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魔王を倒したその後で  作者: 夏目みゆ
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オークとの攻防

あらすじ

ゴブリンに苦戦していた少年達を助けた

ゴブリンに襲われていた少年達によると、白金(プラチナ)とはベルとフィーを指す愛称であった。

受付嬢のマリアンナが金髪のベルと、白髪のフィーの組み合わせは、まるで白金(プラチナ)の様な存在だと騒いでいた所から広まったらしいが、ベルもフィーも何とも言えない表情をしていた。


「それにしても、君らは強いな」

「そうかな?相手はゴブリンだし、普通だと思いますよ。怪我の治療をした方が良いから、今日は街に戻った方がいいよ」

「あぁ、ハンケルも生きてて良かった……。討伐証明部位と魔石はどうする?助けて貰ったからな、欲しいなら全部やるけど」

「えっと、じゃぁゴブリンウォーリアのだけ貰うね。フィーの使ったポーション代って事で」

「いいのか?命の恩人だ、俺たちの手持ちを全部払っても足りないと思うが……」

「えっと、じゃぁ、君達が困った人を見たら助けてあげてね」

「お前、良い奴だな」


へへっと鼻を擦るリーダーらしき少年、仲間の少年もホッとした様な表情をしていた。

怪我をした仲間の治療費が必要な上に、今日の稼ぎのゴブリンを全て譲っては彼等が困るだろうとベルは考えたのだ。

ただ、それでは気後れしてしまうだろうと、フィーが使ったポーション代として魔石を貰った。


Eランクとはいえ、上位種のゴブリンウォーリアの魔石は5000ウィーロだ。

実に1日分の稼ぎになる。

安いと思う事なかれ、冒険者は1日獲物を探すだけに終わる日も多い。

毎日依頼を平然とこなすベルとフィーは、実は異常なのだが、本人達にはその自覚は無い。

常識人が欠如しているパーティであった。

少年達と別れた2人は更に森の奥を目指す。


「ふむ、咄嗟に脚に魔力を練って、それなりに負担が掛かった筈だが、特に違和感が無いな」

「そうだね、もしかしたら身体に何か変化が有ったのかもしれない。君は胸に移植した賢者の石が核となっているから……身体を作り変えている、とか?」

「心配するなフィー。不調が有ったら、直ぐに言う」

「頼むよ、君には末永くオレと添い遂げて貰わないといけないのだからね」


森の深部に辿り着くまでに、ゴブリンをそれなりに倒した2人。

大人並みの体格に、知恵もそれなりに働くホブゴブリンや、ゴブリンウォーリアもそれなりに混ざってはいたが、所詮はEランクの魔物であり、敵では無かった。

そして、森の深部に辿り着いた。

ベルがフィーを制し、険しい顔を浮かべる。


「方向2、距離65、数6……不味いな、メイジと弓持ち、嘘だろ?ジェネラルがいるぞっ!?」


オークはDランクの魔物である。

成人男子を上回る体格と、それに見合った膂力(りょりょく)を持つ上に、発情期は凶暴さが増す。

更に群れる為、3体以上の討伐ランクはCランクとされている。

オークジェネラルは、オークの上位種の中でも更に強力な個体で、単体でCランクの魔物となる。

オークウォーリアが進化を遂げる事でオークジェネラルへと至り、その上はキングやロードと言った王種となる。

大規模な群れを率いる王種は、例えゴブリンで有ろうとも早期討伐しなければ、国の在命の危機となる。

その為、王種に近しい存在を確認出来次第、冒険者ギルドへの報告が義務づけられている。


ベルとフィーが、この身体になってから倒した魔物はせいぜいEランク。

Dランクの魔物を飛ばして、Cランクの、それも取り巻きを率いた状態で戦うのは危険と判断した。

元の身体であれば、考え無しに突撃した可能性はあるが、かなりの弱体化されている現在では、命を落とす可能性も十分考えられる。

2人とも、身体の性能を測りきれていないのである。


「フィー、今日は引くぞ。ギルドに報告して……気付かれた」

「あらら、スカウトがいるのかい?フルパーティだね、此方は2人なのにさ」


突然移動速度を上げて此方に向かってくるオーク達。

未だ森の木々で視認は出来ていないが、確実に近づいて来ている。


「よし、じゃぁ引きながら迎撃してあげようか」

「だな、律儀に止まる必要も無い」


意地悪な笑みを浮かべたフィーは、勇者よりも戦闘を苦手としていた為、搦め手を好んでいる。

ベルは土魔法を使い、薮の切れ間に1メートル程の穴を数個開けて行き、フィーと共に魔力を練る。

使う魔法は火矢(ファイヤボルト)

