背中を任せる人
あらすじ
女子力低い錬金術師は牢屋にぶち込まれたら、騎士団長がいてた。
騎士団長を置いて、エルフに拉致られた。
「片付けようか」
「あぁ」
フィーを抱きしめていたベルは離れたが、お互い何となく気まずいままであった。
オークから魔石を回収して、他の部位は丸ごとマジックバックにしまう。
オークの肉は、家畜にされている豚、ピグゥよりも脂がのっており肉は濃厚な味がする為、高級食材として扱われている。
更に、上位種となる程その価値は高まるが、実は味の違いはそれ程大差は無い。
2人して無言のまま敵を避けつつ、街道沿いに着くとフィーが魔物避けのポーションを巻いた。
火を炊き、お湯を沸かして、採取したハーブと共にポットに入れる。
ぼんやりとするベルの手に、フィーはハーブティーのカップを持たせた。
「それにしても、抱きしめるなんてどうしたんだい?オレが愛しくなったなら、仕方ないけれどさ」
「あー、そうだな」
困った様に頭をかくベル。
フィーは、こういった時に何と言葉を掛ければ良いのか分からなかった。
実の親に、物心がつく頃には見捨てられ、成人の13歳を迎えると同時に放り出されたメフィストは、勇者以外に興味を持った事が無かったから。
「ふふっ、ごめんねぇ。こう言った時に、何て声を掛ければ良いのか、オレは知らないんだ」
「お前を悩ませて本当に悪いな……」
「良いさ、大方幼馴染の事なんだろう?その身体になってから、身体に精神が引っ張られているんじゃぁないかい?」
「ご明察だ。幼馴染は、お前と同じくらいでな……過保護になっている様だ」
「ベルくん。君、結構失礼な事を言っているよ?」
「ん?」
「あの程度のオークに、オレが遅れを取るって、信じて無いって事だろう?」
「そりゃ、お前は……」
「ベルくん」
ずっと、背中に守って戦っていた、自分の相棒の錬金術師。
彼女が真っ直ぐ見据える。
「君はオレの憧れだったんだ。憧れで、大好きな人。今のオレは、君と肩を並べられる。もぅ、背中に庇われるだけじゃないのさ。君の背中を任せて、信じてくれないかい?」
「フィー……」
ベルは、自分の力が卓越した物だと認識していた。
幼馴染同様、少女の身体となったフィーの事は、以前よりも守るべき対象としての意識が強まっていたのだ。
「信じるか。難しいな、人って奴は」
「そりゃぁね、オレだって君以外に、こんなにヤキモキして言葉を選ぶのはしたくないさ」
「強くなってくれよ、背中を任せられる様に」
「惚れ直すかい?」
「今更だ」
「なら、頑張るよ」
2人はのんびりと休憩した。
時間はたっぷりとあるのだから。
「そういえば、身体能力はかなり上がっているなら、近接戦闘も練習するか?」
「うーん、さっきも咄嗟に魔導筒使ったからね。恐らくオレは、自分の肉体は信じきれないみたいだよ」
「ま、その内に慣れるだろう」
「そういうものなのかい?」
「そういうもんだ」
フィーが魔導筒を取り出すと、いつもの様にベルに渡すした。
そして、魔力を込めようとした彼は、手を止める。
「いや、補充は自分で出来るだろ」
「そっか、そうだったね」
「お互い、まだまだ慣れないな」
苦笑いしながら、2人で笑う。
パチリと、焚き木が音を立てた。
「フィーは元々、自衛の体術は出来ただろ?」
「身体捌きくらい出来なければ、君との旅についてはいけないからね。人間相手だったら、避けたり反らしたりは出来るけれど、力も速度も無いから反撃も防御も出来ない。時間稼ぎしか出来なかったよ」
「組手だな、明日から」
「そうかぁ……」
身体を鍛える事を好まないフィーが憂鬱そうに視線を空に移した。
ベルはウェストポーチから、オークジェネラルの魔石を取り出す。
どうしたものかと思案して、ニコニコとしたマリアンナの顔が浮かび眉をひそめた。
「コイツの事は、何て報告する?」
「討伐は駄目だね、オークジェネラルはCランクの魔物。目撃しただけでお祭り騒ぎさ」
「そうだな、目撃した事をギルドに報告か、私達が間引くかだな」
「後者なら、高級食材の在庫確保と戦闘経験が積めるから……ふふっ、夫婦の共同作業と行くかい?」
「分かった」
立ち上がったベルは、首を鳴らしならす。
フィーはローブを脱ごうとして、オークウォーリアに叩き斬られた事を思い出した。
余り気にしていなかったが、スカートでは無ぴっちりとしたショートパンツを履き、太腿までは黒い靴下を身につけている。
脚を出すことをはしたないとしている、王国貴族の女性が見たら侮蔑の視線を送るだろう。
そして、チラリとベルの方を伺うが、彼が気にしていない事から、冒険者にとっては普通であると判断して安堵していた。
それでも、一応前に使っていた灰色のローブを取り出して被る。
デビュー当日に失われたローブに想いを馳せてため息を吐いた。
「そういえば。ポーションは使わない予定だったんじゃ無いのか?」
「オレは錬金術だからね、事情が変われば意見も変わるのは、研究では当たり前だよ?」
「ごもっとも」
その日は結局、森で一夜を過ごす事となる程遅くまで、発情期に入って勢力を広げていたオーク達は間引かれた。
最初以外にオークの上位種に遭遇する事は無く、拍子抜けした2人であった。
2人によって、ひっそりと王都の危機は去ったのであった。
最も、オークジェネラルが生まれた元凶は、2人に感知される事なく姿を消してしまったが。
オークジェネラルが生まれたのは、自然発生じゃなかったりします。