パート9 翔太との思い出
「面白かったね」
「面白かったな」
私たち二人が楽しみにしていたコメディ映画を見終えて、大満足で二人同時にこの言葉が出た。
話題の映画だったけど、上映してしばらく経っていたので満席ではなく、私たちは映画館の一番後ろの端の席を指定することができた。
映画館を出ると、さすが夏って感じでまだ四時ぐらいなのに、昼間と変わらないぐらい明るいし暑かった。
「もう夕方かー…。お茶でもして行く?」
小さな子供たちがモール前の噴水で水遊びをしていた。
キャキャとはしゃいでいる子供たち。
「お茶かー、そうだ、どうせなら二人で『サンセット』に行かない?」
『サンセット』とは私たちがバイトしているカフェの名前である。
「高校生になってすぐ、私たちそこでバイトしたよね?」
高校生に入ってすぐにバイトしようって話になり、どうせなら同じとこと決め、そして夏休み思いきり遊びたいからそれまでに貯めようと私たちは急遽バイトをすることにした。
翔太とはシフトの時間がほとんど一緒で、レジは私の隣の隣が翔太だった。
レジ前には、そこからレジ下の商品が見れるようにお洒落に柱に取り付けられた鏡が、所定の位置に立つことによって翔太の姿を写していた。
とても忙しいお店だったけど、ごくまれにめちゃ暇な時があって、そんな時ずっと鏡の中の翔太を見てしまっていた。
翔太が顔を上げたらそこからは私が見えるのだろうけど、暇でも仕事中は仕事をしようと身の回りの掃除をしている翔太が顔を上げることは無かった。
こんなに近くにいるのに、こんなに翔太の事が好きなのに、想いが伝えられない。
鏡の向こうの翔太は私の事を見ようともしてくれない。
私がずっと見てること本当は気付いているのかも?気付いていてわざと顔を上げなかったとしたら?
もし、顔を上げて私と目があってしまったら?
こんな形で私の気持ちを知ってしまうのはイヤだ。
そこで、慌てて下を見るけどやっぱり見てしまう。
鏡を通してなら翔太のことずっと見ていられるから。
でも、当たり前のことだけど、心までは覗くことはできない。
翔太は今何を考えてるんだろう?
「架菜?」
急に黙りこくってしまった私を心配そうに見つめる翔太が目の前にいた。
「どうした?」
「あ…、ごめん」
「バイト、結局辞められなくて、なかなか遊べなかったってオチつきだよね」
そう、夏には人手不足のためなかなか辞められず、結局今でも続けている。
何か急にぐるぐると目が回ってきた。
翔太の顔がぼやけてくる。
「そうだなー、二人で休みの日に行ったことないし行ってみるか?」
翔太の声が遠くなっていく。
急に景色が変わった。
寒い…。
私の服装、春物のワンピの上にジャケットを羽織っていた。
「バイト、結局二年生になっても続けて欲しいって」
翔太の声だ。
気が付くと隣に翔太がいた。
「あ、う、うん。そう言ってたね」
そうだ、結局バイト全然辞められずに二年生になっても続けることにしたんだ。
二年生…?
あれ?私バイト続けてたっけ?
記憶がおかしい。
二年生になった私は…。
「翔太、私が告白した時のこと覚えてる?」
「あ、ああ」
「あれ、六月頃だったよね?」
六月…。
あれ?どこで告白したんだっけ?
夏が嫌いな翔太は、六月頃から毎年憂鬱になる。
そんな中で、私は翔太に告白した。
「ここにいるのは翔太だよね?」
私は翔太の腕に触れてみた。
あれ?
何かおかしい?
視界がぼやけて、翔太の姿が薄れていく。
どうして?
翔太が消えていってしまうの?
翔太、行かないで。
私を置いて行かないで。