駆け込んで行く。


「早う入れっ!」

「ま、待ってください!まだ、仲間が居るんですっ!」

「あの巨人を足止めしていて……っ!」

「分かっておる。儂が出る、安心しておれっ!」


ラーナの外見に眉をひそめる少年達だったが、ギルド職員達は少年達を促した。

憤怒の剣(ラース)とは異なり、魔槌ドン太が放つ炎は紅蓮である。

だが波状に放出し、鎧の様に炎を纏うラーナは、集団戦を得意とし、ベルにも引けを取らないだろう。

勿論、本来の用途は鍛治であり、ラーナ自身も本職の戦士という訳では無い。

しかし、優れた職人は、自ら素材集めをする者もおり、彼等は自然と実力を備えるのだ。


「伏せよっ!!」


ラーナの言葉に慌てて少年達が地に伏せば、放射状に炎が走り、背後のゾンビを火達磨に変える。

倒し切れなくても、表面が炭化したゾンビは肉体の劣化で動きが悪くなり、素人でも容易く倒す事が出来る。

ギルド職員の戦士は気合と共に戦斧を振るい、活路を開き、少年達に守られた第2王子は這々の体で避難所へと入っていった。

周囲を一瞥し、壁を見上げたラーナは部下と目配せし、モーガンを目指し駆け出す。


魔力を体内に巡らせて軽く飛び上がると、大柄なドン太に両足で乗り、槌から炎を排出して推進力を得る。

魔法の箒を立ち乗りする様は、外見年齢からも魔法少女を連想するが、実年齢は少女とは途方も無く離れているのであった。


モーガンに近付くにつれ、その巨大さが露わになる。

振るわれた拳の先には冒険者ギルドの制服に身を包んだ女性がいたが、彼女は紙一重で建物外壁に跳躍。

しかし、彼女にとっての必死の一歩は、モーガンにとっては僅かな距離でしかない。

彼女を叩き落そうとした平手が迫り、苦々しげにエルフの少女ミミ(仮名)が手元の符を掲げると、生じた竜巻が巨大腕を弾き飛ばした。

血肉を撒き散らした腕は、捻れる様に肉が盛り上がり再生する。


「厄介だ、このままではジリ貧だぞ」

「不味いっスよ!」

「……っ!」


体内の魔力を大量に消費していた為か、ミミの風魔術の出力が下がり、片腕を吹き飛ばす事は叶わなかった。

マリアンナも荒い呼吸をしており、赤い顔と滝の様な汗、肉体への負担を顧みない身体強化の魔法を使っていており、限界が近かい。


「ハッ!小枝が足手まといになっておるのおっ!」


魔槌ドン太へ喰わせる魔力を増やし、爆発に近い形で速度を上げたラーナは、空中で身を捻りドン太を振りかぶる。

自らに練った魔力を巡らせ、肉体を強化、目前に迫ったモーガンの腹部を陥没させるが、巨体に見合った重量で僅かに浮く程度だった。

反動に手が痺れたラーナをモーガンは視界に入れたる。

しかし、彼女の外見を確認してすると、すぐ様マリアンナを狙う。


火弾(ファイアボール)ッ!」


背後から飛来した火球が後頭部で爆ぜ、モーガンの視界を揺らす。

腰部から生える複数の手で跳躍したメリッサは、両腕に握った槍を、灼け爛れた後頭部に突き刺した。

断末魔を上げる事なく、モーガンは地に伏していく。


「ラーナさん、どうしてここに?」

「んむ、メリッサと童か。怪我が無いようで何より、儂は此奴を抑えに来たのじゃ。衛兵や冒険者は、ちと入り込んだゾンビの清掃をしておる」

「入り込んだ?何やら、きな臭いですが……」

「火事場泥棒の仕業じゃて、主犯格は捕らえておる」

「こんな時に……」

「こんな時に、だからじゃよ。人の、特にヒューマンの欲望に際限は無いからの」


ラーナの言葉を、否定しようとしたライオスだったが、メリッサの姿に思う所が有ったのか、口をつぐんでしまう。

そんな彼の肩に手を置き、メリッサは微笑む。


「寸胴、奴はあの程度では止まらぬぞ」

「なんじゃ?小娘に抱えられた小枝が、何やら騒めいておるのう」

「貴様……っ!」

「それより、ベルくん達はっ!?」


マリアンナが汗を拭って叫ぶと、ライオスは眉間に皺を寄せ、ラーナの片眉が上がった。


「彼等は、現賢者であるガラハンドと交戦しています。貴女が2人を連れて逃走する前に、戦闘に介入してきまして……」

「それは、金髪と白髪の童じゃったか?」

「ええ、僅かにしか見ていないですが。彼等程の実力者なら、ラーナさんも知っているのですね」

