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第1話 迷い込んだ場所

目が覚めた時、私はこの街から20キロほど離れた場所にある荊の森…まあ、当時は「神聖の森」とかって名前だったんだが、そこに召喚されたわけだ。


その時の絶望感は半端じゃなかったね…私は「もう生きなくていいんだ」って安堵を抱いたっていうのに、その直後に「もう二度と死ぬことが叶わない」だなんて、何かの冗談としか思えないだろう?


当時の森にはそこまで強力な魔物は住んでいやしなかったんだが、私は「どうにかして死ぬ」ために森の中をさまよってたわけだ。そこで、私は不運にもエルフの狩人とあったわけだな。そうそう、お前のひいばあ様さ。今でこそ小じわの悩みを訴え始めたが、当時はまだ乳も膨らみかけのガキンチョだったのさ。


何?信じられない?そりゃあそうさ。よく考えてみろ、お前さんエルフにしちゃあ親戚周りが異常に多いと思わないか?叔父叔母は合わせて38人、その子供達もおおよそにして合わせて40人前後。というか、エルフ街の貴族周辺はだいたいお前の血縁じゃないか?...まあ、そういうこった。当時はまだ「純粋」だったんだよ。いい意味でな。


話を戻そう。私は、「不運にも」ペチャパイロリコンホイホイエルフのアレイラと出会ったのさ。あそこで私を見つけなければあんなダイナマイトボディビッチエルフになりゃしなかったのにな…おいおい、だから誉めてるんだって!エロいエルフって以外と人気があったんだよ。少なくとも、俺が知っている"インターネット(業界)”じゃあな。


そいつは、出会い頭に私にこう言ってきやがったんだ。


「どうしましたか?こんなところでお一人、しかもそんな格好では、風邪をひいてしまいますよ?」


警戒心0だぜ?しかも可愛らしい小型の弓を持ってトテトテ走ってきやがんの。今同じことをしようとしたら、バインバイン揺れまくって視線が定まんなかったろうな。いやはや、当時の私はよくあのロリコン量産エルフの仕草に耐えられたと思うよ。


で、だ。私はその時完全に茫然自失だったからな。なんか変なガキンチョが絡んできてうざいなって思ったんだ。それで、私はそのままスルーして強そうなやつに殺されに行ったんだ。そしたらな、あいつよほど私の精神状態がやばいってのがわかったのかすんごくしつこく構ってきて、進路妨害をしまくって来たのさ。


もちろん、その時の私の力じゃそこいらの浮浪児にも劣る膂力しかなかったからな。いちいち跳ね除けることすらできなかったせいで、最初の一回ぐらいはと思って挑戦した後はずっとスルーしてたのさ。


で、その時のあいつは今と比べると赤ん坊みたいな知能しかなかったが、それでもとんでもなく賢くてな?最初の膂力比べで私が「見た目の半分以下すら筋力を持ち合わせていない」ことを瞬時に見抜いて、その後の行動を計画しやがったんだ。


そのことに気がついたのは、俺がまんまと当時のあいつの家におびき出されたあたりで初めて気づいたんだ。で、あいつは私の視線がずっと「自分の命を奪うであろうもの」にしか向いていないことを察したせいで、ずっと私の腰のあたりしかない体を精一杯に伸ばしに伸ばして通せんぼしやがったもんだから、また森に中に潜ることすらできなくなっちまったのさ。


仕方ない、今晩だけでもここで野宿するか、と腰を下ろそうとすると、あいつは素早く私の体を突き動かして、倒れないように調整しやがったんだ。で、私の体重がその時40キロもないってわかると、私の手をぐいぐい引っ張って家の中に入れちまったのさ。もうあの家は残っちゃいないが、この家はその時の家を再現してもらったのさ。細部は違うし、時代の流れのおかげで大分家具も変わっちゃあいるが、概ね今のこの家と同じような感じだと思ってくれたらいい。


そこに引きずり込まれて、私に何をするかと思ったら、突然料理を始めやがったんだ。何がどうだかわからんうちに、ぼうっとテーブルで座ってたら突然目の前に肉みたいな料理とスープのセットみたいな皿が置かれてな?


「食べてください。あなた、軽すぎます。」


だなんて言ったんだ。その時私は全く腹が空いてなかったので手を伸ばそうともせずにぼうっとしてたら、あいつ


「もしかして、この料理は初めてですか?大丈夫です。血抜きはしてあるのでお肉が生理的に受け付けないって方以外は美味しくいただけますよ」


なんて言ってきてな?おいおい私は腹が減ってないから食べないんだぞって意志を伝えようとしたらあいついつの間にやら横でさっさと食い始めたんだ。何の肉かは料理台の上に転がってた猪の頭で勝手に猪だと思ったんだが、お前らなら想像できるだろ?荊の森の猪頭の特産品って言ったら何だ?ブルウルフだろ?つまり、今まで食った経験のない猪肉の味を感じようとしたらまさかの犬肉だったってオチさ。


まあ、そんなこと当時の私は知る由もないんで、ぼうっと目の前の料理が冷めていくのを眺めてたら、突然半開きの口の中にステーキ的なのがぶち込まれたってわけでな?

