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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
21/57

王として、歯車として

あらすじ

メリッサと王子は何とか何とか生還できた

耳が痛くなる程の静寂。

王座に座るレオンハルトは、自分の手の甲を眺めいた。

年齢と共に刻まれていた皺は、僅かに薄れている。

本来謁見の間は使用人を含め、護衛騎士、貴族で多くの人が集う場所である筈が、今は呼吸一つ聞こえない。

王座を中心に、魔法陣が描かれており、魔術回路を辿れば黒いローブに身を包んだ骸が複数倒れている。

彼等は呪術師であり、忌み嫌われて表舞台から姿を消した存在だが、この国の貴族達は私腹を肥す為に保護していたのだった。

邪魔者の排除や洗脳、寿命の延命等、生と地位に固執する貴族達も又、今回の計画に加担した。


建国された当時から月日が流れ、王族の権力も衰え、私欲を満たす為に民を食い物にする、誇りを忘れた貴族の膿達の力が強くなって来ていた。

三家の公爵家すらも、武官である一家を除き、国の防衛費すらも惜しみ出す。

永遠の命と若さに固執する故に、説得が容易かった事は幸いと言えよう。


「所詮、羽虫程度の命では全盛期には程遠いか。まぁ最後は国の為に果てたのだ、光栄に思うが良い」


手の甲を撫でて、王が獰猛に笑っていると、謁見の間の扉が開け放たれた。

左右の扉はオリハルコンを材質に混ぜ込んでいる為、非常に重量が有り、複数人で何とか開け閉めが可能となる。

見栄を気にしなければ、別室に廊下へと通じる出入り口が備え付けられているのだが、使用人や護衛の者が利用する程度となっている。

黄金の鎧を身に付けた近衛騎士が、両の扉に1人ずつ、兜に覆われた表情は窺えない。


「陛下、ご気分は如何でしょうか?」


扉から入って来たのは、賢者ガラハンドであった。

その腕には、赤黒い石が埋め込まれており、血管が浮き出た場所は不気味に鼓動している。


「悪くないが、未だ足りぬ」

「それは、ご安心ください。呪術師達は術式に自らの命を組み込み、城を全て包み込む大魔術を発動させました。これは奪った命で拡大していく様に構築されています。放っておけば、私が使役するアンデット達が更に広げて、国中に届く事でしょう」


