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第3話 命の軽さ、死の重さ

入ってきたのは、テンプレート通りに作ったかのような、ぶくぶくと半端に太っていながらそれでいてそれなりに修羅場をくぐってきたであろう程度の筋肉のついた男たちだったのさ。その数は、おおよそ5人。皆一様に、下卑た笑みを浮かべていたなぁ。その笑みが気持ち悪いのなんのって。まあ、その時の俺はどうでもよか...よくなかったわ。


あいつらの目的は、私のほとんどボロ切れ程度の衣類を舐め回すように見つめながら舌を唇に走らせたんだ。怖気の一つも走るだろ?それが、中身がもともとただの中年のおっさんだということを差し引いても、だ。


「なんですか?あなたたちは」


って、震えかけの声を絞り出してアレイラが言ったわけさ。そんなの御構い無しに奴らはこういうわけよ。


「綺麗所の身寄りのなさげな女が二人もいるのを見かけたんだ。ただそれだけさ」


ってな。あいつら、頭の中は俺らを犯ることしか考えてないような、サルみたいな気持ち悪い顔してたっけな…おお、ヤダヤダ。そのあとの話はお子様にはちょっと刺激が強いから耳塞いでな。そうだ。いい子だ。


聞こえてないか?


おっぱい好き?


……うん、脂肪好きのアッセムがおっぱいに反応しないんだ。

こりゃあ聞こえてないねぇ。


じゃあ、続きと行こう。


結論から言うと、私らは頑張って抵抗した…ああ…正確にはアレイラしか抵抗しなくて、私は速攻で捕まってやったんだが...虚しくも、逃げることは叶わなんだ。

そんでやっこさんらは、どっちから味見しようか、みたいな話で盛り上がってな?で、私はこう言ってやったわけよ。


「もしも私のお願いを2つ聞いてくれるなら、なんでも好きにしてくれていいよ」


ってな。


連中は大喜びさ!とんだ売女もいたもんだ、ってな浮かれ具合でなぁ、で、私が全く抵抗できる要素も、意思もないと知ると、縄までといてウキウキしながらお願い待ちをしてたんだ。


もちろん、私は裸にひん剥かれていたし、どうやっても逃げられるわけなかったんだ。

私にはその瞬間で最高の武器を持ってたのさ。


「男以上に、男の喜ぶ仕草を知ってる存在はいない」って、武器をな?


当然、アレイラも縄で縛られて、その様子を無理くり見せられてたんだが、私はまだ武器を持ってたのさ。


そう、オカルト知識が多少なりともあったということだ。


こんな時ばかりは、自分の前世の行動を感謝したことはなかったが。


「まず、質問なんだけどこの世界に『ギアス』ってシステムはある?」


「こりゃあ驚いた!お前さん見た目によらず博識に見えるな!」


ひっひっひ、というような笑い声が奴らに走ったな。


「あるならいいわ。まず、お願いの一つなんだけど私とギアスを交わしてくれない?」


ギアス…私が前世で知ったのは、とあるホラーものの小説からだったのだが、その中の『七つの呪い』という中に登場したもので、他者に絶対の魔術的強要を行う魂の取引のことである…と、認識していたんだな。その影響が今目の前に現れたのかどうか、私にはよくわからなかった。だけど、そこに一縷の望みを賭けるしかなかったんでね。


「はっはっは!もちろんいいぞ!で、どんな契約をする?」


あいつらの頭の中が透けて見えるくらいにはきったならしい笑い方をしてたねぇ…ありゃあ本気で私を犯っちまおうって思いが透け透けだったよ。


ま、どうでもよかったけどな。


「契約は二回行わせて?二回目の契約で、確実に契約を実行させるための契約を交わしましょう?」


「いいだろう…そうだ、お前やり方はわかるのか?」


「残念ながら、私のやり方ではお互いに同じ言語を理解していることが前提になるの。私がこの契約を結んだものは死ぬ、何て契約を私の知っている文字で書いてもよろしいのかしら?」


「おいおい、そいつぁおっかねえな。それなら、俺らが知ってるやり方を教えてやるよ。」


奴らは、どこからか羊皮紙を取り出すと、ナイフと一緒に投げてよこした。


「そこに自分の血をたらせば、相手と同意した内容だけがそこに記される。その内容は、相手にも理解できなきゃ意味ないからな文字が読めなくても言葉が話せなくても、魂に直に届いてくれる。」


なるほど。そう言った「商品」用の契約書かと思ったさ。こうなることを予測して常に仕込んでたんだなって思えるような手際の良さだったな。


「で、お互いに了承して以降変更することがなくなったらサインをして…まあ、書けなきゃ血をたらしなおすだけでいい。その上で、紙の端をちぎって食うのさ。そうすれば契約完了。そのあと紙を吐き出そうと無駄だがな」


「いい形式ね。いいわ。始めましょ」


で、ここでやらかさないように気をつけたのさ。


自然な動きで首筋にナイフを伸ばしかけた時にはどうしようかと思ったが、そのままナイフの先をぺろりと舐めて誤魔化しておいたさ。奴らがむらむらし始めてるのが丸わかりで面白かったよ。


前世で私も同じように見られてたんだと思うと恥ずかしかったがな。


指を軽く切って、まず「血が流れるのか」を確認した。


うまくいったよ。そのあとさっさと傷が治っちまったから、小さい傷しかつけなかったんだと思われたみたいだがな。


奴らは自分の血をサクサク垂らしていったらあら不思議。血がみんな何処かへ消えてしまったのさ。お前らは見たことないだろうが、そんな契約方式もあったんだよ。危険だったよなぁ?


