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自分を知らない動物

作者: あめふらし

 とある所に、動物たちが住む国がありました。

 そこではいろんな種類の動物が住んでいます。

 動物たちは仲良しで、皆で平和に暮らしていました。

 

 そんな動物の国に一匹の動物がいました。

 その動物は悩みを抱えていました、とっても大変な悩みです。

 なんと彼は自分が何の動物か分からないのです。

 自分が何の動物か分からないのは大変です。何せ、自分のことを知らないのですから。


 彼は悩みました、いったい自分は何の動物なのだろう。

 鏡を見ても、本で調べても、自分が何の動物か分かりません。

 毎日のように夜遅くまで考えて、いつも眠れませんでした。


 そんなある日、彼は思いつきました。


「そうだ、皆に自分は何の動物か聞きに行こう」


 きっと他の皆なら自分が何の動物か知っていると思ったのです。

 彼は最初にイヌに聞きに行きました。

 イヌは黒いスーツを着て、青いネクタイを胸元に付けています。

 イヌはとても頑張り屋で、朝早くから夜遅くまで働いていました。

 動物の国のために毎日のように頑張っているのです。


「僕は一体、何の動物なのだろう。教えてくれ、イヌさん」


 イヌは答えました。


「君が何の動物か分からない。でも、君はイヌじゃないよ」


 イヌは続けます。


「君は頑張れない生き物だから、イヌじゃない」


 彼は確かにそうだと思いました。犬を見て、彼は頑張ったと言えることは何もなかったのです。

 イヌは働き者で、とても自分とは比べられません。

 何せ、イヌは毎日夜遅くまで働いているのに、彼は毎日何もしていないのですから。

 何もしていない自分は頑張り屋なイヌではないと納得しました。

 

 次に彼はネコに話を聞きに行きました。

 ネコは綺麗な宝石のアクセサリーを見に着け、金ぴかのタキシードを着ています。

 ネコはとても自分が好きで、いつも自分を着飾っていました。

 自分のことを毎日のように語り、自慢話が得意で好きでした。

 自慢話を語らせたら、ネコに勝るものはいないほどネコは自分に誇りを持っているのです。

 

「僕は一体、何の動物なのだろう。教えてくれ、ネコさん」


 ネコは答えました。


「お前が何の動物かは知らないが、絶対にネコじゃない」

 

 ネコは続けます。

 

「お前は自分が好きじゃないから、ネコじゃない」


 彼は確かにそうだと思いました。ネコのように、彼は自分のことを好きじゃなかったのです。

 彼は自慢できるようなことは何もありませんでした。

 彼は色々な事が出来ますが、一等賞をとれたことはありません。

 一番になったことがないので自慢できることがなかったのです。

 自分を誇れない彼は、自分がネコではないと納得しました。


 次に彼はトリに話を聞きに行きました。

 トリたちはいつも群れを成しています、たくさんのお友達と一緒です。

 全員が新しい服を着ており、流行のアクセサリーを付けていました。

 仲の良い皆が暮らす動物の国でも、トリたちは目立つほどとても仲がいいのです。

 仲の良い友達がいつもいっぱいで、トリたちはいつでも楽しそうです。

 

「僕は一体、何の動物なのだろう。教えてくれ、トリさん」


 トリは答えました。


「あなたが何の動物かは分からないの、でもトリではないわ」

 

 トリは続けます。


「あなたは楽しそうじゃないもの、トリならいつでも楽しそうだわ」


 彼は確かにそうだと思いました。トリのようにいつでも友達がいて、いつも楽しいということはなかったのです

 彼にはいつでも友達と一緒という事はありませんでした。流行も理解できません。

 周りと常に同じように笑い合えるという事はないのです。

 いつでも友達がいるわけではなく楽しそうじゃない自分はトリではないと納得しました。

 

 彼はたくさんの動物に自分が何の動物なのかを聞きました。

 でも彼が何の動物か分かる動物はいませんでした。

 誰に聞いても、分からないのです。

 そして皆が自分とは違う動物というので、彼は自分が動物ではないのではないのかと思い始めました。

 動物ではないなら、自分は何なのだろう。きっとダメな生き物なんだろうな。

 そう思っていた時、彼はキツネと会いました。

 キツネは服を着ておらず、何も身に着けていません。

 とても物知りで、どんなことでも知っている頼れる動物がキツネです。

 彼はキツネなら自分が何の動物か知っていると思い、尋ねました。


「僕は一体、何の動物なのだろう。教えてくれ、キツネさん」


 キツネは答えました。


「僕は君が何の動物か知っているよ」


 その言葉に彼はとても喜びました。とうとう自分が何の動物か分かるんだ。嬉しさで心がいっぱいでした。

 

「君はヒトだよ。頑張れなくて、自分が好きじゃなくて、楽しく生きていないのはヒトだけなんだ」


 ヒト。それが自分なんだ。

 彼はとうとう自分が何の動物か、知りました。

 最初は自分が何の動物か知れて、満足でした。

 でも暮らしている内に、彼は悲しくなっていきます。

 自分がヒトだと分かっても、何も変わらなかったからです。

 彼は自分が何の動物か分かれば、幸せになれると思っていたのでした。

 

 自分がヒトと知って、しばらくたったある日、彼の家にキツネが尋ねてきました。

 キツネは彼に向かって言います。


「もしよかったら、君を動物にしてあげようか。僕はヒトを動物に出来るんだ」


 彼はその言葉を聞いて、嬉しく思います。動物になれば、きっと幸せになれると思ったのです。


「でもよく考えてほしい。ヒトは、頑張れなくて、自分が好きじゃなくて、楽しく生きていない生き物だ。だけど、頑張れて、自分が好きで、楽しく生きていけるのはヒトだけなんだ」


 彼はキツネの言葉に驚きました。自分は何もできない、何の長所もない生き物だと思っていました。けれど違ったのです。ヒトは様々な可能性を持った素晴らしい生き物だったのです。

 彼はヒトであることを認めました。自分を認め、彼は本当の意味でヒトとなったのです。

 彼は動物の国からヒトの国へと帰りました。

 きっと彼はこれから、頑張って、自分を好きなり、楽しく生きていくことでしょう。

 けど自分なりには生きていけないかも知れません。


 おしまい。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分に、子供であったり、孫が出来たら読み聞かせてあげたいと思った童話でした。 いつか絵本で見てみたいです。
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