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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
31/57

魔導具屋にて

大変お待たせしました

本日五話分投稿します


あらすじ

Dランクの冒険者は、ギルド職員と供に第二王子を守りつつ脱出を始めた

月すら覆う分厚い雲。

薄暗い店内を僅かに照らす魔導具の灯り。

ラピスはおっかなびっくり魔導具店、Gハンドメイドを歩いていた。

仏頂面のエルフは背後を音も無く付いてきており、時折硝子に写る自分の陰に怯えるラピスを、呆れたように眺めている。


「娘。貴様の師とやらは、随分と(おぞ)ましいモノを作っていたのだな」


ふと立ち止まり、エルフの魔術とドワーフの技術を合わせた、通信の魔導具を睨んで吐き捨てた。

エルフとドワーフは性格が合わないのか、美醜の感覚が違うのか、価値観の相違か、はたまた神が定めたのか、仲が悪い。

顔を合わせれば、舌が休まる事が無くなる。

国同士も仲が悪く、戦争こそしないが、重役も顔を合わせれば舌戦(ぜっせん)が始まる。

やれ、脚が短いだの、胸が無いだのと、種族から個人の貶し合いとなる。


その両国の技術を元に作られたこれは、一石を投じるどころでは無く、下手をすれば戦争の引き金となっていた事だろう。

両国の技術を合わせた通信の魔導具を前、振り返ったラピスは、ドワーフとエルフの根の深い仲に疎く首を傾げた。


「師匠じゃなく、上司っスよ。あ、あと、この店で展示されている魔導具の多くは、天才錬金術師であったメフィスト様の盗作っスから、考案、設計したのはメフィスト様っスね」

「何?あの狂人か?とすれば、やはり破壊しておかねばならない」

「なな、ま、待つっス!それは探してた魔導具の1つっスよ!!ラーナさんの所で改造すれば、きっと役に立つ筈っス!」

「ふん、寸胴が協力するものか。奴も吐き気を催し、これを持ち帰った貴様の正気を疑うぞ」

「正気を疑われるレベルなんスかこれっ!?」

「機能が有能な事が腹立たしいが、下手を打てば戦争の引き金になり兼ねない物だ。国で機密に運用し、我等に知られぬ様にしていれば別だったが、既に手遅れだな。私は知ってしまったし、国に報告するのが仕事だ」


