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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
29/57

護衛依頼を受ける

あらすじ

第2王子を護衛しながら王都脱出を目指す事になった

ベルとフィーはギルドマスターの部屋から出て、ギルド一階の会議室に来ていた。

自分達と同じ年代のDランク冒険者が数組おり、怪我をして不安そうにしていたり、仲間を失った現実に必死に堪えている様子だ。

チラリと見た中に、先日助けた少年を発見したベルだったが、彼の仲間は周囲に居らず、ポッカリと穴の様な目で虚空を見つめている事から、恐らくは犠牲になったのだろうの察する。

少年と似た表情の者が何人かおり、(いずれ)も1人や2人で孤立しており、手には形見らしき物を握っている。


「マリアンナさん、申し訳無いですが、彼等と護衛ではえっと……護衛対象の命の保証は出来ないですよ」


護衛任務の説明だと案内した彼女に問う、足手まといを連れて責任は取れないと。

マリアナはそっと首を振った。


「便宜上は護衛任務となっているけど、この依頼の本質、護衛対象はベルくん達の様な若い冒険者と言ってもよいわ。国が動く程の自体になった場合、冒険者ギルドは登録者はランクに関わらず戦う義務が生まれるのよ。けれど、ベル君達の様な未来ある若者を使い潰す訳にはいかないと、今回の様に冒険者では彼等に仕事を手配するのよ。護衛や、警備、避難誘導と言ったね」

