死後の物は誰の物
あらすじ
上手いこと他人に王都を探らせる事に成功した2人。
冒険者ギルドのソラリス達の会話を、ベルはフィーが作ったイヤリングで聞いていた。
予め魔力を込めた通信の魔道具を、フィーが抱っこされている間に、ソラリスの服に忍ばせたのだ。
「よし、これで問題無いな」
「どうなったのさ?」
「上手い事、メフィストの死と関連付けてくれた。後は、勇者の事を知りたがっている他国の者が、手練れを送る様だ」
「遅くても、1週間で結果は出そうかな?」
「多分な、向こうが動けば此方も動く。前々から、事前準備でもしてなければ解決するだろう」
「成る程、事前に準備なんてしてる筈ないからねぇ。それじゃぁ、デートしようか」
腕に絡むフィーをチラリと眺めて、歩きながら使っていた盗聴防止の魔法を切った。
ご機嫌に鼻歌を鳴らすフィーだが、音楽を聴いた事が殆どが無い為、適当だ。
「フィーは武器屋さんの場所知ってるの?」
「知らないよ。けれど、迷えば迷った分ベルくんと歩けるだろう?」
「そう言う考えもあるね。ちょっと前は、寄り道なんて事、考えた事も無かったよ」
「そうなのかい?」
「そうだったよ」
ふらふらと、冷やかしながら歩く2人。
「あっ!ベルくんみておくれっ!」
フィーが何かを見つけて騒ぎ出す。
視線を追いかけて見ると、魔道具のお店が見えた。
魔道具は、錬金術師や魔術師、魔法使いや魔道具師、様々な職人が手掛ける道具である。
魔術師とは、媒体を使って魔法の様な現象を起こす技術である。
多くは魔法陣や、魔石を用いて行う事が多い。
魔術の魔法の大きな違いと言えば、儀式を行うかだ。
儀式や媒体、魔法陣の用意が必要となる魔術は強力な物が多く、更には魔力を持たない一般人にも使う事が可能となる。
現在多くの魔道具は、これらの良い所どりの形だ。
錬金術の中にも、魔術の技術が入り込んだり、代わりに錬金術の技術を魔術に取り入れるなど、魔道具を含む技術は日々進歩しているのだ。
「いらっしゃいませ」
チラリとベルとフィーの格好を見た店員は、只の冷やかしだと判断した。
大方、低ランク冒険者が夢を見ているだけだと。
「へぇ、結構新しい魔道具が出ているみたいだ」
「本当だね……あっ」
「どうしたんだい?って、これは……」
ベルとフィーが見つけたのは、通信の魔道具であった。
メフィストが死の間際に渡した道具であり、資料は全て押収されていた。
展示されていたのは、握り拳大の大きさの無骨な箱であった。
ベルやフィーが使っている小型のイヤリングとは異なり、距離も20メートル程しか使えない。
更に、魔力波(電波でいう周波数)が全て同じな為、近くにいれば誰彼問わず受信してしまう。
かなり劣化したと言うより、欠陥品の性能に落としている。
魔道具の内部には、魔道回路と呼ばれる魔術を起動させたり、魔力を指定方向に導く回路があるのだが。
魔道回路は、製作者の性格が出るため、他人が弄るのはとても難しく面倒な為、他人の作品を直ぐに改良を施す事はとても難しいのだ。
勿論、製作者名はガラハンド。
商人ギルドには、特権を考案中らしいが、既に実績は立てている為、改良出来次第申請する様だ。
商人ギルドとは、冒険者ギルドと似た様に民間の組織である。
新しい商売を始める時に、投資をして貰う事も出来るし、商売の権利をギルドに売却して、代わりに商売してもらう事も出来る。
また、力を持たない技術者達の後ろ盾となり、産まれた技術に特権を与えて、類似品や粗悪品を厳しく取り締まっているのだ。
勿論、より改良された技術と認められれば、そちらの技術に特権が掛かる。
その為、技術者達は日々切磋琢磨している。
「取り敢えず、通信魔道具を最初に作ったのは自分だって、実績を作っておきたかったみたいね」
「うーん、特権は取れないと思うけれどね」
「どうして?」
フィーへニヤリと笑って、ベルの耳を触る。
シャラリと青いイヤリングが揺れた。
「これ、ドワーフとエルフの技術を合わせたんだけれど。そんな物を、両国の合意無しに売れると思うかい?下手を打てば、戦争になるよ」
ドワーフとエルフの仲は悪い。
性格の相性があまり良く無いからであり、ドワーフは加工技術に、エルフは魔術に長けている為、協力すれば素晴らしい魔道具が作れるのだ。
しかし、仲が悪い。
顔を合わせれば、互いに吠える。
そんな両国の極秘技術を、無断に劣化させた使用した魔道具を商人ギルドに持ち込めば、圧力を掛けられる事は必須である。
これまで商人ギルドに通信の魔道具が登録されていないのは、両国の関係の所為なのかも知れない。
「そうなんだ。出回って居ないだけで意外とあるの?」
「有るよー。アレはベルくんと連絡を取る為へのカモフラージュと、嫌がらせを兼ねて資料を置いてあっただけだからね。それでも、限られた用途に極秘に使えば問題無かったけれど……公表しちゃったからね、両国から圧力が掛かって二度と使えなくなるだろうね」
2人が和やかに話をしていると、隣で大きなため息が聞こえた。
不思議に思って目をやると、ボサボサの髪の毛に、分厚い眼鏡を掛けた、恐らく女性が他にも展示される魔道具を見ていた。
展示されている魔道具は、全て“大賢者ガラハンド製”と謳われており、殆どはメフィストが作りかけで放置して、資料に混ざっていたものである。
先程の話を聞かれたかと心配したフィーであったが、ベルが笑ってウィンクした事で安心する。
「はぁー……」
そして、2人は露骨にため息を吐く人を無視して、店を去ろうと踵を返したのだが。
「あのぅ、ちょっとお話し聞いて貰っても良いっスか?」
「嫌さ。私はベルくんとデートしているのだからね、君の様な女にデートを邪魔される筋合いは無いだろう?」
「と、取り付く暇も無いっス!」
「まぁまぁ、フィー」
「おぉっ!男の子は優しいっス!」
「知らない人に話しかけられたら、近くの大人を呼ぼうよ」
「不審者扱いっス!」
「事実だろう?」
「い、いや、たしかに不審者っぽい外見っスけど」
乙女な部分を傷つけられた、眼鏡の女性はショックに沈む。
「君、錬金術師なのかい?」
「え?あ、そうっスけど、どうして?」
「ガラハンドの作品を熱心に見ていたじゃないか」
「熱心にじゃ、無いっス。これ、全部盗作なんスよ……うちは、錬金術師なんスけど。今の上司の人が、人の遺作を自分の物だと発表して、恥ずかしいんス」
「そうなんだ。じゃぁ、話を聞いたから僕たちは行くね」
「え、あ、髪の毛は太陽見たいなのに、心はめっちゃ冷たいっス」
打たれ弱いのだろう、再び去ろうとした2人だが、フィーはふと足を止めた。
「何を求めているのか知らないけれどさ。そうだね、君が本当に錬金術師であるならば、くだらない事を悩む時間で真理を追うと良いさ」
「……え?」
戸惑っている女性をそのままに、2人はさっさと店を後にした。
この出会いによって、1人の錬金術師の瞳に光が灯る事になるのだが、それが彼女にとって幸せな事になるかは限らない。
本日はここまでです。
ご愛読、ブクマ有難うございます。




