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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
30/57

元勇者の方針

あらすじ

王様は勇者が居ない国を作ろうとしていた

それは兎も角、ベル達はどうしようか

部屋に備え付けられた窓にベル達が寄れば、冒険者達が立てた簡易的なバリケードや、打ち上げられた魔導具の明かりが灯っている。

月夜に照らされて朧げに浮かぶ王城の影を指差しながら、ベルは語る。


「大規模なゾンビを操る死霊術、呪術師の仕業なのだろうが、恐らく副産物に過ぎない」

「へぇ、この惨状はあくまでもついでって訳かい?」

「ああ、贄として魔物となった貴族を釣る餌の原料になった筈だ。そして、餌に寄ってきた国に巣食う膿を全て排除し、王族の威厳を取り戻す。最後に、勇者に頼り切る国からの脱却がレオンハルトの狙いだ……と思う」

「思う?」

「思う」


フィーは小首を傾げて、くるくると人差し指を回して話を整理した。

だが、イマイチ理解も共感も出来なかった為、曖昧に頷いた。


「悪いけれど、オレは人の心情に疎いからね。君の言っているレオンハルトの考えは想像出来ない」

「餌にはフィーも……いや、メフィストが関係しているがな」

「ふむ、それはどうしてだい?とても貴族が食い付く様な発明は、最近してないというか、する前に君に討たれてしまったからね」

「あぁ、一度完成してしまえば興味を失うのは相変わらずだな。全ての始まりは、恐らくコレだ」


親指で自分の胸元を指した事で、フィーも漸く理解する。

賢者の石だ。


「メフィストの研究室から、賢者の石の資料は持ち出されていた筈だ」

「へぇ。けれど、それは未完成の中途半端な資料の筈だ。実現するには、古龍1匹まるまる分のエネルギーが必要となると書いた。とてもじゃぁ無いけれど、実現は不可能さ」

「だからこそ、掻き集めているだろうな。死者の魂をエネルギーに変換して」

「そこで呪術かい。うん、確かに生者から絞り出すよりも、魂のみの方が不純物は少ないけれど。賢者の石(私だけの真理)は、不純物の無い魔力で無ければ作れないよ?これを作れたのは、古龍が魔法生物だった事や、君や彼の助けがあったからだろう?」


そういえば、とフィーは続ける。


「呪術師の狙いって、なんだろうね」

「狙い?」

「ああ、この国で呪術は禁忌とされていたし、迫害されていのだろう?」

「そうだが、彼等は王命に従っているのではないのか?」

「おいおいベルくん、オレの様な研究馬鹿に王命なんて毛ほども価値が無い。アポーの実の方が、よっぽど価値がある」

「成る程、名誉は興味が無いのか。君も、だが」

「うんうん、そうだとも。同じ穴の貉だから分かるけれど、呪術師達も、大規模な人体実験をしたかったのか、若しくは別の狙いかあるか……」

「そういうものか」

「そういうもんさ」

「厄介だな」


ヒラヒラと手を振ったフィーの言葉を反芻し、呪術師達の狙いを考えるベルだが、今の彼等は見知らぬ誰かの為に戦う勇者では無い。

そして、レオンハルトを呪術師が出し抜けるとは到底思えないが、この国でこれまで滅びずに存在していた者達だ。

油断は出来ず、この国の本当の危機になるかもしれない。


「今の賢者の称号は、ガラハンドが持っていたな。奴は貴族との繋がりが太かった、呪術師を集めたのも奴だろう」

「あー?うん!うんうん!ガラハンドくんね」

「……魂を素材にする術式は、錬金術の技術だけじゃなく、呪術も必要なのは確かなのだな?」

「ああ。錬金術は、魂を成し得ないのさ」

「神の領域だからな」

「故に、禁忌とされる人造人間(ホムンクルス)は空っぽ、魂が無い器なのさ」


成る程とベルが頷いた所で扉がノックされ、マリアンナが顔を覗かせる。

そろそろ出発の時間だと伝え、彼女は忙しいそうに去る。

ベル達の出発が近いという事は、冒険者達の戦いも近い事を指す。


「で、ベルくんはどうするのさ?」

「出来ればガラハンドは討っておきたいな」

「へぇ、どうしてさ」

「今、国は建て直しが始まっている。膿の排出、王族の力の回復、貴族の選出といった様々な事を、多くの人柱の元にな。これは正直どうでも良い」

「言い切るね」

「だが、ガラハンドはメフィストの資料を悪用した。私は君の発明を奪った上に、悪用した事は許せそうもない」

「ふふっ。オレの為だけにそんな事言ってくれるだなんで、キュンキュンしちゃうね」


腹部を摩りながら笑うフィー、彼女は大して気にして無さそうであった。。

死人に口無し、ガラハンドが都合の悪いことをメフィストに着せれば、現在王都を襲う悲劇は全てメフィストの責任となり、恐るべき犯罪者として歴史に名を刻む。

尚且つ、メフィストを排除する為に、主に貴族や民を動かしたのがザジルとガラハンドである。

ザジルは残念ながら魔物となり、フレディに斃された。

故郷の悲劇は確かにガラハンドが動いていたが、根本的な原因は勇者を選ぶ聖剣に有り、自らの手で殺害する事に拘りは無かった。


「でも、何処にいるのさ?」

「王城だろうな」

「逆方向か、冒険者ギルドの人が何とかしてくれるのではないかい?」

「この国では死霊術を禁止されて久しいからな、冒険者ギルドでもそうだが、資料の損失が多かった。私が思うに、ゾンビの数が少ないのは技量によるものだ」


死霊と資料が掛かっていると話を聞きながらフィーは思いつつ、首を傾げた。


「へぇ、どうしてさ?」

「使役系の術に共通するが、数が増えた場合は1から100まで全て精密に命令するのは難しく、数が増えるほど命令が単純になる。若しくは、小隊の中にリーダー格を作り、管理者数を増やす」

「つまり、1人で死霊術を使っている訳か」


思い返すは貴族の魔物、強力な個体であり素材をゾンビに加工して使役していた。

小隊の隊長として彼等を作り、その下に複数のゾンビが付いていた様子から辻褄が合う。

ある程度数は揃えられるだろうが、王都の人口と比べれば明らかに少ない現状から、十分真実味が有る。


「護衛対象が見ていたって魔法陣は、何だろう」

「生命力や、魂を奪う呪術だろう。賢者の石を作ろうとしているのか、強力な魔法を使うのかはしらないがな」

「ふーん、厄介な事に変わりはないねぇ」

「とはいえ、冒険者ギルドと傭兵がいれば対処は可能だろう。ラーナもいるしな。私達は護衛中に頃合いをみて離脱、王城に行きガラハンドを排除する」

「レオンハルトへの嫌がらせは良いのかい?」

「彼奴は死ぬつもりだ。ま、愚痴を1つ吐くくらいで許してやるさ」


慌ただしく廊下を少年達が走る音が響き、タイムリミットを知らせる。

ベル達は彼等と合流しつつギルド前に集まり、簡易バリケードで繰り広げられる戦いを尻目に移動を始めた。

ギルド職員もマリアンナと共に何名が混ざっており、非戦闘員も合わせて20数名となった。

王妃の姿は無く、背後で始まった戦線の押し上げに参加しているのだろう。

移動を始めたベル達は、薄暗い街道を油断なく進んで行くのだった。


ここまでお読み頂き有難うございます

ブクマが生きる気力となり、励みとなっております。


再び5話分書き終わるまで暫く空きますので、申し訳ありません。

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