「無駄死にさせないという事、ですか?」

「そんな事、私達に話しても良いのかい?」

「えぇ、これを知っていたほうが長生き出来るわ」


へぇ、と頷くフィー。

マリアンナは皆を集めると、ゆっくりと護衛任務の説明と、護衛任務のリーダーがベルである事を告げた。

すると、仲間を失っていないDランクの数パーティは、手柄を得られるかも知れない欲が出て騒ぐ。


「マリアンナさん、待ってください!どうしてオレらを差し引いてこんな新人がリーダーなんですかっ!?」

「そうよっ!私達はCランクも目じゃ無いわよっ!」

「依怙贔屓ですよ」


キャンキャンと喚いている少年達だが、マリアンナは冷ややかな目で睨むと途端に静かになった。


「冒険者ギルドの決定に文句が有ると言うのなら、今すぐ辞退しなさい。誰も文句は言わないわ」

「で、でも……」

「合同で依頼をこなす場合、誰がリーダーになるかは分からない。貴方達は、そんな時も自分がリーダーで無いと駄目と言うのかしら?」

「うっ……」

「それに、依怙贔屓じゃないわ。ベルくん達は現在依頼達成率は10割。そして、魔物素材の納品数は既に貴方たちを超えているのよ」

「なんで…」

「す、凄い」

「ズルしてるんじゃないか?買った獲物を納品しているなら……」

「冒険者ギルドが、そんな間抜けだと、貴方は思うの?」

「……」


おや、とベルは首を傾げた。

ほぼ毎日依頼をこなしているとは言え、ゴブリンやホーンラビットといったEランクの討伐しかしていない為、彼等の評価を疑問に思ったのだった。

毎日依頼を成功する等、特に駆け出しでは知識や実力不足から不可能に近い事なのだが、ベル達が気がつくことはない。

2人が的外れな疑問を浮かべている間にも話は進み、どうやら他のDランクの彼等も無理矢理納得したらしい。


僅かに与えられた準備時間で、Dランクの者達は各々(おのおの)が用意の為に散らばった。

冒険者ギルドには慌ててかき集められた物質しか無い為、王都から出た後の食事等は自分達で賄わなければならない。

踵を返したマリアンナにベル達はさり気なく同行し、そっと盗聴防止の魔法を使う。

余計な(わだかま)りや士気を下げない為の気遣いだが、フワリと自然に包んだ魔力に、マリアンナは気が付いた様子は見られない。


「あの、マリアンナさん達ギルドの方も同行するのでしたら、ギルド職員の方からリーダーを選出した方が良かったのでは?」

「無理ね、ギルド職員の中には戦いに秀でない子達もいるのよ。戦える人達は、其方の護衛と機密書類の運搬に力を注ぐしかないわ」

「うーん、正直私達が前に出た方が、良いんじゃぁないかい?」


仲間への哀傷に呆然としているか、手柄へと躍起になり好き勝手に動くであろう彼等を想像して、ゲンナリとしていたフィーの頭をマリアンナはそっと撫でる。

丁度良い高さに有ったからであり、他意はない。


「ゾンビの数が少ないって話、傭兵や冒険者が頑張ってくれている結果なら良いけれど……。もしも、想定以上の脅威となる魔物が突然襲ってきて、ベルくん達が斃れたら、まともに戦える人達が居なくなるのよ。ベルくんとフィーちゃんはDランクの実力を超えているから、貴方達なら護衛依頼を達成出来るはずよ」


受付嬢として、多くの冒険者達を見送ったマリアンナの言葉は期待に満ちており、彼女の瞳は普段とは違い真っ直ぐにベル達を見据えていた。

しかし、フィーは空気を読まずに返す。


「って事は、彼等は護衛する貴族にとっての肉壁ってことなのかい?」


喉から出かかった否定の言葉を、マリアンナは呑み込む。

魔族との戦争を経験しているフィーからしてみれば、合理的に実力不足のDランクを使っているとは思うのだが、如何んせん元々の数が少ない為、何度も使える手段では無い。

資源としての人間の価値を分かっている分、フィーは周囲の命を大切にするが、必要と有れば躊躇わずに使う。

勿論、ベルを除いてだが。


フィーに責めるつもりは無いだろうが、マリアンナの様子から彼女の肯定を察した2人。

話を変えようと、ベルは窓から見える闇夜を見る。


「王城には何かが有るのでしょうか?」

「ええ、きっと有るわ」


一瞬チラリと動いた目線を、ベルは見逃さない。

王城の上空に向けた眼差しから、第2王子にしか見えないで有ろう、確かに存在する魔法陣の事を察する。


「ベルくん達は、準備をしなくても良いの?」

「……少し、フィーと話そうと思います」

「そう、あまり時間は無いだろうから……遅れない様にね」

「はい」


マリアンナと別れたベルは、そっと人気の無い空き部屋に入る。

机と椅子が無造作に置かれており、冒険者達が偶に借りるのだろう。

モジモジと、2人きりになった途端にしおらしくなるフィーに首を傾げながらも話を始める。


「こ、こんな人気の無いところで、うん、優しくしておくれよ」

「?何を言っているんだ?」

「え、しないのかい?」

「よく分からないが、取り敢えず話をまとめて、身の振りを決めておこうと思ってな」

「あぁ、そうだねぇ。身の振り方って言っても、君は相変わらずお人好しだから、原因を解決したいんじゃぁ、ないかい?」

「お人好しなのは否定しないが、私はもう勇者は辞めて、今はベルだ。出会っていない人間を、自己犠牲で助けようとは思わない。彼らは、お前を殺したのだからな」


かっては勇者だった少年は、ドロリと濁った瞳で笑った。

魔族との戦争が終わった後、強力な兵器を開発したメフィストは、命を大量に奪ったと国民に批判されていた。

勿論、最初は貴族が煽ったのだ。

平和が実現された時、人々を纏める為の攻撃対象に選ばれたのだ。

彼を庇った者も多かったが、流された多くの民は非人道兵器を開発した“破壊の申し子”に否定的になる。

その裏には平和の為にと、自らが強力な兵器を所有しようとした貴族達の思惑、賢者の石を手に入れたい欲望が有った。


「別に、オレは気にして無いさ。君が、大切に思ってくれたのなら、それ以外の人間なんて興味無いからね」


だから、とフィーは続けた。


「好きな人が、自分に嘘を付いて欲しくないんだよ」


面白く無さそうに唇を尖らせたベルは、年相応の表情でフィーの頬を引っ張る。


「な、なんだい?」

「別に、助ける気が無いのは嘘じゃないぞ。この国を襲っているレオンハルトの目的は、国の立て直しだ」


長いまつ毛の瞳をいっぱいに開いたフィーは、改めて王都の惨状を思い返してベルに問う。


「はぁ?立て直し?こんな有様でかいっ!?」

「現に、大半の人間は生きているだろう?」


ベルはゆっくりと語り始める。

お読み頂き有難うございます

25話も本日中に投稿できると思います

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