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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
26/57

南街、武器屋の部屋にて

あらすじ

ベルとフィーは冒険者ギルドに着いた

その頃、ライオスは目覚める

ライオスがぼんやりと目を開けると、石壁の天井が広がっていた。

魔導具の灯りが部屋を照らし、今が夜である事を知る。

断片的に状況を思い出し、自分の左手を掲げて見ると、包帯に巻かれつつも、動く感触が有り、剣士であるライオスはホッと息を吐いた。

夜であるにも関わらず、遠くで怒声や重音が聞こえる。


「ほう、目が覚めたか(わっぱ)

「貴女は……」


見た目は自分よりも小さい女の子が、視界の端からひょっこりと入って来た。

彼女は王都一の鍛治師ラーナ、ライオスも面識があった。

彼女は、包帯の上からコツコツと腕輪を叩く。


「小僧は、道具(こいつ)に愛されとるのう。其奴、童の腕を護っておったよ。小僧の様子から見るに、その火傷は其奴自身が付けたものじゃろうが、精進して使いこなし、道具に答えてやるが良い」

「魔導具に意志が有るのですか?」

「有る訳なかろうて、意志を持つのは魔剣のみ、じゃ。されど、道具は愛に答えるのも然り。ま、手入れをしとけば長生き出来るってこった」


ワシワシと力強く頭を撫でられ、前に撫でられたのは何時だったかと考えた所で、徐々に現状を思い出す。


「め、メリッサは無事なのですかっ!?」

「あの魔物になっちまった嬢ちゃんかい?」

「彼女は、魔物じゃありませんよ」


見下ろす瞳から目を逸らさず、ハッキリと答えたライオスを、ラーナは面白そうに笑った。


「メリッサの奴、良い男を捕まえたのう」

「うっ……そ、そんなんじゃ無いですよ」

「うん?童はメリッサが嫌いなのかの?」

「いえ、その、す、好きですけど……いえ、あの、メリッサは?」

「生きとる、が。無事かどうかは知らなんだ」

「どうしてですか?」


ラーナは唇の前に人差し指を立てて黙らせると、そっと天井を指した。

重音と共に振動から部屋が揺れる。

先程から聞こえる音が、戦闘音である事に気付くのに、それ程時間を要しなかった。


「メリッサは前線に立っておる。これは、メリッサ自身が望んだ事。そして、奴の異形で信頼を得るには、結果を出すしかないのも事実なのは分からいでか」

「こうしてはいられない」

「おいおい、死に行くのかの?んな身体で何が出来るんじゃ?」


起き上がろうとしたライオスを、ラーナは乱暴に頭を叩いてベッドに戻す。


「……くっ。貴女は戦わないのですか?」

「馬鹿を言わなんだ。頭が前線に出て、誰が烏合の集を動かすんじゃか。戦争じゃぞ?」

「戦争?まさか、騎士と?」

「騎士?んにゃ、騎士は知らなんだがのう。魔物の氾濫(スタンピード)が街で起きて不死者(ゾンビ)が溢れて闊歩しておるんじゃ。ゆうても、数は何とかなる程度じゃが」

「ゾンビが?何故?」

「童は何でも聞きゃ良かと思うとるから、嫌いなんじゃ。うむむ、動けなきゃ仕方ないのかの?仕方有るまいて」


ラーナはブツブツと独り言を零し、ツナギのポケットから紫色の液体を取り出した。

身構えたライオスを無視しながら包帯を乱暴な手つきで取り払い、火傷が酷い腕にかけて行く。

白い蒸気を上げながら、上級回復薬(ハイポーション)は傷を恐ろしい速度で癒し、薄っすらとした火傷跡を残して完治させた。

回復薬(ポーション)の治療は、代謝速度を上げて無理やり進行さる為、ライオスの腹が大きく響いた。

己の怪我が癒えた事に、回復薬(ポーション)の希少性に呆けていた。


「さて、肉を喰え。したらばとっとと、働け」


ラーナがポケットから取り出して投げた、焼いた肉塊とぶどう酒の瓶を慌てつつも、続けて飛んで来るパンやチーズも受け取る。


「童の答えを儂は持とうて無い。そいつは餞別じゃぁ、後は童の足で探せ」

「……はい、王家として、このご恩は必ず返す事を誓います」

「期待はせんで、待っておる」


ヒラヒラと手を振ってラーナは部屋を出ると、廊下を慌ただしく駆ける従業員を捕まえ、ライオスに戦況や建物を案内する様に指示を出す。

窓の外は魔法による光球が幾つも打ち上げられる他、魔法が使えない者達の為に開発された、鉱石が燃焼する事で光り続ける魔導具が道を照らしている。

町民や従業員、一部の冒険者にラーナは武器や魔導具を貸し与え、何とかDランクのゾンビの対処は拮抗していた。

それも時間の問題だろうが。

死者に疲労は無いため、持久戦となれば恐らく勝ち目が無いだろう。

アンデットが弱まる、朝まで粘る事が出来ればべつだが。


「王家として……か」


ラーナはポツリと漏らす。


「果たして、全てが終わったその時に、王族が……そもそも王都は存在するのかのう」


そのつぶやきは、激しい戦闘音に消されただけであった。

未だ、夜は始まったばかりである。

お待たせ致しました

本日数話、恐らく五話投稿出来ると思います

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