魔術とは魔法と異なり、事前に儀式や術式の構築を必要とする。

魔法は魔力とイメージ、それを補う詠唱が有れば行使出来るが、術者が居なければ発動が止まってしまう。

それに対し、魔術は魔力さえ流れ続けて仕舞えば、例え術者が死亡しても発動を継続する事が可能である。

特に呪術に置いてはこれが非常に重要となり、怨みや憎しみ、嫉妬といった負の感情を媒体とする為、自身や他人の命を使う事でより強力な術を発動する事が出来る。

今回の場合、呪術師本人達に加え、術の範囲内で死亡した者のエネルギーを利用して範囲と効果を広げる事が可能である。


「ふむ、何時もは煩い豚共も、今日は静かで御座いますね」


蔑む視線を送った先には、不老不死という甘露な話の為に、部下や使用人、自領の民、そして肉親すらも差し出した、肥えた貴族達が椅子に崩れ落ちていた。


「不老不死、褒美にくれてやれ」

「おや、よろしいのですか?」

「冒険者や私兵を相手にするには、只のアンデットでは心元無かろう。私が出ても良いが、頭が前線に立つ等阿呆がする事だ」

「仰せのままに」


ガラハンドは懐から赤黒い、賢者の石には至らぬ結晶を複数取り出し、死体に深々と突き刺していく。

己の腕に埋め込んだ石を媒体に、長々と詠唱と動きで儀式を成立させ、彼等の肉体に残る血肉を贄に魔術として呪術を発動する。

突き刺しれた石は、ゆっくりと鼓動を開始すると、根を張る様に死体の身体を浸食していく。

ビクビクと痙攣を始めた身体に死霊術を発動させると、ゆっくりと死体は蘇る。

されど、その姿は人であらず。

メリッサに賢者の石を埋め込んだ時は、人の身体に留めようとする実験であった為、アレでもかなり抑えた方である。

現在は変態を全く止め無かった故、肉が肥大化した者や、四足歩行様な姿になる者、最早肉の塊に成り果てる者もいた。


「奴のゴーレムさえ有れば……」


ボソリと漏らされた呟きを捉えた王は、丹念に剃られた顎を撫でた。

威厳が出るとはいえ、髭を伸ばせば掴まれる故、彼は髭を伸ばさない。

武人として、無駄な装飾も纏っておらず、品性を失った肥え太った貴族には舐められていた。


「メフィストのゴーレムは未だ、見つからぬか」

「っ!は、ハイ!申し訳有りません」

「良い、破壊の申し子の二つ名となる所以だ。確かにアレは強力だが、手に負えん」

「で、ですがっ!私ならっ!!」

「ガラハンド、奴が易々と手放すと思うか?」

「いいえ……研究所にも有りませんでした。あれ程の巨体なら、隠し場所は限られている筈なのですが」

「勇者、か」


王溜息と共に漏らすと、ガラハンドはギクリと身を強張らせた。

ラピス(錬金術師)の脱走は既に報告を受けている。

密偵が手引きしたのは明白であり、メリッサは漏らさなかったが、魔術の痕跡が発見された事から、エルフの可能性が高い事も分かっていた。

もしもエルフやラピスの口から、勇者へと情報が伝わっていれば、魔王よりも恐ろしい存在と相対する事になる。


「も、もしも勇者が計画を邪魔したら……」

「奴は、勇者である事を棄てた」

「はぁ…….」


何処か遠くを眺めながら王が笑っていると、慌しい足音を響かせて騎士が入っている。


「へ、陛下っ!」

「貴様っ!陛下の御前で騒々しいぞっ!」

「良い、申せ」

「はっ!王妃と王子達が城外へと逃走しましたっ!」

「逃しただとっ!?あれ程の戦力を割いたのだぞっ!?」

「メリッサ隊長を模した怪物と、エルフが瀕死の第1王子の救出に現れ……」

「みすみす見逃したというのかっ!?」

「ガラハンド、少し黙れ」


王は喚くガラハンドに言い放つ。

その表情に焦りは微塵も見られない。

呪術師達が用いた術式は、王族の血筋が有れば解除可能となっている為、自らの血を引く王子2人は危険因子となり得る。

第2王子は戦う力が無い程幼く、第1王子であるライオスの方が危険性が高いと見て、優先的に兵を送ったのだ。

近衛騎士からエルフの介入、メリッサと王子達の脱走を聞いた王は、自らの顎を撫でた。


エルフ達の国であるノーストラル大森林は、魔技国を挟んでおり、彼の国が出兵したとしても、既に魔術は発動した今手遅れだ。

今更慌てる事も無く、勇者と呼ばれるベオウルフは表立って戦う事が無い事を、付き合いが長いレオンハルトは確信していた。

舞台は整った。


「成る程、問題有るまい。全ては我が手の内だ。ガラハンドよ、騎士達に褒美を送れ」


王が命を下すと、報告に来た騎士を貴族の成れの果てが襲う。

悍ましいもの達に絶叫するも関わらず、喉笛を切り裂かれて沈黙し、人々が魂と呼ぶソレが王へと取り込まれた。


「ガラハンドよ、彼等は上位のアンデットと成るのであったな?」

「その通りでございます。生前の能力が高い程、上位のアンデットとなる傾向が有ります」

「騎士達は集めたのだな?」

「はい、後は贄とするだけでございます」

「良し、はじめるぞ」

「はっ!」


ガラハンドが死霊術を行使すると、ガクガクと騎士だった者は痙攣し、壊れた人形の様に起き上がる。

Eランクの魔物であるゾンビの上位、ノロノロとした動きはそのままに、腕力だけが大幅に強化されたゾンビウォーリアへと彼は生まれ変わった。

腰に下げた剣を抜いてはいるが、全身鎧の姿は傍目には生きた人間に見える。

彼を襲った異形達は、次なる獲物を求めて徘徊を始めたのだった。

大変お待たせしました

本日も5話分投稿します

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