Day1-1 オスカー1773、不時着
本当に絶体絶命の時を体験したことのある人は実際どれほどいるの か?
今、目の前、いや、視界いっぱいに大きな小惑星や、小さな星の欠片が浮遊している。
それもすごい密度で、だ。
恐らく、これはそのうちどれかしらにぶつかって穴が開き、そこから酸素を失った結果死ぬだろう。
その場合、宇宙ゴミになる。
それはもう、誰かに見つけられることはなくただただ漂うと言う事だ。
誰がそんな事を望もうか……?
―――ザザッ―――
「クソッ、どうして繋がらないんだ......」
俺は目が眩むほどの数のメーターやディスプレイを前に呟く。
もう地球との通信を試み始めて心が折れそうな程経っている。
しかし、やはり周りには小惑星群と少しの惑星しか見えない。
要するに、絶体絶命の危機だ。
何があったかと言うと、まあ、偶然小惑星やら人々がばら撒いたゴミやらが密集している地帯に入ってしまったのだ。
もちろん、ぶつかると船体が損傷するので頑張ってぶつからない様にしていたのだが、突如とても早い速度でこっちに向かってきた『正体不明なにか』とぶつかってしまい敢え無く船が損傷して操縦不能になったと言う訳になる。
運よくメインルームやら脱出ポッドやらがある船体中央部には当たらなかったので無事と言えば無事ではある。
しかし、勿論ほぼ大破状態ではまともに進まないので、今は慣性だけで進んでいる。
さきほどエンジン吹かしたらクルクル回って大変だった。
重力が変にかかるから大惨事も大惨事、止めるために四苦八苦してる間他のクルーの野太い悲鳴やらつんざくような悲鳴やらを聞き続けてなければいけない羽目になった。
とりあえず今は、この状況を何とか打開するため助けを求めているところだ。
とは言え、全く無線が繋がらない為どうすることも出来ないでいる。
恐らく磁場の狂いが発生しているのが原因と考えられる。
それから暫くした時、少し状況が良くなる。
――ザッ......ピッ――
軽いシステム音。
繋がったか?
窓から見える様々な惑星の欠片を横目に見ながら少し弱くなった砂嵐の音に淡い期待を込めて叫ぶ。
「メーデーメーデー、こちらオスカー1773。 エリアCZ-59-α5にて宇宙ゴミと衝突事故を起こし、操縦不能。 至急救援を求む。 繰り返す、メーデーメーデー、こちらオスカー1773。 エリアCZ-59-α5にて宇宙ゴミと衝突事故を起こし、操縦不能。 至急救援を求む」
相変わらず砂嵐のようなノイズのみで返事がない。
それに気付き、ゆっくり腰を下ろす。
途方に暮れていたところ急にノイズがクリアになった。
淡い期待を込め再び叫ぶ。
「おい!! 管制か? 誰でもいい、とにかく聞こえてるか?! こちらオスカー1773。 どうやら危険地区に入ったらしく、宇宙ゴミと衝突、操縦不能となった! 座標はx2万835、y3556、z3億9000万820だ。 広範囲に渡って宇宙ゴミが浮遊している。 このままでは近くの惑星に不時着しそうだ。 出来れば救援、物資の支援をお願いしたい。 聞こえてるか?」
「こちら地球所属管制塔第5オペレーター。 オスカー1773、了解した。 危険区域の情報をありがとう。 注意喚起をしておく。 また、できる限りの援助を約束する。 幸運を祈る。」
注意喚起、か。
少しでも事故をなくせると思ったらまあいいか。
最近、似たような事故増えてるからこの塩対応も仕方ないものではあるんだろう。
まあ、この惑星の周辺を見たところ救援は無理そうだ。
物資ポッドだってなかなか届かないだろう。
はぁ、こんな地球からかなり離れた地で3人か。
生きてまた家族に会えるといいな。
―――ビィィィィィィッ―――
耳を塞ぎたくなる程の音量の警告音とそれに続く聴き慣れた機械音声。
『近くの不時着候補の惑星の一つに生命体反応を複数確認、生存は可能と思われます。 その惑星に着陸しますか?』
なんで緊急事態が新しく起きたわけではないのに警告音を鳴らすんだ。
イラつきながらさっとモニターをみる。
幸い部下の2人は優秀だから生命体反応があるならなんとかなるだろう。
そう適当に考え、着陸指示を出す為に機長室を出る。
どうせ死ぬなら少しでも可能性のある方を選びたい。
幾らメインルームやらが無事と言っても、損傷箇所から空気は漏れている可能性が高いので早く決めねばならない。
酸欠で死ぬなんて無様な真似はしたくない。
扉を開くとメインルームだ。
円形の空間でキッチンや会議テーブル、通信用モニターがあり、一番広い殆どの部屋にそのまま行く事が出来る所謂心臓部だ。
目的の人は恐らく着陸軌道の設定をする為に大きなモニターを弄っていた。
「ねえ、エスティア。 AIの提示した惑星に上手く着陸できそう?」
エスティアは透き通る雪のような長髪で眼鏡を掛けている知的な雰囲気を醸し出す女性だ。
事実、学歴はとても良かったと思う(覚えていないが)。
とても、美人で、10人が通れば9人は振り返るほどの容姿の持ち主だ。
「はいゼルさん、ただ......」
「どうしたの?」
「緊急離脱ポッドを使うしかないので、持っていける物資には限りがあるかと」
忘れていた......どうするのがいい?
