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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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ドワーフと工房

あらすじ

マリアンナに怒られた

魔導筒の改造を任せた鍛冶屋を訪ねる事にした

フィーとベルは昼食を済ませて、王都の南方面に来ていた。

王都の南は貴族が少なく、一般市民が多い。

フィーが魔導筒の片割れを預けた鍛治師、ラーナもこの南方面の市街に住んでいる。

数年前は王都の中央通りに、大きな店を構えていたのだが、素人の貴族が自分に見合った武器をと、煩く注文したなど。

強い武器を持てば強くなれると勘違いした者達や、見栄の為に使いもしない武器を作らせる者達が、押し寄せた。

結局、根っからの鍛治師であるラーナは、金の量よりも自分にとって楽しい仕事以外はしたくない、と駄々を捏ね、元からの常連や、中央通りの客の中で、お眼鏡に罹った物だけがラーナに通される。

紹介された者も他言無用と契約を交わし、破れば今後二度とラーナの店と取引は出来なくなる。


「ラーナもフィーも似ているな、好きこそものの上手なれ、とは言うが……」

「あぁ、そうかも知れないね。とはいえ、以前なら、が付くけれどね」

「どうしてだ?フィーは、今も錬金術が好きだろう?」

「そうとも。けれど、ラーナと、私は、違うんだ。恋は病って言うだろう?オレは、君に、恋をしてからラーナみたいにさ、一途な気持ちで錬金術には取り込めなくなったのさ」

「恋は病か、確かに研究者にとっては致命的だな」

「あぁ、今のオレは、ベルくんと錬金術、何方を取るかと迫られれば、間違いなく君を取るからね」

「それは、嬉しいな。だが、お前は私の為に錬金術でその身体を造ってくれたのだから。案外研究者にとって、恋は悪くないかも知れないぞ」

「うん、確かにそうだ。恋は、原動力になり得るのかも知れない。まぁ、そう言った事に定義を付けるのは、何時だって知った気で語る傍観者だよね」

「知った気なのは違いないが、当人達に客観視する余裕は無いだろうから、仕方ないな」


南方面の市街には、市民の家や、工場が建っている。

何処からか、金属を叩く音が響く。

暖炉や竃以外で火を使う事は少ない。

工場等、大火力を必要とする場所では、魔物から取れる魔石を燃料として、魔法や魔術の火を用いる為、黒々とした煙が立ち昇る事は火災以外殆ど見られない。

見上げた空は、綺麗な青空だった。


時折すれ違う子供達は、皆何かに追われる様に急いてはいるが、彼等を追うのは時間だけだろう。

街並みが以前と異なって見えるのは、身長が縮んだからから、勇者という枷が外れたからか。

そっと目を細めるベルに、フィーは微笑んだ。


「おっと、見えて来たね」


フィーの言葉に建物に目を向けるベルだが、中央通りに店を構えているとは思えない程、粗末な武器屋であった。

古びた剣や杖の看板で、字が読めない人にも分かる看板。

中古の武具に、申し訳程度の真新しい解体ナイフや鉈は、冒険者よりも市民や農民を相手に商売をしている事が察せられる。

壁には研ぎますと、包丁の絵が描かれていた。


とても、王都一の鍛冶屋と呼ばれ、勇者やメフィストの知り合いが経営している店には見えない。

店番をしているのは、ベルと然程変わらない身長の、髭と顔が濃い男。

彼がドワーフである事は、カウンターに乗せられた度数の高い酒から察せられる。

店内に入って来たベルとフィーに、鋭い眼光が一瞬向けられたが、直ぐに興味がない様に磨いていた武器へと視線は下がった。

フィーのローブの下は兎も角、一見した2人の装備は、如何にも金が無い駆け出し冒険者の物である。

中古でも買いに来たのだろうと判断したのだろう。


「へぇ、全然変わって無いね」

「そうかい?あぁ、そうか。ベルくんは、こっちに来た事は少ないのか」

「うん、一応店としての面子があるとかで、何時もは中央通りの方を利用していたよ」


2人は店内を軽く眺める。

ベルは投げ売りされている中古の剣に、業物が混じっていやしないかと眺めたが、見習いが打ったらしい真新しい剣くらいしか見つけられなかった。

僅かにガッカリしたが、名匠がその様な物を見落とすわけがない事に気がついて肩を掠めた。

祭りの時などで、普段商売しない者たちの中には、価値がわからない名剣を端金で売っている事もある。


「当たり前だけど、此処には無いかな」

「何がだい?」

「いや、掘り出し物とかないかなって思って」

「うーん、私はよく分からないなぁ」


握りや鞘を軽く見やって、フィーは首を傾げた。

そんな様子に苦笑いしつつも、ベルは剣の良し悪しについて軽く話す。

握り易く、取り回ししやすい物が初心者におススメだと話した所で、フィーの場合はオリハルコンの腕輪ゴーレムの形状を変化させる事で、簡易な武器になる。

その為に短剣等は持っていなかったのだが、見える場所に武器を持つという行為は、それだけが自衛行為となる。


「フィー、短剣とかでも持っていた方が良いよ」

