錬金術に犠牲は付き物です
あらすじ
ラーナに2人は正体を話した
フィーはマジックバックのポーチから、幾つか焼き菓子を見繕い、部屋にあった皿に並べる。
甘い物が好きなフィーのポーチには、何時買ったのか分からない菓子が入っているが、時間停止の処置が施されている為、気分は兎も角味や鮮度が落ちる事は無い。
慣れているラーナも、特に思う所も無くボリボリと口に運んでいく。
「メフィ……あー、今はフィーだったかの。フィーはアレだ、魔導筒を取りに来たのじゃろ?」
「ご明察、死ぬ前は準備に忙しくて、死んでからも君に付いた密偵を警戒していて、中々来る機会が無くてね」
「ふんっ!お主の事だ、単に忘れていたのじゃろう?」
「そうとも言うね」
呆れた様な瞳でフィーを見たラーナは、ゴソゴソと自分の作業服のポケットを漁る。
彼女の作業服のポケットは、フィーによってマジックバックと同じ様に処置されており、様々な工具を仕舞っている。
また、下手に金庫に仕舞うよりも余程安全な場所として、客に収める商品も無造作に放り込んでいるのだ。
「ほれ、これが新たな姿へと変わった魔導筒、名付けて6連式魔導筒じゃっ!!」
ラーナがゴトリと机に乗せたのは、純白で回転式拳銃の姿に類似した物であった。
銃身が20センチ程と長くはなっているが、元の魔導筒よりも小型化しており、取り回しはしやすくなっている。
そっと手に持ったフィーは、まずその軽さに驚いた。
回転式シリンダーは横に取り出せ、刻まれた魔術回路によって、手を置く事で魔力を補充する事が可能な様だ。
「素晴らしいね、6連式か。元の面影もないから、改造って言うより一から作り変えたみたいだけれど」
「う、うむ。卿が乗ってな。気がついたら、ほぼ原型を留めておらなんだが、元はお主の魔術回路をベースにして、外付けのパーツのみ弄っておる」
「へぇ、これって何時でも再装填は可能なのかい?」
「いんや、構造や魔術回路の使用上、撃ち切ってからでは無いと魔力の補充は出来なんだ」
「うんうん、それでも単発式の魔導筒と比べれば雲泥の差だね。そうだなぁ、回転シリンダーを取り外し可能にすれば、交換して再装填出来るんじゃぁないかい?」
「実行したのじゃが、別のシリンダーを取り付ければ、魔術回路が途切れて修復不能となり、魔導筒自体が動かんのじゃ」
「ふむ、理論上は可能な筈だけど……。なら、もう一丁もお願いしたいのだけれど……」
続けた言葉が、ラーナの挙動不審さに尻すぼみになっていく。
フィーは6連式魔導筒をマジマジと眺めて、そっとため息を吐いた。
「ねぇ、ラーナ。白龍鉱、どれだけ残っているんだい?」
「そ、そ、それなんじゃがな……。6連式にした際、衝撃の吸収、反動の軽減、軽量化を図って、硬度にも拘った結果、その……」
「白龍鉱、インゴット1つ分くらいは渡したのだけれど?」
白龍鉱とは、生命の頂点に立つドラゴン種の中でも、更に頂点に立つ古龍達の魔力によって造られる鉱石である。
古龍達の寝床付近で、極めて魔力の通りやすいミスリルが、長い年月を掛けて古龍の魔力によって変質した鉱石である。
古龍の鱗程の硬度や魔法防御力を誇り、金属として加工出来る夢の鉱石である。
だが、白龍鉱と至るまでの年月、採取場所、精製や加工技術の難しさから、伝説の鉱石と言われている。
古龍を斃したベルとフィーですら、その寝床からはインゴット一つ分程度しか採取出来なかったのだ。
「全部使いました……のじゃ」
「えぇ……これ、国家予算より高いじゃないか」
手元の純白の6連式魔導筒を、フィーはそっと机に戻した。
「ベルくんの剣とか、盾とか鎧とかにも使うべきだったんじゃないかい!?」
「阿呆ぅっ!卿が乗れば惜しむべく使うのが職人じゃろうがっ!!」
「くぅっ!反論出来ないよっ!」
「じゃろじゃろっ!!」
何やら楽しそうに会話をしているフィーとラーナを、少し首を傾げて眺めるベル。
彼は貴重な白龍鉱には特に興味が無かった。
古龍の鱗に匹敵する硬度と言われても、その古龍の首を切り裂いて屠ったのは自分である。
その鎧や盾で身を守っても仕方ないと、手に入れた白龍鉱は全てフィーに譲ったのだった。
「そう言えば、何やら城が騒々しくなっておるの」
「ああ、ラーナは何か知っているか?私達は何か人体実験でも行なっていると思うが……」
「儂が知るわけ無かろうて。ふむ、そう言えばメフィストが殺されたんなら、研究資料でも漁ったのじゃろ?そこから何か、やってんじゃろ」
「えー……流石のオレとは言えね。生物同士を合成するキメラは管轄外だし、多くの人間を用いて行う実験かぁ……あっ」
声を上げたフィーに視線が集まる。
悪い事をした子供の様に、キョドキョドと視線を彷徨わせながら、フィーは続けた。
「もしかして、人間大砲かなぁ?ヒューマンやエルフ、ドワーフを弾にして。魔力の暴走を意図的呼び出す対城兵器、理論上は古龍すら斃しきれるけれど……」
「あれかの。儂と2人で設計したやつか」
「うんうん、それだよ。アレは考案して設計したけれど、レオンハルトに怒られてお蔵入りしたのだけれど」
「他国に対する抑止力としての運用か?確かに、私やフィーが居なくなったこの国は抑止力を失ったか?それでも、兵力を引き下げた訳では無いからな……。その、人間大砲とやらは、どれ程の人間が必要になるんだ?」
「古龍を斃すには千人くらい必要かなぁ」
「街が滅ぶな」
「ごもっともじゃ」
3人はのんびりと不味い紅茶を口に運んだ。
何はともあれ、3人には無関係だ。
王都一とは言え只の鍛治師のラーナは元より、勇者として魔王を討ったベルは罪人として手配されている。
そして、フィーは既に故人である。
かつては、知人は兎も角、国の為に命を張る義理は無いと考えていたフィーを窘めていたベルも、今は考えを変えてしまった。
この国で、勇者が表舞台に出る事は無いだろう。
「それよりもラーナ、君に尋ねたい事が一つあるのだけれど」
「ん?なんじゃ?」
「燃やしたマントの弁償とか、勝手に白龍鉱を使い切った補完とかは、勿論、してくれるんだよねぇ?」
「……」
「だってぇ、君は、一流の鍛治師だものねぇ?」
「お主は、昔から微妙にセコイのう……」
「ラーナ、ついでに私の剣と盾も見繕ってくれないか?」
「……あー、坊主はズ太くなったの。昔は可愛げが有ったのじゃが、魔王を倒した故か」
嫌そうに顔を顰めるラーナだったが、その内は友との再会に明るいものであった。
みんなのトラウマ千人砲?
大丈夫です、命のエネルギーを飛ばすのでは無く、魔力暴走させた人間を飛ばして、着脱と同時に爆散するだけなので、優しい兵器です。