確か米とかジャガイモは大して美味しくはないが7、8日でなんとか収穫できるところまで育てられる品種があるよな。
そうしたら食料は10日分くらいでいいな。
とは言っても、作らないと10日分以上はない。
多分スチールが10kgとコンポーネントだけは外しちゃいけないから出来る限り詰めたらにするか。
「あの......ゼルさん? お悩みのところ悪いのですが」
「ん? どうした?」
「先程の通り、持ち込める物資には限りがあります。 なので、私たち3人と犬のショコラ、食料10日分をポッドに入れて、残りはこのロケットごと付近に落とすのはどうでしょうか?」
そうか、それならいけそうだ。
ただ、問題点が一つあるとすると、ロケットを作り直さなきゃいけないってところか。
帰るのが遅くなりそうだけど、命のほうが大事だからそれがいいかな。
「よし、じゃあそれでいこう。 軌道設定を任せてもいいか? 俺はちょっとエルヴァン呼んでくる。 設定が終わったら先にポッド入っておいてくれ」
「分かりました」
エルヴァンは日に焼けた筋肉ムッキムキのおっさんで、船の修復等の製作関係の担当をしている。
俺と同い年で古くから知る仲なため、1番信頼している。
本人には言えないがな。
さて、エルどうせ死ぬなら寝るとか言って寝てんだろう。
......多分、仮眠室か?
そう考え、仮眠室の扉を開ける。
仮眠室は6つ程3m4方のカプセルがある部屋で、ベッドやらテレビやらパソコンやらが付いている。
実質休息所兼寝室みたいなものだ。
恐らくエルヴァンがいるであろう半エルヴァン専用と化したカプセルを覗くとやはり居たので叫ぶ。
「おいエル! 着陸できそうな惑星見つけたから起きろ!」
「ああぁん? 生きれそうなのかそこは?」
少し、いや、かなり気怠そうにこっちを見る。
「ああ、多分な。 生命体確認はしてある」
「そうか、わかった。 で? どうすればいい?」
「ショコラとポッド入ってくれ。 エスティアが起動設定してくれたから大丈夫だ」
「了解した、ではまたあとで会おう」
そう言って彼はさっさとショコラを拾い上げてポッドに入りに行った。
意外と簡単にポッド入ってくれて拍子抜けだ。
いつも頑固だから寝ると言って聞かないかと思った。
まあ、その場合ポッドに投げ入れるが。
さて、俺も入るか。
メインルームに戻るとエスティアももうポッドに入ったのか居なくなっていた。
入ろうとする前に運航補助AIに見せられた惑星を窓から見る。
惑星の半分が明るいので太陽みたいな何かがあるのであろう。
北極と南極にあたる部分は氷で覆われていて少し濁った水色だ。
陸も一応はある。
しかし、殆どの場所で茶色の地面が露出してか白い雪に覆われていて白く、植物はほぼない。
なんとか衝突イベントを抜けた俺たちを嘲笑っているかのような悪環境だ。
少しある緑のエリアには人が住んでいると考えられる人工物が見えるが、活気はなく、廃れている様にしか見えない。
こんな、希望の見えない惑星で俺らはこれから帰るために生きなければいけないのか。
軽い絶望に見舞われる。
それでも、なんとかして生き延びなきゃな。
惑星に降り立つ覚悟をして見るのを止め、モニターを弄りもう使う事のないAIを停止する。
―――航海補助システムを停止し、休眠状態に入ります―――
その機械音声とともに船内の電気が消え、非常灯が点灯する。
短い間だったけれど、お疲れさん。
そう、届いていないと分かっていながら声をかける。
薄暗く、静寂に包まれた少し寂しい船内を見納めと思い見渡した後、ポッドに入った。
惑星でゲシュタルト崩壊......
やっと1話目修正完了。