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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
25/57

ザジルとの攻防

あらすじ

魔物の様に変貌したザジルを、合法的に殺せる事が可能になった

フィーが火矢(ファイアボルト)を放つと同時に、ザジルの指先からも火弾(ファイアボール)が複数放たれた。

詠唱が無かった事に驚くベルだが、ザジルの背中の顔が一斉に唱える詠唱に気がつく。

貫通力では無く、広範囲に燃え広がる火弾ファイアボールを複数打ち込めば、全身火傷や気管を焼いて窒息が狙える。

魔物同然の姿であるにも関わらず、意外と知恵が働くと舌打ちしながら、ベルは射線に立ち入り、風魔法で障壁を張る。

貫通力に乏しい火弾(ファイアボール)は、空気の壁に遮られて次々と破裂していく。


ギョロリとザジルがゾンビとなったミーシャを見やると、機敏な動きで火矢(ファイアボルト)を回避した。

死霊術で命令を出し、動かしたのだろう。

火弾(ファイアボール)の爆煙でベルの視界を塞いだザジルは、夜空へと跳躍、上空からベルとフィー目掛けて岩矢(ロックボルト)を複数放つ。

夜空から流星の如く放たれソレは、闇夜に紛れて2人を襲う。


「上か」


燃える憤怒の剣(ラース)を空へと掲げ、迫り来る岩矢(ロックボルト)を打ち払う。

落下の速度が乗った重い一撃に、僅かに顔を顰める。


フィーは迫り来るミーシャに牽制として氷矢(アイスボルト)を放ち、ホルスターから六連式魔導筒を引き抜く。

左手の腕輪に魔力を流してゴーレムも起動し、袖から伸びたゴーレムの腕が、ポーチから試験管を引き抜く。

チラリと青年に目をやれば、新手の魔物が顔に張り付付いており、思わず舌打ちが溢れる。

先程のミーシャ同様に痙攣している事から、新手のゾンビを作っているのだろう。

ゾンビを作って回る魔物が複数いる事実は、フィーを焦らせる事に十分であった。

フィーが放った氷矢(アイスボルト)は、ミーシャの肩を貫いた。

だが、痛覚どころか意思を持たないゾンビが相手では、僅かな足止めしか出来ない。


「フィー、こっちだ」

「うわぁっ!な、なんだいぃっ!?」


左手を台座に六連式魔導筒を構えたフィー。

その腰に手を回したベルに慌てつつも、乾いた音と共に魔導筒から魔法弾が放たれ、青年に組み付いていた魔物を貫く。

ベルが抱えて跳躍した直後、先程までフィーが居た場所に複数の岩矢(ロックボルト)が突き刺さった。

派手な音と、砕ける石畳。


生物としての直感だろうか、フィーは思わず粟立ち、此方に迫るミーシャも足を止めて警戒する。


「ゲゴォッ!」


上空でザジルが吼えた。

詠唱は背後の顔が担なっている筈であり、声を上げる必要の無いザジルが吼えた。

その理由は、空気の衝撃波(エアーブレス)を放つ為であった。

空気故に風魔法同様目に見えない、恐ろしい奥の手である。

何故ザジルが切り札とも言えるブレスを使ったのか。

それは、死の脅威を感じたからだ。


ザジルがブレスを使う直前、竜と対峙したかと疑う程の魔力を練り上げられた。

脇に抱えられたフィーは、己が漸く魔力を扱える立場となって、改めてベルの技術と魔力総量に度肝を抜く。


「堕ちろ」


抜かれた憤怒の剣(ラース)の先端から、火矢(ファイアボルト)の上位の魔法、火槍(ファイアランス)が弾ける。

貫通力をそのままに、大きさや威力を上げる魔法であり、先日の様に火矢(ファイアボルト)に魔力を込めてれば似た様な形となるが、魔法の構成に安定を持たせ無駄が減少し、素直に上位の魔法を使った方が威力も魔力効率も良くなるのだ。


空へと箒星の様に伸びた蒼白い火槍(ファイアランス)は、ザジルのブレスと拮抗は一瞬。

ブレスを空中に飛散させ、ザジルの脇腹を消滅させた。


「ベルくんっ!」


憤怒の剣(ラース)を収めようとしたベルは、脇に抱えたフィーが指差す先を見る。

フィーが六連式魔導筒から放った魔弾は、魔物の頭部らしき場所に大穴を開けていたが、悠然と立ち上がる。

漸く魔物の全貌が見え、ザジルと同様此方も公爵家の貴族な事に気がつく。

ヴァント公爵家当主の夫人、ベルモンド。

かっては美姫と呼ばれた彼女は、美しい顔立ちに両手には蝶の羽、足は昆虫の様に細い魔物となっいる。

ただし、顔立ちは綺麗だがのっぺらぼうであり、胴体の大きな元の顔からそれらは生えている。


フィーによって顔無しの頭部に開けられた風穴は、肉が捻れる様に生まれ塞がれた。

彼女の様子から余り痛手を与えてはいない無い様で、眉を寄せながらザジルを見てみれば、此方も肉が盛り上がり傷を塞いでいる。

どちらも元に比べれば随分と歪な修復だが、元が死体であったザジル達にとって、内部の器官はさほど重要でないのだが、ベル達が事実を知る由はない。


「再生、した?」


ベルが戦ってきた魔物達は、傷の治療には回復魔法を用いる。

怪我を癒す速度が早い魔物も中にはいたが、欠損部位に肉が盛り上がり塞ぐ、悍ましい生態は見た事が無い。

相対した魔物の中でも最強種である古龍すら、回復魔法を使っていた。

では、目の前の魔物は()だ?


