性増強剤とオークの睾丸
あらすじ
女子力が低い錬金術師と出会った
デートを終えた翌日、ベルとフィーは王都の外に居た。
剣だけであったベルの装備は、盾と急所を覆う皮鎧へと変わっており、冒険者らしさが上がっている。
フィーは灰色のローブが深緑の物へと変わり、森での隠密性が上がっている。
腰に下げた杖は、相変わらず安物のままだが。
今回2人の狙いは、Dランクの魔物であるオークだ。
性欲旺盛であるオークは、発情期になると睾丸が肥大化している。
異種の雌を対象とする事は無く、あくまでも餌として襲う。
性欲により凶暴化したオークは、腕力や耐久性が非常に高く、時には致命傷を受けて尚暴れる事もある。
討伐証明部位は象牙の様に伸びた牙である。
最も、オークは捨てる所が無いと言われる程、全て食用や、錬金術、薬術、武器防具の素材として使われる為、可能ならば全て持って帰る事が望ましい。
特に、オークの睾丸は珍味として扱われる他、薬にする事で性欲の増強剤として貴族達に取引される程であり、オークの上位種に成る程その価値は上がる。
ただし、ゴブリン同様徒党を組む知性を持つ魔物な為、実際の討伐難易度はCランク並みで扱われている。
現在Eランクになったばかりのベルとフィーでは、討伐依頼を受ける事は叶わないだろう。
「と、言う訳で、勝手に倒そうと思ってさ」
「いや、駄目だろ……と言いたい所だが。お前の動機は兎も角、この身体で自分よりも巨大な魔物との戦闘には慣れておくべきだろうな」
現在ベルの身体は少年となっている為、対人戦においても相手は自分よりも背の高い事が多くなる。
勇者ベオウルフとして戦っていた頃は、高身長で屈強な体格をしていた。
2人のマジックバックには、まだまだゴブリンやホーンラビットが入っている為、数日は働かなくても良い状態である。
勿論、一般の冒険者達は探索して獲物が無い日も普通に有るのだが、2人が気がつく事は無く、毎日の様にマリアンナに報告していた。
オークの生息地は、王都から南に広がる森の深部である。
ベルがマリアンナに尋ねた所、その危険度と生息地を熱く語り、森の奥に行かない様に注意された。
ベルの様な可愛らしい少年はオークに愛玩されてしまうと言っていたが、オークは他種族を愛玩する生態は無い。
肥大化した睾丸から連想されたイメージであるのだが、遥か昔から未だに下卑た男の比喩に使われたりする。
マリアンナの言っている意味が分からないベルであったが、曖昧に頷いておいた。
比喩を用いた脅かしにしても、何故フィーでは無くベルに対して言ったのかは、その理由は呼吸の荒い彼女にしか分からない。
「ゴブリンだ。交戦している、恐らく冒険者だ」
「へぇ、劣勢かい?」
「前方、距離は60、数は4で、冒険者も同数だ。恐らくは大丈夫な筈だ……む、メイジがいる」
「メイジ?珍しいね、割とまだ浅い所なのにさ」
「追いやられたのかもな、だとすると発情期でオークの群れが狂暴化しているのかもしれないな」
森の深部を目指すには、どうしても彼等の方向に進む必要があった。
態々迂回をする程の理由とは思えず、最悪森で一泊をする予定だが、マリアンナがまた騒ぐことを懸念している2人である。
暫く進んでいるが、状況はあまり変化が無い様子で、彼等の姿が遠目に視認する事が出来た。
2人よりも僅かに歳上であろう少年達が、軽装に身を包みゴブリンと戦っていた。
「加勢はするかい?」
「狙われたらで良いだろ、下手に手を出すと、難癖を付けられる」
「難儀なものだね」
状況が一変したのは、ゴブリンメイジが発動させた魔法を、前衛らしき少年が避けた時であった。
他のゴブリンと交戦していた少年に、燃え上がる火球が命中した。
叫び声と共に火達磨になりつつ吹き飛ばされる少年、地面に落ちて火は消えたが、背中への衝撃で動けない彼にゴブリンが迫る。
「ゴブリンウォーリアだと?」
ゴブリンは普通木や石の武器しか持たない。
しかし、魔物の中には繁殖では無く、魔力や瘴気が集まる事で自然発生する事がある。
また、進化する事で周囲の魔力等から武器や防具を生み出す事もある。
ゴブリンの上位種であるゴブリンウォーリア、ゴブリンジェネラルといった存在は、金属製の武器を魔力等から進化や、自然発生で作り出すのだ。
中には冒険者から奪う者も居るだろうが、それは只のゴブリンである。
ゴブリンアーチャーや、ゴブリンメイジと異なり、ゴブリンウォーリアとして生まれる者は珍しく、森の奥に生息している筈である。
「探索の精度も、割と下がっている様だ」
舌打ちと共に駆け出すベル、それに続くフィー。
ウォーリアとゴブリンの違いは殆ど無く、外見は鉄製の武器を持っているかどうかの違いしかない為、区別がつきにくい。
さらに、冒険者から奪ったにしろ、拾ったにしろ、普通のゴブリンも金属製の武器を持つ事があるのだから、尚更両者の区別は曖昧である。
だが、本来子供程の筋力しか持たないゴブリンに対して、ゴブリンウォーリアは大人程の筋力を持っており、相当危険な魔物である。
「風よっ!」
フィーが走りながら補助魔法を使い、追い風が2人の速度を上げる。
魔力を更に脚へと練って、ベルは前方に飛んだ。
それでもまだ足りず、ウェストポーチから投げナイフを掴んで前方に投擲した。
倒れた少年に振り下ろされた剣を持つ腕にナイフが刺さり、衝撃で剣筋が頭から逸れ肩に裂傷を与える。
突然腕から生えたナイフに困惑しつつ、ゴブリンウォーリアは投擲方向を見やる。
煌めく黄金が視界に入ったと同時に、彼の首が宙を舞った。
「討ち取れっ!」
ベルの叫びに、少年達が惚けたのは一瞬。
仲間の死に動きが止まってゴブリン達を、全員が斃した。
フィーは取りえず、ベルに続いて来たものの、それぞれがゴブリンを倒していた為、手持ち無沙汰になってしまい、取り敢えず倒れている少年にポーションをぶっ掛けた。
薬草採取の依頼で作ったポーションな為、劇的な効果は無く、傷の治りを僅かに早くしたり、化膿を抑える効果がある程度だ。
ゴブリン達を倒した少年達は、怪我をした少年の元に集うが、幸いな事にそこまで酷い火傷では無く、肩の傷も致命傷とは程遠い為安堵していた。
「すまない、助かった。友達を救ってくれて……って!」
「「白金っ!?」」
「白金……ですか?」
「いや、あの……」
少年達は、しどろもどろに視線を動かした。