ギルドの訪問者
あらすじ
宿屋のおばさんがゾンビになっちゃった☆
日が落ちる数刻前、冒険者ギルドに騎士達が詰め寄っていた。
「逆賊として、王妃が指名手配されている。大人しく身内を渡せ」
「申し訳有りませんが、何を仰られているのか分かりかねます」
「冒険者ギルドは逆賊に着くのか?」
「いいえ、冒険者ギルドは如何なる時も中立で御座います」
「なら、我々の邪魔をするなっ!王妃をだせっ!!」
詰められる受付のマリアンナは、内心ため息を吐いた。
話にならない。
国を守る戦力となる騎士だが、一枚岩では無く、コネや只貴族の血統であるという理由で在する者も多く、総じて居丈高な態度である。
騎士に成れば、産まれなど関係無く、市民に対しても真摯に向き合わねばならないのだが、彼等は産まれながらに自信が優れていると錯覚しているのだ。
だが、王族の力が弱まり、貴族が増長している為、彼等を鎮める者は少なく、公爵家三家の内二家も内心王族を見下している為に始末が悪い。
「騒がしいな、公共の場で騎士が喚くとは嘆かわしい」
「何だと貴様ァっ!」
背後より掛けられた声に、騎士の男が振り向き固まる。
公爵家の一家、国の誕生時より王家を支える剣であるウッドベル公爵家、現当主が立っていたのだ。
「う、ウッドベル様……」
「冒険者ギルドは公平な組織である。下手な介入は貴様の首一つで済むと思わない事だ」
「い、いえ、わ、私は、その……」
「少なくとも、レオンハルト陛下の命を書面にして持ってくる事だ。急ぎならば、尚更な」
「は、はっ!申し訳有りませんっ!」
これ幸いと早口に言い訳を喚き、部下達と急いで冒険者ギルドを後にする騎士の背中を眺めなら、ウッドベルは舌打ちする。
「あの様な小物が仕切るとは、メリッサは無事なのか……?」
「ウッドベル様、有難うございます」
「よい、それよりもアレは騒がしいだけの輩だが、恐らく騎士は全員墜ちたと見るべきだ。強行手段に移りかねん、ギルドの入り口を固めておけとギルドマスターからの指示だ」
「こ、公爵様を使うなんて……っ!」
「匙だ、私も一度領地に帰る必要があるからな、降りたついでだ」
肩を竦めたウッドベルに、迎えの手配をしようと腰を上げたマリアンナだが、ギルドの扉から慌ただしく飛び込んできた少年をみて動きが止まった。
ベル達なら彼を見て、先日ゴブリンから助けた事を思い出しただろう。
少年は血塗れの腕を抑えており、恐怖なのか貧血なのか顔色が真っ青であった。
「は、ハンケルがっ!ハンケルがっ!!」
ゴブリンメイジにより、火傷を負った少年の名を繰り返し叫び掲げた腕には、獣ではない人間の歯型に肉がえぐれていた。
「ち、治療をっ!」
我を取り戻したマリアンナは、カウンターを乗り越えて近付こうとしたが、彼女の腕をウッドベルが掴む。
「来るぞ」
続いてギルドに入ってきたのは、ハンケルという少年であった。
口周りと服が夥しい血に塗れており、口元から頭皮らしき肉片が垂れている。
既に犠牲者に至った者がいる事が察せられた。
「み、皆んながぁっ!!」
仲間が襲われた事を伝えようとしていた少年に、ハンケルが近付き大顎を開くが、それよりもウッドベルが剣を振り抜く方が早かった。
魔力を手足に流して踏み込み、上顎と下顎を切り離す様に頭部を両断する。
霊体系を除き、アンデットは頭部を破壊しなければ活動を停止しない。
「は、ハンケル……」
「少年よ、彼の魂を空に送るにはこうする他無いのだ。人の身ならばいずれ再会する、気に病むな」