で、サクサク話してこんな内容を決めたのさ。もちろん、名前は忘れたから適当にA~Eにするわ。


1.この後に結ぶギアスには代償を含め絶対に従う。

2.従わなかった場合及びギアスの契約を破った場合、その代償は死をもって支払う。

3.次に結ぶギアスは、一度だけ廃棄して契約をやり直すことができる。

4.上記の内容で廃棄された内容と同じ、または近似するものを二度目には提示できない

5.相手の生命を奪い取るような内容は、相手に対して提示できない。


って感じだ。もしかしたら多少文言が狂っているかもしれないが、おおよそそんなニュアンスだったはずだ。


「いいのかい?お嬢さん」


「いいわ。これで私の目的も果たせるもの」


「そうかい。じゃあ、早速結ぼうか」


で、最初のギアスはA〜Eが


「榎木田広樹はA〜Eに干渉を行えず、なおかつA〜Eは干渉を行えない」


ってのと、私が


「A〜Eは榎木田広樹及びアレイラアレイラ・ブルッコフ・ヴァンダルギアに一切の干渉を行えない。」


っていう要求を行いあった。


要求は、当然...両者が廃棄した。


「なんだ!てっきり受け入れると思ったのに!受け入れたらお前「だけ」は逃がしてやろうと思ったのによぉ〜?」


最初からそんな気はさらさらなかったであろう連中の言う言葉は本気でキモかったな。いやマジで。具体的には脂ぎったおっさんが油をこすりつけながらいろんな体液をこっちにかけまくってくるようなイメージだ。


おっと、吐くなら外にしてくれよ?さすがにここが酸っぱい香りに包まれるのはいささか抵抗があるのでね。


続けよう。


「ええ、私も残念だわ。」


「はっはっは。それじゃあ早速「契約」しようか。首輪の準備はできてるから今から楽しみにしておきな?」


またしても気持ち悪いおっさん達が性欲にまみれた笑い声をあげてきたから、金的を蹴り上げたかったが、そこは我慢した。偉かっただろ?褒めていいぞ。


「ええ、楽しみだわ。」


営業スマイルってのは大事なんだとよくわかった。


まあ、もう予測はできてるだろうが、連中が提示してきたのは


「榎木田広樹は、以降の人生の決定権をA〜Eに委ねる」


だった。気持ち悪いよなぁ?

今のお前らなら字面だけで気持ち悪さを実感できると思う。

あ、テリアンヌ。お前はちょっと趣味嗜好が世間一般とかけ離れていることを実感しような?


で、だ。私が提示した内容は、もちろん!


「榎木田広樹を殺す」


だった。


いやはや、それを提示した連中の顔は面白かったなぁ…まさかここで自殺を選ぶとは思わなかったんだろうさ。しかも、ここでさっきのギアスが効いてくる。今提示したギアスは絶対に飲まなきゃいけないし、実行しないと自分が死ぬ。手に入ると思った「商品」が目の前でなくなることが決まったんだ。とんでもなく面白かったな。


「さあ、私は飲んだわ。あなたたちは?」


「…っけ!飛んだ茶番だぜ。おら、とっとときな。殺し方はなんでもいいんだろ?」


「もちろんよ。どんな殺し方でもいいわ。ただし、即座に実行できないものだった場合はどんな代償が待っているかわかっているかしら?」


「わかってるよ。てめえが死んだ後にその体でじっくり楽しませてもらうからなぁ?」


「いいわ。どうせなら、首でも切らない?その方が一番楽しめると思うわよ?穴が二つもふえるんですもの」


「あいにくそんな奇特な趣味はねえ。それに...すぐに実行すればなんでもいいわけだからなぁ?」


っていうと、Dの奴が薬ビンを取り出したんだ。中身は...お前らならわかるだろ?マナ崩壊薬だ。通常は鉱石にしか使われないような劇薬だよ。しかも、そんなの飲んだら10分以上は苦しんで死ぬような継続毒さ。ねちっとした趣味だねぇ…本当。