口元に手を当てて戸惑うラピスだが、エルフの意思は固い。

腰に手を当て、静かに怒りを露わにしている彼女に、道中何度も助けられた為、項垂れるしか無かった。

エルフの少女の口から、唄が溢れる。


過程や儀式、魔法陣を行う事で発生する、奇跡を操る魔術を得意とするエルフ。

威力は上がるが、魔術発動までに時間を要する為、戦闘等では前衛に時間を稼いで貰うか、特殊な薬草や聖樹を用いた紙に、魔法陣を刻印した魔符が必要になる。

任務中では、エルフの国以外では手に入りにくい魔符を補充出来ない為、大抵の場合は口や手足の動作、髪や血を贄に魔術を発動させるのだ。

その様な美しい容姿と合わさり、まるで妖精の様である。

思わず見惚れたラピスは、彼女の指先から放たれた可愛さのかけらも見られない暴風によって破壊され、無残な姿になった魔導具を見て我に帰る。


「あああーっ!ま、魔導具がぁーっ!」

「ふん、良い様だ」

「な、何で、何でぇ……解析もしてないのに…。糞上司が資料を独占して、再現出来ないっスのに…」

「な、泣くほどなのかっ!?」

「当たり前っス!!技術者にとって、未知なる世界を知る事は命より大事なんスよっ!!」

「くっ、忘れていた。錬金術師は真理を求める余り、気が触れ易いのだった。彼奴で散々思い知らされたのだがな」


スラリとした腰にしがみ付きながら喚くラピスに、エルフは顔を歪めて引いている。

既に店のマジックバック等有用な魔導具は回収しており、ラーナの拠点に帰るのみとなっていた。

展示されているガラハンドの盗作した作品は、殆ど実用段階に至っておらず、手を付けていなかったのだが、先程の魔術の余波で盛大に吹き飛んでいる。


「酷いっス!あんまりっス!」

「ええい、鬱陶しいぞ娘っ!」

「未知がぁ」

「放せっ!」


そして当たり前だが、此処はゾンビが闊歩する街中であり、騒がしさに引き寄せられてくる。


「ァァ」

「敵だっ!お、おいっ!放せっ!」

「ひ、ヒィーっ!ゾンビっス!!」

「だから、放せっ!止めろっ!鼻水を付けるなっ!!おいっ!魔術を使うから放せっ!」

「怖いっス」


ラピスとエルフの身長は同じくらいであり、自堕落なラピスの方が肉付きが良く、細い腰にしがみ付かれてしまえばまともに動く事は叶わない。

振り払おうにも辺りにはガラスが散乱しており、下手な事は出来ない。

舌打ちと共に指を操りながら魔術の詠唱を始め、迫り来るゾンビに風の刃を放つ。

しかし、新鮮な死体を消し飛ばす程威力が出ず、肩を大きく割いただけに止まる。


咆哮を上げて襲いくるゾンビは素早く、千切れかけた腕をそのままに、顎を大きく開き噛み付こうとしてくる。

大きく仰け反る事で首元への噛み付きを躱し、顎に掌底を打ち込む事で無理やり閉じる。

ガチリと音を立て、噛みちぎられたゾンビの舌が宙を舞った。

意に返さずに伸ばした腕を捌きつつ、準備の完了した風の刃で唄と共に頭部を切断した。


「っ!」

「う、後ろからも来てるっス!」

「いい加減、離れろ」

「す、スっ!」


続けて二体のゾンビが店の奥から出てくる。

店主だろうか、身なりの良い服に身を包んでいるが、胸元は大きな穴が空いていた。

腰から短剣を素早く抜いたエルフだが、正面からゾンビ二体をラピスを守りながら戦う事は難しい。

苦々しげに、魔符を取り出す。

残りは9枚であり、手札の消耗避けたいが、致しかねないと駆け出したゾンビを狙った。

だが、彼女が魔術を発動するよりも早くにソレは飛来した。


火矢(ボルト)


蒼白く揺らめく火矢(ファイアボルト)がゾンビ達の頭を弾け飛ばしたのだ。

思わず警戒したエルフだが、店の入口から入って来たのが年端も行かない少年少女である事に驚いた。


「おいおい、こんな街中で発情期かい?」


呆けたエルフの少女は、未だ腰に縋り付くラピスを思い出して、引き剥がしつつ答える。


「そう見えるなら、貴様は医者の世話になるべきだ」

「へぇ、エルフには鏡が無いなんて、随分と原始的な生活しているのだね」


皮肉を返され、仏頂面で少女を観察するが、瞳孔が縦に細長い事からヒューマンで無い事を察する。

何かしらの亜人であろうが、自分達の危機を見て嘲ている事に苛立ちを覚えた。


「私達は、悲鳴が聞こえて駆けつけたって訳さ。まさか、火事場泥棒だったなんて、思いもしなかったけれどね」

「巫山戯るな、誇り高いエルフがその様な低俗な事をする訳が無い」

「ふふっ、それはそれは、失礼したね。では、泥棒じゃぁ無い、君の名前を教えてくれるかな?」


こ、コイツと眉間の皺が深くなるエルフ。

ラピスも止めるつもりも無いどころか、自分も知りたい様子を見せて、更に皺が深かまる。


「低俗なヒューマンに語る名は持たない」

「名乗れない。ああ、密偵ってやつかな。これは失礼したね。ふふふっ」


ここぞとばかりにフィーが上機嫌なのは、エルフ族のプライドの高さと、元の身体では彼女と知己の仲であり、久し振りの再会を嬉しがっているのだ。

しかし、捻くれた彼女の性格では、エルフにストレスを与えるばかりとなる。


「フィー、その辺にしておいて。君達()冒険者だろう?良かったら一緒に避難しませんか?」

「え、いや、うちは違うっスけど……それより、お名前は?」

「僕はベル、彼女はフィー。今は冒険者ギルドの仲間と南街の方に逃げているところですよ。そうしたら、この店で悲鳴が聞こえたので様子見に来ました」

「あ、そうなんスか。うちは、ラピス……って、何処かで会ったっスか?」

「へぇ、ナンパかい?私のベルくんに色目を使うなんて、よっぽど切羽詰まって、いるのかな?」

「い、いや、違うっスよ!」


3人の自己紹介が終わった所で、黙っていたエルフに自然と目がいく。

鼻を鳴らした彼女は、長い耳を隠す為にフードを被ると同行を承認した。

元より、ラピスが集めた物質を届ける為に一度帰還予定であり、最初に見た火矢(ファイアボルト)から、ベルを信頼出来る実力と認めたのだ。


「いや、この流れは自己紹介する流れっスよっ!?」

「誰がするものか」

「あれ?ラピスさんは知らないのですね。エルフ族が名前で呼び合うのは、信頼の証なんですよ。だから、自分が認めている人しか名前を呼ばないみたいですし、教える事も無いそうです」