「そうかい?」

「うん、もしもの時に、予備の武器を持つのは基本だし、何より威嚇となって不用意に襲われる事が減るからね」

「成る程ねぇ。傷付けない為に武器を持つなんて、中々興味深い事だ。さて、短剣か……ふふふ」


ニコニコと楽しそうに微笑むフィーを、ベルは不思議そうに見やった。


「どうしたの?」

「いやなに、女の子なら、男に似合う物を選んで貰うだろう?それが何だか、嬉しくてね」

「そうなんだ。選んでいるのは、武器なのだけれど」

「それでも、さ。じゃぁ、ベルくん。私にはどれが似合うんだい?」

「似合う云々じゃなくて、使いやすいかなんだけどなぁ……」


困った様に笑いつつも、ベルはフィーに短剣を選び、2人でカウンターへと持っていった。


「おじさん、これ貰える?」

「ふん、1万5000ウィーロだ。本当はもう少し高いが、まけてやるから、嬢ちゃんに美味い飯でも食わせてやりな」


武具は高い。

その理由は技術費用が高いからである。

原料よりも加工者が商品として売り出せるレベルに達するまでには、何年もの修行期間が必要だ。

必然的に、加工商品は値段が上がる。

中古とはいえ、短剣でも2万ウィーロは超える事が多い為、かなりの金額をまけてくれたと言える。

思わず笑顔でお礼を言うベルに、ドワーフの男は照れ臭そうに視線を逸らした。

ベルがお金を払って短剣を受け取り終わると、横からフィーが声をかける。


「やぁ、ラーナは居るかい?」

「あぁ?ラーナ……?」


カウンターの男は惚けて聞き返すが、フィーが本気である事を察すると豪快に笑い出した。


「お前さん、どうやら騙された様だな。こんなボロい武器屋に、王都最高の名匠が居るわけないだろ?」

「騙された?」

「よく居るのさ、こんなちっちゃい武器屋に名匠が住んでいるなんて、馬鹿なホラを撒いてる奴がな」

「うーん、私達は騙されたとかじゃぁ無いんだけれど」

「あー、フィー。割符とか、契約書とか無いの?」

「アンタなら顔パスだよって言われたからなぁ」

「おいおい、お嬢ちゃん。居ないって言っただろう?名匠ラーナは、中央通りに店を構えている筈だぜ。良い武器をみる事は、新米にも良い経験になる、今から行ったらどうだ?」


暗に帰宅を仄めかしているが、魔導筒の手持ちは現在ホルスターに挿してある一つしかない。

奥の手となるとは言え、少し扱いが難しい数である。


「うーん、預けた物だからなぁ」

「分からん嬢ちゃんだな」

「取り敢えず、ラーナにこれの片割れを取りに来たよって見せてもらえるかい?」

「あぁん?なんだ……って…」


フィーがゴトリとホルスターから魔導筒を抜き、カウンターに置かれ、うろんげにそれを眺めていた男は、目を見開き固まった。

一見すると、金属製の太く短い杖に見えるが、カーブを描いた握り手や引き金から普通の用途では無い事が察せられる。

更に、使用されている金属は、アダマンタイトを大部分に使い、魔力の流れる回路にはミスリルだ。

材料費だけでも500万ウィーロに至るだろう。

何よりも、アダマンタイトは非常に硬度と融解温度も高い為、加工が非常に難しく、加工費用を乗せれば倍の金額を優に超えてしまう。

杖の握り手や引き金の細かい細工、更に持ち主の幸運を願ってか鳥の羽が彫られている。


「お、お嬢、こ、こいつは!なんだっ!?」

「魔導筒、私とラーナの合作さ。見事な事が分かったら、ラーナに見せて、預けた物を取りに来たよって伝えて欲しいのだけれどね」

「……ぐぅ、これ程の物を作れるのは、確かにラーナの姐さんぐらいだ。お嬢ちゃん達は姐さんの知り合いなのか?」

「えっと、うーん」

「知り合いです。それを渡して、ベルとフィーが来たって伝えて貰えれば、僕達と会ってもらえると思います」

「ふむ、分かったちょっと待ってろ」


ドワーフの男が奥へと消えた所で、ベルはそっと盗聴防止の魔法を解除し、フィーはホッと一息を吐いた。

魔導筒は単発式で連射が不可能である。

その為、メフィストは二本の魔導筒を交互に用いていたので、片方をラーナに預けたままでは非常に困るのだ。

そして、魔導筒の作成はラーナでなければ、素材の加工が難しい。

また、腕は合っても、魔導筒の技術を拡散されてしまうのは非常に不味い。

ラーナと会う事は、かなり重要であった。


『……っ!?………っっ!!』


ベルとフィーがぼんやりと待っていると、漸く戻ってきた。


「ふむ、姐さんは会うそうだ。奥へ進んで、階段を降りて」

「大丈夫さ、分かっているとも」

「そうか、ところでお嬢ちゃん、どっかで会った事あるか?」


ベルとフィーは目を見合わせて笑った。

目の前のドワーフの男は、ラーナの1番弟子であり、必然的に出会うことが多い。

ベオウルフと、メフィストの時は何度も顔を合わせていた。


「会ったことは無いけれど、君は私を知っている。けれど、答え合わせはしないよ」

「それじゃぁ、失礼しますね」


歩みを進める背中に、かっての勇者と錬金術師を空目したが、あり得ない事に首を振って酒を煽った。

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