剣に着いた血を払い鞘へと仕舞おうとするウッドベルだが、ギルドの正面からは再び顔色が黄色に染まり、目に光が無い少年2人が入ってくる。
ハンケルという少年に襲われた仲間であろうが、アンデット化するにしても早すぎる。
頭や顔の一部を欠損し、喰われた腹からは内臓が溢れている。
屍肉の肉体を持つアンデットは、死体の鮮度が高い程能力が高まる。
ゾンビは肉が落ちていくとスケルトンへと変貌するが、進化した上位を除けば、鮮度が高い程体積や体重、肉体強度も比例して高くなるのだ。
「不味いな、アレ程鮮度が高い死体ではDランクか……」
ゾンビは元々Eランクの魔物であり、死体が魔力によって変貌して産まれる魔物だ。
その性質上群れる事もあり、痛覚が無い為に怯まない上に、自身に不足している魂や感情を狙って、生者を狙うので始末が悪い。
死体の鮮度が非常に高いゾンビはDランクに届き、眼前の様にそれが二体ともなれば危険度はCランクと同レベルだろう。
ウッドベルが武闘派とは言え、専ら対人戦を主にする騎士であり、魔物を相手にするのとは勝手が違う。
目の前のゾンビが人型な事は幸いであるが、数の差は覆せない。
ここが冒険者ギルドである事を鑑みても、現在王都に高ランク冒険者の数は少ない。
これは勇者が魔王を討伐した事により、王都周辺の魔物の数が減り、依頼を求めた高ランク冒険者達が王都を離れた為だ。
「平和な阻害か、ままならんものだ」
ボソリと呟いて、足元の少年を背後に放り投げる。
マリアンナは受付嬢とはいえ、Cランクの冒険者だ。
現在では冒険者として活動していないが、実力は衰えておらず、少年を軽々と受け止めて傷にポーションをかけていく。
冒険者ギルドに置いてあるポーションの中でも低級である為、殺菌や失血作用しか無いが、回復魔法が使えるギルド職員に託せば外傷は癒えるだろう。
最も、眼前のゾンビ2体を乗り越えてからの話になるが。
周囲のEランク冒険者は完全に萎縮しており、Dランクの冒険者は漸く状況を理解したのかそれぞれ武器に手を掛ける。
本来、冒険者ギルド内での抜刀は罰せられるが、そうも言っていられ無い。
「来るぞ……」
ゾンビ2体は腰を落とし、獲物へと飛び掛かろうとしたが、自分の身体の違和感に気づいた。
痛覚や感覚が無いゾンビの足元は、白い冷気を纏う程凍っていた。
ウッドベルが1体の頭を切り飛ばしたと同時に、もう一体は頭から氷柱を生やして沈む。
見慣れた氷魔法に表情を和らげた冒険者達であったが、切羽詰まる表情で彼女は仲間と駆け足で飛び込んできた。
「ギルドマスターに伝えろっ!今すぐ聖結界の発動と入り口の制限、食料の確保と他局ギルドへ応援を要請しろっ!!」
「ソラリス嬢、如何したのだ?」
「今はっ!って、ウッドベル公爵様っ!?)
Aランク冒険者であるソラリスは、それだけ信頼がある事他ならない。
国の上層部の指名依頼も受けていた為、ウッドベルとも面識があった。
何故この様な薄汚い酒場同然の場所に居るのか困惑したが、直ぐに切り替えたのは流石と言えよう。
「街がゾンビに呑まれていますっ!」
ソラリスの言葉に粟立つ冒険者達は、家族や仲間、友人の安否に駆け出そうとしたが、彼女は魔力を込めて威圧した。
「先走るなお前らっ!無闇に出ても犠牲者が増えるだけだっ!!」
「何が起こっている?これ程早くアンデットは産まれるものなのか?」
「いいえ……通常ではあり得ない事態ですが」
と、前置きをしてソラリスは語る。
ゾンビに喰い殺された死体を、直ぐにアンデットとして甦えらせる魔物が居ると。
ご愛読ありがとうごぜーます