「ああ、奴らなら平気じゃて、心配要らん」

「べ、ベルくん達は先日登録したばかりのDランクですよっ!?賢者ガラハンドと言えば、錬金術だけでなく、魔法にも精通していると聞きますっ!」


ガラハンドの評価に、事情を知るラーナは怪訝そうな顔をした。

メフィストが民から批判された様に、実績よりも肩書きや風評の方が、想像が容易いのだろう。


「Dランクであれ程とは、ヒューマンも侮れぬ」

「小枝、彼奴らが特別(・・)なだけじゃぞ。昔から、じゃが、彼奴らには毎度驚かされる」

特別(・・)か。ふむ、先程合間見た既視感は、そういう事なのか?」

「うむ。小僧供は、追求するな。知らん方が良いからの」

「しかし、私も仕事だ。後で踏み込む事になる」


(かぶり)を振ったライオスは、肩を竦める。

悠長に話をしている間にも、モーガンの傷は捻れる様に修復されていく。

核となる賢者の石に不純物が多い故に、修復が歪みとなって表れているのだろうとラピスは見当をつけた。

やはり、アレは賢者の石では無いと。


「アレは、何じゃ?」

「モーガンです。私の様に、ガラハンドに人体実験されたのでしょう。アレは、人の強さ(・・)を引き出すと、唄っていましたから」

「モーガンじゃとっ!?」


ラーナが大きく目を開いた。

彼女はモーガンを知っている。

というのも、お人好しのモーガンと、南街では親しまれていたからだ。

彼は騎士学校卒業間近、女手1つで育てていた母親が病で亡くなる。

当時好成績を収め、人柄も評価されていたモーガンは、約2ヶ月の学金を免除された。

卒業後騎士団に入った後も、当時の感謝を忘れない他、母に残された幼い弟と妹を養う為に、一層仕事に励んだのだ。

貴族の騎士が毛嫌いする南街の見回りも率先(そっせん)して行い、街の人々に親しまれてきた。


彼がお人好しのモーガンと呼ばれたのは、自分の兄弟と近しい孤児や浮浪児が空腹に耐えかねて盗みを行うと、自らも余裕が無いにも関わらず立て替え、仕事や住む場所を探していたからだ。

勿論、全てが上手く行く筈も無い。

しかし、人の暖かさに触れた者が改心する事も事実である。

故に、彼は魔物となった後も、弟や妹と重ねて児童には攻撃しないのだろうと、ラーナは考えた。


同時に、腰に巻く子供達の(おぞ)ましさに顔を歪めた。


「儂の見間違いじゃなけりゃ、腰に巻き付けられた中にゃ、見覚えある童が居るんじゃが?そういう事、なのかい?」

「少し前の、人集め….…か」

「ええ、きっと。兄の為ならばと、恩の為ならばと、集まったのでしょうね。少しでも、力になりたいと、騎士団の訓練場に何度か訪れたやんちゃな子達でしたから……」


モーガンが立ち上がる。

自らの腰に巻き付けられた子を、優しい手付きで無事である事を安堵している様だが、風穴を開けられた顔は捻れており、一層不気味さを強めた。


「奴を眠らせたいのう。小枝、すまぬが力を貸してくれんかの?」

「仕方あるまい、戦士には敬意を払うものだからな」

「恐らく、私同様に核となる賢者の石が埋め込まれているかと」

「多分っスけど、元が人型で有るなら、肥大化しても核となる物は、心臓部を中心としている筈っス」


マリアンナから降ろされたラピスが、モーガンの胸元を指差して言うと全員が頷いた。

しかし、質量と言うものはそれだけで鎧となり、肥大化した脂肪を吹き飛ばすのは非常に難しい。


「動きを止めてくりゃ、儂ら(・・)にゃ奥の手が有る。都合良く、弾も手に入ったからの」

「魔力残量は心元無いが、足止め程度なら平気だ。エルフを、舐めるな」

「ベルくんでしたね。彼等と合流する為にも、早めに此方を倒した方が良さそうです。メリッサ、行けるかい?」


頷いたメリッサとは対照的に、ラピスは必死に首を横に振っていたが、事態は彼女に構わず進む。

活動を再開したモーガンは、眼前の敵を再び攻撃しようと動き出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます

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