SS 恋と時間、そして命の儚さ。
次回の更新は2/24です
SSばっかりですみませんがSSです。
このタイトルが何処か出てたのがフラグですね。
ついでに少し今までの文の修正を入れたので宜しければどうぞ。
一応後書きにまとめておきます
あるところに少年がいた。彼は少し重い病気を患っていたが、多くの薬を飲むことで何とか学校には行けていた。しかし、それでも限界はあり中二の夏に入院をして様子見をすることになった。これはその夏の物語。
入院する初日、雲がどこにも見当たらない程の晴天だった。少年は強く母親の手を握った。それを見た母親は優しく少年に微笑みかける。医者によると夏いっぱいは病院で過ごすことになり手術をする可能性が十分にある、と言われていた。
病院に着いてから暫くして、長い長い時を過ごすであろう病室に案内された。部屋を見たとき、少年の表情は驚きに満たされていた。そこは二人部屋で、先客の一つか二つ上の少女がいたからだろう。一人部屋か大部屋かと思い込んでいたのが原因だろう。面倒だなぁ、と思いつつももしかしたら楽しくなるかもしれないという期待が芽生えていた。
少女は少年の存在に気付いたようで、少年をじっと見つめる。貴方は誰?と問いかけるようなまなざしを察して自己紹介をする。
「こんにちは、えっと、僕の名前は○○ ○○、十四才です。相部屋になったみたいです。これからよろしくお願いします」
初対面の人が苦手な少年は少しぶっきら棒に言ってしまったことを後悔しつつ少女を見る。
「そう、よろしくね。私は□□ □□、十六才です。暫くここに居るの?」
少女は嬉しそうに答えた。
「はい、夏いっぱいはと言われました」
「なら長い付き合いになりそうね。そろそろ一人に飽きてたから話し相手が出来てうれしいわ」
少女の笑顔はまぶしく、断れそうにないことを悟った少年は苦笑いするしかなかった。
夏も終盤となる時、ニ人は案の定仲良くなっていた。少年にとっても、少女にとっても、とても幸せな時だっただろう。しかし、どんな事も幸不幸のバランスと言う物があるのかやはり唐突に不幸は起きる。三日後に少年の手術が決まったのだ。少女は少し心配そうな顔をした。
「大丈夫なの?」
「うん、そんな大したことはしないって。」
この時、医者からは成功率が高いという訳ではない、と言われていた。また、数日は意識がないとも。
「分かった、ちゃんと戻ってくるのよ?」
「それはお医者さんに言わなきゃ僕に言っても駄目だよ」
そう言って二人は笑いあう。平和な空間だった。
手術当日、雨だった。憂鬱になりながらも手術へ臨む少年。
「そんな心配しないで。大丈夫、絶対に成功させるから」
手術担当の医者は少年に優しく声をかける。彼は経験豊富な医者で特に心配はいらないと言われていた。もちろん医者を信じていないわけではない。むしろよくおしゃべりをするほどには仲が良かった。結局どこか不安なまま、手術に臨んでしまった。ここで延期させておけばと何度少年は後悔したか......。
手術は無事に終わった。夜から始まり朝まで続く約八時間の大手術だが、少女は起きて手術成功を祈っていた。時折看護師さんが心配して寝るように促すが寝ようとはせず、看護師が仕方なく折れるほどだ。
それから一日して少年は起きた。雷の音を聞いて、そういえば□□ちゃんの少し騒がしい声が聞こえないな、と思う。寝ているなら起こして手術の成功の喜びを分かち合おう、と考え隣のベッドに誰も居ないことに気付いた。慌てて看護師に尋ねる。
「□□ちゃんはどこですか!」
「......ごめんね、言えないの」
少しの間と申し訳なさそうな答えが返ってきた。その言葉は余りにも予想外で、たった十四才の子供に不安を与えるのには十分だった。彼の頭の中をぐるぐると最悪な事態の想像が回る。もし死んでたら、と思うと心が締め付けられるような感覚に陥った。ひときわ大きな雷が轟く。
「大丈夫?手術したところが痛むの?」
「いえ......大丈夫です」
声を掛けられ我に返った少年は一旦落ち着くために深呼吸をして再び尋ねる、藁にも縋る思いで。
「死んだ、訳ではないんですよね?」
「うん、でも会えるかはわからないわ」
すると看護師は少年に顔をっ近づけた。
「これからいう事は内緒よ? 実は、□□ちゃんは君の手術が成功したのを見た後直ぐに体調が悪くなって騒ぎになったわ。この病院の設備じゃ直せない、と知って直ぐに大きな病院に運ばれたわ。だから大丈夫なはずよ。いい、誰にもいま私が話したことを言っちゃだめだからね?」
少年はこくり、とうなずく。そして少し安心したのか直ぐに眠りについてしまった。
結局少年は少女に会えないまま退院の日を迎えた。会いたい、と何度願っても何処にいるのか誰も教えてはくれなかった。少年に大人の事情やプライバシーの保護と言う曖昧な言葉で何度も躱されたことによる大人への不信感がたまる。教えてくれたっていいじゃないか、と思う。恨めしそうに色々な看護師を見ながら病院を出る。
「○○君!ちょっとまって!」
走ってきたのは少年に少しだけ情報をくれた看護師だった。
「帰ったらこれを読んで。君への退院祝いだよ」
そう言って封筒を一つ渡して戻っていった。
「お姉さん、ありがとう!」
少年は中身が何か気付いていた。この看護師が一番辛そうだったのも。
家に帰って早速封筒を開けると案の定少女が何処にいるのか書いてあった。逸る心を押さえつけ続きを読むと行き方まで詳細に書いてあり、改めて感謝する。家からそう遠くないことが分かったので少年は両親に嘘をつき家を出た。親に嘘をつくことはとても申し訳なく思ったが、今は何よりも少女に会うことが大切と考え走る。
一時間ほどして、目的の病院に着いた。少年は近くの看護師を捕まえる。
「□□ちゃんの友達なんですけど、どこにいますか?」
「......。□□さん?」
いつかと同じ一瞬の間。急に鼓動が早くなる。
「ちょっとそこの椅子で待ってて」
そういうと看護師は他の看護師のところへ行った。暫く会話した後何処かへ行き一枚の紙を持って少年のもとへ来て口惜しそうに首を振り言う。
「ごめんね、僕。もうここには居ないみたい。君の名前は○○君?」
「はい」
すると、看護師が手に持っていた紙を渡してごめんねこれを読んで、と残し何処かへ行ってしまった。
手紙には多くの謝罪の言葉と楽しかったという言葉で埋め尽くされていた。
「この手紙を読んでいるなら私は多分死んでるわ。この夏が最後だったの。これからは私の文も生きてね」
最後の文が少年の目に止まった。可愛くするためか飾りがつけてあったがやり直したのか少し汚れている。
「なんでだよ。もっと......もっと一緒にいたかったよ」
気付いたら口から洩れていた一言。涙と共に零れたその一言にすべてが詰まっていた。
余りにもめんどくさいので機長と呼ぶのを名前のゼルにしました。