「ゲグォッ!!」

「不味い」


呆けた一瞬の間にエアブレスが吐かれ、慌てて土魔法によって土を隆起させ間に挟む。

粉塵を上げて砕けた壁は、どうにかブレスを防ぐが、生じた隙にザジルは大きく距離を取り、火弾(ファイアボール)を連射しながら逃走を始める。

追おうとしたベル目掛け、青年とミーシャが雄叫びを上げながら迫り、指示を出したベルモンドは両羽を広げ飛び立とうとしていた。


「ベルくん、任せろ」

「ああっ!」


腕から飛び出したフィーの六連式魔導筒は、撃鉄が叩かれる事で込められた魔力が発射される。

一々撃鉄を引く動作が必要となるが、フィーは腕輪型のゴーレムで素早く撃鉄を引き、迫り来る2人の膝を砕く。

崩れる2人の眼前で、左手のゴーレムが掴んでいた試験管の蓋が開けられた。


この試験管の透明な素材は、無垢なる氷と呼ばれる無色透明の鉱石。

硬度は硝子と同等だが、温度による形態変化は起きず、魔力を流すことで軟化する性質を持つ。

そして、中に入っていたのは焔の剣と呼ばれる練金素材であり、火山型ダンジョンのトラップに使用される鉱石だ。

空気と接触する事で、瞬時に1000度へと達する火柱を上げる。

僅か数秒で燃え尽きる上に、密閉しなければならない為、大変取り扱いが難しい素材である。


フィーのゴーレムによって、空気と接触した焔の剣は、1メートル程の火柱を試験管から立ち上らせ、振られた腕の軌跡を描く。

青年とミーシャの頭は瞬時に焼き切られ、ポロリと半ばで落下を始める。

ベルはフィーの背中を踏み台にし、空高く目指すベルモンドの(むね)を貫き、慣性のままに地面へと縫い止めた。


憤怒の剣(ラース)、喰らえ」


憤怒の剣(ラース)から噴き出した蒼炎は、ベルモンドを包み、甲高い雄叫びと共に燃えるが、やはり再生能力が高いせいか燃え尽きるのには些か時間を要した。

灰となったベルモンドの残骸から、魔石を探したベルが見つけたのは、赤黒い砕けた石。


「それは、なんだい?」

「この魔物の核、らしいが……魔石じゃないぞこれは」

「そうだねぇ、魔石にしては濁っている。まるで、ぐちゃぐちゃに混ぜた肉みたいだ」

「あぁ、ザジルを逃したのは痛いな。奴もこれと同じ物を宿しているなら、コレが今回の元凶に繋がるって訳だろ?」

「うーん、オレ達は只のDランクの冒険者さ。余計な検索は、しないでおこうじゃないか」

「面倒事に顔を突っ込む性分だったが、少しは補正しないとな」


ベルが漸く立ち上がると同時に、上空で派手な爆発が引き起きた。

爆発(バースト)は火魔法の中でも特に範囲と威力に優れた魔法であり、敵味方問わず巻き込む事から使用が特に難しくもある。

爆破に髪を撫でながら、2人が警戒すると、空から黒焦げの物体が石畳と衝突した。

度重なる戦闘で美しく並べられた道路は、一夜にして見るも無残な姿となってしまう。


「げ……げ…ご」


落ちて来た物体に目をやると、未だ再生を続けるザジルの姿があった。

背中の顔は焼き爛れ、詠唱を唱える事も出来ず、只のイボと化しており、肺をやられたのかブレスも吐けない肉塊は、脆弱な呼吸を繰り返すのみ。


「おお、生存者か。ゾンビじゃないよな?」


ザジルを追って現れたのは、Aランク冒険者ソラリスのパーティーメンバー。

酒に潰れたソラリスを置いて寝室へと向かったカップルの片割れ、Bランクの冒険者フレディであった。

半裸にマフラーとマントという変態的な格好だが、好青年な顔と鍛え抜かれた筋肉によって、女性のファンも多いが、彼女でもあるパーティーメンバーのパールに一途な男である。

戦闘では魔法使いであるパールの守護獣となるが、夜は彼女の方が獣だと酒に飲まれて零す彼である。


「っと、未だ生きているのか。しぶといな」


足掻かないザジルの元へと寄り、魔力を込めた足で動かなくなるまでスタンプを繰り返す。

スタンプの度に響く轟音から、彼が並の身体強化の使い手ではない事が察せられる。

彼を追って来たパールはベルとフィーに気がつくと、自分達は生存している冒険者や市民を集めている事を教え、冒険者ギルドへの同行を申し出た。

ベルは快く申し出を受け入れ、4者は夜の街の移動を再開する。

2人きりを邪魔されたフィーが始終不満顔であったが、幼い故の嫉妬だろうとBランクのカップルは生暖かい眼差しを送っていた。

ご愛読ありがとうございます。

ブックマークが生きる励みとなっております。

本日よ更新はここまででございます。


ザジルをベルが倒せなかった事ですが、ベルはザジルを殺してやりたい程嫌いですが、復讐したいとは思っていません。

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