南街、武器屋の部屋にて
あらすじ
ベルとフィーは冒険者ギルドに着いた
その頃、ライオスは目覚める
ライオスがぼんやりと目を開けると、石壁の天井が広がっていた。
魔導具の灯りが部屋を照らし、今が夜である事を知る。
断片的に状況を思い出し、自分の左手を掲げて見ると、包帯に巻かれつつも、動く感触が有り、剣士であるライオスはホッと息を吐いた。
夜であるにも関わらず、遠くで怒声や重音が聞こえる。
「ほう、目が覚めたか童」
「貴女は……」
見た目は自分よりも小さい女の子が、視界の端からひょっこりと入って来た。
彼女は王都一の鍛治師ラーナ、ライオスも面識があった。
彼女は、包帯の上からコツコツと腕輪を叩く。
「小僧は、道具に愛されとるのう。其奴、童の腕を護っておったよ。小僧の様子から見るに、その火傷は其奴自身が付けたものじゃろうが、精進して使いこなし、道具に答えてやるが良い」
「魔導具に意志が有るのですか?」
「有る訳なかろうて、意志を持つのは魔剣のみ、じゃ。されど、道具は愛に答えるのも然り。ま、手入れをしとけば長生き出来るってこった」
ワシワシと力強く頭を撫でられ、前に撫でられたのは何時だったかと考えた所で、徐々に現状を思い出す。
「め、メリッサは無事なのですかっ!?」
「あの魔物になっちまった嬢ちゃんかい?」
「彼女は、魔物じゃありませんよ」
見下ろす瞳から目を逸らさず、ハッキリと答えたライオスを、ラーナは面白そうに笑った。
「メリッサの奴、良い男を捕まえたのう」
「うっ……そ、そんなんじゃ無いですよ」
「うん?童はメリッサが嫌いなのかの?」
「いえ、その、す、好きですけど……いえ、あの、メリッサは?」
「生きとる、が。無事かどうかは知らなんだ」
「どうしてですか?」
ラーナは唇の前に人差し指を立てて黙らせると、そっと天井を指した。
重音と共に振動から部屋が揺れる。
先程から聞こえる音が、戦闘音である事に気付くのに、それ程時間を要しなかった。
「メリッサは前線に立っておる。これは、メリッサ自身が望んだ事。そして、奴の異形で信頼を得るには、結果を出すしかないのも事実なのは分からいでか」
「こうしてはいられない」
「おいおい、死に行くのかの?んな身体で何が出来るんじゃ?」
起き上がろうとしたライオスを、ラーナは乱暴に頭を叩いてベッドに戻す。
「……くっ。貴女は戦わないのですか?」
「馬鹿を言わなんだ。頭が前線に出て、誰が烏合の集を動かすんじゃか。戦争じゃぞ?」
「戦争?まさか、騎士と?」
「騎士?んにゃ、騎士は知らなんだがのう。魔物の氾濫が街で起きて不死者が溢れて闊歩しておるんじゃ。ゆうても、数は何とかなる程度じゃが」
「ゾンビが?何故?」
「童は何でも聞きゃ良かと思うとるから、嫌いなんじゃ。うむむ、動けなきゃ仕方ないのかの?仕方有るまいて」
ラーナはブツブツと独り言を零し、ツナギのポケットから紫色の液体を取り出した。
身構えたライオスを無視しながら包帯を乱暴な手つきで取り払い、火傷が酷い腕にかけて行く。
白い蒸気を上げながら、上級回復薬は傷を恐ろしい速度で癒し、薄っすらとした火傷跡を残して完治させた。
回復薬の治療は、代謝速度を上げて無理やり進行さる為、ライオスの腹が大きく響いた。
己の怪我が癒えた事に、回復薬の希少性に呆けていた。
「さて、肉を喰え。したらばとっとと、働け」
ラーナがポケットから取り出して投げた、焼いた肉塊とぶどう酒の瓶を慌てつつも、続けて飛んで来るパンやチーズも受け取る。
「童の答えを儂は持とうて無い。そいつは餞別じゃぁ、後は童の足で探せ」
「……はい、王家として、このご恩は必ず返す事を誓います」
「期待はせんで、待っておる」
ヒラヒラと手を振ってラーナは部屋を出ると、廊下を慌ただしく駆ける従業員を捕まえ、ライオスに戦況や建物を案内する様に指示を出す。
窓の外は魔法による光球が幾つも打ち上げられる他、魔法が使えない者達の為に開発された、鉱石が燃焼する事で光り続ける魔導具が道を照らしている。
町民や従業員、一部の冒険者にラーナは武器や魔導具を貸し与え、何とかDランクのゾンビの対処は拮抗していた。
それも時間の問題だろうが。
死者に疲労は無いため、持久戦となれば恐らく勝ち目が無いだろう。
アンデットが弱まる、朝まで粘る事が出来ればべつだが。
「王家として……か」
ラーナはポツリと漏らす。
「果たして、全てが終わったその時に、王族が……そもそも王都は存在するのかのう」
そのつぶやきは、激しい戦闘音に消されただけであった。
未だ、夜は始まったばかりである。
お待たせ致しました
本日数話、恐らく五話投稿出来ると思います