錬金術師はこの世を去る
適当に書き溜めて、一気に投稿していきます。
魔族を統べる王がいた。
人族は彼を魔王と呼んだ。
互いに侵略し合い、幾年も争い続けた。
しかし、その戦争も終結を迎える。
魔王を討つ、勇者によって。
勇者は友である錬金術師と、たった2人で道を切り開き、魔王の元へとたどり着いたのだ。
そうして、平和が訪れた時、魔族との戦争に向けて兵器を開発していた錬金術師は不要となる。
ある日、勇者は王命を受ける。
錬金術師の抹殺だ。
親友である錬金術師は、人嫌いの人間不信、魔族との戦争中も閉じこもっているのを勇者が引きずり出した。
説得して、錬金術師にとって、初めて自分以外に興味を持った親友。
それが勇者だった。
けれど、勇者に躊躇いは無い。
ここで断っても、謂れのない罪で親友は処刑される事になる。
そうなってしまっては、彼の錬金術が汚れてしまう。
王命を、彼は引き受けた。
勇者は騎士を引き連れ、錬金術師の研究所を訪れる。
「やぁ、勇者。久しぶりだね、会いたかったよ」
「メフィスト、久しぶりだ」
錬金術師の名前は、メフィストといった。
平和が訪れて尚、破壊の兵器を作る男。
「大好きな君と会えなくてさ、オレは本当に寂しかったんだよ。で、今日はなんだい?もしかして、告白に答えてくれるのかい?オレの愛に?」
「前も言ったが、私は男同士で恋愛する気は無い」
「酷いなぁ、こんなに想っているのにさ」
「想うのは自由だ、それより、兵器以外にも何か作ったのか?」
「日常品、だろ?もうすぐ君の誕生日だし、とっておきの物を作ったさ。えっと、確か此処に……」
作業台へと振り向いたメフィストの胸から、勇者の握った剣が生える。
呆けて胸を見て、ゆっくりと振り向く。
「何故だい?」
「もう、この国にお前は必要無いんだ」
「信じて、いたんだけどな。最初の友達、だったから」
ノロノロと手を動かすメフィストに、騎士達が剣を抜こうとするのを勇者は手で制する。
もう、助からないのだ。
メフィストは様々なポーションも手掛けているが、心臓を傷付けている。
自らを薬品の実験に使っているメフィストでも無ければ、とっくに死んでいるのだ。
メフィストが手元にたぐり寄せたのは、綺麗な箱だった。
他人に贈り物をする事なんて、今までなかった。
そんな孤独な彼が、プレゼントを箱に入れるなんて、出会った頃からは想像も出来なかった。
「……ほら、贈り物」
「受け取ろう、技術資料も此処に?」
「勿論さ……」
目から光を失っていく彼を、勇者は無表情に見下ろす。
箱から出て来たのは、イヤリングであった。
通信の魔道具だ。
魔王を討った為、勇者もメフィストも互いに会う時間が取れなくなった。
いつでも連絡が取れる恋人の様に、気の利いた贈り物であった。
だが、2人とも、20代後半の男同士である。
メフィストが男色家という訳では無く、初めて好きになったのが、偶々同性だっただけなのだ。
「来世では、君と結ばれる事を」
「なに、そう遠くはないさ。おやすみメフィスト」
光が失われた瞳を、そっと閉じた勇者。
騎士達に研究資料の回収を命じ、イヤリングは箱ごと胸元に仕舞う。
チラリと床に目を落すが、直ぐに踵を返して研究施設を後にする。
自分が関わっては、研究資料への関与に煩わしい難くせをつけられる可能性がある。
メフィストが息を引き取ったその時、地下の培養液で、ソレはボコりと息を吐いて、鼓動を始める。