ギルドの者共
あらすじ
ライオスは戦線に復帰するみたい
ベル達はギルドに戻ってこれた
Bランク冒険者の達と冒険者ギルドに戻ってきたベルとフィー。
ギルドマスターの手腕なのか、ギルド付近では既に簡易なバリケードで防衛戦線が敷かれていた。
戻ってきたフレディに声を掛け、フレディはベル達には先にギルドに入るように促して状況を確認し合う。
外見年齢は子供であるが、精神年齢はそれなりの2人は、意地を張る事もなく大人しくギルドに入る。
「べ、ベルくん達っ!生きていたのねっ!?」
色々な穴から汁を垂れ流しながら近づいてくるマリアンナを、ゾンビかと魔導筒を抜きかけたフィーだが、ベルは素早くソレを制した。
美人が台無しになる外見では有るが、冒険者となって何かと世話になっていたマリアンナが無事な事に、内心ホッと安堵する。
2人は把握していなかったが、冒険者ギルドの職員は、素行の悪い冒険者を相手にしたり、依頼内容を調べに現地に赴く事もあり、Cランク以上の実力を要求される。
眼前のマリアンナも、Bランク目前と言われる程の実力者であるのだが、まともな彼女を見た事も無い2人にとって、彼女はか弱い受付嬢なのだ。
「マリアンナさんも、無事で良かったです」
「はぁーこんな私を心配してくれるなんて、天使ぃ〜っ!」
「ちょ、ちょっと!ベルくんにくっ付き過ぎなんじゃぁないかいっ!?」
「はぁーっ!妬いてるフィーちゃんも天使ぃ〜っ!!」
「うわぁっ!鼻水が付くじゃないかっ!べ、ベルくん助けてくれっ!」
マリアンナがいつにも増して騒がしい事に困惑していると、ソラリスが歩み寄ってきた。
難しい顔で、マリアンナが気に掛けていた多くの若いEランクやDランクになったばかりの冒険者と連絡が取れず、運良く見つかっても既に死体となっていたと殆。
自ら探しに行きたい想いと、ギルド職員としての責任との板挟みで落ち込んでいた為、ベル達の生存は幸運だったと喜びが張り切っているらしい。
溜息を飲み込みつつも精神力が僅かでも回復するならと、フィーが揉まれるのを静観する。
「冒険者ギルドはこの後どう動くのですか?」
冒険者ギルドは依頼者と冒険者の利便性から、王都の中央通りの南よりに建てられている。
王城は北に、西は貴族街、南は民家や工場地区、東は交貿地区となっており宿屋や飯屋で飯屋が多い。
国から脱出するならば何れかの方角に逃げるしかなかった。
「周囲の領地の私兵や、他国からの救援が来るまでの防衛は不可能だ。アタシ達冒険者は、防衛戦線が貼られている南の方面との合流し王都脱出を目指す」
「西は?」
ベルの問いに、ソラリスは肩をすくめてため息を吐いた。
「貴族のいけ好かない奴等と協力はごめんだな、ギルマスすら無駄な労力は避けるべきだと放棄している」
自分が思っていたよりも、随分と貴族達は嫌われているのかと、ベルは内心呆れていた。
「一応護衛として傭兵等は雇っていますし、冒険者と私兵や傭兵は馬が合わないらしいですね」
「下手に関わっても良い事無いよねぇ。あ、貴族と言えば、見慣れない魔物が何処かで見た事あると思ったのだけれどね。もしかしたら、貴族の誰か、かもしれないねぇ」
くるくると、人差し指を回して小首を傾げるフィー。
何故貴族の顔を知っているのかと、フィーの出自を訪ねようと出かかった言葉を、ソラリスは何とか飲み込んだ。
冒険者は実力や、過去を自ら公にしない限り、検索は御法度である。
切り札や弱味を知られては、命を落としかねない状況に陥る為、冒険者ギルド自体が検索を禁じているのだ。
勿論、犯罪を犯したり、潔白を証明する場合は除く他、仕事を共に行う上ではある程度の実力を知らしめる事は必要となる。
しかし、他人の情報を軽々しく風評すれば大きく信頼を損なう羽目になり、二度と仲間は作れないだろう。
その上冒険者ギルドから評価が下がり、良い依頼を回して貰えくなる。
「貴族が魔物化している……?」
「お嬢さん、私に詳しく話して頂けるかな?」
帰還の機会を逃したウッドベルは、護衛の為に動けないギルドマスターに代わって、冒険者ギルド内で情報収拾をしていた。
思わぬ公爵の登場に緊張するベルとソラリスだが、ベル以外の人間には興味が薄く、ウッドベルの顔を知らないフィーには関係が無かった。
当然肩書きは知りもしない。
「詳しく、ねぇ」
「あぁ、心配しないで欲しい。私は、貴族の人相を知ろうとしているだけ、さ。君の事情には介入しない。何、よくある話だろうしな」
フィーの容姿や装備から、政略結婚が嫌で、駆け落ちか家出をした貴族や名家の商人の娘だろうとウッドベルは判断した。
公爵家である自分は見た事が無かった為、恐らくデビュタント前の地方貴族か、秘蔵っ娘、若しくは愛人との子か。
貴族では、良くある話で済まされる。
「人相ね、悍ましさは兎も角、ザジル公爵や、ベルモンド夫人に、似ていた、気がするねぇ。あぁ、似ていただけ、本人かは知らないよ」
「充分だ」
貴族とのやり取りは非常に面倒であった。
本人だと確信していても、確たる証拠無くしては言葉にしても立場が悪くなる。
下手な証拠ではのらりくらりと躱し、責任を配下に押し付ける。