対象に刺さり爆発する為、殺傷力が高い魔法となっている。

先程ゴブリンメイジが使った火弾(ファイヤボール)は、対象に当たると爆発して巻き込み、外傷は狙えるが、致命傷にはなり難い魔法である。


「手加減する必要は無い」

「任せてくれたまえ」


徐々に草木を分ける音、咆哮と共にオーク達が薮を超えて来た。


「「ブガッ!?」」


普通のオークと弓を持っているスカウトが先行しており、薮の先にある穴に足を取られる。

しかし、惚けたのは僅かであり、オークスカウトの方は転倒する一瞬で弾ききっていた弓から矢を飛ばして来た。

恐らく、出会い頭に牽制として射つつもりだったのであろう。

狙われたフィーは、咄嗟に横に飛ぶ。


「「火矢(ボルト)ッ!!」」


詠唱とは魔術に必要な儀式であり、本来魔法には必要としない。

だが、求める魔法のイメージや、明確に発動意志をする為に魔法名などを唱える。

その為、自分で現象を想像出来るのであれば、魔法名を唱えなくても魔法の発動は可能である。


ベルの放った火矢(ファイヤボルト)は、的確にオークの頭へと吸い込まれ、頭部を破壊した。

フィーの放った方は、火矢(ファイヤボルト)と呼ぶには余りにも太い。

最早、火槍(ファイヤランス)に近いそれは、狙いが逸れてオークスカウトの肩口に突き刺さり、爆発した。

空中で身を捻ったフィーが着地すると、身体の四部の一が吹き飛んだオークスカウトがゆっくりと沈んでいった。


「ちょっと、込めすぎたかな?」

「よし、距離を取るぞ」


オークジェネラルは直ぐそこまで来ている。

ぐっと下半身に力を込めたベルだが、フィーの異常に気がついた。

フィーが飛んで着地した場所に、何の偶然かスライムがいたのだ。

スライムは取り込んだ物にしがみ付く性質がある為、足を抜こうとしても、トリモチの様に引っ付いてしまう。

互いに見つめ合い、フィーはフニャリと笑った。


「 ベルくん、失敗したよ」

「作戦変更だな」


ふっと息を吐きながら、ベルは前へと踏み出した。

短めのショートソードを引き抜き、皮の盾を持った左手に魔力を集める。


ベルの背中を見て、歯痒く感じながらもフィーはスライムに火矢(ファイヤボルト)を撃ち込む。

怪我を気にしている時間は無い。

爆発と共に核が破壊されて解放されるが、捕まっていた右脚には鈍い痛みが走る。

舌打ちと共に顔を上げると、オークジェネラルにベルが吹き飛ばされる所であった。


オークジェネラルの勢いを乗せた一撃を、ベルは防ぐ事には成功した。

しかし、自らの身長と共に体重が軽くなっていた事が頭から抜けていた為、踏ん張りきれず弾き飛ばされたのだ。

空中で体制を立て直すと、吹き飛び方向に風魔法で足場を作成、慣性を無視して無理矢理前に跳ぶ。


「ブガンガッ!」


オークメイジの叫びと共に、先の尖った岩が飛ぶ。

岩矢(ロックボルト)は、質量により相手に突き刺さる。

狙われたフィーは、脚の痛みに顔を顰めつつ、太腿に付けたホルスターから試験管を抜き取り岩矢(ロックボルト)に投げつけた。

衝撃により中の液体が混ざり、爆発と共に岩矢(ロックボルト)を吹き飛ばして軌道と威力が大きく逸れる。

ベルとの特訓を思い出しつつ、身体に魔力を巡らせて肉体を活性化させていく。

オークメイジに続き、オークウォーリアは爆風の中を駆け抜ける。

鉄製の大剣がフィー目掛けて振り下ろされ、彼女のローブを引き裂いた。


「ブガッ?」


オークウォーリアの大剣が捉えたのは、フィーのローブだけであり、彼女は横に転がっていた。

ローブへの感触にオークが理解に有する一瞬のあいだに、フィーはウエストポーチに付けられたホルスターからソレを抜く。

杖と呼ぶには短く、筒状に穴が開いている。

まるで中世時代のピストルの様なそれは、過去にドワーフが考案して設計したものを、魔改造したものである。

攻撃手段が乏しいメフィストは、攻撃魔法の代わりとしてこの武器を作った。

単発式となるが、後に賢者の石作製に流用した、魔力をエネルギーと変換して貯蓄する技術が組み込まれている。

引き金を引く事で、貯蓄したエネルギーを敵に撃ち出す武器、魔導筒である。

勇者に魔力を補充させれば、例え魔王と言えど無視出来ない威力となる。