そっち向いたらさぁ...テレテレしながら「あーん」しかけてきたロリコンホイホイエルフがいやがってな?だからけなしてないって。誉めてるんだって。


で、気がついたのよ。何の味もしないってことにな。


その時の私は本気で生きる気力がなかったから味すら感じなくなったかと思ったんだが、アレイラのやつが「今日は胡椒を利かせすぎてしまったのですが、しょっぱくないですか?」なんて聞いてくるんだ。そのまま無視してたら、口の中がなくなってきたのを見計らったかのように私の口の中に次の肉をねじ込んできてな…で、それを飲み込む前に気がついたんだ。


「言葉が通じてる…?」


そう、私は異世界からやってきた『転生者』。しかも、『持たざる者』の代表みたいな貧弱ぶりだったんだ。肉付きは良かったらしいがな。なのに、この世界の『言語』て知識を持っていることに、疑問を感じたんだよ。


「どうかしましたか?」


なんてアホ面している可愛い幼女に、いろいろ聞いてみることにしたんだ。


「なあ...ここはどこだ?」


「不思議なことをおっしゃいますね?ここは滅多に人が踏み込まない『神聖の森』というところですよ。むしろこちらがどうしてここにいるのかを伺いたいくらいです。」


なんて感じだったかな?もう覚えてないや。


で、いろいろ聞いてるうちに情報が集まってきた。


まず、あそこは知っての通りこの【アルドーン王国】の領土の一つで、国の中で子供の時から恐ろしいところ、と教育されるほどには一般人には危険な場所だということがわかった。そして、アルドーンの他にも【キリルベット共和国】、【ジョージアン連邦】、【ファイアリー帝国】の四つの国が隣接しているらしい。


次に、この世界に「魔法」っていう技術があること、冒険者っていう業種があること、そこからさらに細かく職業が枝分かれすることがわかった。そして、残念なことに私に与えられたこの世界の知識は『言葉』だけで、文字は読めないということがわかったくらいかな。


そうそう、そこで自己紹介をしたっけ。それまでお互い名前も知らずに話していたことにようやく気がついたといった感じだったな。


「それもそうでした。私の名前はアレイラ・ブルッコフ・ヴァンダルギア。エルフです。あなたのお名前は?」


「私の名前は…名前は?...名前…」


「お名前をお忘れなのですか?」


この時、私は自分の名前を忘れかけてた。正直、会社で呼ばれてたのは苗字くらいだからな。怒られる時も、仕事をなすりつけられる時も、けなされる時もみんな苗字。下の名前をど忘れしてたんだよ。外回りをしない技術職には、辛いことだがね。

...何の話かわからない?そうだった。お前らに言っても伝わるわけなかったな。

話を戻そう。


「いや、今の姿とかけ離れた名前だから、どういったらいいのかと」


「そうですか?私、知らない土地のお名前を聞くのは初めてですので多分わかりませんよ。きっと。」


「榎木田広樹…だ。」


「ヒロキさんですか。では、親交の証としてエノキダ、とお呼びしても?」


「…ああ、すまない。それは苗字...ファミリーネームなんだ。できれば、ヒロキ、と読んでほしい」


こんな異世界にまで来てエノキダと呼ばれるのは、未だに自分が「生きている」って実感を与えられているようでとても恐ろしかったんだ。


「では、ヒロキさん。あなたは、どこからやってきたのですか?」


「そうだな...日本って国の新宿ってとこからだ。島国でな、きっと遠いところだ」


「なるほど…ですが、それならどうやってこの場所まで来れたのですか?ここへ来るにはおそらくあなたの知識では足りないと思うのですが?」


あいつ、あの頃からここまで聡明なんだぜ?どうして追い出されたのかもよくわかるってもんだ。しかも、気になったことはバシバシ聞いて切る。解決しようとする。この年頃の娘にしては、「できすぎ」だったんだろうなぁ。


「まあ、そりゃあそうだ。私はこの世界とは違う場所から来た...いわゆる転生者だからだ。この世界の知識がなくても納得はいかないか?」


「転生者…なるほど、そういうことでしたか」


「どういうことだ?」


「あなたが私の知らないところからきて、私がその地に行くことができないってことはわかりました」


だなんて答えてきたんだ。こりゃあ嫌われるよ。特に「大人」にはな。


そうしてダラダラとこの世界の情報を集めて手っ取り早く「死ぬ」ために街にでも行こうとしたところで、アレイラが急にハッとしたように武器を集め始めたんだ。


「どうしたんだ?」


「聞こえないのも当たり前ですが、私の耳に嫌な音が聞こえました。賊です。」


「おいおいまじかよ」、と思ってたらな、ドカンと扉を蹴破って入ってきた一団がいたのさ。


この世界で初めての戦いだった。

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