最悪の場合は、被害者が加害者となってしまう。
フィーは貴族相手に気を使ったのでは無く、単に人の顔や名前を覚えておらず、ベルが呼んでいた名前を口にした為、曖昧な証言となった。
しかし、返って曖昧さがフィーを貴族だという確信と、魔物らの情報への真実味をウッドベルに持たせた。
「今は、人間が魔物化している事より、目前の危機に対応すべきでは?」
ベルはフィーの前に身を割り込ませ、余計な事を言う前に会話ん終わらせようとする。
その姿は、上位貴族から彼女を庇う騎士の様に写り、ウッドベルの頬が僅かに上がる。
「ふむ、だが異形の魔物達は死体をゾンビにすると聞く。もしもゾンビでは無く、同種の仲間を増やす事が可能ならば、ネズミ算式にゾンビの増殖速度は更に速くなる。例えば、貴族街が全滅していたとして、悠々と異形の魔物が数を増やしているとしたら……」
冒険者達はそれを想像して青ざめたが、そこにソラリスのパーティメンバーであるエリーが帰ってきた。
「それは無いですよっ!優秀な私が貴族街に潜入したんですっ!優秀な私がっ!!ふふ、上位貴族の屋敷を除いて、何とか防衛網を築いていました。此方の戦況もそれとなく伝えましたので、まともな傭兵に橋渡しをしましたよっ!優秀な、優秀なエリーがっ!!」
「五月蝿いよ」
「いだいっ!ひ、酷いですリーダー……褒めてくださいよ……」
「傭兵との繋ぎは、アタシの顔見知りに声掛けただけで、アンタの手柄じゃ無いだろうに」
「えーっ!?最初は嫌だって断ってたんですよ、それを私がリーダーとのデートで交渉いだいっ!」
「余計な事してんじゃ無いよっ!」
エリーはまだCランクだが、戦闘技能が不足しているせいであり、斥候技能自体は既にBランクに達している。
立ち振る舞いからエリーの実力を察し、情報が正確である事を判断したベルは、顎に手を当てた。
「お偉いさん、かい?」
「おぉ、フィーちゃん無事でよかったっ!」
「私にはベルくんが付いているから、この通り無事さ。で、話を戻すけれど、お偉いさんの屋敷は違ったのかい?」
「相変わらずお熱いね、お姉さん溶けそう。言い方は悪いけどね、上位貴族の中でも私達庶民に嫌われてる貴族の屋敷は、人っ子1人居なかったよ。探索中に例の魔物が現れたから急いで逃げたから、隅々まで調べてる余裕は無かったけどね」
ザジルには娘がいた。
ザジルが娘を可愛がり、甘やかした結果、ザジル同様肥えて癇癪の激しい家畜が生まれてしまい、婿探しに躍起になっている事は有名だった。
歩行すらままならない巨軀では、王都の屋敷からまともに出かける事は不可能だろう。
「事件が起こる事を予め知っていて逃したのでしょうか?」
「分からぬな」
「ウッドベル様」
ウッドベルに声を掛けたのは、ギルドマスターの秘書をやっているエルフの青年だった。
冒険者ギルドでは人種に拘らず評価する事を第一としており、王都では珍しいエルフの彼も、ギルド内では正当な評価を得て働く事が出来る。
彼はギルドマスターの元パーティーメンバーで、外見年齢は20代であるが、実年齢は40代の半端に差し掛かったギルドマスターと同等か、それ以上であろう。
「どうした?」
「マスターが呼んでいます」
「仕方あるまいか、短い事を願おう」
ヒラヒラと手を振って階段を上がっているウッドベルを見送る4人。
そっとポケットに手を入れたソラリスは、指先が触れた事で思い出し、フィーにそっと耳飾りを手渡す。
「そういえば、フィー。これは君のだろう?私の服に紛れていたよ」
「あぁ、何処にやったのかと思っていたよ」
「渡そうと思っていたのだが、中々会う機会も無くてな」
「うんうん、そうだねぇ。これ、ベルくんとお揃いだから、失くしたく無かったのさ」
「ペアルックなんて、アンタ達初々しさが微塵も無いね」
「好きである事を、誤魔化す必要はあるのかい?」
「大人っていうのは、そう言う事も必要だ」
フィーが耳飾りを付けている所を見ながら、ベルはソラリスに質問を投げる。
「僕達が見かけた魔物はかなりの強さに見受けましたが、Cランクの冒険者で対処出来ているんですね」
「まぁね。といっても、撃退だけれど。奴ら、魔力総量はBランクに達しているが、戦闘能力自体はそれ程高くない。だが、不利と見ると直ぐに逃走を開始しやがるから、防衛を目的にしてる冒険者達は倒すまで行かないんだよ」
「まるで、僕達を弱らせる事が目的みたいですね」
「知能が有る、のか?」
ベル達が話をしていると、先程の青年が階段を降りてきた。
「ソラリスさん、ギルドマスターがお呼びです。少し来てもらえますか?」
「まぁ、今はパール達も戻ってきて戦況は安定しているから良いが……あまり時間は無いぞ」
「ええ、時間は取らせません。あと、そちらの2人も魔物の話を聞かせて欲しいと」
「僕達、ですか?」
「ええ」
面倒な事になったと内心思いつつも、動向を知っておくのも悪くは無いかと切り替えたベルは承諾し、3人で階段を登っていく。
外では未だに咆哮と剣音は響いており、此処が安全では無い事を教えていた。
お読み頂き有難うございます
誤字報告とても有り難いです