そんな魔導筒は、鈍い爆発音を立てて中のエネルギーを弾にして放つ。

慎重に狙う必要は無い。

反動で跳ね上がった右腕はズキズキと痛むが、胸に大きな風穴を開けて沈んで行くオークウォーリアに、フィーはホッと一息つくのだった。


勢いを付けて斬りつけたベルの斬撃は、武器を振り切り硬直したオークジェネラルを捉える筈であったが、間に入った木の盾を構えたオークによって阻まれた。

とは言え、刀身よりも伸びた魔力の刃は、オークを盾ごと切り捨て二分にしてしまう。

障害無く一対一の状況が作られた。

響いた衝撃音から、フィーの無事を察したベルは、片時もオークジェネラルから目を離さない。


「ブゴッ!」


気合いを入れるよう様に、オークジェネラルは短く鳴いた。

オークジェネラルは、急所の各部、頭、手脚に金属製の鎧を身に纏う。

この金属は、オークメタルと呼ばれて、上位種のオークが産まれながらにして身につけている金属である。

オークメタルは、鉄よりやや硬度が高く、粘りも勝る。

だが、オークメタルはオークの装備を潰して作る事しか出来ない為、余り需要は高くない。


オークジェネラルの鎧は、全身鎧(フルアーマー)では無く部分鎧であり、ベルは露出している首を狙っている。

しかし、それはオークジェネラルも分かっているのだろう、両手剣を上段に油断なく構えている。

ベルはこの身体で何度か戦い、以前の様に腕力を活かした戦いが難しい事に気が付いていた。

しかし、咄嗟の時に取ってしまう行動は、勇者ベオウルフの時と同じであり、先程も吹き飛ばされてしまう。


「少し、羨ましいなその体格。まぁ、泣き事言ったら悲しませるから余り言いたく無いが……」


自分の少年時代を思い出しながら、魔力を身体に巡らせる。


オークジェネラルは咆哮と共に距離を詰め、膝蹴りを放つ。

後方にバックステップで跳んだベル目掛け、上段から長剣を振り下ろすが、斜めに構えたショートソードで受け流され、出来た隙を狙われる。

金属音と共に、オークジェネラルが自分の首との間に割り込ませた腕が痺れた。

体重が乗らないまでも、腕力に物を合わせベルに向かって切り上げる。


ベルは自分に向かってくる刃を、上へと弾いた。

オークジェネラルの目が開かれる。

片腕は痺れ、片腕は上に打ち上げられ、急所を守る道は無い。

オークジェネラルの首が宙を舞った。


「フィーっ!?」


強敵を倒して息を吐く間もなく、フィーの方を見たベルだったが、既にオークウォーリアは斃されていた。

オークメイジは、岩矢(ロックボルト)を避けるフィーを、苦々しく見て後ろを振り返ると撤退を開始した。

その肩は大きく抉れており、オークウォーリアを狙った弾が掠めたのだろう。

追いかけようとしたフィーだが、それよりも速くベルの剣が心臓を貫いた。


「……あ、ベルくんも終わったかい?」


腕を回して、魔導筒の反動を確かめながフィーが近寄ってくる。

紅瞳の瞳孔は、爬虫類の様に細くなっており、上気して染まった頬は、妖艶さを引き出していた。

ベルは無言で近づいて、フィーを抱きしめる。


「う、うわぁぁーっ!な、な、なんだいベルくん!?あ、あ、もしかして、血が滾ってるのかい?お、オレとしてはばっちこいだけれども、初めては、ほら、ムードとか、ベッドの上とかが、良いと思うよっ!」

「あー、良かった。無事だ無事、割と焦ったぞ」

「ご、ごめんねぇ、ドジ踏んだばっかりにさ」

「いい、いい。でも、もうちょっと周り見てくれ。今の私だと守り切れないかもしれない」

「……精進するよ」


互いの高鳴った心臓の鼓動を聴きながら、生きている事を確認する。

幼馴染と過ごした、何時かの日に想いを馳せて。

戦闘って難しいですね。

シュババーって表現出来たら楽なんですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンがシュババーって書かれてる。良く読めばシーンをイメージできるので良いと思います! もっと分かりやすく書くなら、商業作家の真似するとかかなー。あとは挿絵に頼るか・・・なろうって絵は…
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