「それを飲めば「死ねる」のね?」


「ああ、そうだ。じっくり味わえよ?」


「ダメです!ヒロキさん!そんなもの飲んだら尋常じゃない苦しみの中で死ぬしかないんですよ!?そんなの飲む気なんですか!?」


ようやく猿轡を外せたアレイラが叫んだが、そこで見せるのが美少女…まあ、外見だけだったが…の真骨頂ってやつよ。


「大丈夫。でも、あなたには謝らなきゃ。ごめんなさい。あなたの生きる希望を…私が奪っちゃったもの」


って言って一気にグビッと飲んだのさ。


「おお、いい飲みっぷりだねぇ…?それじゃあ、早速俺らの指示に従ってもらおうか?」


「ええ。いいわよ。どんなことかしら?」


ニコニコとしながら受け答えをする。


「ああ、まずは俺の前でおねだりタイムだ。俺がその気になるようなおねだりを」

「待て!!」


勘のいいやつ…あ〜…Cだったかな?どれでもいいか。そいつが気がついたんだ。


「お前...どうしてマナ崩壊症が発生しないんだ…?」


言われてハッとしたのか、Dは急に顔を青くしてなぁ…


「お、おい...どうなって」


そこまで言って、そいつは死んだよ。

だって、「ギアスを守れなかった」んだ。その代償は死をもって償うって決めたのになぁ?


「おい、おい!どうした!?」


「死んでいるように見えますが…悲しいですね…私はその毒薬では死ねないようです。他には何かありませんか?」


「おいおいまじかよまじかよ!?こいつ不死種かぁ!?」


「不死種?何かしらそれ。どんな連中なの?」


「クソ!銀の武器だ!ナイフでもいい!殺せ!でなきゃ俺らが殺される!」


そこから先は地獄絵図だったなぁ...

具体的には私の血が飛び散り続けたせいだったんだけど。

やれ武器で殺すなら銀だと銀の武器で心臓と脳髄を刺し貫いた後に腹まで念入りに刺し続けて血がそこらじゅうに飛び散ってるのに、身体中のほとんどが刺された後に傷が少しも残らないことに絶望しながら死んだし、魔法で焼き殺そうとしたらそもそも焼いたところで魔法が機能しないし、首を切り落とすために斧で首をチョッキンしても瞬間的に大量出血するだけで死なないせいで結局死んだ。


そんなところで、連中が全滅したところで彼らの契約が履行できないことが決定したけど、私は結局死ぬことはなかった。


魂までかけた契約なのに、死ぬことができないのだから、本当にがっかりだった。


で、一部始終を見てたアレイラをサクッと連中のナイフで開放してやって、そのままさっさと次の場所へ行こうとしたら


「待ってください!」



って言われてな。あんまりにも声が震えてるもんだから、つい振り返ってしまって。


「あなた様は、どうしてそんなに死のうとするのですか?長く生きることに疲れたのですか?それとも…」


なんて深刻そーな感じで、しかもしょぼくれたハムスターみたいな震える瞳でそんなことを説いてくるんだ。それにはついこう返しちゃったよ。


「ああ、勘違いしないでほしい私はただ___」


「私はただ、生きたくない、だけだ。それだけなんだよ。」


「なら、私もついていきます!」


「_____どうして?」


「私は_____私は、生きたいからです!」


意外な答えだったなぁ…本当。今でこそあんなちゃらんぽらんのビッチだけど、本当はねの強いしっかりした女なんだってそのときわかったね。


「なんで、行きたいから私と一緒に行くの?私の目指す場所は、あなたは今その目で見たでしょう?」


死体どもを指差していったやったさ。でも、あいつはそんなのには負けなかったんだ。

声はビクビクだったけどな。


「ええ。ええ。わかっています。あなたがどんな道を歩みたいのか、どれほど恐ろしい道を歩みたいのかも!...でも!」


「でも、私は「生きていたくない」とは、思ってことがないから____生きているのが当たり前だと思っていたから!____だから!だから、私は___!」


泣きながら、無理して強がってなぁ。かわいそうだと思ったよ。

こんなに純粋に生まれてしまったがゆえに、私みたいな変なのに関わらなきゃいけなかったんだって思ったらさ。


「だから私は、あなたに「生きたい」と、生きることがそんなに辛い事じゃないんだってことを!伝えてあげたいから、だから!」


もう、連れて行こうかなって思ってしまったのさ。どんなに手を尽くしてもこの子はついてくる。止めるなら殺すしかないって思った。けど、「死にたいのは私」なんだから、他者を巻き込みたくなかったんだ。


「あなたを、どこまでも生かしてみせる!この世界の果てまで行って、生きててよかったって言わせて見せるんだから!覚悟しなさい!」


なのになぁ…


「いいわ」


「…ぐす… 」


「ほら、いつまでも泣いてないで、さっさと行くぞ。でないと」


「こんな血みどろの場所で晩飯を食うつもりか?」


「 ______っわかってます!」



そのあと、あの家はすぐに焼き払って弔いをしてから旅立ったんだ。


【アルドーン王国】首都……ヨーデルフィアに向けて。


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