「お前、中々博識だな」

「有難うございます。では、呼ぶのに不便なのでミミちゃんとかで良いですか?」

「失礼な奴だったか」

「え?分かりやすくて、良いと思うのですが……」


エルフの特徴である長い耳を褒めたつもりだったのだが、安着な名前に不満を浮かべているミミにベルは困惑を露わにする。

戯れた様子が見られない事から、子供の名前は自分で考えようと、フィーはこっそりと決意した。


「いや、うちも酷い名前だと思うっス」

「取り敢えず、って事で良いじゃないか。エルフって呼べば、不要な時間を使う事になるかもしれないからね」

「好きにしろ」

「では、早く外に出て合流しましょ……」


ベルは言葉を切り、フィーを抱き寄せる。

それと同時に轟音が響き、大きく揺れた。

咄嗟の事に踏ん張れずバランスを崩したラピスだが、襟首をミミに掴まれる事によって、酸素と引き換えに倒れなかった。


「ぐ、ぐるじいっずっ!じまっでまず!」

「何が起こった?」

「手を貸してくれますか?」

「問いに、問いを返すとは。しかし、答え聞けば躊躇う存在か」


そっと頷いたベルに、顎で促す。


「魔物です、恐らくは、トロルサイズの」

「街中だぞ?」


トロルはAランクの魔物だ。

身体が大きく、力も強いが頭は弱く、お伽話の中には子供に騙され谷底に落ちる話もある。

トロルの生態を観察した研究者は、揃って間抜けだと述べる。

自分より小さな獲物を狩ろう、大木で押し潰し、染みとなった事に憤慨する事が多々あるという。

他にも記憶力が非常に低く、手に持っていた物を置いた後に、無くなったと暴れたりする様子が見られ、一言で言えば馬鹿である。

そんなトロルが何故Aランクの魔物なのかは簡単だ。

身体が大きく、力が強いから。

どれほど屈強な戦士と言えど、家程ある巨体に殴られれば潰れてしまう。


「トロル、では無いのか?」

「現在分かるのは大きさが、です」

「分かった、受けよう。しかし、娘の面倒は見きれなくなる」

「そ、そんなーっスっ!」


ラピスの事を無視して店から出たベル達は、呆けた様に建物を見ているマリアンナに歩み寄る。

視線の先には、揺れの原因であろう肉片が飛び散っており、辛うじて人だと分かる形の物が建物にめり込んでいた。


「マリアンナさん、お待たせしました」

「べ、ベルくんっ!?」

「落ち着いて聞いてください」


荒い呼吸のままだが受け答えが出来る辺り、周囲の人間よりは場数を踏んでいるとベルは気が付いた。

魔力の揺らぎを見てみれば、魔力を巡らせて身体強化を施している。

無意識に敵の警戒をしているのだろう。

音に引き寄せられ、ゾンビ達が集まってくる。


「危険が迫っています、護衛対象を連れて駆けてください。幸い灯は近く、人が居る場所も近いと思います」

「そ、そうね。其方の方は?」


フードを被った女性が背後にいる事に気がついたマリアンナに問われ、挙動不審なラピスとは対照的にミミは堂々と答える。


「私は冒険者だ」


えっ?っというリアクションを取りかけたラピスだが、恐ろしく早く小突かれ仰け反る。

不審がる余裕も無く、彼女は素直に頷いた。


「そう、冒険者なのね」

「南街から生存者を探していた。少年の言う通り、駆ければそう時間は有しない。だが、来るぞ」

「来るって?」

「皆んなも走って、早くっ!」


状況も分からず促されたが、目の前の恐怖の原因から一刻も早く解放されたいと思ったのか、Dランクの少年少女は一斉に走り出した。

慌ててギルド職員もそれに付いて行き、武闘派の職員が護衛対象である第2王子の側による。


「ベルくんも早くっ!」

「来ました、僕達は時間を稼ぎますので火矢(ファイアボルト)

「氷よ、氷矢(アイスボルト)っ!」


ベルとフィーに放たれたそれぞれの魔法に、雄叫びを上げながら闇から飛び出したゾンビが貫かれる。

ミミを含んだ三人が構えた事にマリアンナは戸惑った。


「来るって、何が……」

「フィー、高く照らして」

「ああ、エルフは鳥目だからかい?」

「戯け、森の民だ。夜目は効く」

「一応周知する為、かな」

「うん、光よ照らせ、再び昇れ超巨光球(シャイン)っ!!」


かなり多めに魔力を練り、詠唱も含めて放たれた光球は、小さな太陽の様に空から照らすと、影が歩いていた。

巨大なソレは、腰に吊るした幼い子供達を愛おしそうに眺めている。

魔力によって強化されたベルの視力は、吊るしている紐が臓物である事が判り、光無く巻かれている子供達は既に事切れていた。

敵の姿が見える事は、此方の姿も見えるという事だ。

眩しそうにした魔物と目が合った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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